「まずは、先日の那田蜘蛛山での一件だけど……」
柱合会議が始まり、耀哉と柱たちは直近のことについて話し合っていた。
だが柱たちはどこか落ち着きがなかった。
「御館様」
痺れを切らしたのか、小芭内が耀哉に申し出た。
「先ほどから思っていたことですが、この深町某がこの場にいることはいかがなものかと」
「ああ。協力者らしいが、この派手な男が鬼殺隊に何をもたらしてくれるのか、俺は派手に知りたいですな」
天元も続いた。
「そうだね」
耀哉は晶と目が合った。
「晶。君は我々鬼殺隊と取引がしたいそうだね」
「取引……?」
小芭内が眉をひそめる。
「ええ。俺はとある重大な秘密を持っています」
「重大な秘密だァ?」
「ほう!それはいかなものか!」
杏寿朗は身を乗り出した。
「それを今からお見せします。その前に、保証していただきたいことがあります」
「炭治郎と禰豆子のことかな?」
「はい」
「それなら心配はいらない。柱合会議が終わる頃には全隊士に二人のことは通達される。もちろん晶のこともね」
「俺もですか」
「うん。しのぶに言伝てを頼んだんだけど、晶を鬼殺隊の客将として迎えたいんだ」
「なんですと!?」
「深町さんを……」
「…………………」
柱たちは一斉に顔を上げた。
「晶が持ってきてくれたものはとてつもない価値があるものらしくてね。その証拠に晶には下弦の弐、参、肆、陸が差し向けられている」
『!?』
柱たちは驚愕し、晶を見つめる。
(下弦の大部分が差し向けられただと!深町少年は何を持ってきたのだ!)
(すごい……深町さんって何者なの……!)
(オイオイオイオイ……下弦とはいえ十二鬼月を差し向けられるなんざどんなド派手な真似をしくさったんだ……?)
(南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……)
(へぇ……そうなんだ………)
(正直信じられないが、御館様の言うことだ。おそらく真実なのだろう。だとしたらこいつは……)
(ありえねぇ……だがさっき掴まれた感触がまだ残ってやがる。くそがっ!)
(ふふ、皆さん吃驚していますね)
(………………………)
しのぶと義勇を除いた柱たちは唸っていた。
(烏からの報告でしか知らなかったけど、がいばぁの力は相当なものなのね)
ガイバーを知るカナエは首を何度も振る。
「これからお見せするにあたって産屋敷さん、もう一度奥の日陰の部屋に通していただけますか?」
「日向じゃだめなのかい?」
「はい。下手したら消えてしまうんです」
「わかった。皆も上がってきてくれ」
『はっ!』
柱たちは日陰の部屋に上がった。
日陰の部屋に灯りを灯し、準備は整った。
「では、お見せします」
晶は箱の蓋を開けた。
「これは……?」
「お面……?」
「これはデスマスクです。亡くなった方の顔を石膏や蝋で型を取り固めたものです」
「西洋では古くからあるそうですよ」
「デスマスク、ねぇ……」
「もっとも、これは面の皮だけで作った物で、本人は生きています」
「はあ?」
「いったいどこのどいつなんだよ」
「しょ、晶……」
耀哉は震えていた。
それは恐怖ではなく、歓喜のものだった。
「こ、これはまさか……!」
「はい。鬼舞辻無惨の顔です」
『!!?』
柱たちは目を見開いた。
「い、今なんつった……?」
「鬼舞辻……無惨………?」
「い、いったいどこでこんなもの……!」
「私と富岡さんと同じ驚き方をしていますね」
「……………………」
「何!?」
「お前ら知ってやがったのかァ!?」
「那田蜘蛛山に向かう前に。晶さんは竈門君と同様、浅草で遭遇したそうですよ」
「何っ!?」
「ええ」
晶はしのぶと義勇に話したことと同じ内容を話した。
「マジか……」
「鬼舞辻は人間に擬態して過ごしているんだな!」
「はい。一つとは限らないでしょうが」
「いや、よく持ってきてくれた。訂正するぜ。お前は俺にも劣らねぇ派手派手野郎だ!」
天元は晶の肩を親しげに叩く。
「深町とやら……」
行冥は晶に話しかける。
「私はお前から咎人の気を感じていた。故に信が置けなかった」
「……………………」
「だが、お前の働きは鬼殺隊に光明をもたらすだろう。よくやってくれた」
行冥は涙を流した。
「晶……」
耀哉が晶を呼んだ。
「産屋敷さん?」
「すまないが、面の皮を広げてくれないか?」
「わかりました」
晶はデスマスクの下にある油紙に包まれた鬼舞辻無惨の面の皮を広げた。
「あ、ああ……」
耀哉は鬼舞辻無惨の面の皮に触れた。
「目が見えなくてもわかる。晶、本当に、本当によくやってくれた……!」
「産屋敷さん……」
「産屋敷家九十七代目当主として、礼を言わせてほしい。本当にありがとう……!」
耀哉は頭を下げようとした。
「止めてください。まだ本当に鬼舞辻無惨を倒したわけじゃありません」
晶は押し留めた。
「俺も協力します。鬼舞辻無惨を歴史から永遠に消し去りましょう」
「ああ、そうだね」
耀哉は微笑んだ。
「お待ちください」
小芭内が待ったをかけた。
「どうした伊黒」
「鬼舞辻無惨の面の皮を持ってきたと言ったが、見たところこいつは日輪刀を持っていない。まさか素手で剥ぎ取ったわけでもないだろう」
「でも……この面の皮は刃物できれいに切られていますよ」
「そうだな!頸を斬らなくていいなら日輪刀でなくてもいいわけだ!」
「だがこいつは最初から持っていない。扱いも上手くはない。ではどうやってそんな神業をやってのけた?どうやって下弦の鬼を退けた?」
「確かになァ」
「……………………」
場に不穏な空気が流れる。
「それは………」
「おい!何をしている!」
『?』
庭から怒声が聞こえた。
晶と柱たちは庭の方に目を向けた。
そこには二人の男が隠に取り押さえられていた。
「あれは……普通の人ですか?」
「はい。たまに迷いこんで来るんです。その時は秘薬を使って眠らせるんです」
「なるほど」
「う、うぐぐ……」
「た、助けてくれ……」
「わかったから大人しく──」
「うう……うおおおおっ!!」
「う……あ……ああああっ!!」
「あ……がああああっ!!」
三人の男の体が変化した。
一人は体表が緑色になり爬虫類を思わせる怪物に変化した。
もう二人は筋肉が盛り上がり大猿のような体躯に変化した。
怪物たちは押さえこんでいた隠たちをなぎ払った。
隠たちは壁や柱に激突し、そのまま息絶えた。
「な、なんだあれは!?」
「ば、化け物!?」
「狼狽えんな!御館様や奥様、お子様たちをお守りしろぉっ!!」
天元の激が飛び、柱たちはそれぞれ守りについた。
(馬鹿な……!)
晶は怪物たちに見覚えがあった。
(あれは間違いなく獣化兵だ!グレゴールにラチモスとかいう個体!この時代に既に完成してたのか!?)
(晶さん……?)
しのぶは横目で驚愕している晶を見た。
「晶……」
「産屋敷さん……」
「頼んでもいいかい?」
「っ!はい!」
晶は庭に出ていった。
「御館様!?」
「いったい何を!?」
「皆、よく見ておくといい」
耀哉は獣化兵の前に立つ晶を見つめる。
「晶の本当の力を」
「答えろ。お前たちはどこから来た!」
「ウ、ウゴアアッ!」
「グル……グルルルルッ!」
「ガガガガッ!!」
獣化兵グレゴールもラチモスも答えることなく、唸るだけだった。
(知能を感じない。もしかして完成してないのか?)
獣化兵ラチモフが右腕を叩きつけた。
「っと!」
晶は後退した。
「行くぞ……ガイバアアアアッ!!」
晶の周りを青い障壁が覆った。
そしてどこからか現れた鎧のようなものに包まれた。
『!?』
柱たちは目を見開いた。
「晶君……」
カナエは心配そうに見守る。
「かつて、この大地を支配した神々がいた」
耀哉は口を開いた。
「その神々の遺産が晶の纏った鎧だ。規格外品の名を持つその鎧はがいばぁとも呼ばれる」
「がい……ばぁ……」
(もっとも、これは顎人から聞かされたことだがね……)
耀哉はガイバーⅠを見つめる。
【はあっ!】
ガイバーⅠはグレゴールと組み合った。
【うおおおっ!!】
ガイバーⅠはグレゴールの両腕をへし折った。
「アギャッ!?」
グレゴールは後退した。
グレゴールの後ろからラチモスが襲いかかってきた。
【くらえっ!】
ガイバーⅠは高く飛び上がり、ラチモスを文字通り真っ二つに斬った。
「!?」
【遅い!】
ガイバーⅠはもう一体のラチモスをすれ違いざまに胴切りにした。
「グルルルアッ!!」
グレゴールが再び襲いかかる。
【ッ!】
ガイバーⅠはヘッドビームでグレゴールの両目を射ち抜く。
「ギャアアアアッ!」
【止め!】
ガイバーⅠはグレゴールの頭を強引に握り潰した。
獣化兵の死体はグズグズに溶けてなくなった。
ここまで僅か数分の出来事だった。
『……………………………………』
柱たちはその光景に言葉が出てこなかった。
【ふう……】
ガイバーⅠは殖装を解いた。
「見事だ」
耀哉は晶を褒めた。
戦いが終わった晶を待っていたのは柱たちによる質問攻めだった。
晶は一人一人を落ち着かせ、知っていることを話した。
晶自身のこと、ガイバー、獣化兵、秘密結社クロノス、降臨者のことまで晶は全て話した。
『………………………………………………』
柱たちは唖然となった。
「信じろとは言いません。ですが、これらは全て事実です」
「なんと言うことだ……」
「私たち人間が、あの化け物の素体だなんて……」
「元々そのために作り出したとされています」
「さっきの化け物は人間を基にできたってのかァ!?」
「秘密結社クロノスが降臨者の遺跡から得た知識を元に、人間を調製して産み出されたのが獣化兵です」
「冗談じゃないぞ……おい!そのくろのすという奴らは何者なんだ!」
「獣化兵を用いて日本はもとより世界を征服しようとしている連中です。俺も最深部までは分かりませんが」
「世界征服……」
「ド派手にやべぇな。お前は未来でそいつらと戦っているんだな?」
「はい。人間の尊厳を守るために、俺は戦います!」
「そうだな!尊厳というものは守られなくてはな!」
(晶さん……!カッコいい!)
(蜜璃……)
蜜璃はキュンキュンしだし、小芭内は恨めしそうに晶を見る。
「とはいえ、俺が知る獣化兵はあんな風に獣のようなものじゃありませんでした」
「あんな風ではないとは、喋るのですか?」
「はい。エンザイムと呼ばれる個体を除けば、自我を保っていました」
「先ほどの奴らは派手に唸ってやがったな」
「もしかしたらどこかに実験場があって、そこから逃げ出して来たのかもしれません」
「なるほど。そっち方面は産屋敷家の伝を使って調べてみよう。ただ、晶……」
「はい」
「鬼舞辻はくろのすと接触している可能性は考えられるかい?」
『っ!』
柱たちは晶を見つめる。
「それは……ないと思います」
「晶君……」
「俺が見た限り、鬼舞辻無惨はかなりの癇癪持ちで臆病と言ってもいいぐらい慎重です。そして自分のことを限りなく完璧に近い生物などと言ってましたから、他人に接触することは自尊心が許さないはずです」
「そうか、わかったよ」
耀哉は満足したような笑みを浮かべる。
「さて、皆の答えを聞きそびれてしまったがどうだろう?晶を鬼殺隊に客将として迎えることは」
「俺は賛成です!」
「私もです」
「俺も派手に賛成だ」
「異義はなし……」
「どちらでもいいですよ……」
「私も異義はありません」
「以下同文」
小芭内と実弥以外は賛成の立場を取った。
「二人は?」
「……異義はありません」
「……同じく」
鬼舞辻無惨の面の皮を持ち帰り、獣化兵を瞬殺するガイバーⅠの強さを見た二人は渋々ながらも、晶を迎えることに賛成した。
「では決まった。本日より深町晶を鬼殺隊の客将として迎える。晶、鬼舞辻打倒のため力を貸しておくれ」
「もちろんです!」
晶は客将として迎え入れられた。
「待遇面については丙相当を考えているんだけど、どうかな?」
「いえ、一番下で十分です」
「一番下って癸ですよ?」
「はい。藤の家紋の屋敷や蝶屋敷という所を使わせていただけるだけで十分です」
「いや!深町少年は柱にも匹敵する力を我々に示してくれた!いきなり柱相当ならともかく、丙ならば文句も出まい!」
「正直、柱相当でもいいくらいですが」
「いや、煉獄の言うとおりだ。どれだけ強かろうがいきなり柱にすれば下から派手に不満が起きて士気に関わる。人知れず鬼を狩り続けて丙になったってことにすりゃ不満も起こらねえはずだ」
「嗚呼……歯痒さはあるが致し方ない……」
「皆さん……」
「そういうことだよ。晶、引き受けてくれるかい?」
「……わかりました。謹んでお受けします」
「ありがとう」
耀哉は柱たち全員を見た。
「当面は鬼舞辻配下の猛攻が予想される。特に晶には下弦以上の上弦を差し向けてくることは考えられる」
『……………』
全員が頷いた。
「だがそれは向こうが焦っているという目白押しだ。焦らず確実に尻尾を掴んで引きずり下ろしてやろう」
「行っておいで。私のかわいい剣士たちよ」
『御意!!』
柱合会議は終わった。
「晶さん」
しのぶは晶に話しかけた。
「しのぶさん、行くんですね」
「ええ。これから蝶屋敷にお連れ致します」
「ここから遠いけど、大丈夫?」
「はい。ガイバーに殖装したのである程度は」
「屋敷にいったらもっともっと教えてくださいね?」
「もっと、ですか?」
「はい♪」
「まったく、しのぶったら。若い男の子に夢中だなんて、姉さん悲しいわ(ニコニコ)」
「姉さん!!」
(しのぶさんもカナエさんには弱いのかな?)
「とにかく行きましょう。竈門君たちも待ってますから」
「わかりました」
晶は蝶屋敷へと向かった。
次回、蝶屋敷にて……
鬼滅の規格外品こそこそ話
御館様は獣化兵(未完成)が迷いこんでくることを当然知っていたぞ!