その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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完全告知

 スロットのボタンの押し方だが――ほかのスロットがそうであるように、リノにも変則的な押し方がある。

 ――物によるのは当たり前だが、基本的な打ち方に左、中、右の順に押す方法がある。これを順打ちと言う。

 左、右、中の順に押すハサミ打ちという方法があるが、これは中リールを適当に押すと特定の図柄を取りこぼしてしまう機種に有効な打ち方だ。

 例えばジャグラーシリーズ。ジャグラーシリーズには狙って停止させないと揃えられないピエロ図柄とベル図柄があるが、この二つは滅多に成立しないため、理想はチェリーを狙って順押しだが、ジャグラーに限っては極端な話、全リール順押し適当打ち(読んで字のごとく、なにも狙わず適当に打つ方法)でも問題ない。

 例えばハナビ。レア役の一つに氷揃いがあるが、これは左リール内に暖簾または赤7、単ドンを狙い、右リールを適当打ちしたとき、対角線上に氷(右リールに限り、暖簾は氷の代用図柄になる)が停止(テンパイ)することがある。この場合、中リール内に氷を停めて小役を氷揃いを成立させる必要がある。ハナビの場合、中リールの氷は赤7の一コマ上と、九コマ上にある。このいずれかを狙って必要がある。これを目押しと言う。

 ――要は、スロットに応じた最適な打ち方がある、ということである。

 

 

 

 サンド(玉・メダル貸出機のこと)に突っ込んだ千円札は、貸出ボタンを一回押せば瞬く間に五十枚のメダルと化し、捻じれた滑り台のような払い出し口を滑って下皿に流れてくる。

 リノの高確率状態――すなわち通常A滞在時の打ち方だが、北山はシンプルに順押しする。“赤7・リプレイ・BAR”を枠内に狙い、これが停止した時点でボーナスorリプレイだ。

 

「……」

 

 中リールは上下に固まった“赤7・BAR”を狙い打つ。“トマト・赤7・BAR”が停まり、赤7が斜めテンパイ、BARがテンパイの状態は、ボーナス確定の停止形だ。またこの停止形は2つのリールを停止させた時点でボーナス成立を察知できるもののため、2リール確定目――2確とも称される。

 しかしこの時点では、ボーナスがレギュラーボーナスか、ビッグボーナスか分からない。

 

「ああぁぁぁぁ……入ってるぅ」

 

 周りに客が一人もいないのをいいことに、テンパイ音を聴いて恍惚に浸った艶めかしい声を漏らす北山は、ボーナスを揃えるべく“BAR・赤7”を狙う。

 そして――、

 

「――マンボ!」

 

 右下がりに赤7が揃い、ビッグボーナス。初当たり時に流れる曲は、マンボNo.5(3号機リノVer.)。同曲のFM音源アレンジで、リノのビッグボーナス初当たり時に流れる曲であり、リノのBGMのなかでは特にドーパミンが溢れ出る名曲だ。

 データランプを見てみると、5回連荘させて通常Bに転落し、それからこれが初めての当たりとなる。

 

「……一切調べずにリノ打ってたのかなぁ」

 

 通常Bでのリプレイ確率は約1/2.96。通常Aでは約1/9.13となり、今どのモードにいるか、転落しているか否かは、経験者なら分かってくるものだ。

 恐らくこのリノの前任者は、《リノ》というスロットを初めて打つ人で、攻略情報を見ずに打った。または、通常Aでの1/9.13のリプレイが短いゲーム間に多く発生し、通常Bに転落したと見せかけてきた。もしくは急用ができたため打っていられる時間がなく、店から出ざるを得なかった。このいずれかだろう。

 

「脳汁ドパドパァ~」

 

 ニヤニヤしながらテンポよくリールを停める美女。やっていることがやっていることだけに人はあまり近寄らないであろう、ともすれば珍しくも感じる光景――この店のオーナーであり裏物クチクのファンである白髪交じりの老人、瑞穂は、北山を見て「いつも楽しそうに打つなぁ」とニッコリ笑っていた。

 

 

 

 七月十一日。翌日にコラボ企画を控える北山は、いつも訊かれような内容を訊かれるのだろうかと思いながら風に煽られ遅れて入線した京葉線の列車に乗り込んだ。

 ――連絡を受けたのはつい十分前。十七時を過ぎて、これからなにしようかと考えていた北山。Twitterでエゴサしてファンとパチンコの雑談でもしようかとスマホを手に取ったとき、LINEのメッセージを受信した。

 

「叙々苑でディナーはいかが?」

「行きまああああああああす!」

 

 叙々苑と言えば高級焼肉店の代名詞だが、そこは聖域(サンクチュアリ)であり、庶民が軽々しく足を踏み入れていい場所ではない。選ばれた人間のみが入店を許される神聖な領域なのだ――と北山は雑に語る。

 で、時刻は十九時。東京某所――駅併設のコンビニ近くで北山は、買った天然水を飲みながらスマホを弄っていた。

 

『オール1500発が流行りパチンコ業界が(多分)躍進しているなか、有利区間とか最大出玉とか様々な上限や規制を繰り出してもはや界隈氷河期のパチスロ……。そのうちスロットも1500枚完走とかになるんじゃねーのかね』

 

 北山が裏物クチクのTwitterアカウントで何気なしにツイートすると、ファンの口から昨今のパチンコ・パチスロ業界に対する言葉が次々とリプライしてくる。

 

『出玉規制して一番影響受けるのはAT機ではなくノーマルタイプ』

『あと何年かで5号機ご臨終じゃあ』

『十年後には確変突入率低くなる代わりに時速10万発のパチンコとか出てきそう()』

『ST突入100%が神スペックだと実感した昨今のパチンコ事情』

『6号機に未来はない』

『有利区間ランプ撤去はマジでギャグだろ』

『スロット専門店とかどうすんのだろう』

『こうなったら保通協を爆破しよう』

 

 保通協爆発してもPがCRに戻りはしないよ――と、北山も北山でかつて熱狂したMAX機に思いを馳せていると、視界の端に女が映る。

 

「おや」

 

 女は北山を見ると、小走りで近づいてきた。

 

「ごめんね。収録が長引いちゃって」

「いいよ別に。ちょうど保通協にベタピンリゼロの絨毯爆撃を仕掛けようとしていたところだから」

「ごめん意味分かんない」

 

 悲しいことに、『Re:ゼロから始める異世界生活』というビッグネームとタイアップしたパチンコやスロットは、いずれもクソ台と呼ばれている。とくにスロットに関しては産業廃棄物とまで言われ、貶される始末。

 散々な言われようには様々な要因が絡み合っているが、北山はリゼロのスロットを配信に使い、そのあまりの辛さゆえ配信内で「大都技研は一生クレアと番長作ってろ」と口に出してしまい、その発言がTwitter上で伝言ゲームよろしく曲解され、リゼロファンの逆鱗に触れてしまったのはまた別の話。

 

「さあ行こう姉さん、シャトーブリアンが私たちを呼んでいる」

「はいはい」

 

 

 

「最近……て言っても、一年か二年ぐらい前からかな。バーチャルYouTuberが出始めたのって」

 

 北山の姉――銀子がオレンジジュースを置き、頰杖をついて言う。やたらとテンションが低く、口端からヒュルルと息を漏らす。

 今しがたシャトーブリアンを口いっぱいに頰張り目を輝かせていた北山は、姉のテンションを察知し肉を烏龍茶で胃に流し込む。

 

「なにか不満が?」

「不満って、いうか……不安、かしら」

 

 歯切れの悪い銀子の物言いに、どっかのVTuberとの年齢の開きにダメージ喰らったか、と叙々苑サラダを食べながら思う北山。以前銀子に誘われて飯に行ったときも、銀子は年齢云々の話で盛り下がっていた。今日もこの人のフォローか、面倒臭ぇとジト目で姉を見ていたが、どうもそうではないらしい。

 

「この前、バーチャルYouTuberの――“Alice is End mark.”って()、知ってる?」

「生憎」

「そう。この前、その娘と一緒にネットラジオを収録してたんだけどね」

 

 “Alice is End mark.”。聞いたことはあるが名前以上の情報を一切知らない。北山はお手拭きで手を拭くと、スマホを出して検索してみる。

 ――その人物のYouTubeチャンネルが、検索結果一覧の一番上に表示された。リンクを踏むとアプリが起動し、その当該人物の配信画面が画面に映し出された。

 

「――ハハッ。同接6万って、桁一つ間違えてるでしょ」

 

 私はこの前、たまたま1万人超えただけだってのに。

 ――“同接”とは、同時接続数のこと。単純に考えると、その配信には6万人の視聴者がいる。

 視聴者が零人なときがあるのも珍しくないVTuberの配信事情。これほどの数字を叩き出せるのは、業界でもトップレベルで有名な企業に所属する者だけ。

 

「その娘が所属しているグループ――《Vython(ヴァイソン)》だったかな」

「うん」

「そこのグループの公式チャンネルで、隔週でアップロードしてるネットラジオがあるの」

「うん」

 

 《Vython》という単語に、北山には覚えがあった。

 一週間ほど前のこと。夕食中、バラエティー番組の途中に挟まれるCMを観ていたとき、それは流れた。

 

『コズミックうどんを食えっ!!』

「へぐっふ!」

 

 急に3DCGの美少女たちが出てきて予測不可能で詳細不明なカップ麺を薦めてくるものだから、北山の脳は処理しきれずむせ込んでしまった。

 

『コズミックってどんな味なの?』

『宇宙の味だよ! ビッグバン級!』

『それじゃ意味分かんないよぉ!』

「うごっほげっへぇ!」

 

 十九時過ぎ――この時間にあまりそぐわないであろうCMに出ていた三人の遣り取りに集中してみることはできなかったが、かろうじて最後に映ったロゴマーク《コズミック飯×Vython》は脳が記憶していた。

 お茶の間の時間に流れたあのCM――興味を持った人はいるだろうし、薄ら寒いと思った人もいるだろう。

 北山はそんなことよりも、この団欒の時間に強烈なCMを放映して人々の記憶に深く刻んだ制作陣の策略には素直に感心や尊敬の念を抱いたし、そんなことよりもまず気管に入った米粒をどうにかしようと必死にむせ込んでいた。

 

「ラジオの収録で、なにか不安があったと」

「……、収録中――」

 

 それから、銀子が語りだした“Alice is End mark.”なるVTuberの話。厚い高級な牛肉をひっくり返しつつ聴いていた北山は、話が進んでいく度に眉間にしわを刻んでいった。

 VTuber業界だけではない――モデル、アイドル、歌手に芸人といった芸能界――声優だってそうだ。メディアに露出して活動する業界には必ず通じる、言ってしまえば当たり前の話。

 ――肉片や肉汁が黒く焦げ付いた網の上にある、姉の分のシャトーブリアン。一頭の牛から約600グラムしか取れない希少部位。北山は話に集中し過ぎてしまい、高い肉を焦がしてしまった。

 

 

 

 七月十二日。十九時。

 VReactorの公式チャンネルで行われている配信のタイトルは「【Eve×VReactor】リョナを描かせたら/書かせたら右に出る者はいない!? 《滅魔士》の監督とシナリオライターに生インタビュー!!【公式コラボ】」。そういや里見さんの新作リョナ絵は久しく見てないなぁ、と北山はタイトルの案を会議で出し合っている際に思っていた。

 

「えー、では続いて私が個人的に訊きたかったのを……監督は滅魔士の本編CGを描くとき、どの部分を描いているときが一番楽しいですか? やっぱり、リョナですか? 私は監督の描く女の子の淫らな曲線が好きなんですが」

 

 このインタビューで里見や北山が答えるのは、サブカルチャーの情報誌やネットメディアが訊いてくるような堅苦しさに満ちたようなものではなく、コンテンツのファンが分かりやすく喜びそうな質問ばかりだ。

 ――前の雑誌のインタビューは面倒だったなぁ。どこに需要があったんだろうなぁ。「これからの滅魔士はどうなっていくと思いますか」ってシナリオライターじゃなくて監督レベルの人間にする質問だったよなぁ。……今日のは助かるわ。

 

「可哀想なのも描いてて楽しいですよ。でも一番楽しいのはケツ描いてるときですね」

「お尻ですか! 私はクレアのお尻が一番ですね。小ぶりで可愛いんですよ!」

「将来有望株ですね。撫でまわしたいです」

「おおっ分かってますね。クレアは倫理的なアレで建前は十八歳以上ですが、お尻は少女然とした、将来が非常に有望なお尻です。滅魔士の基礎となる時系列のクレアから数年後の未来を描いた怨恨殲滅篇では大ぶりに描かれていると思います。心も体も大きくなった証拠ですね」

・『サトミンの尻トークを抑えろ』

・『僕は胸派です(半ギレ)』

・『クレアの尻を撫でまわしたい』

・『建前って言った』

・『《滅魔士》はもうソフ倫からCSAに移ったほうがいいよ』

 

 相変わらずこの人は尻好きだな。

 会議室に組み上がったVTuber配信用スタジオの中央――どこから持ってきたのか、円状のテーブルが置かれていて、その席に四人は座っている。椅子はオフィスから取ってきたもので、誰のものかは分からない。

 里見は私服姿だが、VTuberら四人は私服のなかにセンサーが組み込まれた極薄の全身タイツのような物を着用している。手指の動きも薄手の手袋型センサーでトラッキングしている。頭部を覆う部分はないものの、頭部そのものの動きには某ロボットアニメのパイロットたちが頭に取り付けているような小型のセンサーが反応し、表情はカメラが撮った情報をもとに専用ソフトが処理し、アバターの顔をリアルタイムに変化させている。

 

「私は小さなお尻よりも大きなお尻が好きですね。クレアの母親――ゲーム中に名前は開示されていませんが、そんなことより私は思いましたね。『私が求めていたお尻はこれだっ!!』と」

「丸くドスケベな人妻のお尻は人類を救います! 古事記にもそう書かれているので」

「あの、お胸のほうは……」

「オパーイはオパーイは魅力はあるので、またあとで話しましょう。今はお尻の時間です」

・『セレナが頭抱えてて笑う』

・『ストッパーも大変やなって』

・『自重してくれ二人っていうか三人』

・『ブイリア会話脱線シリーズがここでも』

・『サトミン抑えろ』

 

 北山は調べていて、現在のVTuberの主流は3Dアバターではなく2Dアバターというのを知った。2Dアバターは3Dアバターに比べ、制作・運用コストが低く、小回りが利きやすい。

 2Dには2Dの難しさというものはあるが、この形態が流行った主な理由に、2Dアバター主体のVTuberグループが台頭したのが挙げられる。

 ――VReactorの運営、大東事務所は法人向けVR機器の開発・販売を行っている。有名な大手VTuberグループ運営会社にも製品を販売、サポートを行っている。

 里見と話している三人が着けているセンサー類は最近開発した未発表のもので、今回の配信は使用感の調査も兼ねている。

 なんでもVTuberの演者がその場にいても、配信されている映像には演者が3Dアバターに上書きされていて、まるでVTuberそのものが現実にいるように見せているという。演者の影は、ソフトのほうで自動で処理され、アバターの陰影を上書きするとのこと。窓や鏡に反射する像も同様だ。

 機器の不具合、ソフトのバグの有無は今日までに徹底的に調査されていて、通常使用には問題ないレベルだそうだ。

 

「いや、あの、今は性癖インタビューではなく監督インタビューなのですが……」

「え、違うんですか?」

「監督がそんなこと言わないでください。破綻してしまいます……」

「監督インタビューってなんか野球っぽい」

「おっ新田さんはどの球団で?」

「私は阪神です!」

「僕は巨人です」

「ほー」

「巨人です」

「あのー……」

・『【悲報】ストッパー、アクセルを踏む』

・『随分押してますね……』

・『あーあ、出会っちゃったよ』

・『そういやサトミン巨人過激派だった』

・『戦争』

 

 尻も野球もいいから早くしろよ。星田が目に見えて焦ってやがる。

 左手首の腕時計、長針は七を指している。終了予定まで、あと三十分を切っていた。

 

 

 

 最初の案では、生身で出る二人とVTuber三人は別々の部屋で収録、合成したものを配信する段取りだったが、日進月歩のVR技術の賜物であるVR機器――《D-Tracker》が、コラボ企画の企画段階で一通りの開発を終え、運用の領域に達した。

 これにより配信に必要な準備が大幅に減り、VTuberたちも動きをより細かく伝えられ、まるで現実にいるかのように魅せてくれる。

 ――では、現状を簡単に説明する。

 会議室、中央に円状のテーブル。四人がけで、倉島セレナ、新田ルーサ、舞上ハロが座り、残りの席にEveの二人が順番に座り、インタビューを受ける。

 時間はやや押しているが、やっと北山の番が回ってきた。

 

「さて……ああヤバい、お尻の話に熱中しちゃってだいぶ時間押してます!」

「この場に尻派しかいないミラクルが起こした奇跡です」

「だから言ったのに」

 

 ――この企画の話を聞いたときから、北山は自身の顔バレを危惧していた。

 “山電氏”としては、性別が女性であるというのは公になっている。コミックマーケット等即売会には昔から参加していて、ファンは山電氏の性別を昔から知っている。

 問題は顔バレと声バレだ。

 

「いけませんね、気を取り直しましょう。今度は真面目です」

「ほんとぉ?」

「本当に頼むよ……手綱握り切れないから」

「あら、私ってお馬様? 推しはタケホープです。――気を取り直したので、二人目に参りましょう」

 

 即売会で北山がサークル参加するとき、いつもお面を被っている。デフォルメされたピエロのお面だ。顔バレを防ぐため、北山自身何回目かのサークル参加だったか覚えていないが、いつからかお面を被るようになっていた。もちろん行き帰りではお面を被っていないが、しかし周りの人間のマナーがなっていて、素顔を撮られたり、それをネットに流されたことはない。

 

「――最近《滅魔士》のファンになった人には驚かれること間違いなし!? エログロサイコなバトル物を書かせたら右に出る者はいない!? Eve所属シナリオライター・同人作家の山電氏さんです!」

 

 問題は声。北山は“裏物クチク”としてYouTubeで配信活動を行っているが、インタビューに素の声で出てしまったが最後――山電氏と裏物クチクが同一人物であると拡散されてしまう。

 同一人物であるとバレて、不利益を被る可能性があるのはEveのほう。北山がなにかやらかして炎上してしまった場合、Eveは炎上した北山洋子という社員に対して相応の処分を下し、会社としての責任を示さなくてはならない。

 同人誌を北山が自ら手渡しで頒布していた同人活動初期、北山の声を直接聞いた人間は果たして何人いるのか。山電氏が裏物クチクであると気付いた人もなかにはいるかもしれないが、今に至ってまでその話がネット上には出回っていないため、その秘密を自分だけのものにしているか、もしくは本当に誰も気付いていないかのどちらかだろう。

 

「……初めまして、山電氏です」

 

 ともかく声バレは最重要課題。

 北山の声がボイスチェンジャーで無理矢理低く加工されていて、報道番組の特集に出てくるような犯罪者の加工された声のようになっているのが、最たる証拠だった。

 

 

 

「よろしくお願いします山電氏さん!」

「どうぞよろしく。……なんかボケたほうが良かったですか?」

「ああいえそんなお気になさらず! 無理に合わせなくても大丈夫ですから。ボケ担当は私ですので」

「え、そうなの? じゃあ私がツッコミで」

「ハハッ」

・『女!?』

・『山電氏は女性やで』

・『キャラクターを殺さなきゃ気が済まない人』

・『ルーサ興奮してんなぁ』

・『ハハッ(乾いた笑い声)』

 

 あー、これはあれだ。家に親の友達が来客してどうしていいか分からず変な言動をとる子供のテンションだね。

 北山の正面、新田ルーサもとい左野は、山電氏の大ファンだ。北山が昨日、Twitterで新田ルーサのアカウントを覗いたが、その興奮具合はツイートにも溢れ出ていて、北山は微笑ましく思い、嬉しくも思った。

 自分のファンになってくれたこと。《滅魔士》と出会ってくれたこと。《滅魔士》を好いてくれたこと。

 また、女性人気は皆無と言っていいコンテンツだ。女性ファンがいるのがなにより嬉しかった。

 

 

 

「さてお次はですね……山電氏さんの作品に登場する魅力的なキャラクターたちは、その悉くが無残な死を遂げています。ゆえに山電氏さんは方々で《キャラ殺し》や《子供殺し》なんて呼ばれるときがあります。山電氏さんがキャラクターを殺す目的は一体なんでしょうか?」

「キャラクターを殺す目的、ですか」

 

 この質問は、様々なメディアから幾度となく訊ねてられてきた。最近は「構成上殺す必要があったから」という定型文を返していたが、今日はせっかくなので真面目に答えてみようと、顎に手を当てる。

 

「……とくに私が個人で世に出した小説では顕著だったと思いますが、私が物語を作った場合、ほとんどはシリアスで重く暗い、気分が落ちて後味の悪いものです」

「そうですね。なかでも『死んでチャラ』はトップレベルで救いのない物語でしたね」

「で、何故そうしていたか、なのですが……私はそういう、救いのない物語が好きなんです。ハッピーエンドなんて書く気にならないんですよね。というかハッピーエンドは嫌いです」

「へぇ!?」

「え、じゃあゲームのハッピーエンドルートは」

「私が書いてますよ。仕方なく」

「仕方なく……」

「とんでもねぇ」

・『草』

・『サトミンが頭下げてハッピーエンドを書いてもらった逸話があるぐらい』

・『どっかの脚本家思い出した』

・『セレナとハロの顔でジワる』

・『コラボストーリーが更に不安になってきた』

 

 北山が読書の世界に誘われたのは小学生のときだが、初めて読んだ作品がジャック・ケッチャム著『隣の家の少女』が、北山の今後を決めた重大な出会いだった。

 小学生には少々難解な内容だったが、本書の悍ましく胸糞悪いストーリーに、北山は強く惹かれていったのだ。以降バッドエンドを中心に小説を読み漁り、それが今の北山の礎となっている。

 

「――誉田哲也に、『ヒトクイマジカル』とか、『三体』――人を選ぶものばかり読んでいた結果、ハッピーエンドを書かない私がいるわけです」

「書けよ」

「お、監督さんの野次が飛びました」

「切実ですね……」

・『サトミン涙目』

・『まあ滅魔士はまだルート分岐的な救いがあるので……』

・『山電氏の同人小説はマジで救いがなさすぎる』

・『魔法少女物があるけれど絶対読まないほうがいい。後悔する』

・『でも読んじゃうんですよねこれが』

「えーでは、次の質問に参りましょう。《滅魔士》はOVA化していますが――」

 

 

 

「……」

 

 シャッシャッシャッ。削れたペン先が、紙の描き心地を再現するフィルムが貼られた液晶タブレットの画面を行き来する。

 十九時五十分。風呂を済ませ、髪を乾かしスキンケアを終えた共子は、タンクトップの肌着に短パンという状態で創作活動に勤しんでいた。お供には三ツ矢サイダーと、姉が出演しているVTuberの配信。

 

「お前今、口が凍結したアスファルト並みに滑ってたな」

「ご、ごめん。本当にごめなさい」

「マジかー。セレナちゃんが山電氏さんと同じ学校で同級生だったとは」

「そんなことあるんですね……世間は狭い」

・『ファーwww』

・『マジすか』

・『セレナが二十代後半以上が確定した瞬間である』

・『話の脱線でミラクル起こすな』

・『おもしろ』

 

 あらら、ざわついちゃってる。

 セレナの失言で配信のチャット欄のメッセージは加速度的に増加し、荒れ模様を見せている。ほとんどのメッセージが好意的なのが唯一の救いか。

 

「でもまあこれだけなら身バレには遠いか」

 

 言ってジョッキに入ったサイダーを呷る。

 そしてまた配信をBGMに、ペンを持って画面に向き直る。

 描いているのはおまけシート用イラスト。同人誌を会場で買った人のみ貰える、イラストが載ったB5サイズの紙。それのためのイラストを描いていて、現在線画作成中。

 そうだ、と共子はスマホからLINEを開き、メッセージを送る。

 

「倉島セレナっていうVTuberがよーちゃんとことのコラボ配信で、同じ学校の同級生だったって言っちゃってた」

 

 すると既読マークがすぐに付き、十数秒たったあたりに返答があった。

 

「それはわざと?」

「いや。口が滑ったみたい」

「あら」

「ただまあそれだけ」

「それならいいんじゃない?」

「そうだねー」

 

 それからしばらく雑談し、イラスト制作を再開する。

 

「――あっ」

 

 そういや、もう少しでモデリングが終わるんだっけ。

 

 

 

「本当にごめん。炎上したら責任取るから」

「いらんって。炎上もしないから大丈夫大丈夫」

 

 平謝りの星田と宥める北山は、夜の秋葉原を歩いていた。

 現在二十時半。身バレ防止に努めている北山の行為を蔑ろにしてしまったとして、謝罪の念を込めて星田は北山に奢ると言って夕食に誘った。

 北山は星田の失言に憤りは感じていない。勘弁しろよとは思ったものの、別にそれ以上になにか思っていず、星田が自分に対してなにか責任を負う必要もないと思っている。

 ゆえに帰り際、星田に言われて最初は断ったものの、どうにも引く気がなさそうだったため、結局北山が折れて誘いに乗ったのだった。

 

「で、どこ行くの」

「えーっと……、どうしよう」

 

 ノープラン。そうでしょうね。いきなりだし。

 スマホでマップを開き、これから行く店を決めようだが生憎と北山は行く気にならなかった。

 VTuberの造詣を深めるため、暇な時間にVTuberの切り抜き動画や配信を観るようになった北山だが、星田もとい倉島セレナの動画や配信も時々観ている。

 倉島セレナの動画を観ていて分かったことに、星田はかなりの酒豪だったのが挙げられる。配信中に飲むのはいつだって酒。ビール、酎ハイ、ワイン、ウイスキー、日本酒――時にはテキーラやウォッカを観ているほうが吐きそうになるほど飲んだりして、視聴者の度肝を抜いている(これを知り、北山は自分の後輩を連想した)。

 ――そんな星田が探している店といったら、居酒屋にほかならない。

 酒を快く思わない北山にとって、居酒屋は居心地が悪く、割高な店という印象だった。

 星田からの誘いで、代金は星田持ち。これだけなら断る理由はない。しかし――、

 

「居酒屋?」

「うん。その予定だけれど」

「私、酒は飲まんよ」

「あっそうなの? ……居酒屋はやめておいたほうがいい?」

「居心地悪いってだけで、星田が行きたいのなら居酒屋でもいいよ。強制はしない」

「あー……」

 

 それって行きたくないってことなのでは……。

 勘ぐった星田は居酒屋を選択肢から外し、近くのレストランを調べる。

 サイゼリヤは安いので却下。秋葉原ならカレー? いやでも好みを知らないし……。

 

「……」

 

 ――休み時間、席の一角を占領した集団の駄弁りは騒がしく、周りの人など気にしていなかった。

 集団の中心にいるのは、制服を着崩した金髪の女子生徒――星田ゆり。

 取り巻きは男女混合。性別問わず人を惹くカリスマ的存在であり、当時ネット上に出始めた言葉を使うと――星田はスクールカースト一軍、それもトップに位置する人物だった。

 星田と北山は、学校では全く係わりなく、無関係だった。

 強いて接点を挙げるなら――あるとき数人の取り巻きと別クラスで雑談していた星田が座っていた席が北山の席で、教室に入ってきた北山と目が合った程度。

 

「星田」

 

 焦りながら調べる星田を見て、北山は学生時代の星田を思い出していた。

 ――お前、あの星田か?

 星田と数年ぶりに会った北山は、あの高校生のときの星田と今の星田が、果たして同じ人物なのか酷く疑ったものだ。人は変わるが、こうも変わるとさすがに驚く。

 実は演技派で、あの星田が素か。それとも今の星田が素で、あの星田は偽りか。

 北山は気になった。

 

「飯食ったあと、少し付き合ってよ」

 

 

 

「えっ」

 

 結局晩飯をカレー屋で済ませた二人。本当にこれでいいのかと不安を抱いた星田だったが、満足そうな顔をした北山を見て少し安心した星田だったが、北山の誘いに乗ってついていき、果たして疑問を抱いた。

 

「ここって」

「パチ屋」

 

 秋葉原UDXの西側、某パチンコ屋にやって来た北山と星田。星田は北山と店を交互にいていかにも戸惑っている様子だが、北山がなんの躊躇いもなく店に入っていくものだから、星田は唖然としつつ北山の後ろをついて行った。

 

「この店は……ノーマルは奥か」

「うるさ……」

 

 地下一階に向かう。そこはスロットコーナーで、北山は狭い通路を進み、見回す。星田は耳を覆った。

 スロット前に座っている客は多種多様。スーツ姿のサラリーマン、白髪の老人、二人組の大学生、中年の女性――パチンコ屋に初めて来た星田だが、老若男女、幅広い世代の人間が店に来ているのを目の当たりにした。

 ――目の前の同級生も同様。まさかこういう店に入るとは思ってもみなかったが。

 

「……空いてた」

 

 スロットの下部、ピエロのイラストが描かれたスロットの席に北山が座り、隣に座るよう星田に促した。星田はわけも分からぬまま、隣に座った。

 

「あの、北山さん?」

 

 星田が戸惑っていると、北山は既に千円札をサンドに突っ込んでいた。

 四十七枚のメダルがサンドから流れてくる。北山は右手でメダルを受け止めると、慣れた手つきでメダルをスロットに流す。

 ――スロットは《アイムジャグラー》。北電子のジャグラーシリーズのスタンダード。枠左下の“GOGOランプ”が点灯すればボーナス確定というゲーム性。シンプルゆえスロット初心者には打ってつけの台だ。

 

「え、なにしてるのっ」

 

 北山が千円札を、星田の席のサンドにも入れていた。驚愕せずにはいられなかった星田だが、耳元で「メダル貸出を押して」と囁かれ、首筋や背筋がブルリと震え、言われるがままに貸出ボタンを押した。

 

「……」

「メダルを三枚入れて、レバーを叩いて回す」

「こ、こう?」

 

 レバーを人差し指で押し下げると、三つのリールが回転する。

 

「そう。この台の場合、細かいこと考えずに左からボタンを押せばいい」

 

 言われた通り三つのボタンを左から押し、リールを停める。

 すると右下がりにブドウの図柄が揃った。

 

「……これは?」

「ブドウ。七枚の払い出し」

 

 北山がまた耳元で言うものだから、また背筋を震わせた。

 

「レバーの上にあるのがMAXBETボタンで、それを押せば自動で三枚掛けになる。スロットは基本的に三枚掛けしてからレバーを叩くのね」

「う、うん」

「だからメダルは三枚以上入れておいたほうがいい。だから定期的な補給を忘れずに」

 

 その言葉通りにたどたどしい手つきでメダルをスロットに入れ、MAXBETボタンを押し、レバーを叩く。

 チェリー図柄はBARの下か上に付いているが、ジャグラーのチェリーは初心者には少々狙いにくい。そのため、北山は敢えて星田にはチェリーのことを伝えなかった。

 

「……」

 

 慣れた手つきで遊技する北山。それを見て、慣れてるなぁと思った星田は、これはどうすれば当たりになるのかと北山に訊こうとしたところで――、

 

 ガコッ

 

 という小気味のいい音が大音量で響き、「ヒッ」と星田は鋭く言息を吸って驚き、座ったまま跳ねた。

 

「――ビックリしたぁ」

「おめでとう。大当り」

「え、これで当たり?」

「うん。音の有無問わず、このGOGOランプが点いたら大当り確定」

 

 左リールの枠左下、ギザギザした形の“GOGOランプ”が紫色に煌々と光り、ボーナスが成立した。

 

「そうなんだ」

「じゃあ、7を揃えてみようか」

 

 いまだドキドキしている星田は座り直し、MAXBETボタンを押してレバーを叩く。

 ボーナス図柄を揃えるときは基本一枚掛けだが、北山は初心者の星田に対してはなにも言わなかった。

 

「……見えない」

「じゃあタイミング教えるから、その通りに押してみな」

 

 北山は星田のスロットを一枚掛けして回し、中リール枠内に7図柄が回ってくるタイミングで人差し指で中リール手前のガラスをトンットンッと叩き、星田に押すタイミングを示す。

 

「……えい」

 

 それに合わせて押すと、中リール下段に7図柄が停止した。

 左リールは7とBARが二つずつあって見づらいが、北山の合図のおかげで難なく下段に停まり、7図柄テンパイ状態になる。

 右リールも合図に合わせてボタン押すと、下段に“7・7・BAR”が揃い、レギュラーボーナスが始まった。レギュラーボーナスの曲がジャグラーコーナーに響く。

 

「バケ……レギュラーボーナスだね」

「レギュラー?」

「7揃いでビッグボーナスね。これは弱いボーナス」

「へぇ」

「ここでも適当に打てばいいよ。決まった枚数の払い出しが終わったら、またさっきの状態に戻るから」

「うん、分かった」

 

 レギュラーボーナスは約104枚の払い出しとなる。星田はいまだ慣れぬ手つきでリールを回し、ボーナスを消化する。

 

 

 

 北山さんって、スロットが好きなんだ。

 右隣の女はいまだボーナスを摑めず、ただただ金を入れていくだけだ。一般人なら金が消えていくストレスが言動に溢れてきてしまうはずなのに、北山からはそんな気配は感じられない。それどころか楽しく打ってそうな気すらする。

 そんな北山に顔を近づけ、星田は訊ねた。

 

「なんで、ここに私を誘ったの?」

 

 北山の手の動きがピタリと止まった。――と思ったらまたレバーを叩いてリールを回す。

 

「……」

 

 そして、徐に首を向けたと思ったら、

 

「少し、話がしたいと思ってね」

 

 と、これまでにないほど真面目なトーンで、星田に言った。

 ……え、ここで?




 皆様、5号機時代、最後の三重オールナイトの成果はいかがでしたか? 私は行ってないです。行けて抽選に勝っていたなら多分ずっとサンダーかクラセレ打ってた気がする。

 なんか最後のほうが雑ですが、久々に多く書けた気がします。まあなんでこんなに書いたかっていうと平均文字数を増やすためなんですけれどね。

 評価入れてくれたら次にあなたが打つ沖ドキをドキドキ準備状態にします(大嘘)
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