その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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ハンドルを左に戻してくれぃ!(鼓膜破壊)

 結局、北山が帰宅した頃には23時を回っていた。

 大東事務所の社長との会談で、年老いても滾る情熱に()()()()()北山は、体に溜まった()()()()()を放出するためにパチンコで一発ドカンと負けて頭と体を冷やそうと画策したが、しかし北山の意に反し、北山が座った台の全てで連荘。

 5号機のディスクアップで差枚2000枚超え。

 牙狼 月虹ノ旅人で初の1万発達成。

 パチンコのうまい棒に至ってはオスイチで、残保留は全て大当り。

 その後、「ま、マイジャグなら乱数荒いし」と800ゲームハマっている、ボーナス確率がBBに偏っているマイジャグラーⅣですぐに上振れを引き、1000枚以上獲得。

 出玉をすべて特殊景品に交換し、それを店に隣接する謎の古物商に売り、現金化。その現金を全て中古筐体購入用資金通帳に預け入れた北山は、自宅の最寄り駅近くのコンビニで買ったウィルキンソンの炭酸水をグイッと呷ったところで、「なにやってんだろう」と急に頭が冷えるのを感じた。

 23時16分。自宅に戻りリビングに入って最初に目に入ったのは、日本酒片手に意気揚々とやって来た妹だった。マタドールⅡの手前に置かれたYogiboの人を駄目にするクッションに、仰向けになって寝ている。

 帰ってなかったのか、と口の端から涎を垂らしてだらしなく眠っている妹の鼻をデコピンした北山は、一瞬顔を顰めた妹を尻目に、円卓の席に座する姉を認めた。

 

「遅かったわね」

 

 姉の銀子はナハトマンのタンブラーに注いだペプシ(当然北山宅の冷蔵庫に入っていたもの)を飲んでいる。肴にはコンビニで買ってきたか、わさび粉末が大量にかかったポテトチップス。銀子曰く「味わいながら食べたら二日三日ぐらい味覚が死ぬ」――北山はそうと聞き、分かっていながらそのポテチを1枚に手に取り、舌に乗せてみる。

 広がるシャープな辛味は舌と唾液に沁み込み、口腔と喉奥と鼻腔に小さくないダメージを与えた。

 たった一枚でわさびの魅力を味わえる。鼻腔の刺激に顔を歪めて苦しむ北山はもう一枚指先でつまみ、口に放り込んだ。

 咀嚼し、苦しみ、飲み込む。ビジネスバッグに入った炭酸水でわさび成分を胃に流し込み、北山はようやく銀子に答えた。

 

「関わりのない人に滅茶苦茶期待されていて、形容しがたい……熱を帯びた靄のようなものが心を覆ってね。それを冷やすためにパチンコで大負けしてやろうと思ったんだけれどね」

「へぇ。大変ね」

 

 北山に強い悩みを生ませたその“関わりのない人”がどういう人物なのか。また、北山の胸中にある“熱を帯びた靄”がどんなものであるか、銀子はそれを詳らかにしようとはしなかった。

 職業柄語彙が豊富な当人をもってして、具体的に語っていない。そのため、銀子がどういうことか聞いたところで、北山の胸中がどういう状態にあるか、理解まで辿り着きはしない。

 

「勝ったの?」

「滅茶苦茶勝った」

「それは、洋子的にはよかったってわけ?」

「事実は紛れもなくプラスだけれど……なんでこういうときに限ってミドルをオスイチするんだろう」

 

 オスイチとは、『お座り一発』というパチンコ・パチスロのスラングだ。この言葉を生み出したのは、パチンコのオカルト打法を題材にした作品を出し、パチンコでの生涯収支がプラス9000万円を超えたと嘯く漫画家――谷村ひとし氏。

 この言葉の使う場面は、着席して玉貸ボタンを一回押し、出てきた最初の500円分の玉だけで大当りを引いたときだ。そのときにはぜひとも「オスイチだぁ~!」と口に出したり頭のなかで叫んだりしてみてほしい。ホールには様々なタイプの不思議な人が集まるため、隣の客に聞こえるような大きさで口にしてもとくに問題はない。世間体を気にせず、店員から変な渾名を付けられても構わないのであれば、だが。

 ――ちなみに、4円パチンコの500円分の貸玉数は、一般的には125玉だ。これは貸し出しレートが100円25玉貸しの場合で、レートは店や地方自治体の条例により異なる。同様に出玉の交換率も場所により変わってくるので、これから遊技しようとしている者は注意されたし。

 

「くそ、81%……牙狼の振り分け強過ぎだろ」

「ギャンブルに勝って悔しがる人なんて初めて見るわ……まっそれは置いておいて」

 

 辛味が残る口のなかをペプシで整えた銀子は、円卓に置かれた物を北山に差し出した。

 包装紙に包まれた、よく観光地の土産屋や駅のkioskで見られるような、平たい箱に入ったなにかしらのお土産だった。

 

「開けても?」

 

 北山が訊き、銀子は頷く。

 セロハンテープを器用に剝し、包装紙が破れないようにして中身を露わにする。

 果たして出てきた箱には“へそまんじゅう”と書かれていた。

 

「これは……奥多摩だったか、青梅だったか。ドライブにでも行ったか」

「事務所の後輩からよ。YouTubeに載せる動画のロケで奥多摩に行ったときのだって。事務所の人間全員に行き渡るように買ったら少し余ったから、私が余分に貰ってきたの」

「ふぅん。まあ、余程ゲテモノじゃなければなんでもいいや」

「お酒は?」

「勘弁して。……そこで告知ランプ光らせながらいびきかいてる奴が今日持ってきたんだよ。日本酒とか目の前に上司がいても飲めない」

「キッチンに置いてあるの?」

「そう。幻の日本酒らしいよ」

「へぇ」

 

 へそまんじゅうの個包装を取り除き、一口。

 想像するよりも柔らかく、とろりとした食感。皮は饅頭というより肉まんのそれに近く感じ、他の饅頭とはまるで違う新鮮さを味わった。

 皮の黒糖とつぶあんの上品な甘みは北山の口に合った。目を輝かし、食べかけの饅頭をぺろりと食し、二つ目に手を伸ばした。

 そんな妹の様子を見て微笑した銀子は、はっと思い出したことを口にする。

 

「洋子の後輩ちゃん……優子ちゃんだけど、事故で電車が動いてなかったから、私が直接送っていったわ」

「ああ、人身事故でね。六本木に行こうとしていたから、ちょっと驚いたよ。そうか、送ってくれたんだ。間に合った?」

「ギリギリ遅刻。でも収録するアニメの音監さんの連絡先は知ってて、状況を話したら理解してくれたわ」

「そっか――わざわざありがとう」

「いいのよ別に。ただ、優子ちゃんのシーンはBパートだったからってのはあるけれどね。――で、そんな優子ちゃんから伝言――『今日は楽しい雰囲気を壊してしまってごめんなさい。埋め合わせは近いうちにします』って」

「気にしなくていいのに」

「伝言の『埋め合わせ』――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今度はあの子が教えてくれるんじゃないかしら」

 

 円卓に肘をつき、寝かした手の甲に顎を乗せ、妖しく微笑んで言い遣る銀子。

 その風格は、伊達に妹たちより一回り近く生きていない。

 

 

 

 姉はああ言ったが、しかし自分としては相手の話を少しでも把握できる前情報が欲しい――と、北山はおもむろにブラウザを開いた。

 Googleの検索ボックスに“SevenSY”と打ち込んで検索。一番上に出てきた大手VTuber・バーチャルライバーグループ《Vython》の所属タレント一覧のページを無視し、それの5つ下にある有志により作成・運営されている非公式Wikiを開く。

 企業系VTuberの公式サイトが載せたタレント一覧の多くは、そのVTuberとしての()()()()()()()()を載せているため、VTuberの魂もとい中身の人となりを知るには不十分だ。その点、非公式Wikiは情報を求めるものにとって有用無用を問わない雑多な情報を提供してくれる。

 ――Wikiの所属タレント一覧を開き、デビュー時期に分けられた項目のなかからお目当ての名前を探す。

 果たして、SevenSYの名を見つけ、それのページを開いた。

 

 

 

 YouTubeや他配信サイト、SNSのリンク、ハッシュタグの紹介も早々に、公式のキャラ設定・紹介文を交えたプロフィールが記されていた。その一部を抜粋する。

 

 SevenSY(セブンシー)

 

・Vythonの3期生。名前は「七人の彼女」という意味があるらしい。愛称はシーちゃん。

 

・グレゴリオ暦上333歳。6月6日生まれ。身長135センチ(伸縮可能)。出身地はP77星雲。血液型はG型。利き手は左右。

 

・座右の銘――「和顔愛語」、「英雄は英雄を知る」、「クソデカ左打ち指示を許すな」。

 

・宇宙から落ちてきた異星人。地球の環境が合わず肉体と人格が七人に分裂したため、配信業は七人が一堂に会して行っているらしい。

 配信中、誰かが話すとそれ以外は黙るというルールを敷いているらしいが、たまにルールを破って声が出てしまうようだ。でもその声が明らかに悲鳴や呻き声なんですがそれは(詳細は住居の項を参照)。

 

・趣味は創作、読書、パチンコ&スロット、酒。

 

Vython(ヴァイソン)の真の清楚――を謳っているが、それは清楚担当の一号だけであり、残りの六人はお察しの通り清楚(笑)である。

 メインの一号が不在だと、途端にパチンコの話やいかがわしい話を始める。そのいずれもやたら造詣が深く、しばしば視聴者を置き去りにしている。

 

・箱内のパチンコ企画では一番張り切り、一番負ける。

 

・二号から六号は等しく感情の起伏が激しく、よく笑い、よく悲しみ、よく怒り、よく死ぬが、しかし全員感謝を忘れない。一号含め、動画や配信の最後には視聴者やスパチャにしっかり感謝している。

 

・コラボ動画・配信では一号のみ出演する。誠実、真面目という言葉が似合い、随分と後輩気質。1期生でVythonのリーダー的存在のAliceにはいたく気に入られている。Aliceが直接好意的な言葉を寄せたのは、今のところSevenSYだけ。

 

・VTuberは副業で、本業はシナリオライター。日本を彷徨っていたら奇跡的に雇ってもらえたらしい。

 

・一号から七号全員が酒豪で、配信中に強い酒を飲んでも、酔っている様子は一切見せない。酔い潰れたのは過去に一度だけらしい。好きな酒はビール全般とカクテルのゾンビ。嫌いな酒はストロング系。

 

 

 SevenSYの交友関係

 

・Alice is End mark.

 その歯に衣着せぬ物言いと辛辣さがゆえに、様々なコラボを拒否されてきたAliceだが、SevenSYだけはAliceとのコラボに積極的である。Alice曰く「人を見る目が他人のそれを凌駕している」。「最近AliceがSevenSYに懐柔されつつある」とは同じく1期生Carolの談。

 

・野那岐朝顔(のなぎあさがお)

 18禁VTuberグループ《S・B・U》のリーダー。

 シナリオないしストーリーが書けるSevenSYに対し、有償でASMR用の台本を依頼したところ、官能小説が納品されたらしい。本人曰く「初めて書いた官能小説を間違えて納品してしまった」。野那岐が望んでいたものは、指摘後すぐに送られてきたとのこと。以降SevenSYが書いた台本を用いた寸劇をしばしばコラボ配信で行っている。

 

・銀の闇に誘いし盟友(ぎんのやみにいざないしめいゆう/シルバーシューター)

 SevenSYをパチンコの沼に引きずり込んだ元凶で、学生時代の友人。通称「盟友」。中二病めいた名前は公募で決まった。

 何度かSevenSYの配信や動画に声のみで出演しているが、パチンコ・スロットの知識量に関しては盟友のほうが上。

 

 

 

 これぐらいでいいか、と北山はブラウザから目を離した。

 ――SevenSYというVTuberを知ったのは、()()()()の中身を覗き見たときからだが、名前そのものは台本に書かれていなかった。特定のキャラクターの台詞に対し、アクセントをこうするべきだとか、これはこう読むとか、シャーペンで事細かく加筆していたが、それを認めた共子が「このキャラ、シーちゃんがCVやってるやつ」と言ったため、シーちゃん――SevenSYを知ることになったのだ。

 SevenSYはVTuber・バーチャルライバーグループ《Vython》所属のバーチャルタレント。

 すなわち企業系VTuber。

 となると、北山は彼女に訊かなくてはならない。

 

「ん……」

 

 手元のスマホが着信を報せるために小刻みに震える。LINE通話で、相手は「優子」――都合がいい。

 

「もしもし」

「もしもし、お疲れ様です。豊藤です。夜分遅くにすみません」

「いいよ全然」

 

 随分と緊張を孕んだ声色だった。

 そんなに構えなくてもいいのに、と北山は豊藤が話し出す前に自分から話を繰り出すことにした。

 

「そっちの用件は今日の埋め合わせについてかな」

「えっ、あっはい、そうです」

「気にしなくていいよ全然。私は十分楽しかったし」

「でも」

「そっちの気が収まらないなら一応考えはあるけれど、それはまたあとでね」

 

 少々強引に話を中断して自分の話に持っていくが、北山の声色は柔らかい。

 

「豊藤ちゃんがVTuberだったってのはあの台本の件で知ったんだけどさ」

「……はい」

「君がそういう人ってこと、うちの会社には伝えてる?」

「――」

 

 一拍、間を開けて、

 

「伝えています。社長と部長、あと里見さんが知っています。マネジメント契約を結んでいて二重就業状態ですが、許諾は受けています」

「そっか。ならいいんだ。私はそれだけ訊きたかったから」

「ご迷惑をおかけしてすみません……えと、それであの、埋め合わせの件なんですけれど」

「さっき言ったように私は一切気にしてないんだけれど、豊藤ちゃんがどうしてもって言うのであれば――君が心に持つ私への申し訳なさを搔き消す提案をしようと思う」

「搔き消す提案……ですか?」

「そう」

 

 それはある意味奇跡的、それでいて奇妙で、偶然の産物たる人脈を使った提案。

 どんなVTuberも為しえない、天文学的確率で出会った二人にしかできないこと。

 

「――SevenSYとして、裏物クチクとコラボしてほしい」




 お待たせ! 1/8192しかなかったけどいいかな?(GOD)
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