その清楚系、パチカスにつき。   作:継続率3000倍

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星田ゆり篇
回る玉に夢と希望を乗せて


 VReactorとのコラボ企画――当初はそこに所属するVTuber三人を、滅魔士RPGにキャラクターとして出演させるのが目的だったが、会議のなかで話は膨らみ、ゲームに出演する以上の目標が企画に組み込まれた。具体的には《滅魔士》シリーズをVReactorのVTuberに遊ばせ、その様子を自社サイトやYouTubeに載せ、《滅魔士》シリーズを宣伝する。また《滅魔士》を生み出した監督と、メインストーリーを書き続けてきたシナリオライターにVTuberがインタビューする、という企画。現時点で決まっているのはこの程度の内容で、今後はコラボしたVTuberをゲームに出演させたり、キャラクターの声優に起用したり――と、未定ではあるが大体の構想は仕上がってきていた。

 この企画で北山にとって唯一の気がかりは、やはりインタビューである。

 VTuberは動画や配信で喋ってなんぼの存在。当日、VTuber本人らは別室にてモニター越しの出演となるそうだが、Eve側の人間は現段階では生身での出演となっている。監督の里見は「滅茶苦茶なコスプレして受けようかな」などと冗談を口にしていたが、北山にとってこの仕事は冗談ではなく、受けたいとは思っていない。

 北山は“裏物クチク”の名で、YouTubeで配信活動を行っているYouTuberもとい配信者だ。顔出しを一切していず、配信には声とスロットを打つための腕ばかりが映されている。顔出しは身バレ防止の意味合いもあるが、それ以前に出す必要がなかった。ただ、チャンネルの人気を担っているものに“裏物クチク”というキャラクターとしての人気があるのも十分理解している。配信を毎回観にくる熱心なファンなら、裏物クチクの声を容易に判別できる。――気がかりはそこにあった。

 《パチンカスX》のチャンネル登録者は二十一万人――滅魔士のファンは多く、北山のチャンネルを登録している者のなかにもいるはずだ。仮にインタビューの映像をそのままアップロードした場合「滅魔士のシナリオライターは“裏物クチク”だったのか」とすぐにバレてしまうだろう。北山としては、それはなんとしても避けたかった。

 北山が裏で配信業を営んでいる事実を知っている人間は、会社のなかでは極少数。今回一緒にインタビューを受ける里見はそのうちの一人で、北山のこういう事情を理解してくれている。会議が終わって大東事務所の担当者が出て行ったあと、北山が里見に「自分の声、加工してもいいですよね……?」と訊いたら「北山だけの問題じゃなくなるもんな……」と苦笑した。

 ともかく、今回のコラボ企画に際し、北山が強く願うのはただ一つ。

 ――身バレ防止である。

 

 

 

 最初の会議からかれこれ一ヶ月。夏の気候へ移り変わり、北山の服装もノースリーブのトップスに移り変わった。

 七月一日、《滅魔士》とVReactorのVTuberがコラボすると、TwitterのEve公式アカウントとVReactor公式アカウントから大々的に報じられた。昼時の情報公開で、報せのツイートは瞬く間に拡散されていく。

 今回のコラボで、最終的に決まった内容は三つ。

 一つ目、VTuber三人による《滅魔士》シリーズのゲーム配信。オリジナルの十八禁版をそのまま使った場合、YouTube運営によるアカウント停止措置は必至のため、配信では要所要所でCGや設定の変更が入った全年齢版が使われる。

 二つ目、VTuber三人による《滅魔士》シリーズの監督とシナリオライターへのインタビュー配信。里見はペンネーム“里見ミサト”として、北山はペンネーム“山電氏(やまでんし)”としてインタビューを受ける。

 三つ目、ソーシャルゲーム《滅魔士RPG》の新キャラクター三人の声優にVTuber三人を起用。既に行われた十八禁版の音声収録では、VTuberの担当声優三人のうち二人が成人向けゲームに携わっていた過去があり、あてた声のクオリティは極めて高い。

 

 ――この三つの企画は、一週間ごとに詳細を報せていく。最初の企画は、コラボ企画の情報とともに知らされていて、大きな話題となった。

 Eveの代表作、《滅魔士》シリーズ――世間の目に当たらない裏で蠢く魔物を秘密裏に抹殺する、滅魔士と呼ばれる美しい女戦士たちの物語。

 シリーズのコンセプトは『エロ・グロ・サイコ・バトル』で統一されている。淫らにまぐわい、時には残虐で非業な目に遭うキャラクターたちの動向を通し、プレイヤーの精神に異常起こしてしまおうという、およそ常人が考え付かない傍迷惑な作品群。二〇〇〇年初頭に第一作が発売されたこのシリーズだが、意外にもファンは多い。

 緻密な戦闘シーン、高クオリティエロシーン、容赦を知らないグロテスクシーンはもちろん、苦手な人と望んでいない人のためのグロテスクシーン回避モードを第一作から搭載していて、残酷な描写が苦手な人でも楽しめるよう設計されている。物語自体の面白さも相まって、今では()()()()()()成人向けノベルゲームの人気シリーズとなっていた。

 ただ、昨今のエロゲプレイヤー減少の甚だしさには制作陣も爪を噛んでいて、この現状をどうにか打開できないか――そんなときにやって来たのだ、VTuberグループとのコラボ企画だった。

 

 VTuberという特異な存在は世に出て久しい。華々しく活動する有名な企業系VTuberや個人VTuberの下には、有名や人気といった輝かしい単語には程遠いVTuberが、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいいるのが現状だ。有名なグループに所属して活動すれば手っ取り早く人気を獲得できるだろうが、そもグループに所属できるのは僅か一握り。人脈やコネは持っていなければ使えない。そうして結局、配信を観られない、名前すら覚えてもらえない――七転八起の末に挫折する者は珍しくない。

 あまりにも険しく、厳しい。ことVTuber界をビジネス的に捉えている者にとって、そう思わざるを得ない様相を示していた。

 さて、今回《滅魔士》とコラボするVTuberグループ《VReactor》。美少女ゲームの巨大なタイトルとコラボするとは実に幸運なことで、悔しさと羨ましさと妬みでハンカチを食いしばるVTuberは数知れず。VTuberという現代の一大コンテンツとのコラボは、界隈で大きく騒がれていた。

 そう。だからこそ、物好きたちは思った。思わざるを得なかったのだ。

 「誰だお前ら」――と。

 

 

 

「先輩」

「なに」

「ちょっと疑問なんですけれど」

 

 近頃の昼休みは定食屋ですごすのが習慣となった北山。後輩を誘って仲良くランチ――などという思考を北山が持ち合わせているはずもなく。むしろ無駄な人付き合いを強要させ、主に精神的に疲弊してしまうだろうと豊藤に対してなにか誘いをかける行為を積極的に避けていたが、豊藤はそのことを知るはずもなく、逆に北山と昼食をともにしようと頻繁に誘ってくる。邪険にも扱えないため、内心仕方なく付き合っているが、昼休みぐらい一人ですごしたいのが本音だった。

 ――企画の情報が公開される前の週の金曜日。例のごとく昼飯に同席してきた豊藤が、北山に疑問を投げかけた。

 

「どうして()()を使うんですか?」

 

 “あれ”とは十中八九コラボする連中のことだろうと北山は断定する。

 豊藤はどういうわけかVTuber業界に精通している。日本だけでなく海外発のVTuberにも詳しいようだが、だからこそ疑問に繫がったのだろう。豊藤は眉を顰め、味噌汁が入ったお椀をトレーに置く。

 本日の日替わり定食の主菜はトンカツ。運ばれてきてものの数分で完食した北山はお冷を飲むと、声のボリュームを抑えて答えた。

 

「うちの社長とそこの社長が友人らしいのね」

「え、それって……」

 

 トンカツを口に運ぶ右腕がピタリと止まった。北山は頷き、続ける。

 

「今回のコラボ企画だけど、実は社長が強行したプロジェクトなんだよね。里見さんは『有名どころにしたほうがいい』って進言したらしいんだけど、『無理。こことやれ』っつってたらしい」

「そうだったんですね……いえ、どうしてあの弱小グループとコラボするのかなと不思議で仕方なかったので」

「私もそう思ったよ。詳しくなかったから調べたんだけれど、調べれば調べるほどもっと他にいいところがあったでしょって」

「昔馴染みだから断れない……ってところですか」

「大方そうだろうね。誘ったのがどっちかまでは分からないけど」

「でも、わざわざ弱小に話を持ちかけることはないと思いますよ」

「むしろ弱小だから、《滅魔士》とコラボするにはうってつけってことなのかな」

「あー……なるほど」

 

 《滅魔士》は人を選ぶゲームだ。苦手な人ももちろん存在する。ファンが多い有名なVTuberを起用したがゆえに発生するかもしれないバッシングを極力避けたいのが狙い――というかコラボの口実なのだろう。

 豊藤は納得したような口振りだが、どこか腑に落ちない、釈然としていない様子だった。北山も疑念は抱いていたが、一時停止していた食事を再開する。北山が「この話はオフレコでね」と口の前に伸ばした人差し指を当てて示すと、豊藤はジューシーな豚肉を頰張って頷いた。

 

 

 

「はいじゃあ今日は私が一番好きなパチンコやりまーす」

 

 コラボ企画が始まり、気になるのはファンの声。ゲームのファン然り、VTuberのファン然り、双方が最後まで好印象を持っていてくれなければ、結果として良い結果とはならないだろう。

 初動の摑みはよくできていたと思う。SNSやまとめサイト、個人ブログなどを調べ回ったが、ほぼほぼ良い印象を植え付けられていたと、北山はどこか安心感を得ていた。

 そんな日の夜。いつも通りパチンコ配信を始めた北山は、台を目の前にして悦に浸っていた。

 

「この台、実は私が一番勝たせてもらった台なんだよね。信じられないと思うけれど」

・『うっそだろお前』

・『一回も当てたことない……』

・『そもそも実機を一度も見たことがないという』

・『SANKYOだぜ?』

・『運いいなぁ』

「ギリギリ勝ってんだ。今のところ一万円ぐらい。実機は探し回れば見つかると思うよ。あとまあ、この台は性質上、運がものを言うよね。私的にはいつ当たるかも分からん煽りを見続けるよりかはマシだと思うんだけど。あとSANKYOだぜって言った人は明日朝からシンフォ2を打ってきなさい」

・『まだ源さんの右獲得するほうが簡単そう』

・『ハーデスのよく分からん演出に付き合わされるよかマシ』

・『当たり待ってる間にエクスドライブ獲れそう』

・『テンタクルズでビタするほうが楽しそう』

・『初代まどマギで穴あけゴトするほうが楽そう』

「君ら滅茶苦茶に言うね。言っておくけれど、私は大好きだからね」

 

 チャット欄を見て笑う北山。散々な言われようだが、この台の場合、言われても仕方ないだろう。

 現代のパチンコの主流は“デジパチ”だ。筐体の中央あたりに液晶が鎮座し、映像で抽選の様子を見せるもので、店に置いてあるパチンコのほとんどがデジパチにあたる。北山がパチンコ配信で使うパチンコも、ほとんどがそのタイプだ。

 しかし、本日の配信に使う台はそれではない。これは正式な分類ではないが――“一発台”と呼ばれる、一世を風靡した八十年代の伝説の名機、その後継機である。

 

「ミドルで痛い目見るぐらいなら、こいつでハラハラドキドキしたほうがいいかなぁ」

 

 名前は――『スーパーコンビα7500』。

 

「まあ見ときなって。すぐに当ててみせるから」

 

 北山はハンドルを捻り、上皿に溜まった玉を打ち始める。

 『スーパーコンビα7500』とは、一九八五年登場『スーパーコンビ』の後継機であり、一回の大当りでまとまった出玉を得られるゲーム性を受け継いだ、いわゆる一発台と呼ばれる機種だ。正式な分類はまた違うが、ゲーム性から専ら一発台に分けられている。

 名前の通り、一回のあたりで得られる出玉は七五〇〇玉。これは四円の等価交換で三万円分の出玉であり、一発台としての矜持は現代に受け継がれている。

 この台はまず、中央の役物(パチンコ台の仕掛け全般を指す言葉。ギミックとも称される)の左上にある飛び込み通過口に玉を入れるところから始まる。入ったらまず最初の役物――上下に分かれた役物が待ち構えている。障害を搔い潜り、下段の中央にある“GO穴”を通過すると、二つ目の役物――三穴クルーンに突入する。そこには三つの穴があり、奥の二つに玉が入ると外れで、手前の穴に玉が入ると大当りとなる。

 デジパチに比べると大当りの出玉は決まっていて、クルーンに入っても当たらないときは当たらない。現代のパチンカーには好まれていないが、北山はこの台が堪らなく好きだった

 なぜかというと――、

 

「やってないって人にはぜひやってほしい。当たったらマジでヤバいから。クルーンに入ったときの極度の緊張感、当たったときの喜びと脱力感と脳汁はほかのどの台にも真似できないよ」

・『分かる』

・『当てたとき腰浮かせたわ』

・『通常時暇そう』

・『一段目入っても緊張MAXだった』

・『その分クルーンで外れたときの反動がデカいんだよなぁ』

 

 この台の性質上、実際に玉を打っての配信となる。

 台に玉の循環加工が施されているため、当たったときの出玉は出てこないが、手動で玉を供給せずとも遊技を続けられる。

 北山はホールでの遊戯で、この台に関しては儲けを出している。単純に運が良いだけなのだが、トータルで一万円ほど儲けを出している。当てるたびに店の店長には「どうやって当ててんだ」という目を向けられるが、北山はなにもしていない。ただ本当に、運良く当たっているだけなのだ。

 この日の配信でも、その運の良さは発揮されているようで――、

 

「ほら早速入ったよ!」

・『お』

・『早い』

・『まだ油断できん』

・『実はここが一番難しいという』

・『大体スマホ見てるから入ったときの音でいつもビビる』

 

 一段目の役物に玉が入った。上段でゆらゆら揺れる玉は数秒で動きを小さくし、やがて下段に落ちていく。右へ左へ忙しなく動くギミックはなかなかの強敵で、こいつをどうにか突破してGO穴に入らなくてはならない。

 しかし、今日の北山は調子が良い。

 

「おお行った!! 激熱!!」

・『ヤバ!!』

・『綺麗な流れ』

・『激熱!』

・『一直線に入っていった……』

・『行けえええええ!!』

 

 簡単に三穴クルーンに入った玉は、その穴の周りを右回りに回転する。

 ここまで行けば単純で、三分の一の確率で大当りだ。

 回転する威力は時間が経つにつれて弱まり、徐々に穴へと玉が近づく。

 食い入るように見守る北山と視聴者。これぞまさに手に汗握る展開。配信始まってものの数分で生まれた緊張と期待は、全て穴に迫るたった一つの鉄球に託された。

 そして、

 

「――っしゃあ入った!! 右打ちぃ!!」

・『おおおおおおおおおおおおおお!!』

・『マジか!?』

・『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

・『早過ぎてワロタ』

・『最初からクライマックスで草』

 

 見事手前の穴に入った玉。『スポンッ』という効果音のあと、初代スーパーコンビの『静かな湖畔』が北山を視聴者共々祝福する。大当りを獲得し、出玉七五〇〇発が確定となった。

 

「んんん気持ちいいいぃぃ――!!」

・『滅多に聞けない恍惚ボイスあざーす』

・『一発台に脳が犯されてやがる』

・『ホールだったら口に出さないにしろこれ以上なんやろなぁ』

・『家パチでここまで興奮できるのは羨ましい』

・『今夜この声で抜こ』

「――今誰か私で抜くって言わなかったか」

・『いきなり落ち着くな』

・『テンションの温度差よ』

・『草』

・『あかんクチクに駆逐されるぅ!』

・『声がもうガチトーンで笑う』

「ハハ、冗談だよ。抜きたきゃ抜きな。オカズにはチューリップの艶めかしい開閉動作がおすすめ」

・『ドラゴンカーセックス並みの難題』

・『ほらチューリップだぞ、抜けよ』

・『パチンカスは一般電役で抜いている。古事記にもそう書かれている』

・『許しはするんですね……』

・『ここがほかの女配信者との違うところよな』

 

 玉の動きに一喜一憂し、北山とファンはは大いに盛り上がる。

 ――さて、北山と元からいたファンは気付いていなかったのだが、大当りを獲得した時点で同時接続数が――どういうわけか、滅多に届かない一万人に迫っていた。




 スーパーコンビは当たったときの脳汁がマジでヤバい。一度はやってみてください。

 近所では新台入替がありましたが、パチカスにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。私は『うまい棒』をやりたい衝動に駆られております。
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