「俺は嘴平伊之助だ」
三人は落ち込む伊之助をなだめた後、道を歩いていた。
「そうか。俺は竈門炭治郎」
「俺は深町晶」
「我妻善逸」
「かまぼこ権八郎に藻が麻痺丈にあからさま鉛筆だな」
「「いや誰だよ!!」」
炭治郎と善逸は憤慨した。
「落ち着け。特に炭治郎は一番重傷なんだから。松衛門、後どれくらいだ?」
「カアッ!後二里ホドダ!」
「そんなにかかるのかよ!」
さらりと言った松衛門に晶がつっこむ。
「あの鎹烏ってお前のだよな?晶さんのじゃないよな?」
「俺のだよ。でも晶さんの方が強いから松衛門も答えてくれるんだ。俺ももっと強くならなきゃ……!」
「がんばれーー」
善逸は手を振った。
「それと亮!!」
「晶だよ。で、何?」
「お前みたいなひょろひょろ野郎に負けるわけがねえっ!もう一度勝負しやがれ!」
「…………………」
晶は無言で伊之助の胸に拳を押し当てた。
「うぐおぉぉぉ……!」
伊之助は痛みに蹲った。
「肋骨が折れてるんだから暴れるな。それに鬼狩りともあろう者がそんな乱暴を働いて恥ずかしくないのか?」
「うるせえぇぇっ!力の強い奴が偉いのは当然だろうが!」
「原始の時代ならお前は間違いなく王様になれるだろうさ。でも今は大正時代だ。王様どころかつま弾きが関の山だな」
「そんなもん知らねえし認めねえっ!」
「世の中には常識というものがあるんだ。大昔に決められた事が脈々と受け継がれて、生きている人間の中で当たり前のこととなってるんだよ」
(おお………)
(すごいな、晶さん)
炭治郎と善逸は晶の語り口に感心を抱いた。
「一応聞くけど伊之助、お前の言う力って?」
「何でもブッた斬る力に決まってんだろ!!」
「じゃあ、他人を引っ張っていく力は?この国の頂点はどうなんだ?」
「ぐぐぐ………!」
伊之助の体が硬直した。
「これは炭治郎の育手にあたる人に聞いた話なんだが、本部の御館様って人は刀を振ることもままならないほど体の弱い人らしいんだ」
「えっ!?」
「ジ、ジイちゃんもそんなこと言ってたような……」
「だが炭治郎や善逸、伊之助を含めた鬼殺隊士全員から尊敬を集めているそうだ。それを踏まえて聞くけど、伊之助」
晶は伊之助の目を見る。
「刀でブッた斬る力を持っていても他人に恐れられるお前と刀は振れずとも多くの人から敬意を持たれる御館様って人とどっちが強いんだ?」
「…………………………………………………」
伊之助は深く深く考え込んだ。
「…………………………………………………」
そして頭から煙を吹いて倒れた。
「伊之助!?」
「うへぇ……ぐちゃぐちゃな音が聞こえる……」
「知恵熱みたいなものか?」
晶は苦笑いを浮かべた。
「カアッ!ヨウヤク着イタ!!」
「や、やっとか……」
「遠かったなぁ……」
「そうだな……。ほら伊之助、着いたぞ」
「お、お~~」
四人は藤の家紋の入った屋敷の前に立った。
「ここは?」
「藤ノ家紋ヲ掲ゲタコノ家ハカツテ鬼狩リニ命ヲ救ワレタ一族。鬼狩リデアルナラバ無償デ尽クシテクレル」
「そ、そうなんだ……」
「参ったな……」
晶は頬を掻いた。
「晶さん?」
「俺は鬼殺隊士でもなんでもないからな。最悪野宿でも良いんだけど」
「それには及びません」
門が開き、老婆が出てきた。
「鬼狩り様に協力する深町様ですね」
「なぜ俺の名前を?」
「烏から聞いております。どうぞごゆるりとお過ごしください」
「は、はあ……」
(こいつ弱そうだな)
伊之助はお辞儀する老婆の頭を指で突っつく。
「そうだお婆さん。この三人は怪我をしていまして、医者の方を呼んでいただけま──」
「既に手配しております」
「も、もう……!?」
「はい」
老婆は微笑んだ。
「じゃあ、上がらせてもらおうか」
「「お邪魔しまーす」」
「入らせてもらうぜ」
「伊之助、そうじゃなくてお邪魔しますだ」
四人は屋敷の中に入っていった。
炭治郎、善逸、伊之助の三人は、老婆が手配した医者から治療を受けた。
その結果、炭治郎は三本、善逸は二本、伊之助は四本の肋骨を折っていたことがわかった。
ちなみに晶はほぼ無傷だった。
治療の後は老婆が拵えた夕飯をごちそうになった。
晶、炭治郎、善逸は箸を使って食べていたが、伊之助は手づかみで頬張っていた。
時より、晶と炭治郎に対して挑発を行うが、晶は最初から無視し、炭治郎は天然で返すため挑発が成功することはなかった。
また、食事の一件から炭治郎は伊之助に常識を教えようと二人に相談した。
晶は協力を承諾したが、善逸は嫌がっていた。
「なあ、炭治郎」
善逸は炭治郎に話しかける。
「ん?どうかしたのか?」
「ここには俺たちしかいないんだから聞くけど、なんで炭治郎は鬼をつれて歩いてるんだ?」
「なんだ、話してなかったのか」
伊之助と相部屋になった晶は振り向いた。
「あっ、晶さんは知ってたんですね?」
「藤襲山の後、炭治郎の育手の鱗滝さんの所でお世話になっていてね。そこで出会ったんだ」
「出会ったって、鬼に?」
「ああ」
「怖くなかったんですか?」
「怖いとは思わなかったな。それより炭治郎、善逸にも話しておく必要があるな」
「そうですね。いいか善逸、あれには俺の──」
炭治郎が今までのことを話そうとすると、箱がカタカタと震える。
善逸は叫び声を上げ、晶の後ろに隠れた。
そんな状況なのも知らず、箱の中から禰豆子が這い出して来た。
さらに体の大きさを元に戻した。
「おはよう、禰豆子」
「………………………………………」
善逸は雷にでも打たれたかのような衝撃を受けた。
「とりあえず俺は部屋に行くよ。おやすみ」
晶は欠伸をしつつ、炭治郎らの部屋を出た。
翌日
晶は朝食を終え、辺りを散歩することにした。
(せめてものお礼がしたいと言ったけどあのお婆ちゃん、殿方が家事などもっての他だなんて言ってたしな)
晶はすっかり手持ちぶさたになった。
(それにしても善逸の変わり身には逆に感心しちゃったな……)
昨夜、晶が布団に入ろうとした時、突然善逸が騒ぎたてた。
原因は禰豆子が炭治郎の恋人だと善逸が勘違いしたことだった。
安眠を妨害された晶はさすがに激怒し、老婆から借りたつっかえ用の棒を善逸の胴に思いっきり叩きこんだ。
その後、善逸曰く『鬼人のような形相』で善逸と炭治郎に説教をした。
そして今朝、誤解が解けたと思いきや、善逸は炭治郎に対して下手に出るような態度を取っていた。
(そして伊之助。所構わず狙ってきやがって)
伊之助は晶に再戦するつもりなのか、頭突きを仕掛けてくるようになった。
このやり取りが後々、自身の危機察知能力を高めることになるのは晶自身も気づかなかった。
「ん?なんだあれ?」
散歩の道中、晶は東に向かって何かをしている人々を見つけた。
そこでは、若者たちが万世極楽教と書かれた札を必死に拝んでいた。
(万世極楽教、か。この時代にも変な宗教団体があったのかな?)
「まったく、若ぇもんには困ったもんだ」
「え?」
振り向くと、中年の男だ立っていた。
「あんなあんな胡散臭い札なんぞ拝みやがって、気が知れねぇべ」
「は、はあ……」
「まあ、息子や娘がいなくなっておかしくなっちまったんじゃ、仕方ねぇかもしんねぇがよ」
「え!?いったいなにが……」
「遊びに出たまんま帰って来なかったのさ。もう三月ほどになるかな」
「そんなに……警察には?」
「こんな辺鄙な所に警察なんぞ二人といやしねぇ。お前さんも気をつけるこった」
中年の男は畑仕事に戻っていった。
「……………………………」
晶は鬼の可能性を考えた。
「?」
屋敷に戻ろうと林の中を歩いていた晶は、突然楽しげな音を聞いた。
「これは……お囃子か?」
晶はお囃子の聞こえる方向へと歩き出した。
しばらく歩くと、岩穴があった。
「楽しげではあるが、こんな人気のない場所から聞こえるのはおかしい。ここは……」
晶は少し離れて、ガイバーⅠに殖装した。
【やはり鬼の気配がする。さっきの村のこともおそらく……】
ガイバーⅠは慎重に岩穴の中に入った。
岩穴の中は、なかなかの広さだった。
【前に入った場所みたいだな】
ガイバーⅠは周りを見渡す。
【気配は一つ。だが聞こえてくるのは笛と太鼓と鉦の音の三つだ】
【立った一人でここまでできるとは思えないが。とにかく行ってみよう】
ガイバーⅠは疑問を覚えつつも、進むことにした。
【こいつは……】
ガイバーⅠが見たのは、腕が六本生えた鬼だった。
鬼は上の腕で笛を吹き、中の腕で鉦を鳴らし、下の腕で太鼓を叩いていた。
また、鬼の周りには子どもと思われる骨がいくつも転がっていた。
【ここで何をしている!】
「決まってるだろ。餌が来るのを待っているのさ」
【餌だと?】
「そうさ。僕は若くて柔らかい肉しか食べないからね」
囃子鬼は演奏を止めた。
「お前が噂になってる化け物だろ。僕の血鬼術でくたばっちゃえよ!」
囃子鬼は鉦を打ち鳴らした。
【!?】
ガイバーⅠはくらっときた。
「いまだ!」
囃子鬼は続けて笛を吹き、太鼓を叩く。
【これは………】
ガイバーⅠは全身が軽くなったかのような感覚を得た。
【幻覚か………なら!】
ガイバーⅠは意識を失う前に、高周波ブレードで腿を突き刺した。
【ぐっ!】
「やるね……でも遅いよ!」
囃子鬼は鉦を打ち鳴らす。
【まだだっ!】
ガイバーⅠは腿から高周波ブレードを引き抜き、さらにベッドビームで囃子鬼の六本の腕を撃ち抜いた。
「ぐあっ!?」
【今だ!】
ガイバーⅠは右の高周波ブレードで囃子鬼に斬りかかる。
「ま……!」
囃子鬼は命乞いすらできず、頸を斬られて消滅した。
【なんとか勝ったな。とりあえず……】
ガイバーⅠは右手にワームホールを形成し、穴を掘った。
そして遺骨を集めて埋葬した。
【粗末な墓で済まない。安らかに眠ってくれ】
ガイバーⅠは手を合わせ、立ち去ろうとした。
「鬼を発見」
【!?】
声のする方向を見ると、日輪刀を持った少女と目が合った。
【鬼狩りか。待ってくれ、俺は……】
「問答は無用」
少女は日輪刀で斬りかかる。
【おっと!?】
ガイバーⅠは日輪刀を白刃取りで受け止める。
「ただの鬼じゃなさそうね」
【だから俺は……!?】
ガイバーⅠは背後から殺気を感じた。
【増援か!】
「ふふふ………往生してください。ここであなたは………あら?」
小刀を持った女性から殺気が霧散した。
「晶さんじゃないですか」
【しのぶさん!】
声の主はしのぶだった。
「???」
日輪刀を持った少女はわけが分からなかった。
「とりあえず、晶さんの姿に戻っていただけますか?」
【ふう……ようやくですね】
ガイバーⅠは殖装を解いた。
「!!?」
日輪刀を持った少女は硬直した。
「こちらは栗落花カナヲ。姉さんの継子にあたる子です」
「カナエさんの継子ですか。俺は深町晶、よろしく」
「…………………………」
カナヲはポケットからコインを取り出し、指で弾いた。
コインは表が出た。
「カナエ姉さんとしのぶ姉さんのお知り合いとは知らず、失礼しました」
「う、うん……」
晶は戸惑った。
「すみません。この子には少し事情がありまして……」
「いえ、そういうことでしたら」
「…………………………」
カナヲは澄まし顔のままだった。
「それはともかく、晶さんはどうしてここに?」
「この近くで子どもがいなくなったという話を聞いて、近くで療養している炭治郎たちに相談しようと屋敷に戻る途中、この岩穴からお囃子が聞こえたんです。入って見たら案の定でした」
「子どもというのはもう……」
「はい。粗末ながらお墓を作りました」
晶は墓に目をやる。
「なるほど」
「まさか既に鬼殺隊士が向かっていたとは。邪魔をして申し訳ありませんでした」
「気にしないでください。よくあることですから」
しのぶはなんでもないといった顔をした。
「しのぶさんはどうしてここに?」
「この子の任務のついでに、薬草を買いつけに来たんです。藤の家紋の入ったお屋敷になるんですけど」
「俺もそこでお世話になっています。一緒に行きませんか?」
「そうですね。カナヲ、行くわよ」
「………………………」
カナヲはコクリと頷き、二人について行った。
「そうでしたか。よくお越しくださいました」
「お婆さんもお久しぶりです。さっそくですが──」
「はいはい。たんとご用意しております」
「ふふ、相変わらずの手際ですね」
(本当に何者なんだろう、このお婆さん)
晶は思わず首を捻る。
「それにしても、しのぶさんが探していた女の子ってカナヲさんのことだったんですね」
「カナヲったら、勝手に最終選別に行ったんです」
「か、勝手に……!?」
「修行そのものは終わっていたのですが、命の危険があるからと反対していたんです。ですが、置き手紙だけ置いて行ってしまったんです」
「そうだったんですか……」
「先ほどカナヲの刃を受け止めていましたが、晶さんから見てカナヲの剣はどうです?」
「うーん……柔らかい感じがしました」
「ほう?」
「なんというか、炭治郎たちみたいな鋭く重い感じじゃなく、軽やかというか……」
「……どうやら、花の呼吸は出来ているようですね」
「善逸の雷の呼吸といい、いろんな呼吸があるんですね」
「ちなみに最も重いのが岩の呼吸、激しいのが風の呼吸になります」
「伊之助が使う獣の呼吸というのは?」
「おそらく、我流でしょう。ちなみに蛇の呼吸と呼ばれる呼吸法も存在します」
「へえ……」
晶は何度も頷いた。
「それにしてもカナヲったら、遅いわね」
「ちなみにしのぶさん、禰豆子ちゃんのことは?」
「伝えてはいません。ですが今は昼。寝ているはずでは──」
すると、戸が開いてカナヲが歩いて来た。
「カナヲさん?」
カナヲは心ここにあらずといった具合だった。
「どうしたのかしら?とにかく、連れて帰りますね」
「は、はい。お気をつけて」
しのぶはふらふらしているカナヲの手を引いて屋敷を出て行った。
(もしかして炭治郎が原因か?あいつ意外と人たらしだからな)
晶は炭治郎に真相を聞くため、奥の部屋に行った。
次回、那田蜘蛛山に向かいます。
鬼滅の規格外品こそこそ話
お婆ちゃんは内心嬉しかったけど殿方にはやっぱり家事などもっての他って思ってるぞ!