その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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有象無象

 いやらしいタイミングだ。()()のを運営は分かっていたはずだけれど――どうして私の配信の出演にOKを出した。

 同じ時間に配信を被せる行為――全体的にか部分的にかはさておき、これを良しとしない層は薄くない。北山がいる界隈では、人が集まるかどうかは実践する機種に依存する節があり、例え他の家パチ配信者と時間が被っても最悪機種が被らなければどうということはない。あからさまにタイミングを被せている場合はともかく――()()()()()()()()()()()()()()は、極端な話、二の次だ。

 ――ある一つのジャンルに依存しない、様々なエンターテイメントを以って活動する動画投稿者・配信者は、果たしてどうか。

 VTuber――バーチャルYouTuberと一言に言っても、活動方針別に細分化すると、それは多岐にわたる。

 バーチャルシンガーなら、歌唱がメイン。バーチャルライバーなら、配信がメイン。名詞で形容されていないものもあるが、とにかく多い。

 では、“ある一つのジャンルに依存しない、様々なエンターテイメントを以って活動する動画投稿者・配信者”を“VTuber”という活動形態に当てはめて考えてみると、なにが出てくるか。

 

「VTuberってめんどくせえのな」

 

 マイクが拾わない、極めて小さな声で北山は言った。

 黎明期、動画が主体のVTuberが突然YouTubeに降り立ち――少しして出始めた、今や主流のバーチャルライバーが、もっともよく当てはまるだろう。北山はそう考えている。

 バーチャルライバー、Vライバー――今や数えてもキリがないほど活動者がいて、なにを観ればいいか分からない飽和状態にある。今この瞬間にも、デビュー配信を行う者もいるはずだ。

 ――VTuberはバックアップを受けずに独学で活動する個人勢と、企業とマネジメント契約を締結してバックアップを受けながら活動する企業勢の――大きく二つに分けられる。

 ()()()()()、個人勢はさほど問題にならない。難癖付けられたとして、本当になにもないのなら、自分に問題はないと毅然とした態度で構えていればいいからだ。

 これが問題になるのは企業勢だ。所属している企業に、もし自分以外の人が所属していて、それが三桁を超える大所帯で――配信の時間を完全に被らないようにするのは至難の業であり、必然と時間帯が限られるし、誰も配信しないような時間帯は集客を見込めない時間帯と形容しても差し支えない。

 ゆえに、配信が被るのは仕方がなく、気にしたら疲れるだけであり、結局のところ気にしないほうがいい。

 それが、()()()()()()だ。

 どういうわけか――今は違う。

 

「出て来ましたね」

 

 右手でスロットを打ち、左手でスマホを弄る豊藤は、目押しを適当にこなしつつLINEでメッセージを送っていた。

 宛先は、隣にいる長い黒髪の女。

 側に置いてあったスマホが震えるのを認め、視線だけ動かし見てみると、通知欄には豊藤からのメッセージ。

 同じく片手で打ちつつカメラの画角外で内容を確認すると、それはそれだけではなんのことを言っているのか分からない、不明瞭な文章で――お茶を汲んでこようと立ち上がり、キッチンに向かう前にモニターに映る配信管理画面のチャット欄を覗いた。

 

・『Carolの卒業配信に被せて打つスロットは楽しいか?』

・『バーサスは赤7しか狙わない。だって面倒だしw』

・『さすが偽善者のやることは違うな』

・『BARと赤7の交互打ちでマンネリ化を防いでる』

・『サンダー、マイホのは設定入らないのん』

「設定入る入らないで辟易している皆さんにおすすめ機種がありますよ。リノって言うんですけど」

「全部自分のせいになる奴」

「それが嫌ならハイパーリノですね! 設定一段階しかないので」

「なにも考えなくて済むねぇ」

・『ギャンブル依存症と七方美人のコラボとか誰得だよ』

・『リノwww』

・『キャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロルキャロル』

・『確かに設定は重要じゃないな()』

・『今配信してるVythonistaは無能』

「ハイパーリノXXってあるじゃん。6号機の」

「100枚ぐらいしか出ないコケたやつですね」

「ああいう、100枚のボーナスが連荘する台って一度も稼働貢献したことないんだってさ。ホールでバイトしてたときの店長がそう言ってた」

「なんでしょう。簡単に予想できるというか。人間たるもの、せめて200枚はほしいところですよねー」

「200枚は最低基準だよね、分かるわ。んで、100枚が連荘するのって4号機時代のストック機にもあったらしいんだけど、それも稼働貢献したことないんだって」

「まあ……いつ出たかは知りませんけれど、大量獲得とか爆裂AT機とか出てきたら廃るのも無理ないですよね」

「……そういや昨日、成城石井行ったんだけど、店内BGMがサバチャンだったんだよね」

「サバチャンッッ!?」

「店長は絶対往年のスロッター」

・『マジセブンシー死んだほうがいいよwwwほかのVythonistaもそう思ってるよ』

・『ドンキとかならともかく成城石井は草』

・『丁寧な暮らし空間が一気に台無しじゃん』

・『わざわざ被せるとか性格悪いなぁ』

・『Carolとの友情はその程度だったんだね。Carol可哀想』

 

 他愛のない話で盛り上がる二人。サバチャンとは爆裂AT機としてその名を馳せた《獣王》のAT・サバンナチャンスのBGMである。

 ――見た通り、豊藤が危惧していた状態が始まっていた。他の配信者の異常なまでに熱烈で――質の悪いファン、通称信者。盲目的で妄信的なこの者らが、北山の配信にやって来て、チャット欄で配信とはなんら関係ないメッセージが続々と送ってきていた。これは突撃または凸などと言われ、周囲に嫌がられる行為だ。

 なかには豊藤や北山への誹謗中傷と言える()()()()もあり、嫌なタイミングに始めてしまったものだなと息を吐く。

 ――なんであちらさんは教えてくれなかったのかなぁ。あんだけ声を震わすくらいなら吐いちゃえばよかったのに。こっちはいくらでも時間調整するってのに。マネージャーを通じて上に許諾を得て実現したのだから、運営は裏物クチクの配信を把握しているはず。卒業配信という企業所属のVTuberにとって重要であろうものが、箱内で重要な立ち位置にいるVの中身が得体の知れないパチカスとギャンブルしてる配信とかち合うなんて、普通に考えたら絶対避ける。

 運営の狙いはなんなのか。狙いがあるのか、それとも単に無能なだけなのか。

 どっちであっても――嫌なものだな。

 

「はぁ――」

 

 冷蔵庫から取り出したピッチャーを持って持ち場に戻り、タンブラーに烏龍茶を淹れる。豊藤も飲み干していて、少し溶けた氷の上に注いでやる。

 今しがたレギュラーボーナスを引き、技術介入をいとも容易く行っている豊藤の耳に口を近づけ、

 

「徹底無視で」

 

 と低い声で小さく囁き、豊藤は少し全身を強張らせつつも、なにも言わず首を縦に振った。

 

 

 

「配信、災難だな」

「いや本当に」

 

 配信を観ていたという里見が、北山を労う言葉を送ってきた。北山はそれに短く返した。

 里見が続けて送ってきたため、それに返していく。

 

「あそこは黒い噂が絶えないんだってな。今出てる噂だと、Carolは運営の活動方針に反対していて、運営はそんなCarolが邪魔だからなにかと理由を付けて、卒業という形で無理矢理排除したって話」

「根も葉もない」

「だよなぁ。仮に事実だったとして、運営は結果的に自分で自分の首を絞めている。暴露系にリークされるのがオチだ」

「事実ならリークされて破滅してしまえばいい」

「ひゃー攻撃的!」

「まあでも、運営が黒ならそのうち……所属しているVTuberが発起するんじゃないですかね」

「そうなると面白いよな」

「面白くねぇよ禿げ頭」

「やめれ」

 

 里見との遣り取りを切り上げ、スマホ画面から目を離して息を吐く。

 ただいま化粧室。用を足し終え、手は洗っている。

 場所はリビングと廊下を隔てた扉から少し離れていて、廊下の左手にある。

 今いるのは密室。リビングまでは扉が2枚。

 北山は立ち上がり、スマホを尻ポケットに突っ込むと、洗浄液で泡立っている水面に向かい――、

 

「私の後輩を貶してんじゃねぇぞ腐れインポどもがッッッ!!」

 

 ――これは北山の嘘偽りのない本音である。




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 なんか滅茶苦茶な気もするけれどそれも主人公の魂の叫びに流しちゃえ。
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