その清楚系、パチカスにつき。 作:継続率3000倍
想定外の訪問者は、酒を片手に能天気な笑みを見せてやって来た。
片や脚やヘソを露出する攻撃的なファッションに、ウェーブがかかった金髪。この女を「年間1000万の儲けを安定して出す同人作家」だと他人に紹介して、それを簡単に信じる他人はいないだろう。
しかし北山の自宅内にいる後輩には、目の前のギャルファッション女について詳らかに紹介しなくとも、妹だと一言口にすればいい。瞬時に理解し、受け入れるだろう。
その辺は問題ない。問題なのは、酒を持ってきたことで――、
「また酔いつぶれに来たか」
「大丈夫だってー。この前はちゃんと帰ったじゃん」
「この前はなっておい――」
言いながら北山の脇をするりと抜けて、白のアンクルストラップサンダルを脱ぎ、勝手に部屋に上がっていった。
室内に後輩がいると、北山は話していない。
いきなり知らない女が廊下から現れた。取り敢えず挨拶を口にしようとしたところで、自分を一目見た女が先に「洋ちゃんが女を連れ込んでるぅ――!?」と叫び、直後敬愛する先輩が拳骨を喰らわした。そこにどういうリアクションをしてどういう感情を持つべきか悩んだが、この金髪の女について北山が「こいつ、妹ね」と親指で指して紹介した。その言葉に、先日豊藤が行った即売会の記憶が掘り起こされ、悩みは吹き飛び感情は驚きと喜色に満ちた。
大手同人サークル《北佐》の代表者であり、同人・商業ともに活躍する超人気イラストレーターの北佐
豊藤は北山――山電氏のファンであるが、その山電氏の小説を同人誌でコミカライズしている翅太郎のことは当然知っていたし、ファンでもある。合同サークル《
挨拶と自己紹介をしようと立ち上がるが、
「あれ――この前うちのサークルに来てたよね?」
翅太郎もとい共子が豊藤の顔を見ると、はっと思い出したように声を上げ、右手の日本酒を姉に押し付けて近寄る。
「えっ覚えているんですか? マスク姿でしたけれど」
「もちろん!」
高い日本酒の一升瓶を見て青筋を立てる姉を差し置き、共子は豊藤との再会を喜ぶ。
共子曰く「新刊を求める戦意と猛暑のなか列に並ぶ狂気が購入した人のなかで断トツだった」――眼鏡の奥までよく見ているものだなと北山は感心した。北山は自身のサークルに来訪したプライベートな関わりがない人間、誰一人として覚えていない。
……
これから妹のことを“人間虹彩認証”とでも呼んでやろうかと思案した北山は、日本酒を円卓に置き、共子に言う。
「この子、前に言った後輩の子ね」
「え――ああそういうこと! いやー世間は狭いねぇ! なんでこの前のベスト狂気オブザサマー2019が洋ちゃん家にいるのかと思ったら後輩ちゃんだったかあ」
「すげぇー
「光栄です!」
突然の来客イベントだったが、共子と豊藤は自己紹介を終え、場はひとまず収まる。
「常温から少し冷やした程度が美味いらしい」と言う共子の言葉に従い、十四代はキッチンに置いておく。飲む少し前に冷蔵庫に入れればいいそうだが、酒を嫌う北山にとってはそこまで有用な知識ではないが、創作者としては頭に入れておいて損はない。
机上のお菓子を補充し、豊藤の対面に座る。共子は二人の間、左側にいる。
「豊藤ちゃんには私が配信者だと言ってあるから、その辺は気ぃ遣わなくていいよ」
「おおっ結構近い仲なのね。それ知ってるのって結構少ないよね?」
「そうだね……会社の人のなかでは片手で数えられる」
「里見さんとかですか? ――ありがとうございます」
融けて小さくなった氷だけになった豊藤のコップに麦茶を注いだ北山が、豊藤の言葉に頷く。
「そうそう。あと私らの今の制作チームのリーダーと高砂っていうプログラマー」
「高砂さん……昼休み中ずっと音ゲーしてますよね。Deemoとか」
「あの親指どうなってんだろうね。速過ぎて凄いを通り越してキモい」
「音ゲーはやり込むほどそうなっちゃうものだから。しょうがないっちゃしょうがないさ」
北山は共子と二人でよく遊びに街へ繰り出すが、毎回共子の要望でゲームセンターに行く。
共子も音ゲーマーの端くれで、高校時代からbeatmania ⅡDXとDanceDanceRevolutionをやり込んでいる。最近はDANCERUSH STARDOMにも手を出したらしいが、それはともかく、ⅡDXやDDRの高難易度曲を捌く妹の姿を見ていつも「こんなのよくできるな。キメェ」と思っている。そのため、もしかしたら凄腕音ゲーマーのプレイにはキモさがどうしても付き添ってくるものなのかもしれない――北山はそう結論付けた。
――なお北山の言う『キモさ』は相手を貶める感情から来るものではないことにご留意願いたい。一応、北山なりの褒め言葉である。
「関係あるかは分からんけれど、タイピングも速いんだよね、あいつ。ミスタッチも全然なくて、タイピングゲームやらせたら全部パーフェクトだった」
「それは凄いですね……タイピングにはそれなりに自信あったんですけれど、太刀打ちできなさそうです」
「まあでも奴はタイピングは速いが仕事は遅いからね。ディスプレイの前で死んでるところをよく見る」
「ぐっ――その話は私にとてもよく響く」
「そういえばお前は遅筆だったな。二日に一回は『締め切りを……ぶっ壊す!』てツイートする程度に」
「タスクはできるものから早め早めに終わらせましょう」
「だってさぁ……落書きとか同人誌はいいけど、商業は途端に面倒臭く感じるんだよね。なにが面倒臭いって……究極に面倒臭いよね」
「なんかどっかで聞いたことあるな」
「あっそういえば――」
その後三人は、小一時間ほど他愛ない話で盛り上がった。
ファッションの話。メイクの話。トレンドの話。その辺のカフェで女性らが話題にしていそうなことから、パチンコやスロット、競馬などのギャンブルの話まで、他愛はないが温度差は激しい。
とある同人作家が共子に恋して現在言い寄られていること(日本酒『十四代』はその人に貰った物らしい)や北山がパチンコ屋でバイトしていた時代に遭遇した想像を絶する遊技客の話、豊藤が頭のなかで練っていてまだ文字に起こしていない物語の話はとくに盛り上がったが、一番盛り上がったのは年齢の話だった。
「お姉さんが39歳!? え、お二人って」
「私は今年28」
「私はこの前25になったよ」
北山家の長女である銀子は、下の二人のどちらとも一回りほどの年齢差がある。豊藤はこれほど年の差がある兄弟や姉妹を生で見たことはなかった。
母は銀子を産んで満足したが、兄弟や姉妹というものに憧れた生を受けて11年目の銀子からせがまれたがゆえの開きで、母曰く「相当頑張った」らしい。
ちなみに北山は母からそのことを直接知ったとき、親の情事という生々しい話に生理的拒否感を感じて吐き気を催した。
ともあれそういう事情があって年齢に大きな差開きができたわけだが、だからと言ってなにか本人らに不都合が生じたことはない。姉は下二人を愛おしく思い、逆に下二人は姉に憧憬を抱いていた。
ただ、金銭的な不都合はあった。三人分の高校と大学の学費は家計簿を苦しめるだろうと覚悟はしていた。ただその覚悟に反して、三人の頑張り――特待生制度を駆使したり既に声優として成功を収めていた銀子の支援などで、三人は協力してできる限り親に負担を掛けさせないようにしていたのだ。結果、家計への打撃は思っていたよりも遥かに安く済んでいた。
そういうわけで、全員独り立ちするまで幾度となく協力し合ってきた三姉妹の仲は良好である。
「お姉さんってどんな方なんですか?」
「髪が黒くて長いよ。洋ちゃんみたいに」
「知りたいのはそこじゃないでしょうよ。まあ……姉さんの髪は姫カットだけどね」
「三人とも長い髪が好きなんですか?」
「どうだろう。私は好きでロングヘアにしてるけれど」
「私は切ったり伸ばしたりを繰り返してるよ。姉ちゃんは私が物心ついたときにはもうあんな感じだった気がする」
「あっそういえば」
豊藤がなにか思い出したかのようで、
「お姉さんはなんて名前なんですか? お二人とも“子”で終わる名前なので、お姉さんもかなって」
と、二人に問う。
……姉さんの名前を明言しなくなったのは、いつからかな。
北山は腕を組んで思案した。
姉は声優だ。芸歴は今年で22年。今も数々のアニメやゲームに出演していて、最近はバラエティー番組のナレーションも務めている。もはや顔を晒しておちおち街を歩けないレベルの有名人だ。
それだけに、迷う。目の前の後輩に対し、果たして名前を言ってもいいものか。
「あー名前ね。……ちょっとねー、姉ちゃんの名前は不用意には口にできないんだよね」
「それって――もしかして、国の重要な組織の構成員だから、みたいな理由ですか?」
「まあ
「根も葉もないことを言うなよ――」
卓に置かれたスマホが震える。北山のスマホだった。
通知を見てみると、それは今現在話の種となった姉からのメッセージで――、
「……」
「顔出して歩いたら終わりって話してたよ」
「もっもしかして結構名が通っている方で――……?」
「あー……二人とも」
スマホの画面から目を離した北山の顔は、なんとも言えない困惑に満ちていた。
「姉さん、今から来るって」
声優事務所オフィスエターヌス所属、佐山銀子――本名は北山銀子。妹二人と上の妹の後輩が盛り上がっていたとき、銀子は千葉市にあるラジオ収録スタジオで、隔週で放送しているインターネットラジオの収録を終えた。
番組名「銀子の休憩所」――日々多忙を極める佐山銀子がゲストとの雑談を通して疲れ切った体を癒す――というコンセプトの番組だ。当然これも仕事なので本当に休憩できているかは本人次第だが。
――スタジオの駐車場に停めた、レストアされたフェアレディZ 240Z。その艶やかなマルーンボディを人差し指で優しく、つつぅ――……と滑らせる。
嗚呼、なんて美しいのだろう。この、これは。
この車を我が物にしたのは、一目惚れというどんな理屈も跳ね除けるたった一つのシンプルな理由だ。車、ましてやレトロ車なんて好いたことも気にしたこともなかったが、どういうわけか銀子の目の前の車は銀子の琴線に触れた。
難しい理由はない。ただただ一目惚れ。それだけだ。
うっとりと、自分の車を愛でる銀子は、解錠し運転席に乗り込む。
鍵を差し込みエンジンをかけると、L24型エンジンの150馬力の唸りが車体を震わせる。
「さて――」
今日のゲストはいろいろ濃かった。土産話を、ゲストから頂いたお土産と一緒に持っていきたい――銀子は上の妹にLINEでメッセージを送った。
「今からそっちに行ってもいい?」
そう送ると、5秒と経たずに既読マークが付き、それから10秒して、
「いいけど」
と返ってきた。銀子は返答に満足し、スマホを胸ポケットにしまい、240Zのギアを入れた。
しばらく走り――北山洋子名義で契約し、銀子が金を払っている自走式立体駐車場に240Zを駐車。マンションのエントランスへ。北山宅は、このマンションの3階、角部屋だ。
ICカードのオートロックで、リーダーにかざせば扉が開く。合鍵である交通系ICカードを財布から取り出そうとしている最中、なにをするでもなく扉が開いた。あらラッキーと思って見てみると、随分と焦った表情を浮かべた女性がいて、銀子をちらりとも見ずに走ってエントランスを後にした。
なにか急ぎの用事だろうか、と銀子も特に気にせずなかに進入する。
運動がてら階段で3階に上がると、通路の先に妹二人を認めた。
「あら、お出迎え?」
銀子が言って近づくと、二人はなんとも言えない表情を浮かべていた。
二人が顔を見合わせて、そのうち北山が右手に持つ本を銀子に差し出して、こう言った。
「姉さん――今からこの台本を、うちの後輩に届けてくれない?」
最近、椅子に座った状態で寝落ちるのも珍しくなくなってきました。実に良くないと思います。寝るときは布団に入って寝て、疲れを癒しましょう。
さて、西暦が判明しました。当時まで出ていなかった台とかバンバン出てますが、まあそういう世界ってことでここは一つ。そのほうがやりやすいんでね。
あとキャラの年齢が判明しました。この年齢、読者様はどう捉えるでしょうか。気になります。
誤字があれば誤字報告願います。
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