その清楚系、パチカスにつき。 作:継続率3000倍
「私のこと、あの二人に話してる?」
トイレから出る間際、北山は何気なく星田に問うたが、星田は首を振って否定した。星田からも、大東の口からも北山のヘッドハンティングの話は出ていず、この話は大東事務所の上層部と星田、北山だけに留まっているという。
VReactorは大手グループに届くほどの人気や知名度を得ていないものの、日々努力し、活動を続けている。なにも知らない二人にいらぬ不安を抱かせないためには、なにも話さないのが最適解だろう。
トイレから出て小会議室に着いた北山は、扉を三回ノックする。「どうぞ」と返した声は里見のものだった。
「失礼します」
入るとそこに広がっていた光景は、北山には見慣れない機材をもって準備が整った、VTuberのための配信スタジオだった。
中央と後方に配置された長机一台ずつを除き、足を畳まれ壁際に捌けられた長机の数々。前方の大モニターに映された画面には、この日のために用意された全年齢版初代《滅魔士》のタイトル画面。それを操作するためのマウスとキーボードはいずれもワイヤレスタイプで、中央の長机に置かれている。その長机の周囲を取り囲むように、小型のビデオカメラにも似たセンサーが四台が三脚の上に固定され、対角線上に配置されている。センサーから伸びていず、これもワイヤレス仕様だった。後方の机に控えている男性二人は大東事務所の技術系職員で、ノートパソコンを開いてなにやら操作している。
へぇ、これがVTuberの配信現場か。
北山は関心を引かれたが、周りの人間――特に大東事務所の人間から挨拶をしてきた。北山もそれに返し、ポケットに手を突っ込んで名刺入れを取り出そうとするが、入っていなかった。
「あれ。どこ行ったかな」
「あとでいいよ」
里見が察して北山に言うと、北山は「そうですか」と返して里見の隣に立った。その際、部屋の隅に控えていた大東と目が合ったため、一応会釈しておいた。
中央の席――三つあるうち、左と中央に座るVTuberの魂である二人の女性――先程北山がすれ違った二人で、中身の二人なのだと認めた。二人は座ったままチラリと北山を見て、前を向いたと思ったら双方顔を近づけ、近くにいなければ聞き取れないほど小さな声でなにか話し始めた。北山は二人の行動をしかと見ていたため、自分になにか不満でもあるのか、いややっぱりさっきの挨拶を威圧的に受け取られていたか、と不安が頭を駆け巡った。
「さっき、金髪の女の人とすれ違わなかった?」
里見が小声で訊ねてきた。北山は「えぇ」と肯定すると、
「その人、倉島セレナだって」
「そうなんですか」
知ってる。本人が自発的に告げたから、とは言わなかった。
「すごい綺麗だよな。それでいて陽キャ特有の威圧感がないというか」
「なに言ってるんですか」
この男が倉島セレナの中身を陽キャと断定した理由はさておき、たしかに星田は学生時代は“陽キャ”と形容できるぐらいには明るく陽気で、人付き合いに長けた活発な女子生徒だった。スクールカーストトップの位置にいた女王のような人物であり、どうしてそういう人間が一生係わらないような“VTuber”という存在になったのか、北山には分からない。
隠れオタクだったのかな――と思うことで、北山は自分のなかで結論を出している。
小声で言う里見は、さらに声のボリュームを落として言った。
「Vの魂問題ていうか、演者の容姿問題は野暮だと思っているが、ガワで人気出て中身もレベル高いと無敵だと思うわけよ」
「そうですかね。……だけれどVTuberという形では、重要なのは中身の
「まあそれもそうだな。……ところでこの会話、聞こえてないよね」
「話し始めたほうがなに言ってるんです。本人らに訊いてきたらいいでしょう」
「そのあとの展開が怖ろしい」
聞こえているか否かは定かでないが、中身二人は今も小声で談笑しているため問題ないかもしれない。北山にとって一番聞かれたくないのは二人ではなく、星田でもなく、大東だった。
クリップで留めた資料を開いて配信の流れを確認している細身の男の顔は優れない。不安と緊張が滲み出ていて、見ているほうに緊張が移ってしまいそうだった。
「すみません、お持たせしました」
あまり聞かれたくない会話を終えたところで、お花摘みを終えた星田が戻ってきた。星田は北山を見るとすぐに視線を逸らし、配信の席――茶髪の女の右隣に座った。
「――では、コラボ企画第一弾、配信のほうを始めていきます。皆様、よろしくお願いします!」
時刻は十八時五十九分。配信開始まで、一分を切っていた。
「インタビューでは彼女らとは別室ですよね」
「え? うん」
「んで、私らはグリーンバックのスタジオで、隣にいるらしいVTuberの彼女らと受け答えをすると」
「そうだね。アバターを実写の映像と合成するのもありだったと思うけれど」
配信は始まり、およそ三十分。つつがなく進行している配信の同時接続数は、現時点で一万と数百人。多く見積もっても一万人は超えないのではと予測していた里見や北山にとって、この数字は満足に足るものだった。
出演者のVTuber三人だが、最初こそ視聴者に向けての口調で、進行表ないしカンペを読んで場を進めていたが、いざゲーム本編が始まると三人ともそのストーリーに釘付けで、まともなトークができていなかった。公式配信に於いてあまり好ましくないが、ストーリーを担当した北山はこういう反応が嬉しくて堪らなかった。
そんな北山だが、少し気になったことがあり、先ほど同様に小声で里見に訊ねた。
「……お面被るかぁ」
「お面? ――ああ」
北山が“山電氏”として即売会などのイベントでサークル参加するとき、毎回お面を被る。始めたのは北山が初めてサークル参加をしたときからで、顔を晒したくないからという理由で着けている。あるとき女性のサークル主がストーカー被害に遭っていたと耳にし、それを防止する意味合いもある。
お面は夏祭りの出店で買った、ピエロのお面だ。北山は「これ多分ジャグラーに寄せてるよね」と言って憚らない。ジャグラーよりもジョーカーに寄せているのでは、とは妹の共子の談だ。
「別名義にすればよかったのに」
「それにしても顔は晒したくないですけどね。声を加工してもらうとはいえ」
「まあ、面倒な奴はごまんといるからなぁ」
女性は狙われやすい。別にこれはVTuber界隈とか、同人界隈に限った話ではない。ただ北山に限って言えば、少し話が変わってくる。この女の場合、同人作家兼シナリオライター“山電氏”とチャンネル《パチンカスX》の配信者“裏物クチク”は切り離しているため、この二人が同一人物であるとバレてしまったら、北山に不都合が生じる。また、裏物クチクとしての配信では遊技機に対して辛辣な物言いをしているシーンがあり、それでなにか問題が発生した場合、不都合が生じるのは北山だけではなくなるのだ。
「しかし――嬉しいですね」
「ん?」
北山は腕を組み、壁にもたれている。里見は北山が神妙な面持ちでいうものだから、不思議に思って北山を見る。
長身の女の視線の先――ストーリーに盛り上がりを見せる三人。
「すっご、クレアすっご」
「こんな殲滅方法考えた人は天才過ぎる……」
「でもこれのR指定のものってどうなってんだろう。想像できない」
三人を見て、北山は言う。
「こうして自分の考えたストーリーを楽しんでくれるのは、冥利に尽きます」
「……そうだな」
「ところで……今回使っているマスターアップ前のあのゲーム、突如成人向けになる裏モードが仕込まれていてですね」
「ちょっと待ってそれ聞いてない」
二十時を回ったところで配信が終わった。
目立った問題は起こらず、三人は終始和気藹々としてい、視聴者も楽しめていたようだ。
帰ったら配信アーカイブを見てみようと思い、会議室の復旧作業を手伝おうとしたら北山にかかる声があった。
「あの、すみません」
「うん?」
振り返ると、本日VTuberとして配信に来ていた二人がいた。声をかけたのは大きなピアスを下げたほうだった。
二人とも少し緊張した面持ちだ。北山は配信前のことを思い出し、ポケットに手を突っ込む。
「……あれ、家から持ってくるの忘れたかな」
「あ、あの」
「すみません。名刺入れを忘れてきてしまったみたいで」
「あ、えっと、そうじゃなくて……」
てっきり名刺交換でもするのかと思っていた北山だが、どうやら違っていたらしい。まあ確かに、Vの中身が名刺交換したら「あのVTuberの中身は私です」と言っているものだし――と邪推する北山に、ピアスの女が期待半分に問いかける。
「あなたが……シナリオライターの、山電氏さんですか?」
ああ、そういうことか。もしかして私を見て話していたのは、私がシナリオライターか否かとかかな。
「そうですよ」
言うとピアスの女は、パァっというオノマトペが聞こえるぐらい表情を変化させた。
え、なにそれ。どういう反応。
北山がエロゲのシナリオライターであると知っていい表情に変化させた人間はあまりいなかったため、この喜色満面を見て北山はどういう顔をすればいいか分からなかった。
短いし歯切れ悪いけど許してくれや。半分寝ながら書いた。
近況報告ですがダイナマイトキングに二万すられました。とあるとシンフォ2は当てられたのにどうしてかなー(宝二つで天国入らないので遠隔)。