鬼滅の規格外品   作:ボルトメン

20 / 36
第拾玖話

「では本日より、機能回復訓練を開始いたします」

 

蝶屋敷に運び込まれて数日後、怪我がある程度癒えてきた炭治郎と伊之助は蝶屋敷内の訓練場に呼び出されていた。

 

訓練場にはアオイとカナヲ、なほきよすみが待っていた。

 

「機能回復訓練、ですか?」

 

「はい。お二人が鬼殺隊士として前線に復帰するために行われる訓練のことです」

 

「いったい何をしようってんだ?」

 

「それを今から説明します。まず、あそこに敷いた布団の上であの子たちの手を借りながら柔軟。寝たきりになって硬くなった筋肉をほぐしていきます」

 

「なるほど」

 

「柔軟が終わればいよいよ訓練に移ります。まずは反射訓練」

 

アオイはカナヲのいる場所に目をやる。

 

カナヲの目の前にはいくつもの湯飲みが置いてあった。

 

「湯飲みの中には薬湯が入っています。お互いに薬湯をかけ合うのですが、湯飲みを持ち上げる前に相手から湯飲みを押さえられた場合は湯飲みを動かせません」

 

「はっ!楽勝じゃねぇか」

 

伊之助は鼻を鳴らす。

 

「最後は全身訓練です。端的に言えば鬼ごっこです。お相手は私アオイとカナヲが務めます」

 

「鬼ごっこか……やってやるぞ」

 

炭治郎はやる気を露にした。

 

「では、さっそく始めましょう」

 

アオイの一言から、機能回復訓練が始まった。

 

 

 

「大丈夫なんですか、あの二人」

 

庭を箒で掃いていた晶はカナエに話しかける。

 

「炭治郎君たちには悪いけど、そんな甘いものじゃないわ」

 

「まあ、カナヲさん相手じゃキツいか」

 

「そうね。身内贔屓じゃないけど、今の炭治郎君たちじゃ敵わないでしょうね」

 

「同期らしいですけど、何が違うんですかね?」

 

「〝常中〟を身につけているかどうかの差ね」

 

「常中?」

 

「全集中の呼吸を四六時中行っている状態のことよ。しのぶや義勇君を含めた柱は全員身につけているわ」

 

「それをカナヲさんが……?」

 

「あの子には呼吸の才能があったのよ。私以外の柱の継子になっていても大成するほどに」

 

「頑張れよ、炭治郎、伊之助……」

 

晶は友の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

「それはそうと晶君、大人しめかと思ったらなかなか大胆なのね」

 

庭掃除が終わり、休憩していたカナエは晶に話しかける。

 

「は?」

 

晶は冷たい水を口に含んだ。

 

「夕べ、しのぶと抱擁したでしょ?」

 

「!?」

 

晶はおもいっきりむせた。

 

「ゲホッ、ゲホッ!カ、カナエさん……!」

 

「ふふ、しのぶもしのぶよね。もしそれでも晶さんの心の傷が痛むなら、私に処置をさせてください、だもの♥️」

 

「見てたんですか……?」

 

「偶然見ちゃった、と言った方がいいわね」

 

「はあ………」

 

晶はため息をついた。

 

「……でも、良かったわ。しのぶがそんな風になってくれて」

 

「え?」

 

「鬼殺隊に入ってから、あの子が本心から笑うなんてことなかったもの」

 

カナエは寂しそうな表情を浮かべた。

 

「私たちね、両親を鬼に殺されているの」

 

「え!?」

 

「二人ぼっちになったところを悲鳴嶼さんに助けてもらって、そのまま鬼殺隊に入ったの。私だけで良かったんだけど、しのぶは頑として引かなかったわ。絶対に許さないって言ってね」

 

「……………………」

 

「その後最終選別で生き残って、任務をこなして柱にまでなって、後は晶君に話したとおりね」

 

「そんなことが……。そういえば、しのぶさんも一緒に柱になったんですか?」

 

「ううん。しのぶは私の引退と同時に蟲柱に就任したの。でも鬼殺隊に入ってから、本心から笑うことはなくなったわ。夕べまではね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「お二人とも」

 

「「!?」」

 

急に底冷えするような声が聞こえ、晶とカナエはゆっくりと振り返った。

 

そこには目が全く笑ってないしのぶが立っていた。

 

「そこに直りなさい」

 

「し、しのぶさん?何時からそこに──」

 

「そこに直りなさい」

 

「はい………」

 

晶は即座に観念した。

 

「いっけな~い!溜まってた仕事が──」

 

「そこに直りなさい」

 

「し、しのぶ?怖いわよ……?」

 

「そこに直りなさい」

 

「はい………」

 

カナエは観念した。

 

その後二人はしのぶに説教され、特にカナエは滅茶苦茶怒られた。

 

「………………………」

 

その様子を陰で見ていたアオイは絶対に口外しないことを誓った。

 

 

 

「まったく!姉さんったら!」

 

しのぶはプンプン怒りながら瓢箪を吟味していた。

 

「晶さんもあのことは忘れること!いいですね!?」

 

「わ、わかりました……」

 

晶は首を縦に振るしかなかった。

 

「でも、カナエさんとしのぶさんにそんな過去があるとは思いもしませんでした」

 

「まあ私はともかく、姉さんはそうは思いませんよね」

 

しのぶは吟味し終えた瓢箪を置き、晶の隣に座った。

 

「姉さんの言うとおり、私は本心から笑うことが出来なくなっているのかもしれません」

 

「しのぶさん……」

 

「私は今でも許せません。優しい両親を殺し、喰らった鬼を。その存在を」

 

しのぶは空を見上げた。

 

「鬼殺隊に入った時から、鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見る度に、絶望の叫びを聞く度に私の中で怒り蓄積され続け膨らんでいきました」

 

「………………………」

 

「ですが、少し疲れてきました」

 

「………………………」

 

「晶さんや炭治郎さんが自分の変わりに頑張ってくれていると思うとホッとします。気持ちが楽になります」

 

「それは、当たり前のことだと思います」

 

「え……?」

 

「しのぶさんは今まで頑張ってきたんですよね。お姉さんが柱だった時も、引退なされた後も」

 

「……はい」

 

「本当に疲れて辛くなったら、いつでも言ってください」

 

「晶さん……」

 

「それとも、俺じゃ頼りないですか……?」

 

「!」

 

しのぶは俯いた。

 

「………イです」

 

「しのぶさん?」

 

「ズルイです………そんなこと言われたら…………」

 

「す、すみません。生意気なこと言って……」

 

「い、いえ……いいんです……」

 

しのぶは晶と逆の方向を向いた。

 

「あ、もうそろそろお昼ですね。アオイたちに声をかけててください」

 

「わかりました」

 

「ではお願いします」

 

しのぶは台所へと向かった。

 

「………俺も行くか」

 

晶は頭を数回振り、訓練場に向かった。

 

 

 

「これはまた………」

 

「「…………………………」」

 

訓練場にきた晶が見たのは身も心もボロボロになった炭治郎と伊之助だった。

 

「いったい何があったんだ?」

 

「結論を言えば、二人ともダメダメ。特に全身訓練は時間だけが過ぎていくだけだったわ」

 

「なるほど……」

 

「まあ、私の時は惜しいところまではいったんだけど、カナヲに変わってからは……」

 

「惨敗?」

 

「はい」

 

「イイヨ……ドウセ俺ナンテ………」

 

「諦めるな伊之助………」

 

伊之助はネガティブが再発し、炭治郎は絞るような声で慰める。

 

「とりあえず、お昼ご飯食べてから仕切り直せよ。半日ぶっ通しは良くないだろうし」

 

「まあ、初日だから大目に見ますけど、明日以降は厳しくいきますからね」

 

「「…………………………」」

 

炭治郎と伊之助の気力は削られた。

 

「……頑張れよ………」

 

 

 

数日後、善逸が起き上がれるようになった。

 

晶は怯える善逸を引っ張りながら、訓練場にやって来た。

 

「じゃ、俺は洗濯と掃除があるから。頑張れよ」

 

「え!?晶さんもやるんじゃ………」

 

「俺は正規の鬼殺隊じゃないからな。第一、機能回復訓練はお前ら三人のための訓練だからな」

 

「だ、だってあの二人何も言わないんすよ!?炭治郎だけならともかく伊之助まで!」

 

「受けてみればわかるさ。じゃあ、行くわ」

 

「うううう………行かないでよおぉぉぉっ」

 

善逸は泣きべそをかきながら訓練場に入った。

 

その数分後、聞くに堪えない暴論が蝶屋敷中に広がった。

 

 

 

「善逸が?」

 

翌日、晶はアオイの愚痴を聞いていた。

 

「はい。柔軟で笑い続けるわ、気持ち悪い顔で気持ち悪いことを連発するわ、どさくさ紛れに体を触ってくるわ。あの子たちの教育に悪すぎるわ!」

 

(善逸………)

 

あまりにあんまりな内容に晶は頭を抱えた。

 

「……伊之助と炭治郎は?」

 

「つられたかどうかはわかりませんが、伊之助さんはやる気を出しています。炭治郎さんは遅れていますがコツコツと前に進んでいるわ」

 

「そっか……。それでカナヲさんとは?」

 

「……………………」

 

アオイは黙って首を横に振った。

 

「カナエさんも言ってたけど、そこまでの差があるのか……」

 

「常中を身につけていれば身体能力も並の隊士とは一線を画すほどになるわね」

 

「なら、炭治郎たちもその常中を身につけるのが最優先になるのか。簡単にはいかないんだろうけど」

 

「確かに並大抵の努力じゃ無理ね。今の訓練で音を上げているようじゃ尚更よ」

 

「やっぱり難しいんだな」

 

「簡単にできるものじゃないもの」

 

 

 

さらに数日後──

 

「善逸と伊之助がさぼってる?」

 

洗濯をしていた晶はアオイに近況を聞かされた。

 

「善逸さんと伊之助さんは開き直ったりふて腐れたりで昨日から来てないわ。炭治郎さんは毎日来ているけど」

 

「常中の件、炭治郎だけでも何とかならないのか?」

 

「そうね………」

 

アオイは瓢箪を取り出した。

 

「これを吹いて破裂させるくらいにならないと」

 

「こ、これを……?」

 

晶は瓢箪をコンコンと叩く。

 

「ちなみにカナヲは一抱えくらいの大きな瓢箪を吹いて破裂させることができるわ」

 

「マジか………」

 

晶は改めてカナヲの才能に驚かされた。

 

「ま、無理だと思うけど、勧めてみたらどう?」

 

「それなら心配いらない」

 

「「え?」」

 

晶とアオイが振り返ると、カナヲが立っていた。

 

「カナヲ……」

 

「心配いらないって、炭治郎に勧めたのか?」

 

「はい。あの二人はともかく、炭治郎なら大丈夫です」

 

カナヲは微笑みながら言った。

 

「それになほちゃんときよちゃんとすみちゃんも炭治郎に協力しているみたいです」

 

「そうか」

 

「後、晶さん。カナエ姉さんが呼んでいます」

 

「カナエさんが?わかった。アオイさん、ちょっと行ってくるよ」

 

「わかったわ」

 

晶はカナエの部屋に急いだ。

 

 

 

「カナエさん」

 

「あ、晶君待ってたわ」

 

カナエは笑顔で待っていた。

 

「さっそくなんだけど、晶君にやってもらいたいことがあるのよ」

 

「やってもらいたいこと、ですか?」

 

「善逸君と伊之助君に明日にでも灸を据えてほしいのよ」

 

「あの二人にですか?」

 

「実はね、近所で噂になってるの。金色の髪の毛の人が女の人に手当たり次第に声をかけているって」

 

「あのバカ……」

 

「それと、近くの山で畑仕事をしてたら棒を持った猪に追いかけられた人もいるそうよ」

 

「……………………………」

 

晶はもう何も考えたくなかった。

 

「だからね、晶君。君に頼みたいのよ」

 

「……しのぶさんじゃダメなんですか?」

 

「あいにく、今夜から任務が入っているのよ」

 

「それに客将とはいえ、俺は鬼殺隊に籍を置いています。確か隊士同士の私闘は禁止されてるんじゃ……」

 

「大丈夫。御館様から許可は得ているわ。もちろんカナヲとアオイも陰で見張ってもらうから」

 

「……わかりました」

 

「ごめんね。変なこと頼んで」

 

「構いませんよ。それと連帯責任じゃないですけど、ついでに炭治郎も加えましょう」

 

「わかったわ。炭治郎君もあの二人より半歩前に進んでいるでしょうから、少しは刺激になると思うし」

 

「決まりですね」

 

「それじゃ、今夜起こしに行くから」

 

「明日って……そういうことですか………」

 

「思い立ったら吉日よ。それとアオイとカナヲには私から伝えておくから」

 

「わかりました」

 

晶はカナエとの話を終えた。

 




次回、かまぼこ隊VSガイバーⅠ



鬼滅の規格外品こそこそ話

晶とカナエさんが話している間、しのぶさんは気が気じゃなかったぞ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。