晶たちは大きな屋敷の前に連れて来られた。
「ここが本部ですか……」
「はい。深町様はこちらにおいでください」
「炭治郎は?」
「……お白洲の所で裁判を受けます」
「なら俺も連れて行ってください」
「しかしあなたは……」
「どっちにしろ、俺はその柱裁判に用があるんです」
「そういうことならば……」
晶は目が覚めない炭治郎と共にお白洲ヘ導かれた。
炭治郎は寝かされ、晶はその隣に座った。
(さあ、後は……)
晶は木箱を目の前に置いた。
「む?そこにいるのは何者だ?」
晶が振り返ると、炎のような髪型の青年が立っていた。
「なんか地味な野郎だな」
宝石をいくつも付けた派手な出で立ちの大男が晶を見つめる。
(物静かな感じの人……ちょっと気になる)
ピンクと緑色の髪の女性はそっと覗きこむ。
「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……(何やら咎人の気を感じる……)」
盲目の大男が念仏を唱えていた。
「………………………」
気だるげな少年は雲を眺めていた。
(この感じ……この間会った焔龍にも劣らない。もしかしてこの人たちが。あ、あれは……!)
「しのぶさん……!」
晶はようやく知り合いを見つけた。
「やはりこちらにおられましたね。皆さん、この方が協力者の深町晶さんです」
「なんと、そうだったのか!」
炎のような髪型の青年は笑顔で晶の元に駆け寄った。
「俺は炎柱の煉獄杏寿朗!深町少年よ、鬼殺隊に協力してくれること、礼を言うぞ!」
「ど、どうも……」
「煉獄さんは切り替えが早いわね」
煉獄らの後ろからカナエが歩いてきた。
「カナエさん!」
「久しぶりね、晶君」
「ほう!元花柱とも知り合いか!」
「はい。鱗滝さんの家で会いました」
(そうだったのか……)
義勇は耳だけ傾けていた。
「他には音柱の宇随天元さん、恋柱の甘露寺蜜璃ちゃん、岩柱の悲鳴嶼行冥さん、霞柱の時透無一郎君。木の上にいる蛇柱の伊黒小芭内君。まだ来ていない風柱の不死川実弥君。そしてしのぶと義勇君を入れた計九人が柱と呼ばれているわ」
カナエは晶に説明した。
「後はそっちか」
天元は炭治郎に目をやる。
「そうですね。竈門君、起きてください」
「俺が起こします。炭治郎、起きろ」
晶は炭治郎の体を揺さぶった。
「こ、ここは……!?」
目を覚ました炭治郎は周りを何度も見回す。
「落ち着け、炭治郎。ここは鬼殺隊の本部だ」
「本部……鬼殺隊の………」
「そうだ。これから裁判が行われるんだ。お前と禰豆子ちゃん、そして俺の処遇が決まるんだ」
「深町少年、君はともかくその二人の処遇は言うまでもない」
杏寿朗は言葉を挟んだ。
「鬼を庇うなど明らかな隊律違反!我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首すべきだ!」
「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ」
(えぇぇ……こんな可愛い子を殺してしまうなんて……胸が痛むわ苦しいわ……)
「あぁ……なんというみすぼらしい子だ可哀想に。生まれてきたこと自体が可哀想だ」
(何だっけ……あの雲………)
柱たちは一部を除いて禰豆子の処刑を口にした。
(さすがに禰豆子ちゃんヘの心証は最悪か。どこで切り札を切るかだな)
晶は木箱を脇に抱えた。
「そんなことより富岡はどうするのかね?」
木の上からネチネチした口調で小芭内が問いかける。
「隊律違反にも関わらず拘束すらしていないとは。どう処分するどう責任を取らせるどんな目に会わせる」
(俺のせいで富岡さんまで……!)
炭治郎はなんとか頭を上げる。
「ね、禰豆子はこれまで人を喰ったことはありません。その証拠に、鬼殺隊士ではない晶さんを襲ったことさえないんです……!」
「下らん妄言を吐き散らかすな。そもそも身内なら庇って当たり前。そこにいる深町某とて俺は信用しない信用することもない」
「あああ……可哀想に。鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子どもを殺して解き放ってやりなさい」
小芭内と行冥は聞く耳を持たなかった。
「禰豆子が鬼になったのは二年も前のことです!その間人を喰ったことはありません!」
「話が地味にぐるぐる回っているぞアホが。人を喰っていないこと、これからも人を喰わないことを口先だけでなくド派手に証明してみせろ」
天元は口調は荒いが、正論を口にした。
「証明する手立てはあります!禰豆子は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!だから──」
「大丈夫だ炭治郎。俺に考えがある」
「晶さん……」
「あのぉ……」
蜜璃は手を挙げた。
「どうした甘露寺?」
「疑問があるんですけど、このことを御館様が把握していないとは思えないんです。だから勝手に処分しちゃっていいのかな、と……」
「そうですね。御館様が来られるまで待った方が賢明でしょう」
『…………………』
蜜璃としのぶの言葉に柱たちは無言になった。
(しのぶさんたちのおかげで、とりあえず首の皮一枚つながった。後はこのまま──)
「こ、困ります!風柱様!」
隠たちが慌てていた。
「オイオイ、何だか面白いことになってんなぁ」
風柱の不死川実弥が禰豆子の入った背負い箱を掲げながら歩いてきた。
「鬼を連れてきた馬鹿隊員はそいつかィ。一体全体どういうつもりだァ?」
「不死川さん、勝手なことをしないでください」
(不死川さんは傷が増えて素敵だわ。しのぶちゃんは珍しく怒っているみたいだしカッコイイわ……)
蜜璃は胸が高鳴っていた。
「鬼がなんだって坊主ゥ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ?そんなことはなァ……」
実弥は日輪刀を抜いた。
「ありえねぇんだよバカがァ!」
実弥は日輪刀を背負い箱に突き刺した。
背負い箱から血が滴り落ちる。
「っ!!」
炭治郎は飛び出そうとしたが、晶に上から押さえつけられた。
「離せ!!」
「ダメだ!堪えろ!」
「禰豆子を傷つける奴は誰だろうと……!!」
「炭治郎!!」
晶は炭治郎を思いきり殴りつける。
「あ、ぐっ……!!」
炭治郎は痛みに苦しむ。
「晶さん!」
「しっかり押さえていてください」
晶はしのぶと隠に炭治郎を任せた。
「はっ、ざまぁねェ」
実弥は日輪刀を抜いた。
「不死川さんでしたか。その背負い箱を渡してもらえますか?」
晶は実弥に近づいた。
「なに言ってんだァ?こいつは──」
「黙れ」
晶は実弥の手首を思いきり掴む。
「!?」
痛みと晶の気迫に実弥から笑みが消える。
「次は俺がブチ切れる……!!」
「て、てめェ……!」
実弥は日輪刀を持った。
「止めないか不死川!深町少年もここは引いてくれ!」
杏寿朗は止めに入った。
(深町さんって物静かかと思ったら煉獄さんみたいなところもあるのね。ちょっとカッコイイかも……)
(……あのまま殺られてしまえば良かったのに)
蜜璃は頬を赤らめ、それを見た小芭内は晶を睨む。
「殴ろうとはせずよく我慢しましたね、晶さん」
「あの人、いやあんな人を殴る拳が勿体ないだけですよ」
晶はわざと拳を実弥に向けた。
「てめえええっ!!ぶっ殺してやるっ!!」
「落ち着け。安い挑発に乗るな馬鹿(こいつ、地味どころか派手な匂いがしやがる)」
天元は実弥を押さえる。
「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」
「……………………………」
「……………………………」
行冥と無一郎と義勇は特に変わらなかった。
「済まない。炭治郎」
「いえ、俺こそすみませんでした。感情的になってしまって」
「炭治郎の怒りはもっともさ。同じ立場だったら俺もそうしていただろう」
「晶さん……」
晶と炭治郎は和解した。
「御館様のお成りです!」
『!?』
女の子の声が響き、柱たちは一斉に振り返った。
「よく来たね。私の可愛い剣士たち」
襖の奥から着物を着た若い男が、二人の女の子に付き添われて歩いて来た。
「お早う皆。今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな?」
(この人が御館様……)
(怪我が病気なのか……?)
(二人とも、頭を下げて)
カナエが片膝をつき、晶と炭治郎もそれに倣う。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
(カナエさん、この人が……)
(そうよ。この方が鬼殺隊の当主である産屋敷耀哉様よ)
(なんて綺麗な声だ。気を抜くと引き込まれそうな声だ)
それは現代で言うF/1ゆらぎと呼ばれる声質だが、晶はおろか柱たちも知る由もなかった。
「御館様におかれましても御壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」
先ほどとは打って変わって実弥は恭しく口を開いた。
「畏れながら、この柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか?」
「そうだね。驚かせてしまってすまなかった。炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そしてみんなにも認めてほしいと思っている」
『!!』
柱たちは一斉に顔を上げた。
「嗚呼……たとえ御館様の願いであっても私は承知しかねる」
「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊士など認められない」
「私は全て御館様の望むまま従います」
「僕はどっちでも。すぐに忘れるので」
「信用しない信用しない。そもそも鬼は大っ嫌いだ」
「心より尊敬する御館様であるが理解出来ないお考えだ!全力で反対する!」
「鬼を滅してこそ鬼殺隊。竈門・富岡両名の処罰を願います」
柱たちはやはり反対の立場を取った。
「…………………………」
(稀有な例ですので生かしたままに、と言えれば良いのですが)
義勇としのぶは沈黙を貫く。
「では手紙を」
「はい。こちらは元水柱の鱗滝左近次様からの手紙です」
左の女の子は鱗滝から手紙を取り出し読み上げた。
最後に、もし禰豆子が人を喰った時は自身と義勇、そして炭治郎が腹を切って詫びると書かれていた。
「………………………」
炭治郎から涙が零れた。
「……切腹するからなんだと言うんだ。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」
「確かにそうだね。人を襲わないという保証が出来ないし証明も出来ない。ただ、人を襲うということも証明出来ない」
「!?」
実弥は奥歯を噛んだ。
「禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、三人もの命がかけられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなくてはならない」
「むぅ!」
「そして炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」
『!?』
また場は騒然となったが、耀哉が静かにするようにとサインを出すとピタリと止んだ。
「理由は単なる口封じかもしれないが、炭治郎は鬼舞辻に狙われている。私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくはない」
「おそらくは禰豆子の存在も、鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているんだろう」
「わかってくれるかな?」
『……………………』
柱たちは黙った。
「……わかりません」
実弥を除いて。
「人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です。承知できない」
「実弥……」
「(……ここだ)なら、証明できればいいんですね?」
晶が顔を上げた。
「晶さん……」
「ふむ、どうするんだい?晶」
「産屋敷さん、奥の日陰の部屋に上がらせていただいてもよろしいでしょうか」
「てめっ!何を勝手に……!」
実弥はいきり立った。
「良いとも。後、敷物と桶と小刀があればいいのかな?」
「は、はい……(なんでわかったんだ……?)」
晶は言いたいことを先に言われて戸惑った。
「では、失礼します」
晶は背負い箱とともに日陰の部屋に入った。
既に敷物の上に桶と小刀が用意されていた。
「では始めます……」
晶は箱を開けて、禰豆子を出した。
そして禰豆子が咥えている竹筒を取った。
「……………………」
禰豆子はまだぼーっとしていた。
「……………」
晶は右腕を出し、小刀で手首を切った。
「!?」
禰豆子は晶の右腕から滴り落ちる血を見つめる。
「……どうしたんだい?鬼である君は血と肉が好きなんだろう?」
「!!」
禰豆子は首を振って嫌がっていた。
「な……」
「こいつは……」
「馬鹿な馬鹿な俺は信じない俺は信じない……」
「嗚呼……」
強硬姿勢だった柱たちは目を離せなかった。
(ギリリッ……!)
実弥は奥歯を噛んだ。
「これじゃ足りないのかい?なら……」
晶は小刀で腕に傷をつけようとした。
「!!」
禰豆子は晶の左手を掴んだ。
それは、止めるよう押し留めている姿そのものだった。
「っ!」
晶は出血でクラっとなった。
「カナエ」
「はっ!」
耀哉の命を受けたカナエは晶を抱き止め、急いで包帯を巻いた。
(無茶しすぎよ……)
(はは……すみません……)
「ごめんね」
カナエは指に小刀で傷をつけた。
指から滴り落ちる血を見ても、禰豆子の態度はなんら変わらなかった。
「(賭けは晶君の勝ちね)ちょっと大人しくしててね」
カナエは禰豆子に竹筒を咥えさせた。
「…………………………」
禰豆子は大人しく背負い箱の中に入った。
「これで決まりだね」
耀哉は柱たちを見る。
「見ての通り、禰豆子は人を襲わなかった。それは晶とカナエの行動で証明された」
「「…………………」」
小芭内と実弥は苦々しい表情を浮かべた。
「とはいえ、 それでも禰豆子のことを快く思わない者はいるだろう。だから炭治郎と禰豆子は証明し続けなくてはいけない。本当に鬼殺隊として役に立つのかどうかを」
「っ!」
「十二鬼月を倒しておいで。そうすれば皆が炭治郎を認めるし、言葉の重みも変わってくる」
「お、俺は……」
「とにかく、今は体を休めること。どこかで養生することだね」
「でしたら、蝶屋敷でお預かりいたします」
しのぶが挙手した。
「そうだね。しのぶ、君に任せるよ」
「では隠の皆さ~ん、お連れしてくださ~い」
炭治郎はどこからともなく現れた隠に持ち上げられた。
「それと炭治郎、珠世さんによろしくね」
「えっ!?どうして──」
「喋るなっ!」
炭治郎は連れて行かれた。
「これで炭治郎と禰豆子のことは終わり。晶は大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫です」
「無理そうなら早めにに言うのよ?」
「わかりました」
晶は頷いた。
「では、柱合会議を始めよう」
次回、これからの鬼殺隊の方針が決まります。
鬼滅の規格外品こそこそ話
(現時点で)柱それぞれの晶に対する心象は──
義勇:炭治郎の助けになってほしい
しのぶ:もっと知りたいことがありますよ
蜜漓:物静かかと思ったら煉獄さんみたいな人
小芭内:信用しない信用することもない
天元:なかなか派手な匂いがしやがる
行冥:何やら咎人の気を感じる……
無一郎:興味無し
実弥:信用できねェしなによりぶっ殺してェ
杏寿朗:もう少し様子を見よう!