「さて、これからどうするかだな」
晶は立ち上がった。
「とりあえず、鬼は藤の花を嫌うんだな?」
「はい。だから鬼はこの藤襲山から出られないんです」
「そうか。なら、早いとこ下山するべきか」
「でも、晶さんは刀を持ってないですよね」
「大丈夫。逃げ足だけは速いんだ(いざとなればガイバーに殖装すれば何とかなるだろう)」
晶は心配する炭治郎におどけて言った。
「これは試験なんだろ。だったら炭治郎は集中しなくちゃだめだろ」
「晶さん……」
「それじゃ、俺はこれで」
「待ってください」
炭治郎は晶の腕を掴む。
「炭治郎……?」
「やっぱり俺も一緒に行きます」
「しかし……」
「晶さんに死んでほしくないんですよ」
「炭治郎……」
「とにかく、藤の花の所まで行きましょう。そうすれば……うっ!?」
炭治郎は鼻を押さえた。
「どうした炭治郎……ぐっ!なんだこの臭いは!?」
「まるで何かが腐ったような……」
「うわァァァっ!!」
晶と炭治郎が臭いの元を探していると、近くから一人の少年が飛び出して来た。
「き、聞いてない!こんなの聞いてないぞ!」
「どうかしたのか?」
晶は少年に駆け寄る。
「お、お前らも逃げろ!大型の異形がいるぞ!」
「大型の?」
「炭治郎、あれだ!」
晶が指さす方向には、全身が腕で構成されたような異形の鬼がいた。
「な、なんだあいつ……!?」
「全身が手……手鬼とでも言うのか?」
手鬼の腕には物言わぬ死体が握られていた。
手鬼は少年を見やると、いくつもの腕をまとめ一本にした腕で逃げだそうとした少年の足を掴む。
(助けなきゃ!怯むな!怯むな!怯むな!俺はもう無力じゃない!)
炭治郎は沸き上がる恐怖を押さえこみ、刀を抜いた。
「全集中・水の呼吸、弐ノ型・水車!」
炭治郎は体ごと回転させ、手鬼の腕を斬る。
「さあ、こっちだ!」
晶は少年を後方に引き寄せる。
「また来たのか。俺の可愛い狐が」
手鬼は炭治郎をギロリと睨む。
「おい、狐の小僧。今は明治何年だ?」
「っ!?………今は大正時代だ!」
「ああ~~?ああああっ!」
手鬼は狂ったように地団駄を踏む。
「またっ!年号がぁ!変わっているぅ!」
「まただ!俺がこんな所に閉じ込められている間にまたっ!アァアァァ!許さん、許さんん!!」
「……………」
(年号?だとしたらこいつ、相当長い間ここに住み着いていることになるぞ……!」
炭治郎が二の句を告げない中、晶は手鬼が相当な手練れであると感じ取った。
「鱗滝め!鱗滝め!鱗滝め!鱗滝めぇぇ!!」
手鬼は憎悪のあまり、自らの体をかきむしる。
「炭治郎!鱗滝って炭治郎の師匠って言ったよな!」
「はい!お前鱗滝さんを知ってるのか!?」
「知ってるさぁ!俺を捕まえてここに閉じ込めたのは鱗滝だからなぁ!」
「やはりお前は相当長くいるんだな?」
「ああそうさ!忘れもしねえあれは四十七年前、あいつがまだ現役の鬼狩りの頃!江戸時代慶応の頃だ!」
(江戸時代!?)
「嘘だ!」
手鬼の言葉を聞いた少年は声を張り上げる。
「そんなにも長い間生きてる鬼はここにいるはずがないんだ!ここには二、三人喰った鬼ぐらいで、後は鬼同士共食いを……」
「それら全てに打ち勝って、こいつはここにいるんだろう」
晶は少年の話を遮った。
「ほう?お前、なかなか慧眼だな。そうさ、それらを全てはね除けて俺は生きている。この藤の花の牢獄でガキ共を五十人は喰った」
(五十人……!)
炭治郎は以前鱗滝に聞いた、鬼は人を喰った数だけ強くなり、異形となることを思い出した。
「それから……」
手鬼は数を数え始めた。
「お前で十四人目だ」
「何の話だ……!」
「俺が今まで喰った鱗滝の弟子の数だよぉ。あいつの弟子はみ~んな喰い殺してやるって決めてるのさ」
手鬼はクスクス笑い出した。
「一番印象に残ってるのはそうだなぁ、十二番目と十三番目だな。男の方は珍しい宍色で口元に傷。もう一人は女で花柄の着物を着てた。小さく力はなかったが、すばしっこかった」
(え………)
炭治郎は呆然となった。
「その狐面、厄除の面とか言ったか?目印になっててすぐ分かるんだよ。鱗滝の弟子だって。そいつをつけてる奴は皆喰ってやった。鱗滝が殺したようなもんさ」
「っ!」
「悪趣味が過ぎるだろう……!」
晶も怒りを覚えた。
「そのことを女のガキに伝えたらよ、どうなったと思う?体がガクガクになって泣いて怒ってよ。暴れられた分、肉も骨もゆっくり味わって──」
「!!」
怒りに駆られた炭治郎は手鬼が言い終わらないうちに攻撃を仕掛けた。
手鬼の腕を数本斬り落としたが、手鬼の反撃をくらい、木に叩きつけられた。
気絶したのか。炭治郎は動かなかった。
「炭治郎!おい!お前も加勢に……」
晶は少年を見たが、少年は逃げだそうとしていた。
「くっ!待て!」
晶は少年を追いかけた。
「うるさい!死ぬなら仲良く死ねよ!」
「なっ!?」
「俺は生き残るんだ!死んでたま──」
「なら大人しく死になさい」
少年は何かに吹っ飛ばされた。
「!!」
晶は足元に吹っ飛ばされてきた少年に触れるが、既に生き絶えていた。
「これは幸運。まさか餌がまだいたとはねぇ」
晶の目の前に、右腕が異常に盛り上がった鬼がやってきた。
「お前……!」
「ふふふ、その顔が良い。それなりに喰ってきたが、やはり怒りの面をしたものが美味い」
鬼は舌なめずりをした。
「……悪いが黙って食われるわけにはいかない」
「虚勢は嫌いではありません。なぜなら……」
鬼は右腕を振り上げた。
「すぐに悲鳴に変わるからですよっ!」
鬼は晶目掛けて突進した。
「いくぞ………ガイバァァァァァァッ!!」
晶の体を中心に青い障壁が展開された。
「っ!あづぁぁぁ!?」
鬼は右腕に火傷を負い、ひっくり返った。
【…………………………】
晶の肉体はどこからか顕れた、服か鎧のようなものに包まれた。
青い障壁が静まるとそこには、人間とも鬼とも異なるものが立っていた。
「な、な、なんですかそれはぁぁぁ!?」
【ガイバーⅠ】
「が、がいば……?」
【覚える必要はない。ここで倒す!】
「なめるなぁぁぁぁ!」
鬼は治癒した右腕で殴りかかる。
【!】
ガイバーⅠは両手で受け止める。
鬼の右腕はぴくりとも動かなかった。
【うおおおおっ!】
ガイバーⅠの両手は鬼の右腕を挟み潰した。
「ぎぃやぁぁぁぁっ!」
鬼は潰された右腕を押さえて止血を試みる。
【これで!】
ガイバーⅠは少年の差していた刀で頸を斬りつけた。
だが刀は皮一枚の所で折れた。
「ふはは!甘いわぁ!」
【ならば!】
ガイバーⅠは肘の突起物を伸ばし、高周波ブレードを生成し、鬼の頸をはねた。
「ふふふ!何のこれし──」
突如、鬼の体は炭化していった。
「ば、ばかな!?鬼を殺せるのは色の変わる刀だけのはず……!」
【どうやら効くみたいだな】
「あ、あり得ない。か、勝てるわけない……こんな……規格外……品………」
鬼は消滅した。
【規格外品、確かにそうだな。だが今は炭治郎だ!】
ガイバーⅠは手鬼の所へと急いだ。
「なんだ?さっきの青い光は。まあいい、これで十四人目の……」
「っ!」
意識を取り戻した炭治郎は反撃に打って出る。
だが手鬼は余裕そうだった。
(いくら手を切っても時間が経てばまた生えてくる。これじゃキリが……)
「んふ」
「ん!?土から変な匂いが……!」
炭治郎の嗅覚は危険な匂いを嗅ぎ取り、炭治郎は高く飛んだ。
その瞬間、炭治郎の真下から何本もの手鬼の腕が飛び出した。
「仕留め損なったか。でも空中はかわせないだろう!」
手鬼は炭治郎を捕らえるべく、腕を伸ばす。
「っ!」
炭治郎を腕に頭突きをし、その反動で空中で前に転がる。
「まだ手はあるっ!」
もう一本の腕が炭治郎の頭を狙う。
(だめだ……今度は………)
【諦めるな!】
どこからか射たれた、緑の光線が手鬼の腕を貫く。
「ぬぅあああっ!邪魔しやがってぇぇ!」
手鬼は光線の飛んできた方向をにらみつける。
そこには、何かが立っていた。
(お、鬼!?)
地面に着地した炭治郎は身構えるが──
(あれ?鬼の匂いがしない?)
鬼独特の匂いがしないことに戸惑う。
(それにこの匂い、嗅いだことが……)
【炭治郎、ぼーっとするな!】
「こ、この声は晶さん!?その姿は……!?」
【わけは必ず話す。今はこいつが先だ!】
「っ!はい!」
ガイバーⅠと炭治郎は手鬼に狙いを定める。
(落ち着け。手は何本か戻った。こうなりゃ二人とも殺してやるっ!)
手鬼は全体攻撃を仕掛けた。
【俺が壁になる!炭治郎は頸を斬れ!】
「はい!!」
ガイバーⅠと炭治郎は真っ向から仕掛ける。
【はああああっ!】
ガイバーⅠは頭部から放つ光線ヘッドビームと高周波ブレードを駆使して迫り来る手を次々に斬り落とす。
「こ、こいつ……!」
手鬼は再生しても即座に斬り落とされる光景に動揺した。
【いまだ、炭治郎】
「はい!」
炭治郎はガイバーⅠを飛び越え、手鬼の頸を刀の射程圏内に捉えた。
「全集中・水の呼吸!」
炭治郎は呼吸をし、構えた。
「う、鱗滝……」
手鬼の目に鱗滝と対峙した時の光景が重なった。
「壱の型・水面斬り!」
炭治郎は刀で手鬼の頸をはねた。
「う、う、うろこだきいいいいっ!!」
手鬼の頸は仇敵の名を叫びながら消滅した。
「…………………………」
戦いを終えた炭治郎は悲しげな顔をし、残った手鬼の手を握る。
「神様お願いします。この人が今度生まれてくる時はどうか鬼になんて生まれてきませんように」
炭治郎は祈った。
【……………………】
ガイバーⅠも見つめていた。
炭治郎の慈悲深さに触れた手鬼の腕は完全に消滅した。
(錆人、真菰。勝ったよ。だからもう安心していいよ。殺された他の子どもたちもきっと、必ず帰るという約束を果たすんだろう。魂だけになっても)
(大好きな鱗滝さんの所へ、故郷の狭霧山に。死んでいたら俺も帰っていったのかも。鱗滝さんと禰豆子の元へ)
炭治郎は空を見上げ、涙を拭いた。
「さて、約束ですよ」
【ああ】
ガイバーⅠは殖装を解いた。
「しょ、晶さん!」
「ああ、そうだ」
「い、今のはいったい。そ、それに朝日を浴びてもけろっとしてるなんて……」
「俺は炭治郎の言う鬼じゃない。俺は強殖生物と一体化してるんだ」
「強殖生物……?」
「順に話そう。俺が何者なのか、どこから来たのかを」
晶は炭治郎に自身のこと、そして自身が未来から来たことを明かした。
「………………………………………………」
炭治郎の頭は半ばショートしていた。
「信じられないかもしれないが本当のことだ。俺は199X年、この時代の数十年先の未来から飛ばされてきた」
「み、未来にはすごいものが発明されているんですね………」
「……ユニット・Gは人類が造ったものじゃない」
「え、なら誰が……」
「俺にも詳しいことはわからない(俺でさえまだ信じられないのに、降臨者のことを言っても通じるわけないもんな)」
「………………………………」
「………………………………」
二人の間に沈黙が流れる。
「でも、ありがとうございました。晶さんのおかげで助かりました」
「この時代に来て初めて会ったのが炭治郎だからな。俺も死なせるわけにはいかなかった」
「晶さん……」
炭治郎は微笑んだ。
すると二人の頭上から、二日目を告げる声が響いた。
「そういえば、炭治郎は試験の最中だったな」
「あはは……そうでした」
二人は笑いながら藤の花園まで歩いた。
「俺はここまでだ。生きていたらまた会おう」
「でしたら、七日後に藤襲山麓で落合いましょう。その間は……」
「それは我々が請け負いましょう」
「?」
晶が振り向くと、二人の女の子が立っていた。
「深町晶様ですね?」
「あ、ああ。君たちは?」
「私たちは最終選抜の試験官だと思っていただければ」
「そ、そうか……って何で俺の名前を!?」
「藤襲山全域に目を放っております。深町晶様が変身なされたことも報告済みです」
「な………」
晶は硬直した。
女の子はふふっと笑った。
「何も取って食おうということではありません。あなたを鬼殺隊の本部へとお連れしたいのです」
「本部に?」
「もちろん強制ではありませんが、断る理由はないと存じます」
(確かにそうだが、信用できるのか……?)
「あ、あの……」
迷う晶を見かねた炭治郎が手を挙げた。
「何か?」
「俺の育手の鱗滝さんの所ではダメですか?」
「ふむ……」
「元水柱様の元へなら理由は何とでもなりましょう。深町晶様はよろしいでしょうか?」
「ああ、それで良いよ」
「ではこちらへ。竈門様も後六日頑張ってください」
「わかった。晶さん、狭霧山で会いましょう」
「ああ。先に行ってるよ」
晶は女の子たちの手引きで、鱗滝のいる狭霧山へ向かうことになった。
次回、鱗滝さんと禰豆子に会います。
鬼滅の規格外品こそこそ話
前回炭治郎が倒した上半身から腕が何本も生えた鬼を手鬼はパクり野郎とめちゃくちゃ嫌っているぞ!