その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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(諭吉で)輝くステージへ!

 《VReactor》の倉島セレナこと星田ゆりと、グループの運営部長たる大東と会合してから、一週間。あれから、星田や大東から連絡が来ることはなく、北山の生活に変化はなかった。

 業務を終え、夕餉と風呂を済ませた北山は、暖房が効いた室内で、もはや習慣となったパチンコ配信を始めた。

 本日の配信に使うのは、《Pフィーバー アイドルマスター ミリオンライブ!》。人気コンテンツのタイアップ機で、大当り確率1/319.7のミドルタイプ。遊タイム(ハマってしまったときの救済システム。当りを経由せず右打ちに移行)が搭載されていて、発動は通常変動959回転消化後。右打ち時の72%ループ――“VLOOP”を4つストックするという業界初の新システムを採用した本機。もちろんVLOOPのストックは確定ではなく、残念ながらパチンコ打ちからの評判は芳しくない。専ら通路化(稼働しないこと)している。かくいう北山も、ホールで被害に遭った一人であり――、

 

「ご覧ください皆様、SANKYOの殺戮兵器です。では一緒に死にましょう」

・『やだ! 小生やだ!』

・『ミリオンはいやーキツいっす』

・『担当アイドルにAS勢設定できないのでクソ』

・『VLOOPストックできなくて死ゾ』

・『これまともに当てれたことない』

「やっぱこの台の被害者は多いね。SANKYOはもっとマシな台作ってほら」

 

 初打ちで諭吉を三枚消し飛ばした北山にとって、主に悪い方向で記憶に残っている。

 特にこの台は当たってからが本番(どの台も同じようなものだが)で、連荘を目指すためにはVLOOPを一つだけでも獲得しなくてはならないのだが、そのVLOOPを一つも獲得できないまま終わることが多い。業界初の新スペックを取り入れたところで、これではまともに遊技できない。

 北山はこのスペックに翻弄され、ホールで久々に頭を抱えた。

 

「死に方にもよるでしょうね。天井行ってストックせずに死ぬか、連荘しまくって膀胱破裂して死ぬか」

・『幸せな死に方だなぁ(白目)』

・『右のときはマジで打ちっぱなしにしないといけないのホント鬼畜』

・『ハンドルに小銭差し込め』

・『レシート折りたたんだやつでもいいぞ』

・『まともな死がない絶望』

「まあ家打ちなんでその心配はないけどね。気が楽だわ」

 

 言うと北山は、家打ちシステム用のリモコンを操作してパチンコの抽選を開始する。今宵は何回あたり、どこまで出玉を伸ばせるだろうか。

 

 

 

 配信を始めて二時間経過。時刻は二十三時を過ぎたところ。

 回転数は600を超えたが、一回も当たらない。このまま遊タイムが発動するのを待っていると日を跨いでしまう。翌日は平日であり、北山にも仕事がある。満員電車に揉まれて出勤しないだけマシだが、上司が見ていない場を仕事場とする北山にとって日中の睡魔はどんなものよりも天敵であり、これを未然に防がなくてはならない。

 当りが単発で終わってもいいから早いところ当たってほしいところだが、しかしパチンコはそうもいかない。当たらないときは当たらない。ただ――配信映えはしないが、これはこれで美味しい展開ではある。

 

「え、これ外すの?」

・『ええ……』

・『これ外すのか』

・『やはりU.O演出は地雷』

・『時代は完全告知』

・『草』

「物語シリーズの完全告知カスタムはよかった。もうこれから変動中ずっと十字キー連打しとこ」

・『数打ちゃ当たる理論』

・『それやった場合当たり外れがよりハッキリしてまう』

・『余計な期待せずに済むわ』

・『クロちゃん光らない』

・『光ったときの安心感』

「だからSANKYOはサミーを見習ったほうがいいよ」

・『どっちもクソ』

・『いやその理屈はおかしい』

・『サミーの回し者かな?』

・『サミーは右側のクソデカパネル撤去しろ』

・『ディスクアップだけ作ってればいいよサミーは』

「ディスクアップはまずシンディーを出すところから始まる。これ基本」

 

 629回転で、信頼度が高い演出をいくつか挟んで強LIVEリーチ(楽曲は「Thank You!」)に発展したが、信頼度の健闘空しく外れてしまった。当落結果はスタートチャッカーに玉が通った時点で決まっているが、外れをこうも仰々しく演出して見せられると、もはやなにも信じられなくなる。

 

「さて――SANKYOとサミーを目の敵にする連中が増え始めたところだし、もう終わろうかな。明日はなにやろうか」

・『久々にゲーム配信はどうですか』

・『シンフォ2』

・『バーサス』

・『ナナシーって届いた?』

・『壺ゲーの続きはよ』

「ナナシーは明日か明後日に届くよ。じゃあ、明日ナナシー届いたらそれやろうか。で、届かなかったら壺ゲーで。……仮に壺ゲーやる場合、まだミドルの遊タイムまでハマるほうが楽な気がするのは、果たして気のせいかね」

 

 またねー、と言って配信を締め括る。カメラの電源を落とし、パチンコの電源も切る。

 パソコンのメーラーを起動し、業務に関するメールが今更受信されていないか確認する。

 

「ないね……」

 

 北山は就寝前のメール確認を習慣としている。なぜかというと、こういう就寝時間帯になって急な仕事が入ってくる可能性があるからだ。

 今からおよそ一年前、入社当初から制作に携わっている人気ゲーム《滅魔士(めつまし)クレア》の完全新作かつ全年齢向けソーシャルゲーム化に伴い、そのゲーム上で展開される原作とは異なる新たなストーリーの制作を命じられた。速筆である北山は納期よりも早く仕上げ、それと同じくらいゲーム開発も順調に進んでいた。新学期を目処にゲームを公開し「Twitterのトレンドに新学期早々『滅魔士』の文字を載せてやろうぜ」と開発陣は息巻いていたのだが、しかし北山にとって憤らなくてはならない事態に発展した。

 要約すると――、

 

「某ニュースサイトから例のゲームとは別件でインタビューが百問ぐらい届いているんだけど、それ自分宛かと思ってギリギリまで放置してたら全部シナリオライター宛だったわ。明日の午前八時までに答えて送って」(総監督)

「私のミスです。転送すればいいものを、コピペして別のメールで監督宛だと勘違いして送ってしまいました。これから気を付けていきたいと思います」(もうすぐ二年目の新卒広報)

「ぶち殺すぞ」(北山含むシナリオライター三名)

 

 仕事はいつ、いかなるタイミングであっても、こちらの事情を慮ってはくれない。北山はそう肝に銘じている。

 北山はメーラーを閉じ、シャットダウンする。同じく、部屋の灯りを消して北山も就寝した。

 

 

 

 四月一日――人によっては新学期や新生活が始まるが、なんの因果か北山にも新しい風が舞い込んできた。

 月初めの会議のことだ。ゲームの制作チームごとに分かれて会議を行うが、この日は新年度ということもあり全体会議が行われた。会議と言っても大きな会議室に全社員を集めて行われるものではなく、主にプログラマーの持ち場であるフロアに全社員を集めて行われる――会議というより大きな朝礼の様相を示している。ただ社長が全体会議と言い張っているため、これは全体会議となった。

 社長と総監督の挨拶から始まり、プロジェクトのプロデューサーやディレクターが今年度の目標や抱負を述べる。眠気はないはずだが、目上の人の話を立ちながら聞いていると、発生源不明の眠気がどこからともなく襲ってくる。北山が前にいる男性社員の陰に隠れて舟を漕いでいると、隣にいる同僚に肘で小突かれた。

 

「ドヤされるぞ」

「お……おおぅ」

 

 目を擦って定まらない焦点を正す。目標や抱負の発表が終わり、異動と役職変更の報せへと移っている。

 北山の隣にいる同僚――プログラマーの高砂が、北山に小声で話す。

 

「校長の話を聞いてる感覚だろ、今」

「そんな感じ。早く終わらないかな」

「……なんでも今年の新人、シナリオライター枠に一人入ってきたって。OJT、北山かもよ」

「女?」

「いや、まだ分からないけど」

 

 数年前にできた社内ルールに、男性の新入社員には男性の先輩社員が、女性の新入社員には女性の先輩社員が仕事を教える――というものがある。仮にそのシナリオライター枠で入社した新人が女だった場合、三人いるシナリオライターのなかで唯一女性である北山が仕事を教えることになる。

 北山は、スーツを着て待機している新入社員を見遣る。男二人、女一人の計三人。三人とも緊張で表情は硬い。

 

「よくこんな会社に入る気になったよね」

「ドギツいゲーム作ってる会社にって意味だよな?」

「うん」

「まあ、そうだね……女は特にね」

 

 Eveが制作しているゲームは、世間では「特殊・異常性癖の祭典」と呼ばれるほど人を選ぶものであり、それに進んで携わろうとする人間は、そういう性癖を持つ人間ということだ。男性なら珍しく、女性ならもっと珍しい。どういう生活してきたらそういう性癖を持つんだろう、と北山は自分を棚に上げて人の人生を勝手に妄想する。

 少しして、新入社員の紹介が始まった。

 男性社員二人は、井藤と嘉納という名前らしい。プログラマーで採用されたようで、あまり係わらなさそうだなと決めつけた北山は、この二人については顔と名前は覚えておくことにした。

 ――一段落前に書いた通り、二人はプログラマー職に就くという。では――あと一人、女性社員は?

 

「――Eveのシナリオライターとして働かせていただくことになりました、豊藤優子です」

 

 聞いた高砂が、またしても北山に話しかける。

 

「後輩ができたな。よかったよかった」

「よくない。全然よくない」

 

 主にしばらくは通勤電車に揉まれなくてはならない、という意味で。北山はため息をついた。

 

 

 

「――なんかこの声、どこかで聞いたことあるような……気のせいか?」




 貶していませんからね。いやSANKYOもサミーも頑張ってると思いますよ本当に。ディスクアップとか好きですし、金色のサムを出してくれたSANKYOにも――違うわこれSANKYOじゃなくてSANYOだわ。
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