その清楚系、パチカスにつき。 作:継続率3000倍
「取り敢えず回そう」
「そうですね」
「あっそういやこの配信では経理処理や分け前の交渉がクッソ面倒臭くなりそうな予感がしたため、スパチャは切ってます。金をドブに捨てたくて気が済まない富豪の方は取り敢えずふるさと納税してください。地元のためにも貴方のためにもなるので。返礼品で場所によっては結城蜜柑のフィギュアが貰えたり東プレの高いキーボードが貰えたりしますよ。SevenSYさんに投げたいという方はSevenSYさんの後日の配信で投げるかダイジェストやアーカイブのスーパーサンクスを駆使してください」
・『でしょうね』
・『そんな予感はしてた』
・『だからか』
・『投げさせろ』
・『無料で勝ち報告していいんスカ』
「別にいつも無料で勝ち報告していいって言ってるでしょーが」
北山が言って、MAXBETボタンを長押しする。――北山は今まで、中古実機販売サイトで買ったスロット全てに、コイン不要機を取り付けてもらっている。これはその名の通り、筐体に物理的にメダルを入れなくてもクレジットを追加するほか、筐体から払い出されるはずのメダルを「物理的に払い出した」と誤認させるなど、メダルそのものを不要にしてくれる優れものだ。――北山や豊藤が今から実践するバーサスやサンダーの場合、MAXBETボタンを長押しすれば、自動的にMAXBET分の3枚とクレジット最大枚数50枚を供給してくれる。
二人がレバーを叩き、リール始動のSEが鳴る。21個からなる図柄が描かれたリールが回りだす。
「さて……先ほど申し上げましたように、今回のコラボ実践ですが、私ことSevenSYのTwitterアカウントではこのことを一切報せていませんでした。“コラボ”はおろか“配信”のはの字にツイートしていません。これには理由がありますが、別にそこには軋轢とかそういうのはありませんよ。疚しいことは全くないです」
・『これ大丈夫なの? 事務所的に』
・『生身の腕だ……手だ……』
・『綺麗。すべすべしてそう』
・『なんかチャット欄の雰囲気がいつもと違う』
・『おいなんでコラボしてんだよ!! 三度の飯よりギャンブル好きな俺たちのクチクを返せ!!』
「やめろよ私がギャンブル依存症みたいじゃないかよ」
「まあ確かに、クチクさんって過去に一度しかコラボしたことないですよね」
「それはまあ、そうね。今回もだけれど、そのときは現実で縁があったからね」
「クチクさんとコラボするには現実での関わりが不可欠ってわけですね。多分これを聞いた配信者や動画投稿者はこぞってクチクさんの住所特定に勤しんでますよ」
「こっわ。怖ぇよ。あと怖い。そんな連中にはメダルを全力投擲してやる」
「銭形平次的な」
豊藤は言っている間にも左リールの赤7を枠上に目押しするDDT打法(小役回収打法。ベル、チェリー、スイカ等小役を100%回収するための打法)で、早速スイカを揃えている。北山も北山でバーサスのレバーを叩いたら予告音が鳴ったため、左リールにBARを狙い、チェリーをカバーする。
「ではどうしてノンアナウンスだったかというと……色々あったんです」
「そういうと余計怪しまれるよ」
「いえ、失礼……まず前提的な話になりますが、ぶっちゃけるとVythonは他の媒体とのコラボには消極的です。私やほかの所属ライバーの活動を見てもらえれば分かると思うのですが、コラボしたとしても有名なところばかりじゃないですか」
・『それ言っちゃっていいの?』
・『まあ確かに』
・『大体箱内』
・『へー知らね』
・『まあ下手に個人とコラボしてもねっていうのはある』
「それは運営がしっかりしているところだと安心できたり、同じぐらい有名な人なら互いに利益があるよねっていう、Vython経営陣の方針なんですね。これ以上の詳細を口にするのはさすがになにかしら
「ねえそれ本当に口にして大丈夫?」
「大丈夫ですよ、これぐらい」
「とてつもなく不安なんだけど……」
・『あーね』
・『誰だったか、勝手にコラボして怒られたって言ってた理由はこれか』
・『干されそう』
・『企業勢って大変やなって』
・『こんなぶっちゃけ話を隣で聞かされたパチカス可哀想』
口外されていないが、隠す気のない活動方針が公式で公になり、そんなこと言ってこれからの立場は大丈夫なのかと気が気じゃない北山は、左隣の後輩の口を今すぐにでも塞ぎたい気持ちだった。
しかし豊藤が言うように、北山も経営陣の考えにはある程度同意していた。
頭に浮かぶのは、冬場――東京都心のサイゼリヤへのツーリング。それまで全く関りがなかった同級生にお願いされて向かい合った、界隈では弱小
ともあれ北山も、Vythonの経営陣には一定の理解を示していた。
「それを踏まえ、私がどこかの配信者とのコラボを望んでいると知ったら、上の方々はあまりいい反応を示さないでしょう」
「そんな経営陣がよく頷いたよ」
「私、これでもVythonでは結構重要な立場にいるので。多少の我儘には目を瞑ってくれる経営陣には感謝します!」
「あ、そう。重鎮だって自分で言っちゃうんだ……私からも精一杯感謝申し上げます」
・『草』
・『ファーwww』
・『これは酷い』
・『自分の立場を十全に活かしてやがる』
・『えぇ……』
多少の我儘。豊藤はそう言ったが、しかしその我儘は果たして本当に
北山は思い出す。数日前、今回のコラボ企画を推し進めるなか、電話で豊藤のマネージャーと通話したときのことを。
「どうぞ」
「ん」
豊藤からスマホを受け取り、耳にあてがう。
「もしもし、お電話変わりました、北山です」
「あっ、も、もしもし――私、株式会社BROSSUMの上野です」
“あっ”の時点で、電話の向こうの女の声は震えていた。緊張からか、不安からか、心配からか。それとも、そのいずれも作用しいるものか。
震える所以たる激しめの感情に現在進行形で苛まれているSevenSYもとい豊藤優子のマネージャー上野は、生唾をごくりと飲み干し、
「どうか、どうか何事も起きぬよう……よろしくお願いします」
悲壮に満ちた声だった。一体なにが彼女をそうさせる。裏物クチクとのコラボはVythonにとってそれほど一大事なのだろうか。 ――いや、コラボそのものではなく、その渦中に身を置く彼女の環境が、彼女をそうさせるのか。
要は、板挟み。自分が面倒を見ているタレントと、経営陣。二極の間の彼女が思うもの――北山にとって、それは想像に難くない。
「まあそうは言いましても、私の一声が鶴に匹敵するかというとそういうわけではないです。上の方がクチクさんの活動経歴やチャンネル登録者数、安定した同接数を鑑みまして、今回のコラボにありつけました。この寛大な判断に深く感謝いたします」
裏物クチクのチャンネル《パチンカスX》の現在のチャンネル登録者数は27万人。星田もとい倉島セレナとの実践配信で話題になり、裏物クチクの知名度が高まった。それに比例し、チャンネル登録者数もその時点の21万人から大幅に増えていた。同時接続数も配信のたびに1万以上を安定して叩き出している。この数字は、個人運営の家パチチャンネルとしてはかなり大きい。パチンコで一番盛り上がるシーン(例えば《Pフィーバー 機動戦士ガンダムユニコーン》なら、確変中に2回当てて突入する覚醒ハイパーなど)では2万超えて3万に届くか届かないかというところまでに至った過去がある。――Vythonにおける個人とのコラボ企画において、この配信者に経営陣はデメリットを上回るメリットを見出したのだ。
「ぜひとも板挟みにあっていたマネージャーを労ってあげてほしい」
「そうですね……今回ので、マネージャーさんが一番辛い立場にいましたし。なにを贈りましょうか」
「じゃあ
「なら私はイミソにします」
「イミソもいいねぇー。でも裏モノ疑惑で盛り上がってるOZ-1ならわけわからん連荘でストレスも吹き飛ぶよ」
「裏モノ――なんだかんだ打ったことないんですよね。なにかおすすめありますか?」
「え。そりゃもうOZ-1よ」
「なるほど」
・『やめろwww』
・『イミソーレはともかくオズワンは3択で禿げる』
・『オズワンはただの6号機だから……』
・『シーちゃんもしかして全編パチンコモード?』
・『もう意味分からない。なんだ裏モノって』
適当な労いに同調する豊藤。二人の発言に疑問符を浮かべるリスナーは、Twitter等SNSでこの配信が拡散され、それに気付いて視聴を始めたSevenSYリスナーが多くを占めている。SevenSYは、裏物クチクのように常日頃からパチンコについて発言するわけではないため、視聴者の層に限りはない。パチンコを好む者がいれば、好ましく思わない者、そもそも興味がない者もいる。スロットの名前や区分、用語を使ってもそういった層には分からない。
北山と豊藤は、誰に言われるでもなく、自分たちが言った単語について説明する。
「ちなみにOZ-1とかイミソってのはスロットの名前ね。恐らくわけわからんパチカスの隣にどういうわけか超人気VTuberがいるっていうツイートを見て、覗きに来た人がいると思うけれど――私こと裏物クチクが運営する《パチンカスX》はパチンコ&スロット成分で99%占められているんで、パチ屋に行ったことがないという人は気を付けて。意味不明な単語がバリバリ出ます」
「まあその都度解説は挟む予定ですが……漏れた場合、チャット欄で有識者が解説してくれると思います」
「まあ、そういうわけで……早速リーチ目」
「はっ」
北山が打つバーサス――ハサミ打ちで左リール上段BARからなる中下段のベルとスイカのダブルテンパイ状態、ここからベルやスイカが揃わなければ小役外れでリーチ目となる。
中リールに赤7を狙い、赤7が下段に停止。スイカは赤7の1コマ上にある。すなわち、下段にテンパイしているスイカは外れ、ベルも否定。スイカ小山のオーソドックスなリーチ目だ。
ベル・スイカのダブルテンパイ状態は基本的にどちらかの小役が揃うため、小役を否定した時点でボーナス確定となるが、このスイカ小山の出目ではビッグボーナス確定である。
「まだ100ゲームも回っていないというのに」
「ナイスBIG! さてフラグ判別」
バーサスのフラグ判別は、まず中リール上中段にBARを狙う。中リールにBARが停まったらレギュラーボーナスもしくはVビッグとなる。BARが中段に停まらず、3コマ滑って中段に赤7が停止したら、赤7ビッグ確定だ。
一枚掛けし、リールを叩く。今回のボーナスは――、
「――早揃えキメるか」
「Vビッグですね!」
BAR停止。Vビッグ確定。
北山は中段に“BAR・BAR・V”の準備目を作る。この出目はVビッグを早揃えができるようになっていて、左リールの単V(左リールのV図柄には、Vが3つ連なった“3連V”と1コマ上にチェリーがある“単独V”――単Vの2種類がある)を目押しして、そこから間を開けることなく中右リールを停止させると、上手くいけばV図柄が中段に停止する。
北山はそれをしようと再度一枚掛けして回し――左から一気に停止させた。
「あっ」
――スロットのリール制御は大きく二つに分けられる。『小役優先制御』と『ボーナス優先制御』だ。
スロットは内部的にボーナスが成立していても小役の抽選を行う。
例えばボーナスが成立し、停止した出目で察知してボーナス図柄を揃えようとまた回転させて、そのときにベルが成立したとする。
ボーナス図柄がベルを同時にフォローできる位置にある場合、前者なら例えボーナス図柄がテンパっていてもベルを揃え、後者ならベルを無視してボーナス図柄を揃える。読んで字のごとく――これが小役優先制御とボーナス優先制御の違いだ。
さて――北山と豊藤が打っているスロットは、いずれも小役優先制御だ。
つまりどういうことかというと、
「……」
「リプ」
北山の早揃えを、リプレイが邪魔した。
「……どうでもいいか!」
「当たって揃えばどうだっていいんですよね、結局のところ!」
・『草』
・『あるある』
・『早揃えはハナビでよくやった』
・『よくこんな早く回る絵を判別できるな』
・『楽しい……のか?』
ちなみにバーサスはビッグボーナス当選時、一枚掛けで、第一停止から1秒以内に図柄を揃えるとボーナス消化中とRTのBGMが変化する。だからといって出玉性能が上がるとかそういうわけではない。ただただBGMが変わるだけであり、それ以上でもそれ以下でもない。
レバーを叩き、リールを回してVを揃える。
筐体の電飾が激しく主張し、初代バーサスと変わらないFM音源のBGMが流れ始めた。
「はいじゃあここでバーサスのビッグ消化手順講座! 非常に簡単!」
北山が声高らかに宣言すると、逆押しで中リールまで停止させる。すると出目は右下がりのベルテンパイ状態となる。
「消化手順と言ってもやることは至ってシンプル! 1回限りの枚数調整です! 逆押しで中リールまで停めたら上段に――」
北山は右の親指に神経を集中させる。狙いを定め、
「7を押せっ!!」
ボタンを力強く押し、左リール上段に赤7をビタ押しできず、1コマ下のベルが停まった。なんのことはない、押すのが早過ぎたのだ。
一枚掛けのベルは15枚の払い出し。15枚分、クレジットに追加されたのを認め、北山は目を覆った。左隣の豊藤は真顔だった。
「……ハハハ」
「今のは……ちょっと恥ずかしいですね」
「せめて笑ってくれ……」
・『恥ずかしいwww』
・『ワロタ』
・『なんで停まらんの?』
・『はいダイジェスト』
・『1コマ早かったから』
「ま、まあバーサスはサンダーと違って予告音の有無に関わらず枚数調整できるので、これを見ているパチカスにおかれましては調子に乗らずにビタ押ししましょう」
その後は何事もなかったかのように枚数調整し、ビッグを消化したのだった。
一方Twitterでは、トレンドに『SevenSY』『シーちゃん』『Vython』『クチク』『スロット』『オフコラボ』といった単語が急に載る事態となった。
言うまでもなくSevenSYと裏物クチクとのコラボ配信が原因であり、これはTwitterのトレンドを搔き乱すほどには大騒動だった。
本日SevenSYがコラボ配信――しかも、どこのグループにも属さない個人の配信者とのオフコラボだ。これはVythonとしては異例中の異例であり、前例がなかった。
社外のタレントとのコラボに関して厳しい姿勢を保つVython――そこに所属するVTuberが他媒体の誰かとコラボするというだけで、Vythonリスナーは強い興味を示す。他媒体との過去のコラボ配信が、月単位で遡ることになるこの厳しい現状を、もしかしたら打ち破ってくれるのではないかと、ファンのなかで期待が急激に膨張し始めていた。
それに、VythonのSevenSYと言ったらたった一人の3期生であり、彗星の如く現れたVythonの顔の一人だ。どんなことも厭わず取り組む実直な姿勢と、普段の配信で魅せる愛らしさと阿保らしさ、どういうわけかパチンコに詳しいという様々な側面からなる人気を集め、今やYouTubeのチャンネル登録者数は200万を超える。いつしか、VTuber界を牽引する大人気VTuberとなっていたのだ。そんなVTuberが誰かと現実でコラボして配信している――ファンにとって垂涎の的だった。
そして、今回のコラボ配信の中心人物である裏物クチク――家パチ配信者という極々限られた界隈ではトップクラスの知名度と人気を誇るこの配信者は、コラボや企業案件に一切応じないことで有名だった。そも家パチ配信者がコラボというものをしているのかと言われると、他ジャンルの配信者に比べれば多くないと言わざるを得ない。しかし裏物クチクは他の家パチ配信者と比べて、よくコラボに誘われる。
裏物クチクの人気たる所以――それはトークスキルと本人の性格にほかならない。
保有する語彙とそれを的確に活かす技術、話題の引き出し、パチンコやパチスロの造詣の深さ――それらを状況に合わせて展開させる能力は、他の家パチ配信者の追随を許さない。
女性配信者という見方をすると、驚くほど女性的要素が前面に出ていないのも人気の要因の一つだろう。《パチンカスX》の配信は性質上実写配信がほとんどだが、女性的要素と言ったら、スロットを打つときに映るすらりと伸びた腕とほっそりとしなやかな指、あとは声のみ。顔出しはせず、女性YouTuberや配信者の常套手段である胸を前面に押し出す、胸で釣るような行為をしないため、そういうのが苦手な人や嫌悪感を抱く人にもクチクは受け入れられている。
また、裏物クチクは非常に気さくで親しみやすい。豪放磊落で自由奔放、デカい声で笑うわ視聴者を煽った挙句自爆するわ――とにかく、裏物クチクに抱くファンたちの感情は、総じて強い親近感だった。打算的でなく、媚びを売っているわけでもない。どこか距離が近いように感じてしまう――それは当人自身、視聴者との距離感を適度に縮めているからだろう。そんな、どんな女性配信者やYouTuberも持ち合わせない魅力を、裏物クチクは持っているのだ。
そんな両者がコラボする。現実でのコラボ、オフコラボ。
他媒体に対して厳しい活動スタンスが奇しくも被っている、人気のある両者のコラボ。
これが話題にならなかったら、一体なにが話題になるというのか。
情報社会、ニュースやスクープは瞬時に拡散される。
配信が始まり、僅か10分――同時接続数は、既に1万を超えようとしていた。
「隣の台に座れない状態を作ってるのってなにも男だけじゃないからね。そりゃ男よか少ないけれど、いるのは事実よ」
打ち始めて30分あまり。現在の話題は、パチンコ屋によく見られる迷惑客あるある。
足を広げたり投げ出したりして隣の台に座れなくしている客は、全国どのホールでも見られるもので、希少性はあまりない。しかしその迷惑客が男性ではなく女性だった場合、希少性は跳ね上がる。
北山が語る迷惑客、その全ては北山がホールスタッフ時代に見てきた真実だ。
「女性にもいるんですね。私は見たことないです」
「やる人は年齢層高めだったよ。若い女が押っ広げて邪魔しているところはさすがに見たことない」
「なるほど……ところで今のは下ネタですか?」
「えっ」
「えっ?」
・『設定高そうでも危険度高そうな人が隣にいたら座る気失せる』
・『女でもする奴はする』
・『そしてそういう奴はクレーマー率高め』
・『深読みし過ぎたね』
・『これは痛恨のミス』
「ひょっとして貴女、そっちに興味あり?」
「興味ありもなにも、普段からそういうストーリー考えて文字に起こしてるじゃないですか。私たちの脳内はもうメルヘンとは別ベクトルでドピンクなんですよ」
「そういえばそうだったわガハハ。あっ今の笑いの後ろには暗黒微笑って書いてあるんで、私の夢女製造フェイスをどなたか描いてください。家宝にするので」
「暗黒微笑というか蛮族微笑って感じでしたよ」
「ごめんちょっと待って腹捩れる」
・『クッソwwwww』
・『誰うま』
・『蛮族は草』
・『その微笑みに恐怖しか感じないわ』
・『座布団一枚』
談笑しているが、配信序盤のバーサスのボーナス以外にこれといったスロットの見せ場がなく、なんだか嫌な予感が立ち込めていた。
良くも悪くも乱数の荒さを感じる5号機――と言っても最終的にボーナス確率はメーカー公表値に収束していくものだが、短期的なボーナス確率という話であれば、サンダーもバーサスも乱数の荒さを感じざるを得なかった。
抽選――と一言に言っても、行っているのは乱数の取得だ。これはパチンコにもスロットにも共通して言えるが、結局のところ抽選とはそれだけのこと。
日本の遊技機の乱数の最大値は65536。この数はパチンコの抽選機能を司るメイン基板のメモリ容量に起因するものだ。パチンコを知らないがメモリに詳しい有識者からすると「少な過ぎないか」と思ってしまうだろう。事実容量が少ないため、メイン基板で使われるプログミング言語はアセンブラである。この手の話は詳細を記すとキリがなくなるので割愛する。
ともかく、その65536ある乱数から当たりの乱数を引かなければ、いつまでも当選しない。
ちなみにパチンコやスロットの抽選は一つ一つが独立した抽選だ。「なにを当たり前のことを。馬鹿馬鹿しい」と思うかもしれないが、しかしこれを知るともしかしたら無為な投資が抑えられるかもしれない。
一つ一つが独立した抽選なので、その後の抽選には一切影響しないということだ。物によっては特殊な抽選状態がありそうでないかもしれないが、事パチンコにおいては断言してもいいだろう。
つまりどういうことか――要は「この少ない回転数でこの演出が出た! 熱い!」や「1つ前から3つ前の初当たりが200回転から300回転までだから、次の当たりもその辺で当たるかもしれない」、「1000ハマり!? ライトミドルでこれならさすがに当たるよな。よし、座るか」、「もうちょっと入れれば当たりそう」は全くのオカルトであり、抽選には事実無根で意味がないのだ。
「それにしても、バーサスは順調にハマっていってんなぁ」
「サンダーはさっきからスイカが揃いまくってるんですけれど。なんなんですかねこれ」
「波が来たんじゃないかな」
「スイカ前兆ですかね」
ただし――乱数の波は実際のところ存在する。そうでなければノーマルタイプの100回転以内の連荘性に説明がつかない。出玉の波が生まれるのは、乱数が実際は疑似乱数であるのと、保通協が行う遊技機の型式検定試験に適合し、合格する範囲内であれば、プログラマーが出玉の波を自由に作り出せるからだ。
もちろんその状態であっても長期試験的な回転数をこなせば、ボーナス合算値や小役確率は設定に即したメーカーの公表値に落ち着いてくる。そうでなければ、型式試験不適合となり、世に出せなくなる。
――理屈っぽい話は、遊技する者は心のどこかで理解している。今更な話なのだ。とっくに分かり切っている者のほうが多いし、真赤なオカルトでも「あったらいいな」と思う者のほうが多い。
ホールで戦う者はどうであっても、目の前のパンドラの匣に希望と出玉を見出しているのである。
「そういえばリールフラッシュが搭載されたのは4号機のサンダーVが初めてでしたよね」
「ああ、そうみたいだね。当時は斬新だって盛り上がってたみたいだけれど」
「それで、サンダーってスイカ対応にVフラッシュってあるじゃないですか」
“Vフラッシュ”とはその名の通り、左右リール下段と中リール上中段が消灯し、残ったコマがVの字のように見えるリールフラッシュだ。一部のスロットを除いてこれが出た場合、遊技客にとって良い結果がもたらされる。
その一部のスロットというのが、アクロス系のノーマルタイプのスロットには存在するわけで――。
「あるね」
「あれって台によって扱いが変わるの、迷惑だと思いません? サンダーやアレックスはスイカや羽根とかに対応でなんてことないですけれど、ハナビやバーサスのVフラはボナ確で、前者2つをホールで打っててそれが出て、たまに忘れてぬか喜びするんですよね」
「バーサスの
「ハナビのリーチ目役BやCによる奥ゆかしく雅なVフラを見習ってほしいんですよ全く」
「サンダーVが涙目になってそう」
「こんなんならさっさとボーナス成立させてリリベでもなんでも出してほしいですよ、まったくー」
・『分かる』
・『スロに奥ゆかしさ求めるのか……』
・『相変わらず狂ってる』
・『アレックス打ちワイ、困惑』
・『そのうちリリべ来るから落ち着いてもろて』
リールフラッシュ問題に常軌を逸して熱く語る後輩に若干引いてる北山――しかし、サンダーのその出目は見逃さなかった。
「あっリリベ」
「えっ」
サンダーVシリーズの代表的なリーチ目に“リリベ”というのがある。
中段に限った“リプレイ・リプレイ・ベル”の停止形のリーチ目で、サンダーVリボルトでもこのリーチ目は受け継がれている。
このシンプルながら超重要な出目を、豊藤は出して見せた。
Vフラッシュ付きで。
「……」
「……」
・『草』
・『いったそばから出やがった』
・『クソワロタwww』
・『ファッ!?』
・『ダイジェスト見てるかー!?』
二人とも10秒ほど固まり、そして今世紀史上最も輝かしいと思えるいい笑顔を北山に向け、豊藤は言った。
「まあ当たればなんだっていいんですけどねっ!!」
「だよねー!」
お待たせ! 1/65536しかなかったけどいいかな?(強弁当)
遊技機に関する機械的情報はもしかしたら間違いだらけの可能性があるので、なにかあれば遠慮なく指摘してください。全力で直します。
碌に確認していないので誤字がありましたら誤字報告願います。
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