その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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山佐のリーチ目

 ピアスの女は、喜びを溢れ出さずにはいられなかった。

 この女、新田ルーサの演者――左野寿衣(さのすい)はVTuberの魂とも呼ばれる人物だが、この女は山電氏ないし山電氏の作品のファンだった。

 山電氏の著作と出会ったのは、およそ五年前。当時高校一年生で十六歳の左野は、どこにでもいるオタク女子だった。……が、左野は男同士のまぐわいを好む腐女子であり、漫画のキャラクターに関わりたいという欲求を持った夢女子でもあった。

 “腐”と“夢”――この二つのジャンルは相容れない。間にあるのは深い谷底であり、互いが互いを理解したとして、許容するのは限りなく無理に近い。片やキャラクターの関係の変移を壁のシミになって見ていたいという、いわば傍観者の立ち位置。片やキャラクターと直接関わって友人や恋人になりたいといった、当事者の立ち位置。

 つまりこの二つは互いに逆のジャンルであり、そも共存はしようとも共生などしていられないのだ(なおこの論には北山の主観が過分に含まれているため、あてにしないように)。

 さて、女子高生を謳歌する左野はオタク女子のなかでも特異な存在である。前述の通り、腐女子であり夢女子だからだ。

 左野は悩んでいた。ネット上の交流サイトで腐女子コミュニティと夢女子コミュニティに属しているが、この二つのコミュニティ間で発生した諍いに巻き込まれていること。どちらのジャンルにも理解と許容があっただけに板挟みにされていること。いずれのコミュニティでもリーダーのような立ち位置だった左野は、どうしたものかと頭を抱えていた。

 そんなとき、学校帰りの立ち寄りでいつものとらのあなに向かった左野は、そこで運命の出会いを果たす――。

 

 

 

「で、そこで私の本に出会ったと」

 

 撤収作業が終わるまでの間、北山はVTuberの魂らと談笑していた。最初は手伝おうとしたが、片付けるのは配信用に設置された大東事務所の機材だけらしく、壁際に畳んで寄せた机や椅子は明日の朝に早く来ている連中に戻させると里見が言っているため、北山はその話に応じ、普段あまり係わらない職種の人間との会話に精を出す。

 

「はい! あのときはあの本に、本当に助けられました。私の悩みを一気に吹き飛ばしてくれたような、『あ、私の考えてることってこんなちっぽけだったんだな』って」

「ドギツいエログロ小説が、こうして人の悩みを解消しているのを見ると、嬉しいやら困惑するやら……」

 

 本もとい同人誌の題は《グロテスク・マギア》。魔法使いの主人公が様々な敵に蹂躙される様子を克明に描いた、山電氏の傑作だ。――“名作”ではなく“傑作”と評価されるのは、内容があまりにも凄惨過ぎるゆえか。

 

「ちなみにですが、読了直後にコミュニティを抜けました。二つとも」

「ああ、この場合それは最適解だろうね」

「何ヶ月かあとにサイト覗いたら、二つとも解散してました。どこにいるんですかね、あの人らは」

「Twitterで……メイン一つと鍵垢二つか三つ」

「うわぁ、リアル」

「でも私もそれくらいありますね」

 

 北山が話している左野の脇にいる眼鏡の女――舞上ハロの演者、小森桜(こもりさくら)は二人の話を聞いていて、時折話に参加してくる。「そんなに作って、どう使うの?」と訊ねると「メイン垢と、情報収集用、愚痴用、リア垢に分けてます。運用していないものも複数あります」と返ってきて、山電氏としてのアカウントと裏物クチクとしてのアカウント――二つのアカウントしか持っていない北山は、小森のアカウント所持数に驚いた。

 

「すごい持ってんね……おっ」

 

 談笑しているうちに撤収作業が終わったようで大東と星田、スタッフ二人が歩いてきた。

 

「もう時間も遅いので、迷惑にならないようすぐに出ましょうか」

 

 大東が言うが、左野も小森もそれは承知していたようで、手荷物は既にまとめられていた。

 帰宅には事務所のワゴン車を使うらしい。車はビルの地下駐車場にあるという。

 

「里見さん、見送りに行きましょ」

 

 

 

「本日はありがとうございました。次の収録もよろしくお願いします」

「今日は楽しかったです。次もよろしくお願いします!」

「私もです。ありがとうございました」

 

 大東の言う次の収録とは、二つ目のコラボ企画であるインタビューのこと。北山は「こちらこそ」と、深々と礼をするスーツの男と同じようにペコリと頭を下げる二人に返す。

 

「……ありがとうございました」

 

 北山は星田を見る。星田もほかの三人と同じように礼の言葉を口にしているが、その相手の一人が元同級生であり、少し気恥ずかしさを感じているらしい。

 

「そう畏まらないでよ」

「そ、そんなこと言ったって」

 

 意地悪な笑みを浮かべる北山とくすぐったい感じがして頰を搔く星田。小声で話す二人の遣り取りに不思議そうな視線を向ける演者の二人は、二人よりもいくつか年上の二人がタメ口を利きあう光景にビジネス以上の関係を垣間見た。

 ――となると気になるのは、二人の関係だ。

 北山と星田は高校時代の同級生だったのを、左野と小森は知るよしもない。

 片やプラチナブロンドのセミロングヘアーが黒い装いに映える仕事仲間と、艶やかな黒髪ロングにノースリーブの縦筋サマーニットが煽情的な取引先の女性。両者ともに少々特殊な仕事に就いているが、それはそれ。

 

「あ、あの――」

 

 好奇心が抑えられなかった左野が、しかしおずおず訊ねるが、その声は後ろに停まったハイエースのエンジン音に搔き消されてしまった。

 

 

 

「じゃ、お疲れ様です」

「おうお疲れ。たまにはフレックス使ってもいいんじゃないかな」

「……まだ私がいないといけない時期ですので」

 

 オフィスの後始末する里見を尻目に外に出た北山は、いつも通りパチンコ屋に向かっていた。

 ――次の企画、自分の立ち振る舞いを考える。ジャグラーのお面で顔隠して声も加工してなんなら全体も加工して……徹底的に自分の外見や声を隠匿すのは、自分が裏物クチクであるのを隠すため。必要以上の身バレ防止はかえって勘繰られるかもしれないが、ないよりかはマシだ。

 

「今日はなに打とうかなぁ」

 

 この前のアレックスにはストレートに一万円すられて痛い目見たから、今日はパチンコにしようかな。甘フォギアは釘クロスしてるだろうし、ユニコーンで一発狙ってみよ。

 電車に揺られながら、スマホのパチンコデータ分析サイトで期待が持てる台がないか探す北山。――北山をチラチラ見る一部の乗客は、この女がまさかパチンコを打つような人間であるとは思いもしないだろう。

 パチンカーは、スロッターは、見かけによらないのだ。

 

 

 

 最寄りに着き、早歩きでマイホに到着した北山は、一応スロットコーナーも見ておこうとデータランプや出目を見て回っていると――ここ一番の衝撃を受けることとなった。

 

「……マジ?」

 

 心臓が速く動く。全身の毛穴閉じる。まさか、これほど珍しく、素晴らしい事態に巡り合うとは思ってもみなかった。

 しかし――もしかしたらトイレに行っていたり、食事休憩中の可能性もある。北山はその遊技機の随所を眺める。

 下皿にメダル――なし。台枠の上のドル箱にメダル――なし。サンドに会員カードや残高――なし。タバコ休憩、食事休憩の札――なし。

 

「……」

 

 データランプの呼出ボタンを押し、店員を待つ。

 数秒と経たずに、若い男の店員がやって来た。

 

「どうなさいました?」

「この台、人が離れて何分ですか?」

「――、確認しますね」

 

 北山が店員に言う。店員がそのスロットを見て状況を理解し、データランプを専用のリモコンで操作し、台の離席時間を表示させる。

 出てきた時間は、32分。

 

「この時間なら大丈夫ですね」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 失礼します、と言って店員は離れていった。北山はフンスと鼻息を荒くし、その台の椅子についた。

 

「これは、山佐からのご褒美かな……」

 

 ――北山が遊技を始めた台、遊技機の名前は《リノ》。《ニューパルサー》や《スーパープラネット》などで有名な山佐のスロットだ。

 詳細を省くが、リノにはボーナス低確率状態の通常Bモードと高確率状態の通常Aモードがある。台の設定によるが、通常B状態時に低い確率で成立するトマト揃いを経て通常Aに移行し、その状態で初めてボーナスを狙う――というゲーム性だ。トマト揃いについてはもう少し細かく説明する必要があるが、ここではひとまず置いておく。

 通常A滞在中は、ボーナスを約1/8の確率で抽選している。通常Bに戻ってしまう確率は約1/30で、いかに1/30を引かず連荘していられるかがリノの醍醐味なのだ。

 

 

 さて――リーチ目、と言う言葉を耳にしたことはあるだろうか。

 リーチ目――スロットにおいてボーナスが成立したゲームやそれ以降のゲームに出現する、特定の出目のことだ。

 例えば名機《ハナビ》。左リール上段から下段に“暖簾・風鈴・氷”が止まり、右リール中段から下段に“風鈴・氷”が停止し、風鈴と氷のダブルテンパイ状態になる。

 この出目のとき、大抵成立しているのは風鈴や氷といった小役だが、それがボーナスが成立したゲームだと二つの小役は成立せず、小役外れとしてリーチ目となる。

 また、ボーナスが特定の小役と同時成立することもある。物にもよるが、その小役が揃った状態もリーチ目と言えるだろう。

 リーチ目は当然リノにも存在するが、見られるのはボーナスを抽選している通常A滞在時のみ。

 

 

 ――北山が座ったリノの出目。

 中リール上段から下段に“レモン・リプレイ・トマト”が止まり、左リールと右リールの下段に“リプレイ”が止まっている。

 リノの知識が無ければ見逃してしまうだろう。事実、三十二分もの間、多くの客から素通りされていたのだから。

 

 

 この出目――中リールから停止させる変則打ち限定で出現する下段“リプレイ・トマト・リプレイ”揃いの一枚役(払い出しが一枚の小役)は、通常A滞在時、ボーナスが成立してから初めて成立する小役で、確定役、確定一枚役、リーチ目一枚役と呼ばれるものだ。

 

 

 つまり、北山が発見したこの《リノ》――北山が店に入る三十二分前には、既にボーナスが成立していたのである。




 スーパーリノMAXでボロボロになり、なんとか金捻りださないとなと思い打ったうまい棒で7000発出し、それを元手にユニコーンで30000発出ました。
 皆様、SANKYOのパチンコにおかれましてはレバブルカスタムをお忘れなく。金保留でもブルっていなければ外れています。


 よろしければ評価や感想、お願いします。入れると作者が座った台で大当りが発生しなくなります。お得ですよ。
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