鬼滅の規格外品   作:ボルトメン

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第拾捌話

「やっと着いたわね」

 

カナエは大きく伸びをした。

 

「もしかしてここが?」

 

「はい。ここが蝶屋敷になります」

 

「へえ……」

 

晶は蝶屋敷の立派な造りに圧倒された。

 

「立ち話も何だし、入りましょう。ここで働いている子たちも紹介するわね」

 

「ありがとうございます」

 

「そうと決まれば、案内するわ。その前にまず、手洗いとうがいをしないとね」

 

「はい。手洗いとうがいはどの時代も変わらないんですね」

 

「当然です。いつ疫病が起こるか分かりませんから」

 

晶はカナエとしのぶにつれられて井戸へと向かった。

 

 

 

「おかえりなさい、カナエ様にしのぶ様」

 

「ただいま、アオイ」

 

「柱合会議も無事に終わったわ」

 

「それは良かったですね。あら?そちらの方は?」

 

「紹介するわね。鬼殺隊の客将の晶君よ」

 

「はじめまして、深町晶です」

 

「はじめまして。私は神崎アオイと申します。しのぶ様、客将ということは……」

 

「晶さんは丙隊士相当として籍を置くことになったわ」

 

「ちなみに柱のほぼ全員が認めたわ。鬼殺隊始まって以来の偉業を為し遂げたんだから当然のことだけどね」

 

「カナエさん、あんまり持ち上げられても……」

 

「姉さん、晶さんが困ってるじゃない」

 

「だって本当のことじゃない。あ、それとアオイとカナヲには敬語は使わない方がいいかもね」

 

「どうしてですか?」

 

「晶君は十七歳でしょ?アオイと同い年だしカナヲは年下だもの」

 

「そ、それは申し訳ありませんでした!」

 

アオイは慌てて晶に頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。厳密に言えば俺は鬼殺隊士じゃないんだ。そんなに畏まらなくても」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「もちろん」

 

「そ、そういうことなら……」

 

アオイは咳払いをした。

 

「よろしくね、晶さん」

 

「こちらこそよろしく」

 

晶は笑みを浮かべた。

 

「もう、アオイったら生真面目なんだから」

 

「姉さんが暢気すぎるんです」

 

しのぶはため息をついた。

 

「ここで働いている方はアオイさんだけなのか?」

 

「いいえ。後三人ほど──」

 

「いやああああああああっ!!」

 

『!?』

 

遠くから汚い声が響いた。

 

「またあの剣士さんかしら」

 

「あの声は……」

 

「知り合いなの?」

 

「たぶん……」

 

「それならアオイ、晶君を案内してあげて。今日運びこまれた炭治郎君とも知り合いだから」

 

「承知しました。では晶さん、行きましょう」

 

晶はアオイと共に奥の部屋へと向かった。

 

 

 

「三ヶ月飲み続けるのこの薬!?これ飲んだら飯食えないよ!?すげぇ苦いんだけど辛いんだけど!ていうか薬飲み続けるだけで俺の腕と足治るわけ!?ほんと!?」

 

「静かにしてください~」

 

「もっと説明して誰か!一度でも飲み損ねたらどうなんの!?」

 

「ねぇ~……」

 

善逸が泣きわめき、小さな女の子を困らせていた。

 

「……………………」

 

晶は頭痛がする額を押さえた。

 

「静かになさってください!!」

 

アオイは善逸を毅然と叱りつけた。

 

「説明は何度もしましたでしょう!いい加減にしないと縛りますからね!」

 

「ひぃ~~~!!」

 

「まったくもう……!晶さんも呆れてるじゃないですか」

 

「え!?晶さん!?」

 

「やっぱり知り合い……?」

 

「ごめんアオイさん人違いだった」

 

「待って晶さん!俺すっげー不安なんだよ!蜘蛛に噛まれて毒に侵されてほんとーに蜘蛛になっちまうかと思ったんだよぉ!」

 

「アオイさん、額に痣のある隊士って?」

 

「こちらの方ね」

 

「話聞いてぇぇぇっ!」

 

「あまり長時間は……」

 

「わかってる。少しだけ」

 

「では終わったらここを出て左に、その後右に曲がって一番奥の部屋に来て」

 

アオイは小さな女の子と共に出ていった。

 

 

 

「炭治郎……」

 

晶は炭治郎に話しかけた。

 

「う、ううん……………晶……さん……?」

 

炭治郎はゆっくりと目を覚ました。

 

「無事だったか」

 

「晶さんこそ、ご無事で何よりです」

 

「まさかまた善逸と同部屋なんてな」

 

「伊之助もいますよ」

 

「おおそうだな。伊之助、元気か?」

 

「ウン……マアマアカナ」

 

「………伊之助?」

 

聞こえてきた声に晶は戸惑った。

 

「なんか、那田蜘蛛山であの下弦の配下にやられそうになった所を富岡さんに助けてもらったそうなんです。それで何を思ったか、富岡さんに戦いを挑もうとしたら、一瞬でぐるぐる巻きにされて置いてけぼりをくらったとか」

 

「そうなのか。ていうか、なんでそこまで知ってるんだ?」

 

「松衛門が教えてくれたんです」

 

「そうか」

 

晶は納得がいった。

 

「ゴメンネ、弱クッテ」

 

「わかったから。とにかく、三人とも無事で良かったよ」

 

「約束しましたから。全員で飯を食べようって」

 

「それは体をきちんと治してからだな。それはそうと禰豆子ちゃんは?」

 

「寝ていますよ。どうも寝不足らしくて」

 

「そうか。悪いことしちゃったな」

 

晶は禰豆子の入った背負い箱を見つめる。

 

「いえ、禰豆子も頑張ってくれましたから。そういえば、柱合会議はどうなりました?」

 

「うん。俺は鬼殺隊の客将として籍を置くことになったんだ」

 

「やっぱりそういう話でしたか」

 

「炭治郎は気づいてたか……」

 

「だって晶さんの実力なら鬼殺隊から声をかけられてもおかしくないですから」

 

「反対する人もいたけど、なんとか納得してもらったよ」

 

「へえ。どうやったんですか?」

 

「それは炭治郎が起き上がれるようになったら話すよ。今は体を治すことだけ考えろよ。それじゃ、またな」

 

晶は病室を出た。

 

 

 

「すみません。遅くなりました」

 

「気にしなくていいわよ。伝えたいこともたくさんあったんだろうし」

 

「とりあえず、細かい部分は炭治郎が起き上がれるようになってからにします」

 

「そうですね」

 

しのぶは晶の意を汲んだ。

 

「姉さん、そろそろ──」

 

「そうね。晶君」

 

「はい」

 

「炭治郎君たちが完治するまでの間、ここでお手伝いをしてほしいのよ」

 

「お手伝いですか?」

 

「具体的には、重い物を運んだり、衣服の洗濯をしたり、掃除をしたりとなんですが、大丈夫でしょうか?」

 

「わかりました。男手なら任せてください」

 

「ありがとうございます。さっそくなんですが……」

 

しのぶは庭に目をやった。

 

「あちらに竈門君たちの衣服がありまして、お洗濯を任せてもよろしいですか?」

 

「はい。わかりました」

 

「この子たちも一緒に付けるわね。なほ、きよ、すみ~」

 

「「「はぁい」」」

 

カナエの一声で、三人の小さな女の子が入ってきた。

 

「しのぶさん、この子たちは……」

 

「うちで働いている子たちです。右から高田なほ、寺内きよ、中原すみです」

 

「「「よろしくお願いしま~す!」」」

 

「よ、よろしく……」

 

晶は三人の元気さに押され気味だった。

 

「それでは、お洗濯を始めましょう」

 

「「「はーい!」」」

 

「わかりました」

 

晶たちは庭に出た。

 

 

 

「ふう……洗濯板なんて初めて使うよ」

 

晶は額を流れる汗を拭った。

 

「でも晶さんお上手ですよ」

 

隣で作業していたなほは晶の手際を褒める。

 

「男の人なのにこんなに洗濯がお上手なんてびっくりしちゃいました」

 

なほの隣のきよは晶を尊敬の目を向ける。

 

「それにしても晶さん、よく洗濯板をご存知ですね。蝶屋敷に導入されてから二年も経ってないのに」

 

きよの隣のすみは晶同様、洗濯板に手こずっていた。

 

「そうなのかい?」

 

晶は知る由もなかったが、日本で洗濯板が使われ始めたのは大正時代からである。

 

「さぁ、後少しだ。終わらせてしまおうか」

 

「「「は~い!」」」

 

その後手こずりながらも、四人は洗濯を終わらせた。

 

 

 

「アオイさん、この戸棚で良いのか?」

 

「あ、そうよ。そこが終わったらこちらもお願いしていい?」

 

「わかったよ」

 

洗濯を終えた晶は、薬品庫の整理を手伝っていた。

 

「そういえば、炭治郎たちの容態はどうなっているんだ?」

 

「そうね……まず、炭治郎さんは顔面及び腕と足に切創・擦過傷多数。全身筋肉痛に重ねて肉離れと言ったところかしら」

 

「そうか……(だいぶ無茶したな)」

 

「次に、伊之助さんは喉頭及び声帯の圧挫傷ね。精神的な負傷も見受けられるけど」

 

「たぶん、負け続けて落ち込んでいるんだと思う。今まで負け知らずだったらしいから」

 

「なるほど。そして善逸さんが一番の重傷よ。右腕と右足が蜘蛛化したことで縮みと痺れ、さらに左腕の痙攣」

 

「蜘蛛化?どういうことだ?」

 

晶は思わず手を止めた。

 

「那田蜘蛛山に巣食っていた鬼の血鬼術によるものだと思うの。手足が縮み、頭部以外が蜘蛛とような姿になるって報告もあるわ。他にも蜘蛛化した隊員の方もおり、蜘蛛化は治っても後遺症は免れないそうよ」

 

「…………………」

 

「とはいえ、しのぶ様のご尽力の甲斐あって蜘蛛化したままということはないそうよ」

 

「そうか……」

 

晶は目を瞑った。

 

(もし……珠世さんの方を後回しにしていたら、犠牲者を減らせたかもしれないな………)

 

「晶さん?」

 

「え?ああ、何でもない。後はどれを運べばいいんだ?」

 

「ええと………あ!全部終わったわ!」

 

「そうか。これで全部か」

 

「本当に助かったわ。お茶を淹れるので休憩しましょう」

 

「そうだな」

 

晶とアオイはなほきよすみを呼んで、縁側で茶を飲んだ。

 

 

 

「ホントに助かっちゃったわ」

 

「一日半かかる仕事が一日で終わってしまいました。やはり男手というのは頼りになりますね」

 

「お役に立てたなら何よりです」

 

夕食時、カナエとしのぶは笑顔だった。

 

「本当に大助かりよ。この子たちじゃまだ危なくて」

 

「確かに、なほきよすみじゃ届かないでしょうから」

 

「カナヲもよ。ボーっとしてることが多いんだから」

 

「…………………」

 

アオイに窘められ、カナヲはシュンとなった。

 

(本当に仲が良いんだな)

 

晶はおかずのきんぴらを咀嚼しながらそう思った。

 

「晶さん、お口に合いましたか?」

 

「うん、旨いよ。このきんぴら」

 

「良かったぁ~」

 

「山菜汁、おかわりどうですか?」

 

「うん、もらえるかな?後ご飯も」

 

「「は~い!」」

 

きよとすみはご飯と山菜汁を盛り付けた。

 

「ふふ、たくさん食べてね」

 

カナエは満面の笑みを浮かべた。

 

「明日もよろしくお願いしますね」

 

「はい。こちらこそ」

 

晶は返事をして、食事を再開した。

 

 

 

「ふう……」

 

食事を終えた晶は縁側に座っていた。

 

「さすがに食べ過ぎたかもな。でも久しぶりだな。ああやって揃ってご飯食べるのは……」

 

晶の脳裏に、父との思い出がよぎる。

 

(母さんが早くに亡くなって、父さんと二人暮らしだった。父さんと二人で食事を作ったり家事を分担したっけ。あの日まではそうだったな。俺がガイバーと一体化して、全てが狂って、挙げ句の果てに………俺が……父さんを…………)

 

晶は蹲った。

 

(悲鳴嶼さんの言うとおり………俺は………許されないことをした………!)

 

(俺……は…………)

 

「晶さん?」

 

「!?」

 

振り向くとそこにはしのぶがいた。

 

「しのぶさん……」

 

「呼びに行こうと思っていたんですが、どうかされましたか?」

 

「………………」

 

晶は顔を背けた。

 

「……夕食の時から思っていましたが、晶さんから僅かながら悲しみのようなものを感じました」

 

「そう………かもしれませんね」

 

「…………………」

 

しのぶは隣に座った。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

二人は暫し無言になった

 

「………聞かないんですか」

 

「たぶん、話すのは憚られる内容だと思ったので」

 

「…………………」

 

「ですが医師として、辛そうな表情の方は放ってはおけません」

 

「そうですか……」

 

晶は顔を上げた。

 

「悲鳴嶼さんがおっしゃっていたことですが……」

 

「晶さんから咎人の気を感じる、でしたね」

 

「悲鳴嶼さんの言うとおりです。俺は………」

 

晶は拳を握りしめた。

 

「俺は……自分の父を殺しているんです」

 

「!?」

 

まさかの告白にしのぶは言葉を失った。

 

「お父……様を………?」

 

「はい……」

 

「どうしてそんな……」

 

「少し長くなりますが………」

 

晶はゆっくりと、語った。

 

 

 

「………………………………」

 

晶の話を聞いたしのぶの目から涙が流れた。

 

「それが俺の罪です。知らなかったじゃ済まされない、決して許されないことです」

 

「あ…………」

 

しのぶは何と声をかければいいのか分からなかった。

 

「実を言うと、羨ましいです。しのぶさんたちが仲良く食事をしている光景が。俺にはもう無いものですから」

 

晶は自嘲という笑みを浮かべた。

 

「ガイバーと一体化して、襲ってくる獣化兵を倒して、クロノスを潰す。それと引き換えに人間でも鬼でもない存在になって、たった一人の父親を殺して生きている」

 

「俺はいったい……何なんでしょうね………」

 

自身の両手を見つめる晶の顔は苦悩に満ちていた。

 

「………………」

 

しのぶは涙を拭った。

 

「ごめんなさい……晶さんの心の傷も知らず、図々しくも色々教えてくださいなどと……」

 

「しのぶさん……」

 

しのぶは晶の目をしっかりと見る。

 

「でも……晶さんは晶さんです。私たちとどこも変わらない、同じ人間です。過ちを犯しても、それを顧みて絶対に忘れない。それはあなたが人間である何よりの証じゃないですか」

 

「証……」

 

「もしそれでも……晶さんの心の傷が痛むなら」

 

しのぶは晶の背中に腕を回す。

 

「私に処置をさせてください」

 

しのぶは優しく微笑んだ。

 

「しのぶさん……ありがとうございます」

 

晶も優しくしのぶを抱きしめた。

 

「晶さん……」

 

しのぶは捨て去ったはずの温もりを感じていた。

 

 

 

その後我に返り、恥ずかしくなった二人はそそくさと自分の部屋へと戻った。

 

こっそり聞いていたカナエとアオイは晶を気にかけつつ、しのぶの変化を喜んだ。

 

また、しのぶの抱擁を目撃したカナヲは赤面し、シャボン玉を吹くことも忘れていた。




次回、機能回復訓練です



鬼滅の規格外品こそこそ話

原作の三年後くらいにスペイン風邪(インフルエンザ)が大流行するぞ!
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