その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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名機

 コンビニで買った夜食――北山は麺とスープしか入っていないカップ麺と、野菜ジュースを選んだ。

 電気ケトルで沸かしたお湯をカップ麺に注ぎ入れ、野菜ジュースにストローを突き刺す。

 

「……」

 

 紙パックが大きくへこむ勢いで中身を飲み干す北山は、スマホに映る短文への対応に悩んでいた。

 

「北山先輩って、もしかして裏物クチクさんですか?」

 

 やっべバレた。

 送り主は豊藤優子。北山にできた、新卒の後輩だ。入手して四ヶ月余り――話に聞いたところ、周りの人間と適切な距離感と関係を保ちつつ、本社オフィスで仕事をバリバリこなしているそうだが。

 会社に貢献できているのはいいことだ。その貢献はエンドユーザーの性欲を満たし、その性欲は会社の利益に繫がる。

 豊藤の、物語の構成力と完成度、魅力的なキャラクター作り、緻密な設定、伏線とそれの回収、文章力は――Eveの主戦力に値する凄まじく素晴らしいものだ。

 だから、ずっと仕事していればよかったものを。どうして私を見つけるかな。

 裏物クチクでは、別に声に加工は施していない。有り体な話、いずれ見つけてくるだろうと思っていた。

 否定するのは簡単だ。違うと言えば、物分かりのいい後輩は強く詮索してこないと思うが、しかし食い下がってきたら面倒だ。あの優秀な豊藤はそのような意地汚いことはしてこないだろうが、不安ではある。

 ――ただ、豊藤の仕事は丁寧だが、今回のLINEのメッセージにわざわざ裏物クチクの配信切り抜き動画のURLを付けてきたものだから、そこまで丁寧じゃなくてもいいじゃんと北山は眉間を揉んだのだった。

 ……取り敢えず、はぐらかしておこうかな。

 

「――おや」

 

 返す言葉を入力する最中、ふと上げた目線の先、あるのはスロットだ。

 北山が風呂に入る前、周りを気にせず暇を潰せるからと、数あるうちの一台の電源を入れていた。

壁際に置かれた、数々の遊技機。今電源が入っているそれは、星田が一目見て「やりたい」と口から漏らしたものだ。

星田が今風呂に入っているがために、バックライトでリールを照らされた、動かない回胴機。北山はそれを見て、興味を示した。

 

「リーチ目じゃん」

 

 そのスロットというのは、《クランキーセレブレーション》という5号機のスロットだ。クラセレという愛称で親しまれているこのスロットは、ビッグボーナスの純増枚数(払い出し枚数からBET枚数を差し引いた数。例えば、3BETのベルが払い出し10枚なら、純増枚数は7枚)が最大250枚。同メーカーの《ハナビ》や《サンダーVリボルト》といった他のノーマルタイプの5号機と比べると、60枚から80枚ほど少ない。これはスペックからくるものだ。

 クラセレのボーナス割合は、レギュラーボーナスが約30%、ビッグボーナスが約70%――このスペックは極端と形容してもいい。他のスロットは高設定ほどビッグとレギュラーの確率が近づいてくるものだが、クラセレはどの設定でもこの極端な割合を保っているのだ。

 高設定であればあるほどボーナスが成立するのは当たり前だが、クラセレはそもそもボーナス成立確率が高く、下手をすればボーナスの悉くがビッグの可能性さえある。

 それが、クランキーセレブレーションというスロットである。

 

「勝手に回してやろうかな」

 

 で、北山宅のクラセレ。現在入浴中の星田が遊んでいたこれの出目が、リーチ目だった。主流の打ち方に左リール枠上から上段にコンドル図柄を押してハサミ打ちする方法があるが、その打ち方で現れる基本リーチ目がそこにあった。

 左リール上段にコンドル図柄が停止。ハサミ打ちし、右リール中段にスイカが停止――この時点で2確のリーチ目だ。

 右リール下に青7があるからBIG確定だなー、と思いつつ、1BETボタンを押してレバーを叩く。

 クラセレには三つのビッグボーナスがある。出玉はいずれも変わらないが、フラグが別々なのでフラグ判別をする。

 まず右リール中段から下段に赤7を目押し。停まらずコンドルが滑ってきて停止したら鳥BIG確定。今回中段に赤7が停まったので青7or赤7orREGとなるが、出目的にレギュラーボーナスは否定されている。クラセレのレギュラーボーナスの役構成は“鳥・鳥・7”。7図柄は赤青共通の単独フラグのため、出目的にレギュラー否定もといビッグ確定となる。

 中リールにコンドルをビタ押し。停まらず滑って赤7が停止。よって、赤7ビッグ確定だ。

 

「やっぱり揃えるのはあいつか」

 

 左リールに赤7を停めず、青7を停める。青7と2つの赤7が中段に一直線に停止した。

 ……これでドヤ離席したのが懐かしいな。あのとき食った王将の餃子は最高だった。

 一部から忌み嫌われる行為に快感を覚えて久しい北山は、自宅でそれを慣行。机上のカップ麺は、もう食べられる状態にある。

 

 

「北山さん、ドライヤーって……ああ、出目が!」

「赤7確ったよ」

「た、楽しみが消えた!」

 

 

 

 日曜日。今日を終えるとまた仕事の日々がやって来る。険しい顔で満員電車に揺られ、人混みを歩いて出勤し、8時間以上働くのだ。

 ……出勤組は辛いでしょうよ。

 しかし北山には関係ない。発達した前線の影響で関東全域で大雨が予想されるというニュースを観て、翌日のことを考え在宅勤務の悦びをひしひしと感じていた。

 さて、本日の当初の予定は朝早くからホールに並び、《チバリヨ》のリセット狙いを行う予定だったが、予定変更。

 一週間ほど前、豊藤から例のメッセージが届いた。お前裏物クチクだよな? ――という旨のメッセージだが、どう返したらいいかとカップ麺を啜って悩んでいた。

 最初こそ知らんぷりする予定だった。そのつもりで返信用の文章を考えていたが、しかしそこで思わぬ提案が。

 提案元は、当時北山宅に泊まっていた星田だった。

 星田も一緒に考えてくれよーと冗談交じりに投げかけると、髪を乾かし夜のスキンケアを終えてボーナス消化中の星田は振り返り、苦笑して言った。

 

「もうそこまでなら、いっそのこと認めちゃえばいいんじゃないかな。後輩さんから信頼されてるんでしょ? 秘密を漏らすような子じゃなければ、いいんじゃないかなぁって。仲もこれまでよりも深まるだろうし。その子を北山さんが信頼しているのであれば、全然問題ないと思うよ」

 

 信用はしている。信頼しているかは分からない。ビジネス以外ではそこまで深く関わっていないからだ。

 

「……おっ」

 

 だが、しこりはないほうがいい。いざというとき、それが邪魔するかもしれない。不穏因子は摘むべきなのだ。

 そういうわけで北山は、自分の情報を、後輩である豊藤に開示することにした。

 

「こ、こんにちは! あとお久しぶりです先輩!」

「うん、いらっしゃい」

 

 直接。




 なんで遅れたかってまあいろいろありますが、取り敢えず遅れたことについては陳謝いたします。
 遅れた主な原因はバイク運転中に事故ったからです(あとがきでよく見る事故った系の言い訳はもしかしたら本当なのかもしれない……)。
 これ以上間隔を開けたくないため、ひとまず更新です。文字数は少ないですが、どうかお許しくださいませ。
 あとクラセレは名機。なんか本文の半分ぐらいクラセレの説明になってしまいましたが、それについてもどうかお許しください。駄目? そんなー。
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