その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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Let's go k"leak"!!

 サンダーの代表的なリーチ目――リリベが出現。内部的にボーナスが成立している。

 豊藤は1BETボタンを押して一枚掛けし、レバーを叩いてリールを回す。

 

「サンダーのフラグ判別はとってもシンプルです。一枚掛けして回し、右リール中段に単Vを狙ってVが停まったらビッ確で、2コマ上のBARが停まったらバケ確です」

 

 言って豊藤は、右リールにVを中段にビタ押し。Vが中段に停止したため、ビックボーナスが確定した。

 

「Vのほかに赤7がボーナス図柄にありますが、三連Vの真ん中のV図柄によるV揃いが赤7揃いの代用になります。なのでこのままVを揃えてしまって大丈夫です」

 

 左リールの三連V図柄だが、間に挟まったV図柄は上下のVとは異なる。V図柄の下半分に書いてある“THUNDER”の文字色が、上下のVは赤色だが、挟まったVは黄色で、同じようでいて違う図柄となっている。これは赤7の代用図柄となっていて、赤7ボーナスで“7・7・7”と揃えるのはもちろん、“代用V・V・V”でもボーナスゲームが始まるようになっている。

 

「さてそれでは――Vビッグですね。さす6! ありがとうございます!」

「サンダーの6は楽しいぞー」

 

 筐体は4号機時代のものと変わらない、全く色褪せることのないFM音源のノスタルジックなサウンドが、二人と二人の配信を観ている視聴者の耳朶を打つ。北山はサンダーVの曲がどうしようもなく好きで、目の前のバーサスの目押しをおざなりにしてサンダーのBGMを傾聴する。

 

「滅茶苦茶カッコいい曲で始まりましたビッグボーナス! バーサス同様、技術介入による枚数調整がありますのでしっかり覚えていってくださいね!」

 

 豊藤はそういうと、BETしてリールを叩く。下パネルが消灯し、予告音が発生。これが枚数調整の合図だ。

 

「予告音が鳴って下パネが消えましたね。ランダムに発生するこの予告を経て、初めて枚数調整ができるようになっています。なにもないときはビタ押ししても滑っていきますから注意ですよ!」

 

 やることはバーサスと同じだ。左リールで、特定の図柄を特定の位置にビタ押しして停める。

 バーサスと異なる点は4つ――停める図柄とそれの位置、行う枚数調整の回数と枚数調整のタイミング。

 停める図柄は、ボーナス図柄ならなんでもいい。停める位置は下段。枚数調整は予告音が発生したときに行える。三連Vの場合、下のVを下段に停めるが、見た目の上では左リール全体にVが停まるため、人によっては上のVを上段に狙うなどして、ビタ押しの幅が広げるのもいいだろう。

 また、サンダーの枚数調整は3回行う。その枚数調整は、豊藤が発したように予告音がならないと行えない仕様だ。

 というのも、予告音発生――これは右上がりの斜めベル成立を意味している。斜めベルが成立しているときでないと、枚数調整は行えない。

 このベル――ビタ押しができなかったり、決められたビタ押しをせず適当打ちをしていたら、そのボーナス図柄を停めるべき位置にベルが停まり、ただの斜めベル――15枚役が成立する。一枚掛けで有効ラインは中段にしかないため実際の役構成は異なるが、左リール下段にボーナス図柄をビタ押しすることで、見た目の上では左リール下段から右リール上段にかけて“ボーナス図柄・ベル・ベル”の14枚役の斜めベルがやっと成立するのだ。

 ボーナス消化中、1回や2回ミスした程度なら問題ないぐらいの確率で成立するこの小役だが、あくまで決められた確率(ないしは確率算出の基となる乱数)に基づいている。結局のところ、それが引けなければ枚数調整はできない。

 ――ビタ押しが2回成功して、3回目で失敗。以降内部的に斜めベルが成立せず、枚数調整ができないなんてのがざらにある。これを回避するためにも、サンダーの技術介入は他の台よりも集中するのが望ましい。

 さて、当の豊藤はというと――、

 

「まず中と右はどっちからでもいいんで適当押ししてください。すると斜めにベルがテンパるので、左リール下段にボーナス図柄をビタ押ししてください! ボーナス図柄ならなんでも構いません――まず三連V!」

 

 威勢よく言い、豊藤は軽く、しかし寸分違わず三連Vを枠内にビタ押しした。落雷の激しくけたたましいSEが轟き、14枚役を獲得。

 

「これで終わりではありませんよ。サンダーは枚数調整は3回やらなければいけません!」

「うわすっげ。ボタン有効になってすぐビタ押しかよ」

・『ファッ!?』

・『上手い』

・『はやwww』

・『どんな目してるんだシーちゃん』

・『さすが動体視力女王』

「動体視力はあまり関係ないですよ。練習すれば誰でもできますから――」

 

 スロットのウェイトが解かれ、すぐに回って来た三連Vをビタ押し――北山には到底できない芸当で、豊藤の直視(リールの速さと同じ速度で視線を動かし、図柄を直接見る技術)とビタ押しのスキルの高さが窺い知れる。

 豊藤がレバーを叩く。予告音が鳴った。

 

「続きまして――赤7!」

「幸先よく鳴るなぁ」

 

 ボタンが有効になり、すぐにビタ押し。当然成功。

 豊藤がレバーを叩く。また、予告音が鳴った。

 

「おお、このサンダー空気読んでますね! ――最後に単V!」

「見にくいのによく押せるよ、本当に」

「これにて枚数調整完了です! 初心者の方がサンダーを打つときは赤7か三連を狙ったほうがいいですね。単Vはすこぶる見にくいので。バーサスと比べるとリールの光が暗いんですよねー」

「アレックスと比べるとどう?」

「あー……同じぐらいじゃないですかね。ぶっちゃけ私はどっちも見えるので分からないですね」

「えぇ……」

・『強すぎワロタ』

・『参考にならない上手さ』

・『アレックスのほうがむずい』

・『技量半端ねぇ』

・『やば』

 

 豊藤のビタ押しの技量は、VTuber界はもちろん、スロット界でもトップに位置するほどだ。以前その技術を目の当たりにした北山は、これほどのものなら設定1の機械割が100%以上とされているスロットの完全攻略も夢じゃないのでは、とさえ思った。今現在も、隣の豊藤の御業には惚れ惚れしている。

 ――サンダーの技術介入もとい枚数調整が終わり、あとは消化するだけとなった。豊藤は適当に順押しして消化していく。

 

「ホールではこのあと逆押しして、設定判別のためにベルと斜めベルをカウントしますが、ここでは関係ないので適当に打っていきます」

「設定判別……あんまりやらないな」

「そうなんですか?」

「もう体感で設定決めちゃうよね。小役がいっぱい出たら打ち続けるっていう養分稼働がほとんど。あっでもクラセレではスイカはカウントしてる」

「クラセレは暴走した2と普通に出てる6の判別をしなきゃいけませんしね」

「そうなんだよ。2と6の挙動が同じすぎてさ……何度煮え湯を飲まされたことか」

 

 設定判別はスロットを打つ上で重要な作業の一つだ。

 前日の挙動、小役やボーナスの確率、ボーナス中やRT中の外れ、ATやARTの上乗せ数、ATやARTの終了画面、天井発動ゲーム数――様々な要素を収集して設定を推測し、当日の自分の動きに繫げていく。

 サンダーでは小役とボーナス確率、バーサスではそれに加えてRT中の外れをカウントし、設定判別に繫げていくのだ。

 

「でもクラセレって面白いですよね。当たりが軽いし、2はよく暴れてくれますし、乱数が良ければかなり連続してくれますので」

「分かる。あと偶数ゲームで連荘したときの曲とか最高」

「テンション上がりますよね。――クラセレの曲じゃないですけれど、この前ホールでクラセレからゲッターマウス流しましたよ」

「おお、いいじゃないの。青7だっけ?」

「赤7ですね。青はバイオメサイアです――近くでゲッタマ打ってたお兄さんには申し訳なく思いましたね」

「うわぁキツ。私も前にやられたよそれ。私がサンダー打ってるときに、隣のハナビが1G連してサンダーのビッグが流れてきた」

「辛いですねぇ」

 

 二人で笑う。誰だって、関係ない隣の台から自分が打っている台の曲が流れたら、理解できようが納得できないものなのだ。

 

 

 

「ちょーっと10分ぐらい休憩挟みますかー」

 

 配信を始めて、あっという間に1時間が過ぎた。配信業の者らが同接数を奪い合う22時頃――不意に北山がそう言うと、OBSを操作して配信画面のレイヤーを切り替える。GoProが映す二つの筐体と二人の腕は、立ち並ぶ遊技機を背景に――中央に大きく“休憩中”と書かれた一枚絵に覆い隠された。

 一枚絵に使われている文字は、北山が同人誌のためにライセンス契約している有料フォントで、一年で5万円弱というなかなか手が出ない額のプランに含まれている高貴な代物だった。それに気づく視聴者は、チャット欄からは現時点で見受けられない。いたところでどうということはないが、しかし北山の目には留まるかもしれない。

 切り替わったのを確認した北山は立ち上がり、背伸びしてからキッチンへ向かった。

 

「お茶、飲む? 烏龍茶だけど」

「あっいただきます」

 

 訊ね、戸棚からタンブラーとコースターを2つ取り出す。昨晩沸かした烏龍茶をピッチャーから注ぎ、そこに氷を数個入れた。

 タンブラーを持ち、コースターを小指で器用に挟み、筐体まで歩く。豊藤の隣りに座ると――二人の間、フローリングに直に置き、北山は自分のお茶を呷った。

 

「ちょっと濃くし過ぎたかな」

「……」

 

 北山は濃い味が好きだが、この烏龍茶は単に茶葉を入れっぱなしにしていただけだ。

 まあいいかとお茶を喉に通す北山の左、豊藤はお茶に手を付けず、スマホの画面を見つめていた。人を駄目にするクッションに深くもたれかかり、北山は豊藤の横顔を見つめ――目を細めた。

 

「……」

 

 豊藤はなにも言わず、人差し指を画面に滑らせたり突いたりと、忙しそうにしている。

 次第に、豊藤は眉を顰め――そして深く息を吐いた。

 

「マージでぇー……?」

 

 次に豊藤の口から漏れ出た言葉は、不安とも、焦りとも、怒りとも、疑問とも思える――様々な感情が混ざりに混ざった重い言葉のように聞こえた。

 顔色はあまり優れていない。意気揚々に技術介入していたときとはまるで正反対だった。

 なにかあったのだろう。そうとしか思えない。豊藤は意味もなく人の気を引くような――()()()()()でもない。

 そう思い、頭の後ろに手を組み、北山は豊藤に訊いた。

 

「なにかあったの」

 

 北山の言葉に、豊藤は振り向いて、極めて冷静であると装って言った。

 

「――Vythonのメンバー一人が、急に卒業配信を始めました」

 

 

 

「マネージャーから『今の配信で例の件について触れないでほしい』って、なんの脈絡もなく送られてきたんですよ。なんのことか訊いたら――これですよ」

 

 豊藤とそのマネージャーはLINEのメッセージと通話、またはキャリアによる通話で行っている。

 休憩に移り、手元のスマホの通知欄を見ると、マネージャーからのメッセージがあった。それが、豊藤の言うところの“なんの脈絡もない”メッセージだった。

 スマホの画面を北山に見せる豊藤。促されるがままにその画面が映し出すものを見て、北山は読み上げた。

 

「――Carol、卒業配信」

 

 豊藤のマネージャーが豊藤に送ったURL――それは今現在行われている、Vython所属タレントがグループを卒業する旨を告げる配信のものだった。

 「私はこの人が卒業するのを知りませんでした」と豊藤は息を吐き、ビーズクッションにもたれて遠い目をする。

 

「運営側は知っていたけれど、VTuber側には伝えられていなかった、と」

「Carol――彼女はVythonでも重要な立ち位置にいますからね。Vython1期生で、黎明期から今までを支えてきた、立役者なので」

「へぇ」

「そんな人が急に卒業する、と――もしかしたら誰かが焦ったりして、公の場でお漏らししてしまうかもしれませんね。それか、口の軽い誰かがゴシップ系にリークしたり、とか」

「Vython運営陣は――君らを信用していない、ということか」

「……どうでしょうね」

 

 豊藤が嘯く。その口ぶり北山は気になり、推論を述べた。

 それに豊藤は、肯定も否定もしなかった。ただ、目を細めている。

 

「まあ信用していたら、わざわざ『嘯木悦春(うそぶきえつはる)とは接触しないでください』とは言わないんじゃないですかね」

「嘯き?」

「ゴシップ系VTuberです。VTuber業界の出来事をニュースみたく紹介するのをメインの活動としていますが……V界隈の炎上や不祥事、リーク情報も取り扱う、正しくゴシップの名に相応しい配信者です」

「ふぅん。VTuberにもそういうのっているんだ」

「はい――なので、Carolが配信で卒業を報せる前に、どこからか嗅ぎつけてくる嘯木に報じられるのを忌避したかったんでしょうね」

「なるほど――なんか、その“うそぶき”とやらに先に報じられるのが当たり前、みたいな言い方だけれど」

「それは――……」

 

 北山の問いに、豊藤がなにか言葉にしようと口を開き、しかし言い淀んだ。

 幾ばくか間を挟み、言葉を捻り出した。

 

「それが運営側か、VTuber側か、はっきりしていませんが――社外秘、ないしはメンバーのプライベートを嘯木に流している人がいる、らしいです」

「なんだかハッキリしないね――“うそぶき”は、なんて?」

「はい。大胆にも、Vythonの人間が垂れ流してくれると言っていました、が……実際のところ、分からないんです。あの人の言葉のどこからどこまでが事実で、どこからどこまで虚構か――これを考えるともはやキリなんてないんですけれどね」

「画面の向こうが言うことはねぇ」

「はい。――内通者がいると確定したわけではないですけれど、とはいえ嘯木はこれまで数々のリークを世に報せてきました。情報源、漏洩元が複数あるのは確かで、今回の卒業の件も引き延ばしていたらどこかで漏れ出てしまうかもしれない。だから、嘯木に感づかれる前にやってしまい、嘯木を出し抜こう――というのが運営の本音だと思います」

 

 間を置き、

 

「――Carolが告発者で、それに運営が気付いて、責任を取らせるために契約解除したい。でも波風はできる限り立たせたくないから、卒業という形をとった……とか?」

「それは邪推じゃないか」

「まあ……そうですね。まったく、いったい誰が漏らしてるのか――」

 

 内部告発者を野放しにしているのが現状のVython――繁栄の陰で、瓦解のすれすれを歩いているのでは、と北山は推測した。もっとも、これも邪推ではある。

 あっ、と豊藤はなにか思い出したかのように手を合わせ、北山に言った。

 

「Carol――良くも悪くもファンが多いので、『仲間が卒業するってときになに遊んでんだ』って、頭が残念な人たちがチャット欄に凸ってくるかもしれません」

 

 うぇっと北山は舌を出した。




 取り敢えず雲行きが怪しくなってきましたね。ゴシップ系Vの名前、適当に考えた割には気に入っています。
 炎上や不祥事、リークといったものを扱うゴシップ系配信者が苦手、嫌という方は、今後の展開にご注意ください。
 誤字がありましたら誤字報告願います。


 Twitterアカウントで進捗報告その他諸々ツイートするので、もしよろしければフォローお願いします。
 https://twitter.com/ST100PERCENT


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