その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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そいつが切り札だ!

 今日はノーマルタイプのスロットには全体的に良い設定が入っていないようで、まばらな稼働となっていた。現在、北山ら二人の周りにいる客は、上振れを引いて大暴れしているマイジャグラーの客と、こちらも珍しく設定が入っているサンダーVリボルトの客。あとはディスクアップで「もう千円突っ込めば当たりそう」を繰り返している客の、合計三人。ノーマルタイプゆえか、AT機の島と比べたらまだ静かで、会話できる状態にあった。

 

「星田が私に初めて連絡寄こしてきたときも、私はこうやってスロットやってたんだ」

 

 目の前の回胴機を、順押しと逆押しを交互に繰り返して遊んでいる北山は、順押しに適当打ちで右と中リールで7図柄がテンパイしてその音に驚いている左隣の元同級生に言う。

 

「驚いたし訝しんだよ。学校じゃ一言ぐらいしか交わしていなかった人間から、急に突拍子もない誘いが来てさ。かろうじて星田のこと覚えていたけれど、忘れていたら今ここで星田とジャグを打っていなかっただろうね」

 

 学校で唯一の会話と言えば、星田が北山の席を占領していて、そこに言い放った真顔の北山の「お前、邪魔」と、苦笑した星田の「あっごめんね~」だ。会話というにはあまりにも剣呑だった。

 

「でも数年ぶり会った星田は随分と変わっていた。真面目で、誠実で、ぶっ飛んだ性癖持ちの奴らとの仕事には文句言わず、同じ箱の若い二人をまとめていた。高校でのあのカリスマ性を仕事上の人間関係によく活かしていたし、表面上であったとしても星田は全くの別人みたいになってる」

「そう……かな?」

 

 どういうわけか北山は星田を褒めている。少し照れ臭くなって顔を背ける星田に、北山は続けて言う。

 

「星田から見て私は全く変わっていない人間だろうね。私は星田のことは、高校時代に比べてかなり変わった人間だと思っている。――おっ」

 

 やっとペカッた。

 話している間に、北山の台でボーナスが成立。右下がりに“BAR・BAR・7”のチャンス目(ジャグラーでのリーチ目の呼称)が出現し、GOGOランプは煌々と輝く。

 一枚掛けしてレバーを叩く。北山は目押しが凄まじく巧く、一秒と経たぬまま“7・7・7”を揃えた。7揃いによりビッグボーナス確定。リール内のバックライトにより点滅する7図柄を前に「おしっ」と北山は右手でガッツポーズを作った。

 

「バケ先行じゃなければよし。この先のビッグバケがバランスよく連荘してくれればよし。ついでにジャンバリしてくれればなおのことよし」

「……」

 

 ブツブツ言いながらボーナスを消化する北山。星田は若干気味悪く思ったが、周りに客はほとんどいないため、まあ別にいいかと気にしないようにした。

 ――北山の名誉のために明記しておくが、北山が遊技中に独り言を話すのは、閉店間際など周りに人がいない状況ぐらいだ。今はスロットの設定の入れ具合ゆえ閑古鳥が鳴いているため、これなら許されるだろうと思っての独り言だった。

 ボーナスを消化し終え、1ゲーム回し、「まぁーないか」と光らないGOGOランプを撫でた北山は、同じように遊技しながら再び口を開く。

 

「星田って、私が思うに当時隠れオタクだったって思ってるんだけど」

「えっ」

「あの頃の星田と、今VTuberとして活動している星田。どういう角度で見ても別人としか思えん。卒業して九年……その間に星田が生放送というコンテンツに触れたのか、それとも元からそういうのに慣れ親しんできたのか」

「ああ……それは」

 

 星田は確かに、これまでの自身の経緯を話していなかった。教室での険悪な遣り取りから、大きな時間を経てLINEで通話したとき。それからサイゼリヤで面と向かって話したとき。コラボ企画でEveのオフィスで遭遇したときから今に至るまで。自身の素性を右隣の女性に開示せず、むしろ自分が一方的に知るばかり。

 これでは対等ではない。

 星田は自分の話をしようと口を開き、

 

「手を叩いてリズムを取って教師に土下座を要求していたお前はどこに行ったんだろうなってね」

 

 「へっ」と変な声が出た。

 

 

 

 前任者のグラフと現在までのボーナス、ボーナス後の連荘の状況も加味し、今やっているジャグラーに伸びしろはないだろうと判断した北山はこれを星田に伝え、ともに台を離れることにした。

 スロットコーナーからパチンココーナーへ移動。なにをやろうかと思案した北山は、初心者にミドルはハードルが高いだろうと思い、甘デジ(デジハネ、遊パチとも。出玉は少ないが、大当り確率が高いパチンコの総称)の《Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2 1/77ver.》を選んだ。ちなみにこの甘デジのシンフォギア2、人や媒体によっては甘フォギア2などと言ったりする。

 星田の台が音量MAXで、北山が音量調整の仕方を教えようとしたときにヘソに玉が入り、いきなりデュランダル保留(信頼度・約79.2%)が突き刺さり特有の効果音とキャラクターの『そいつが切り札だ!』という台詞が大轟音となって二人の耳を劈くも、無事に大当りを獲得、しばらく連荘。出玉は最終的に三人の諭吉となったが、「投資分は稼げたから」と北山が聞かず、それら全て星田の取り分となった。

 三万円……VTuberの配信では投げ銭機能を使って少々稼げてはいるものの、月に一万を超える収益を得るのはなかなかどうして難しいものがある。こうもあっさりと三万という大金を稼げてしまった事実に、星田は変な高揚感を抱き、また焦燥も感じた。

 ――ヤバい、当たったときの音が頭から離れない。

 煌びやかなGOGOランプ。鳴り響くファンファーレ。

 突き刺さるデュランダル。激しく震えるレバー。金の文字に虹の輝き。突き上がった拳の役物。デスフラッシュ。

 脳汁噴出。エンドルフィンの奔流。

 全てが初体験。

 アングラの輝きは虹色で、星田の心は大きく揺さぶられてしまった。

 

 

 

 店を出たときには二十二時を過ぎていた。レストランはどの店も閉まっていて、結局晩飯はコンビニ飯になった。

 星田はメロンパンとスムージー。北山は二郎系ラーメン。

 

「……体に悪そう」

「体に悪いもんは旨いのさ」

 

 北山が麺を飲み込み、たれがしみ込んだチャーシューを噛み切り咀嚼する。スープを飲み、もやしを食らい、また麺を啜る。北山の手は止まらない。

 豪快に食べるなぁ。

 北山の食べ様に目が行っていた星田は、まだ袋すら開けていない自分の夕食に気付き、目を離した。

 

「――星田」

「なに?」

 

 不意に北山が呼び、続けて言ってくる。

 

「お前、仕事ってなにやってんの」

「仕事? デザイナー。服とかの」

「ふぅん。メーカーの?」

「うん」

 

 星田がもう一度見たときには、北山が持つ器にいっぱいに入ったもやしや麺はなくなっていて、残すはスープのみとなっていた。

 糖と脂質が詰まった体に悪いスープ。北山は厭わずに飲み干し、言った。

 

「本業が忙しくて満足に手が回らなくて、でも仲間や所属先には申し訳が立たない。だけど個人で数字を稼いでいた配信者がたまたま同級生で、運よくコンタクトが取れたから自分の代わりになってもらおう――てところ?」

「……」

 

 図星だった。一瞬息の仕方を忘れてしまった星田は手を胸に当てた。

 強張った顔を見て察した北山は、さらに問いを投げかけた。

 

「まあ、どういう経緯があって誘ったのかなんてもう関係ないから置いておくとして」

「えっあ、そう……」

「お前って性格変わった? それとも今の状態が素で、学校では隠していたとか?」

 

 随分と踏み入ってくる、星田にとってどう答えるのが最適か分からない問いだ。

 北山の口調は厳しくない。責め立てるような、捲し立てるようなものでもない。ただ純粋に知りたくて質問する、穏やかな語気。

 学校での遣り取りを思い出す。そも関係があったかと言われると「同級生」としか答えようのない関係ではあったが、掘り下げると二人にしか知りえない会話があった。

 少なくともいい関係ではなかったが、係わりがあったか訊かれるとかなり答えづらい。

 不十分な無関係とでも形容すべきか。

 

「私は――高校デビューっていうか。中学ではオタクってのがバレてて……ほら、あの時代はオタクってもろに迫害の対象だったでしょ? 高校ではそれを隠して、むしろ人の上に立つ人になってやろうって。髪染めて、ピアス付けて、言葉も強くして……。とにかくオタクを隠そうとして、ああなった」

 

 FLASH黄金時代、ニコニコ動画全盛期を過ごした星田は瞬く間にオタクへ変貌した。かーずSPで情報を集め、Southern Crossを熱唱し、ポーションを作って死にかけた。コスプレして秋葉原で『ハレ晴レユカイ』を集団で踊り、ニコニコ超会議で『やらないか』に熱狂した。

ニコニコで知ったローゼンメイデンを読み、ハルヒを読み、らき☆すたを読み、漫画やアニメに手を出し続け――その程度には深いオタクとなっていた。

 ――ところでその時代、あえて断言するがオタクは迫害対象だった。かつて起きてしまった凄惨な事件とメディアの偏向報道が切っ掛けで、オタクに対する世間の風当たりが強まっていった。

 

「へぇ。それはまあ随分と」

 

 大変だったね、とプラスチックの器と割り箸を膝の上に置く。

 星田の素のコミュニケーション能力は高い。事実高校ではヒエラルキー(“スクールカースト”とも言うが、二人が高校生のときはまだその固有名詞が定着していなかった)の頂点に君臨していた。

 凄惨な事件、マスコミの偏向報道と煽り、定着した偏見――漫画やアニメを好くオタクは実に生きづらく、なによりタイミングが悪過ぎた。

 だから星田は外面を変え、オタクと悟られないように、ないしは嘗められないようにしていたのだった。

 ……ちなみに、北山は星田にかなり他人事のように反応しているが、北山も同じく迫害対象だった。

ただ学校でプライベートの話を一切せず、感情を表に出さず、友達は一切いず情報漏洩元も皆無だった。なにを考えているのか分からない奴――というレッテルを貼られ、腫れ物のように扱われていた。ゆえに、当の北山は憂き目を見ることはなかった。

 

「でもあれはあれで、結構楽しめたんじゃないか」

「どうして?」

「あれなら群がる有象無象を顎一つで使えるでしょ。なんせスクールカーストのトップだぜ?」

「……北山さん、性格悪いって言われるでしょ」

「おお、よく分かったね」

 

 即答だった。星田はここ一番の溜息をついた。

 

 

 

 ところで、どうしてお前に職を訊いたか分かるか。

 VTuberを趣味から職業に昇華させるってのは現状ほぼ不可能だぜ。ブランド力がある大きなグループに入ったらそうでもないんだろうけれど、なんせ水商売だ。YouTuberとも違って確実に人を選ぶ。基礎が弱い業界はいつ落ちぶれてもおかしくない。

 夢を追うことはいいことだよ。否定はしない。ただ、いつ追いつけるかも分からない夢は追うんじゃねぇって話。

 ま、付き合い数ヶ月の元同級生の忠告ってことで、ここは一つ。

 




 お待たせ。7割しかなかったけどいいかな?(デュランダル)
 半分寝ながら書いたので誤字脱字があったら誤字報告願います。


 評価入れてくれたら次にあなたが打つシンフォギアの手紙に醤油入れておきます(大嘘)
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