その清楚系、パチカスにつき。 作:継続率3000倍
「――倉島セレナさんのファンの皆様、お初目にかかります」
倉島セレナのファンに自分を知る人間が果たして何人いるのか。パチンコに接さない生活を送る人のほうが多いだろうと思い、北山はカメラの画角に入り意識して丁寧な口調で話す。
「私、YouTubeでパチンコやスロットの配信をしております、裏物クチクと申します。本日はこのような素敵な機会に呼んでくださったことを幸運に思います。どうぞよろしくお願いいたします」
慇懃無礼にも感じてしまいそうな挨拶をした3Dアバター。PCの画面から飛び出してきたような、三次元と相反するその肢体が遊技機手前の椅子に腰かけると、動きに合わせて椅子も動く。
裏物クチク――彼女のファンは、どういうわけか最近VTuber業界ないしVR業界で最近勢いに乗っている企業から専用3Dアバターを渡され、どういうわけかその企業に所属するVTuberの配信にゲスト出演している裏物クチクに対して黙ってはいられなかった。
・『クチク!?』
・『アナウンスがないぞ後ろめたいことがあるのか』
・『バニーガールやんけ!』
・『コラボとか一切合切断っていたのになぜ』
・『お? オリンピアとグルか? お?』
「えー、クチクさんのファンがなにやらざわついていますが」
「おっやべ、告知ツイートし忘れてた」
ズボンのポケットからスマホを取り、一心不乱にタップしまくる女の恰好はバニーガールだった。
これは裏物クチクの3Dアバターのデザイン案を出し合った際、なにかオリジナルのものを一から考えるよりも、世にある衣装に少しオリジナリティを加えたもののほうが早く仕上がるだろう、という話がイラストレーター側から挙がった。その線で話が進み、どんな衣装がいいか北山が訊ねられたときに答えたのがバニーガールだった。
エナメルの質感を思わせる艷やかなバニースーツ本体は、乳房からくびれまでのラインがしっかり出ていて妙に艶めかしさを覚える。脚は日本では定番の網タイツ。腰椎の少し下には白くふわふわな尻尾。黒髪ロングのぱっつん前髪に、唇に塗った口紅は茜色。頭部に着けたバニーガールの象徴は黒く、右耳が前に折れ曲がっている。
そして、両耳に付いている七つずつ着いているピアス。右耳は直径11ミリの銀の玉で、左耳は直径20ミリのメダルと30ミリのメダルが交互に並んでいる。
なにより目を引くのが、鮮やかなタトゥー。右肩に入れられたのは、赤く大きいハイビスカス。左の胸、谷間付近に入れられたタトゥーは小さく、『GOGO‼』というピンク色の文だった。パチンコ店に入ったなら、絶対に一度は目にする名機の意匠に似たもので、権利関係に抵触しないようデザインやフォントはモチーフの遊技機とは全くの別物となっている。
「んんっ、失礼。この体ですが、ものの数日で用意してくださったイラストレーターと3DCGデザイナーの方々には感謝、そして陳謝いたします。しばらくは筆を置き、安息のひとときをお過ごしくださいませ」
「お店での配信が企画されたのが一週間ほど前なんですよね。裏方の皆さんの努力は表の私たちには計り知れないものがあります。クチクさんの体について、私からも精一杯感謝します」
「ところでどっかの2号機を連想したそこの君! 私はオリンピアから金を受け取っていないし渡してもいないぞ!」
「なんの話ですか」
・『思い浮かべた人は多分おっさん』
・『分からんwww』
・『主演者を置き去りにしないようにな』
・『オリンピアってことはバニーガールかなるほど』
・『外面は清楚系ってか?』
パチスロ2号機の登場は1988年。その時代を生きてきた人は少なくとも40代後半だ。その手のネタを書き込む視聴者というのは、大体裏物クチクの遅い告知ツイートから、初めて客演すると耳にしてやって来た《パチンカスX》の視聴者だ。北山が言ったネタについて、恐らく事細やかには解説しないであろうとパチンコやスロットの造詣が深い視聴者らが昇り上がるチャット欄にわざわざネタの解説を行ってくれていた。
「では次に、私の視聴者も多数来ていると思いますので、倉島さんのほうからも自己紹介をば」
「あ、それもそうですね」
右後ろにあるカメラに、椅子を回して体ごと向く。
「パチンカスXの視聴者の皆さん、初めまして。私は株式会社大東事務所のVTuberグループ《VReactor》に所属し、活動している倉島セレナと言います。倉庫の倉に、無人島の島で、倉島です。もとは試作品の実験・研究チームの外部テスターという立ち位置でしたが、あれやこれやとありましてVTuberとなりました。なりましたが、事務所内での肩書は事実上VTuberを演じるタレント――魂ではあっても、事務所には所属していず、大きな箱によくあるような個人事業主としての業務提携なども結んでいない、あくまでテスター――ちょっとした協力関係にあるだけの一般人なんですよ」
「へぇー」
「なのでインターネット上の活動は、ほかの方と比べると控えめかと思います。それはVTuberとしての活動はあくまで製品の試験運用の延長だからです。あ、あとあくまで私は製品のテスターなので、お金はテスターとしての謝礼ぐらいしか貰っていないんです」
ただ消費者に向けてのマーケティングがあまりなっていず、そこで思いついたいい加減な打開策が、星田の知り合いの裏物クチクたる北山を自社に取り入れる、だった。
ちなみに、発案し命令したのは大東事務所の社長だ。星田曰く、狸親父。
「大東事務所の宣伝大使的な役割ですか」
「そう思っていただけたら嬉しいです」
「『およげたいやきくん』みたいな状況に陥らないことを願います」
「大丈夫ですよ、今のところ」
「事務所に圧かけていくねぇ」
・『へー』
・『変わった経緯だな』
・『問題にならないようにね』
・『たいやきくんは草。お金の問題は長引くからね……』
・『発言が不穏』
「冗談さておき、私の紹介はこれぐらいにしましょう」
パンッ、と両手を合わせ、星田は話を切り替える。
・『おお』
・『手と手の位置が完璧に合ってる』
・『もっと動いてくれ』
・『すごい』
・『市販化しないかなぁ』
「話ばかりしていても本日のメインディッシュが始まらないので、早速始めちゃいましょう。視聴者のなかにはどうしてクチクさんがゲスト出演してくれたのかとか、気になる人もいると思いますが、その辺は打ちながらしましょう」
北山の目の前にある遊技機――穿たれた釘に囲まれた大きな液晶のなかで、「座りなさい」とキャラクターが言う。このキャラクターはアニメ『戦姫絶唱シンフォギア』のマリア・カデンツァヴナ・イヴ。
「キャラの名前は分かる?」
「分かりますよ。アニメは過去に全編観ているので」
配信で二人が実践するのは、アニメ『戦姫絶唱シンフォギア』のタイアップ機であるパチンコ《Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2》だ。メーカーはSANKYO。
この台の目を引くところは、なんと言ってもその巨大な台の枠だろう。ボタンが一つと、レバーであるところのガングニールデバイス(主人公・立花響のシンフォギア《ガングニール》から)は引けるし、押せる。
上部にある、主人公の形をしたギミックは通常時の一部演出で、また右打ち中に作動し、上にスライドして翼が生える。これにより、データランプが非常に見にくい。
枠の左右、上から中央にかけて付いた観音開きのようなギミック。これはキャラパネルと言うが、そこに回転するギミックが二つずつ付いていて、演出によっては音を立てて回る。また、キャラパネルそのものも場合によっては動く。このギミックにより、サンドにお札が入れにくい。
「なんでこんな作りにしたんですかね」
「前作で70億の絶唱を凌駕する儲けを出したからじゃないすか」
「そんなに売れたんですか?」
「当時のパチンコには継続率65%規制といういかれた自戒があったんですが、SANKYOは規制の枠組みから外れた“残保留”というものを使い、約78%継続という当時としては衝撃的なスペックを生み出したんです。そのスペックを用いて生まれたのが《CRフィーバー戦姫絶唱シンフォギア》です。最終的にこれがバカ売れして、後継機がこんなふざけた枠になったんですね。まあ中身が鬼がかってるので、それで打ち消されるどころか神台となりましたけど」
「他作品ネタですよねそれ」
「鬼がかりバージョンは先バレモードがおすすめです」
「SANKYOとサテライトからクレーム飛んでくるのでやめてください」
・『神台だが神枠ではない』
・『サミーも真焔枠やめてくれや』
・『スペックはいいだけにな』
・『大都技研からの刺客かな?』
・『京楽の悪口はそこまでだ』
「あ、そういえばここのお店は各台計数ではなくドル箱ですので、ドル箱いっぱいの玉を手摑みでザラララと流していきまーす」
スタッフから渡された、玉が摺り切り一杯入った赤いドル箱を二人は膝の上に置き、玉を手で摑んで上皿に入れられるだけ入れる。
音量や光量の調整はあらかじめ調整を済ませている。二人はハンドルを捻り、玉を打ち出す。
遊技開始。果たして、見せ場を見せられるか。というか、時間内に出せるのか。
「ではまず、パチンコがなんなのか知らない人のために、そもそもパチンコはどう遊ぶのか、簡単に解説していきます」
星田が言ったあと、カメラはパチンコの盤面にズームインし、スタートチャッカーを中心に映し出した。
「まず打ち出した玉がここ、私が今指差しているスタートチャッカーというところに入ります。するとパチンコが決められた確率で大当りを抽選します。このシンフォ2の場合、大当り確率が1/199.8です、この確率で大当りが抽選されています。で、この1/199.8の大当りを獲得したあとのモード移行は、パチンコによってまた変わってきます。例えばこのシンフォギア2の場合、まず最終決戦に移ります。時短1回転+残保留4回転、計5回転の間に1/7.6を引き当てます。突破すれば晴れてシンフォギアチャンスGXに移ります。ここが大きな出玉契機となっています。シンフォギアチャンスGXは時短7回転と残保留がほとんどですが、たまに時短99回転、時短11回転なんてものもあります。なかでも時短99回転はV-STOKと言われていて、右打ち中の目玉でもあり、また時短11回転では」
「ステイステイ」
・『なるほど、分からん』
・『??????』
・『分かりづらいわ』
・『明らかに経験者向けの解説』
・『スペック説明すればいいってもんじゃない』
え? と首を傾げる星田に「全然簡単じゃねぇよ」と言いつける。チャット欄も説明に対する不評で荒れ模様だ。
パチンコが分からない人向けの解説としてはあまりにも性急だ。スタートチャッカーのくだりまではいい。時短とか残保留とかV-STOKとか、分かるはずがない。
「ズームお願いします」と北山は左後ろにあるカメラに向かって言う。
「まずこのスタートチャッカーに玉が入る! そんで1/199.8の確率で大当り発生! ハンドルを右に全開! このアタッカーに玉が入ると玉が皿にいっぱい流れてくる! 嬉しい! そのあと右に打って玉をこの電動チューリップ略して電チューに玉を入れる! 5回上限の抽選のなかで1/7.6を当てる! またアタッカーに玉を入れて玉を増やす! もっと嬉しい! そして今度は1/7.6の抽選を受けられる回数が確率で11回や15回や103回になります! やったー!!」
・『まだ分かりやすい』
・『初心者に寄り添ったと思われる解説』
・『嬉しい!』
・『右直撃をこの段階で言わないところに優しさを感じる』
・『やったー!』
北山の勢いに任せた解説は星田のものと比べて格段と分かりやすく、視聴者にはおおむね好評だった。スタッフから知らされ星田はぐぬぬと悔しがった。
「まっやりながら解説していきましょうや」
「そうですねぇー……おや」
「おっ」
星田の台で変化があった。
保留が3つある状態で、ヘソ――スタートチャッカーに玉が入る。
4つ目の保留はてがみ保留。手紙の中身や筐体右下のてがみランプの挙動によって信頼度は変わってくるが、トータルの信頼度は7.8%。
星田のてがみ保留はというと――、
「絶唱っ!」
てがみランプには『絶唱』の文字。信頼度、51.9%。
これがどう出るか、まだ分からない。
そういや星田のアバターを書いていないなぁ。どっかで描写します。
ちなみに私は巨大化する枠に対して寛容なほうです。慶次の最新台はさすがにどうかと思いますけどね。データランプが見えないんじゃあ。
誤字がありましたら誤字報告願います。
評価入れてくれたら次に打つリゼロで鬼がかり3000BONUSが当たります(大嘘)