藤の家紋の屋敷で過ごしている内に三日が過ぎた。
三人の傷が癒えたと思ったら、緊急の指令が届いた。
「鬼の群れが巣食っている那田蜘蛛山に行け、か」
「群れと言っても、強力な鬼が支配しているんだろうけどな」
「へっ!腕が鳴るぜ!」
「行きたくねぇよ~~!!」
三人が額を合わせている中、善逸だけが禰豆子の箱にしがみついていた。
「強力な鬼ってことはまさか……」
「たぶん、十二鬼月かそれに準ずる鬼だろう」
「なら俺がブッ倒してやるよ!」
伊之助が立ち上がった。
「甘くみないほうがいい。下弦の陸と戦った時でさえ、腕を失ったからな」
「はあ?腕ならあるだろ」
「そこはまた後で話してやるよ。とにかく、ガイバーの力を持ってしても決して油断できない相手だ」
「鬼の群れを瞬時に倒す晶さんがここまで言うんだ。絶対に楽観はできないぞ」
「……けっ!!」
伊之助はそっぽを向いた。
「ああ……もうダメだ。俺はもう死ぬんだ……」
善逸は三角座りで嘆く。
「まだそうと決まったわけじゃ……」
「死ぬに決まってんだろ!滅茶苦茶強い晶さんでさえ腕を失うほどだぞ!死ぬわ!もう終わりだわ!」
善逸は炭治郎の胸ぐらを掴んで吼える。
「まあ、上の人も馬鹿じゃないだろうから上の階級の人を派遣してくれると思うぞ?」
「上の階級というと、冨岡さんやしのぶさんですか?」
「面識がある人ならいいが、面識のない人なら厄介だな」
「なんでですか?」
「禰豆子ちゃんは現時点では鬼だ。ある程度事情を知る人なら穏便に済ましてくれるかもしれないが、知らない人なら禰豆子ちゃんだけじゃなく、下手すりゃ炭治郎も殺される」
「鬼を匿ったから、ですか」
「そうだろうな。隊務規定に反しているわけだから」
「うう……」
「………………」
部屋の中に沈黙が流れる。
すると──
「ニャア」
猫の鳴き声が響く。
「ん?」
「なんで猫が?」
「あれ、この猫……」
「知ってんのか、牛二郎」
「炭治郎!晶さん、この猫は珠世さんの使い猫ですよ」
「珠世さんの?」
「はい。手紙がありますね。しかも晶さん宛の……」
「……もしかして」
晶は使い猫から手紙を受け取り、中を読んだ。
「……………………………」
「何が書いてあるんです?」
「完成したらしいぞ」
「完成って……もしかして!」
「ああ。悪いが、明日は別行動を取らせてもらう」
「え゛!?」
「わかりました!お気をつけて!」
「へっ!てめえがいねぇ内に強くなってやらぁ!」
善逸はあり得ないものを見たような顔になる中、炭治郎と伊之助は晶の一時離脱を承諾した。
「待てやあぁぁっ!おかしいだろ!なんで承諾すんだよ!」
「前にも言ったけど、晶さんはあくまでも協力者で俺たちは本職の鬼狩りなんだ。いつまでも頼ってたら強くなんかなれないぞ」
「俺は元から強ぇけどな!」
「しょ、晶~さ~ん。俺もついて行って……」
「悪いがこれは俺個人の用事なんだ。俺一人で行ってくるよ」
「…………………………………………………」
善逸は膝から崩れ落ちた。
翌日昼過ぎ──
「では行きます。お世話になりました」
「ありがとうございました」
「また寄らせてください」
炭治郎と善逸と晶は礼を言って頭を下げた。
「………………………」
伊之助だけは耳垢をほじっていた。
「では切り火を」
老婆は火打ち石を鳴らした。
「なにすんだババァ!!」
「「っ!」」
伊之助はいきり立つも、晶と炭治郎に押さえつけられた。
「お前馬鹿じゃねぇの!?切り火だよ!お清めだ!これから危険な仕事に行くんだから!」
善逸は老婆の盾になりながら叱責した。
「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ。ご武運を………」
老婆は恭しく頭を下げる。
四人は別れを告げ、一路那田蜘蛛山を目指す。
「誇り高く?ご武運?何のことだ?」
道中、老婆の言葉を思い出した伊之助が頭を捻る。
(ほんとに何も知らない奴だな……)
「改めて聞かれると難しいな」
「自分の立場をきちんと理解してその立場であることが恥ずかしくないように正しく振る舞うこと、かな。それからお婆さんは俺たちの無事を祈ってくれてるんだよ」
「その立場って何のことだ?恥ずかしくないってどういうことだ?正しい振る舞いって具体的にどうするんだ?なんでババァが俺たちの無事を祈るんだ?何も関係ないババァなのになんでだよ?ババァは立場を理解してないだろ?」
伊之助は矢継ぎ早に質問した。
「伊之助たちは鬼狩り、言ってみれば正義の味方だ。正義の味方ってのは指を指されようなことはしちゃいけないんだ。お前みたいに女の子を足蹴にしたりお婆さんに殴りかかる奴が正しいなんて誰が言える?」
「そしてお婆さんは鬼狩りに命を助けられた人の子孫にあたる。だから伊之助たちの立場は十分に理解している。だからこそ、ああして無事を祈ってくれるんだよ」
晶は出来るだけ分かりやすく、伊之助の質問に答えた。
「…………………………………」
伊之助は無言になり、考えこむ。
(こんなもんか?)
(ばっちりです、晶さん)
炭治郎は笑みを浮かべる。
(立場、か……)
善逸は立場という意味を考えていた。
途中、町に出る道と那田蜘蛛山方面に向かう道に分かれている地点に着いた。
「では、ここで一旦お別れですね」
「品物を受け取ったら、那田蜘蛛山に駆けつけるよ」
「なるべく早目にお願いします……」
「へっ!その間に全部倒してるぜ!」
「そうやって威張ったりすることも正義の味方にあるまじきことだぞ」
「俺はせいぎのみかたなんかじゃねぇ!」
「じゃあ、悪の手先か?」
「よくわかんねぇけど全然違ぇ!!」
「要するに、自分が他人からどう思われているのか考えてみるんだよ。そうすれば炭治郎が言ったことも理解できるさ」
「………フン!」
伊之助はそっぽを向いた。
「とにかく、晶さんも気をつけてください。鬼があれを狙っているかもしれません」
「……かもどころか確定だろうな」
「何!?何なのその品物って!?怖いんだけど!!」
善逸はガタガタ震える。
「そろそろ行く。三人とも、約束してくれ」
「約束?」
「また四人で飯を食おう。だから死ぬなよ」
「……わかりました!」
「も、もちろんです!」
「俺は天ぷらが食いてぇ!」
「俺も食べたいさ。それじゃあな」
晶は町への道を走り出した。
「俺たちも行こう……!」
「四人で飯……俺も食べたいな……」
「んじゃあ、行こうぜ!」
炭治郎たちも先を急いだ。
「地図だとこの辺だけど……」
夕方、町へ出た晶は地図を片手に集合場所を探していた。
「ニャア」
足元に使い猫がすり寄ってきた。
「お前のご主人はどこにいるんだ?」
「ニャア……」
使い猫はついてこいと言うように歩き出した。
「そっちか」
使い猫を追って十数分、晶は見覚えのある人物に出会った。
「愈史郎さん!」
「静かにしろ。さっさとついてこい」
愈史郎は憮然としながら晶を案内した。
やがて、小さな寺に着いた。
「ここは……」
「黙ってろ。珠世様……連れてきました」
「お通ししなさい」
「は……」
愈史郎は晶に入るよう促す。
「失礼します」
晶は寺の中に入った。
「お久しぶりです、晶さん」
珠世は笑顔で迎えた。
「珠世さんもご無事で何よりです」
晶も微笑む。
「珠世様、あまり余裕はありません。さっさと渡しましょう」
愈史郎の言葉は一見穏やかだが、静かな怒気を孕んでいた。
「そうですね。晶さん、こちらがご注文の品物です」
珠世は大きめの木箱を手渡した。
「開けても?」
「どうぞ」
木箱を開けると、中には鬼舞辻無惨のデスマスクが鎮座していた。
「まさにこの顔です。珠世さん、本当にありがとうございます」
「お気になさらず。それと……」
珠世はデスマスクを持ち上げた。
そこには、油紙で包まれた物があった。
「これはもしや……」
「鬼舞辻の面の皮です。念のために入れておきました。太陽の下に晒さないことを頭に入れておいてください」
「わかりました」
晶はデスマスクと面の皮の入った木箱を受け取った。
「これがあれば炭治郎さんと禰豆子さんを助けてあげられるはずです」
「はい。本当にありがとうございました」
「では、私たちはこれで……」
「これっきりだからな」
珠世と愈史郎はお寺の裏手から出て行った。
「……さて。俺も急がないとな」
「地獄にな」
「!?」
晶は突然襲撃を受けた。
「チイッ!」
(あ、危なかった……!)
晶は間一髪で免れた。
「だが地の利はもらった!やれい!」
「っ!」
突如、寺の柱が砕かれ天井が崩れてきた。
「…………………………」
晶はその場に留まるしかなかった。
寺は瞬く間に崩壊した。
「ははは、これでは生きてはいまい。おい、さっさと瓦礫を掘り出せ。木箱の回収も忘れ──」
襲撃者は最後まで言えなかった。
晶がいた箇所から青い光が輝き、二体の鬼が痛みに悶えていたからだった。
「き、貴様……!」
【鬼か。しかも数字……十二鬼月か!】
「いかにも……!」
鬼は殺気をむき出しにした。
「俺は十二鬼月・下弦の参、病葉。あの方の命により貴様を抹殺し、その木箱を奪いに来た!」
【こいつは渡せない。友達とその妹の未来がかかっているからな!】
「抜かせっ!!」
ガイバーⅠと十二鬼月・下弦の参との戦いが始まった。
少し前──
「そうか。よく頑張って戻ったね」
どこかの屋敷の主が荒く呼吸をする鎹烏を労う。
「私の剣士たちは殆ど殺られてしまったか……。しかも十二鬼月がいるという」
「「………………………」」
「柱を行かせなくてはならないようだ。義勇、しのぶ」
「「御意」」
二人の剣士は同時に答えた。
「カアッ!非常時!!非常時!!」
一羽の鎹烏が飛んで来た。
「今度は何かな?」
「ココカラ北西ノ町デ例ノ〝ガイバァ〟ガ鬼ト接触!シカモ十二鬼月ィ!!」
「!?」
(晶さんが……)
「ふむ……」
屋敷の主が少し思案した。
「二人とも。まずはがいばぁの方に向かい、手助けをするように。那田蜘蛛山はがいばぁ……彼とともに向かってくれ」
「僭越ながら、そのがいばぁとやらが敵対してくる可能性は?」
「彼はしのぶやカナエ、義勇の師匠とも顔見知りだと報告を受けていてね。そういうことにはならないだろう」
「分かりました」
「というか富岡さん、御館様にご報告した時にその場におられませんでしたっけ?」
「……………………」
「……では参りましょう。いくら晶さんでも、十二鬼月は手に余るはずです」
義勇としのぶは足早に出動した。
「……………………」
屋敷の主は微笑みながら空を見上げた。
「もう少しで会えるね。深町晶」
次回、下弦の参と対決します。
鬼滅の規格外品こそこそ話
義勇さんは鮭大根に夢中で、報告をほとんど聞いてなかったぞ!