その清楚系、パチカスにつき。 作:継続率3000倍
日本シリーズ――正式名称、プロ野球日本選手権シリーズ。プロ野球の日本一を決める、日本野球の祭典。
時は2005年。ペナントレースを勝利し、日本一を決めるクライマックスシリーズに駒を進めたセ・リーグの球団は、最後の4戦で栄光ある勝利に手を伸ばし――敗北した。
全力を出した。間違いなく本気で闘い、優勝を摑み取ろうとした。そんななかで敗北した球団は、ある記録を遺した。
その記録は、日本の全野球ファンの記憶に遺った。記録にも記憶にも遺ったそれは、5年後の日本シリーズで蒸し返され、腹を抱えて手を叩かれた屈辱の記録だった。
伝説として後世に語り継がれることとなるそれは、主にネット上の言葉遊びとして使われるようになってしまった。
――野球とはかけ離れたコンテンツ、パチンコ。金を投入し、銀の玉を出し、ハンドル捻って打ち出して、抽選して大当りを狙う遊技。
三重は桑名、年の瀬のパチンコ屋にある女が、東京から遥々やって来た。
その女は、並替抽選を受け、3桁の番号を引いた。
3桁の番号。特別な意味はない。自分の入店する順番がそれというだけだ。
しかし、番号を引いた女の、その隣にいた女は、口にした。
「あ、阪神目」
阪神目。それに対して、女は返した。
「なんでや、阪神関係ないやろ」
女は口にした。口にしてしまった。口にしてしまったのだ。
言葉は凶器だ。人との会話は、知らず知らずのうちに人を傷つけないよう言葉を選んで行われる。
しかし、それができなかった。言葉が凶器となって、襲い掛かる。
それも、自分に。相手にではなく、自分に。
女二人は店に入り、遊技に臨む。この時点で、二人は気付けなかった。
他愛のない会話は、開店から長い夜にかけて繰り広げられる惨劇の、たった一つの伏線になっていたのである。
8時の開店時間を回り、列に従い入場した二人は、ある遊技機を目の前にしていた。
「うわーメッチャ打ちたくない! 打つしかないけれど打ちたくない!」
「白鯨がねぇ」
若者の支持を集める大人気ライトノベル『Re:ゼロから始める異世界生活』。そのタイアップ機が、二人を歓迎する。
ATの純増枚数(1ゲーム当たりに増えるメダルの枚数。AT機の場合、AT中のベット枚数を差し引いた払い出し枚数の平均)は約7.9枚という高純増仕様で、台から出てくるメダルのスピード感と爽快感は筆舌に尽くしがたく、何ものにも代え難い。ホールのメイン機種の“凱旋”や“まど2”、“星矢”、“番3”は、AT機とART機の違い、ゲーム性の違い、規則の違いで一概に比べるのは容易ではないが、いずれも純増枚数が約3枚や約1.5枚だったりで、リゼロと比べると出玉速度は控えめだ。リゼロは6号機ゆえに獲得枚数2400枚でATが終了してしまうが、そこに至るまでの速さは旧規則機のどれにも引けを取らないのだ。
そんな台を、北山は拒否感を示しつつも打っている。
「いつ当たるかなー」
「取り敢えず200ゲームは回さないと」
朝一はコンビニステージで、それからすぐに温泉ステージに移行。設定変更ないしリセット濃厚(“設定変更”は文字通り設定を変更し、同時にデータが消去され初期状態に戻された状態。“リセット”は筐体の内側にあるリセットボタン等を押すことでそのときまでのデータを消去し、初期状態に戻された状態。RAMクリアとも呼ばれ、設定変更せずとも初期化できる。物によっては設定変更してもデータが消去されず、両方必要になる場合がある)だ。有利区間ランプの状態を見損ねた場合、このステージ遷移で察知できる。
リゼロは驚くことに、AT終了後や有利区間終了後、リセット後の200ゲームは、誤解を恐れず表現すれば全設定共通で無抽選状態。200ゲーム以内の
よって朝一のリゼロは、やっと土俵に立てる200ゲームまで「金を無駄にしているのではないか」という正気の気持ちをできる限り抑えながらボタンを押し続けることになる。
「鬼天国をくれ。または20万分の1」
「強欲すぎるっ。でもロンフリは確かに生で見てみたい。完走はこの前ゲーセンでしたから」
「マジ?」
「マジ」
「私ホールでもゲーセンでもしたことない……」
「全6のスロゲーセン行ってみたらいいんじゃないかな」
「そういう問題か? これ」
リゼロの通常時のモードは、通常A、通常B、通常C、引き戻し、天国、鬼天国の六つがある。それぞれ天井ゲーム数が違い、高モードほど優遇されている。
一応リゼロにもリセット後のモード移行があるが、しかし気にする必要はない。設定1だろうが設定6だろうが、リセット後の移行先はほぼほぼ通常Aだからだ。現に北山と星田の二人は、目の前のそれを、通常Aという一番厳しく辛いモードだと思って打っている。
――全開営業中のパチンコ屋というのは、パチンコが玉を打ち出す音や釘を縦横無尽に跳ねて落ちる音、スロットのステッピングモーターの振動とリールを叩いてボタンを押す音、島の内部を流れて遊技機に供給するための玉とメダルの音、台そのものが放つ鋭く大きな音で、ゲームセンターに一歩勝る喧騒に包まれている。建物の屈強な防音設備により、店の外に騒音問題にまで発展するような音は漏れ出ないが、店内では人の声は簡単に搔き消される。
そのようなところで会話を成立させるには、当然声を張り上げるしかない。
二人も、例に漏れず。
「アプリとか出たら嬉しいんだけど」
「ないの?」
「ストアに配信されてない」
「
「ない。あれ、運営がサミーで遊べる機種はほとんどサミーのだよ」
「ああそうなんだ」
言っている間にも北山は3ゲーム連続でスイカを引き、そのどちらともポイント高確率ゾーン『ゼロから始める異世界体操!』に当選しなかった。
ポイントもとい“Re:ゼロぽいんと”は、CZを有利に進めるためのアイテムを獲得するためのポイントだ。通常時は一部のステージを除きリプレイとレア役で加算されるが、レア役の一部でポイント高確ゾーンの異世界体操に突入する。高確ゾーンでは規定ゲーム数まで、成立役に関わらずポイントを毎ゲーム獲得できる。ゲーム数は5ゲームか10ゲームか15ゲームで、15ゲームの場合は終了後に1/2でCZに当選する。
ちなみにリゼロの小役確率に設定差があるのは、共通ベルのみ。押し順ベル、弱チェリー、強チェリー、スイカ、チャンス目の確率は全設定で共通だ。
スイカは約1/72.8で成立する。これは実践値だが、スイカを3連続引いて異世界体操を3連続外す確率は設定1で約1/387200。打っている台の設定は不明であるものの、北山は地味にとんでもないことをしていた。
「強制フラグで簡単にAT入れられるじゃん」
「それだと味気ないよー。やっぱり自分の引き! 己の腕、アームの力で引かなきゃ」
「力をくれてくれジャバウォック」
「レバー折れそうだね」
言いつつ、リゼロを打ち続ける。
途中、190ゲームで前兆ステージに突入。リゼロの初当たりは、主に通常時の規定ゲーム数到達時に抽選しているCZ『白鯨攻略戦』だ。
今回の前兆ステージは『盗品蔵の攻防』。敵はエルザ・グランヒルテ。作中では主人公やその周りのキャラに苦戦を強いた強敵で、例によってスロットでも強敵だ。
200ゲーム以内に前兆が発生した場合、データ上は256ゲーム以内の当選が多いが、しかしリセット台にそんなものは関係ない。まあガセでしょうとブドウのウェルチを飲みながら深く考えず消化する。チャンスアップもなく、最終ジャッジのボタンを押すと、主人公ナツキ・スバルはエルザに腹を搔っ捌かれた。死に戻りによる復活はなし。
「ここで当たったら逆に驚くよ」
「そんな台だったら空き台なんてできないもんね」
それから少しして、時刻は9時を回った。回転ゲーム数は386。
禁書庫ステージを経由してから、前兆ステージ『鎖の音』に突入。禁書庫経由はチャンスアップとなり、鎖の音は4つある前兆ステージのなかで一番信頼度が高い。本前兆(CZやATが当選している前兆のこと)の期待がぐっと高まった。
ジャッジまでのチャンスアップ次第ではCZを期待してもいい。逸る心と早まる鼓動を自覚した北山は、ごくりと生唾を飲み込み、下皿のメダルをセレクターに入れる。レバーを叩き、行く末を見守る。
この前兆ステージの敵はレム。ヒロインの一人で、メインヒロインのエミリアを凌ぐ人気っぷりは、なかなかどうして凄まじいものがある。
飲み物を買いに離れた友人を尻目に、四方八方から鼓膜を揺さぶる夢への騒音のなかに身を置く北山は、いくつかのチャンスアップを経て、遂にジャッジボタンを押した。
「――よしっ」
バイブ発生。CZに当選した。指先に伝わる振動と、高く響く鋭利な轟音。その全てが快楽となり脳を直接穿ってくるような錯覚を北山に受けさせる。
まだまだ序盤だというのに、口元のにやけが収まらない。唇を横から挟んで揉み解す。自分は今、絶対に気持ち悪い顔をしている。そう思いはしても、この早いゲーム数で心はいっぱいに満たされ、気持ちよくなってしまった。小さく口にした言葉がその証左だ。
白鯨攻略戦は出玉契機となるメインAT『ゼロからっしゅ』に繫げるためのCZで、押し順ベルが5回ナビされるボーナスでもある。
押し順ベルが5回成立するまでを準備パートとし、5回成立するまでの間にレア役による白鯨の撃破ストックを抽選する。
5回揃ったら、撃破率UPチャレンジに移行。設定差のあるベースの撃破率に、Re:ゼロぽいんとで獲得した撃破率UPアイコンと、準備パート突入時に余った1000未満のポイントから使用して獲得した撃破率UPアイコンで、白鯨の最終的な撃破率を決める。
それから本番の攻略戦が始まる。
白鯨攻略戦は3戦突破型だ。白鯨を3体倒せばATが始まる。この白鯨攻略戦こそ、リゼロの鬼門である。
北山は過去にこの台を打ちに行ったことが何度かあるが、そのいずれでも白鯨攻略戦で蹂躙にされ、懐をボコボコにされている。
今日は。今日こそは。
願う北山は準備パートでのチャンス目成立による撃破ストックの非当選を見届け、撃破率UPチャレンジに挑む。
この撃破率UPチャレンジは、撃破率の上乗せ演出が2つある。アイコンごとに連打して徐々に撃破率を上乗せする連打もといレムタイプと、獲得したアイコンをまとめて抽選して一気に上乗せする一撃もといクルシュタイプ。基本的に完全告知と一発告知を好む北山はこういった演出は大体一撃タイプを選ぶが、リゼロに関してはどういうわけか連打タイプを好む。少ない上乗せを一気に見ると悲しくなるからだろうか。
レムが遊技客に、ボタンの連打を指示し、北山はそれに従ってボタンを連打する。
「……1%」
上乗せゲーム数は1%。たった1%だった。アイコンは準備パートに獲得した白いアイコンのみ。その意味は「最低1ゲーム上乗せし、その後1%上乗せが33%で継続」だ。1ゲーム上乗せして早々に終了したUPチャレンジは実に物寂しく、最終的な撃破率51%の白い文字がどうしようもない現実として北山の視界を物凄く彩った。
こんなんでどうやって勝てばいいんだよと頭を抱えたくなる衝動に駆られた北山は、致し方なく目の前の現実に向かい合う。
1戦目はこのレバーONで勝敗が決まる。自然と、北山の左腕に力がこもる。
「うわ低っ」
きたまるレバーON! とボソッと呟いて運命のレバーを叩いた北山の後ろから、水を買って戻ってきた星田がほとんど反射的に驚きを口にした。
隣のリゼロに座った星田が、椅子に深く座り、北山の台の動向を見守る。
「勝てる気しなくない?」
「うるせぇ私は勝つんだよ3匹の畜生とふざけた確率にな!」
「強気な姿勢大好きだよ」
軽口を叩き、くしゃっと笑みを浮かべた星田が自分の台にメダルを入れ、レバーを叩く。
プチュンッ
――画面がブラックアウトして、それからすぐギザギザした大音量が、下から上へと音階を上げながら一気に二人がいるAT島を駆け巡り、迸る。耳朶を打ち脳内麻薬を瞬間的に大量分泌させ、周りの客の視線を一気に集めてしまった。背後の島の台に座る人の何人かがは何事かと振り向き、台の様子を見て目を丸くし、思わずおおと声を漏らす。島中の通路を行く人が思わず足を止めて見入ってしまうそれは、スロッターなら誰もが夢見る憧れの瞬間。憧憬の先にある栄光を、金髪の女は開店から1時間という極めて短い時間に摑んだのだ。
「ええええええっ!?」
「はぁっ!?」
ロングフリーズ発生。
《Re:ゼロから始める異世界生活》において、青7揃いリプレイが成立することで発生するこれを、人々はロングフリーズと呼んだ。
青7揃いリプレイが成立する確率はいまだ定かではないが、一説によれば同メーカーのスロットのフリーズ確率1/191397.8と同じではないかという声が挙がっている。
この台のロングフリーズの恩恵は――完走。有利区間完走だ。
有利区間内で獲得できる最大枚数2400枚を、CZに入れることなく、白鯨を倒すこともなく、ゼロからっしゅで頑張ってゲーム数上乗せをせずとも獲得できるのである。
「嘘、言ってたら本当に引いちゃった」
口を覆い、目を見開く星田、主人公とヒロインのやり取りがなにかするまでもなく進んでいくのを見て、北山は星田に寄りかかった。星田の左肩に両手を置き、額を押し当てる。
「星田ぁそれはズルいよぉ」
ちらりと自分の台を一瞥する。まだ一匹目の畜生を倒していない。
「今朝のスイカ3連と交換しない?」
未練たらたらの北山に、それはやだなぁと困ったように微笑み返し、はぁと溜息をついた北山は呟いた。
今の星田は快楽に浸っている。勝利がほぼほぼ確定した状況下で、北山がなにを言っても星田の悦を打ち崩せはしない。
「今すぐにでも死に戻りたい」
くそがーと独り言ちる北山を、星田は北山の頭をぽんぽんと撫でる。これが勝者の余裕か、それとも単純に憐れんでいるのか。ともあれ、北山は星田の愛撫をどうしようともしなかった。
ちなみに北山の白鯨攻略戦は一戦目で敗北し、終了した。51%に期待するほうが間違っているのである。
走れーー!!
随所に出てくる信頼度や確率は自分調べであり、推測の部分もあります。間違いがありましたら指摘お願いします。
誤字脱字ありましたら誤字報告願います。
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