「うっ!」
隣の車両に行こうとした炭治郎は鬼の濃い臭いに顔をしかめた。
【どうした、炭治郎】
「はい!凄く濃い臭いが……!」
「煙と一緒に鬼の臭いが流れてきたのね?」
「ええ……やはり先頭車両にいるようです!」
【そうか……ならここは………】
「晶さん、上は俺が行きます!」
炭治郎は屋根に飛び移った。
「炭治郎君……!」
「中はお任せします!」
炭治郎は先頭車両へと走って行った。
【仕方ありません。車両の中は俺が。甘露寺さんは禰豆子ちゃんと──】
「大丈夫」
蜜璃は刀身が鞭のようにしなやかな日輪刀を抜いた。
「甘露寺さん……」
「私も柱の端くれだもの。それに禰豆子ちゃんも一緒だもんね~」
蜜璃は禰豆子を抱き寄せた。
「ムー!」
禰豆子もやる気を見せた。
【わかりました。じゃあ行きましょう!】
「おー!」
「ムー!」
ガイバーⅠたちは隣の車両へと入って行った。
「やあ、おはよう。どうしたんだい?まだ寝てて良いのに」
(こいつが……!)
炭治郎は鬼と対峙していた。
「せっかく良い夢を見せてやっていたでしょう?それとも両親が惨殺される悪夢がお好みかな?」
「まあ、本当は幸せな夢を見せた後で悪夢を見せてやるのが好きなんだけどね」
「……………………」
「おっと。一応、自己紹介しておこうか。俺は十二鬼月・下弦の壱、厭夢」
(十二鬼月……!?)
炭治郎は厭夢の目を見た。
そこには、下弦壱とあった。
「さっきも言ったとおり、俺は幸せな夢の後に悪夢を見せるのが好きなんだ。人間の絶望に歪んだ顔が堪らなくてね、不幸に打ち拉しがれて苦しんでもがいてる奴を眺めてると楽しくてしょうがないんだ」
「人の……」
「?」
「人の夢の中に土足で踏み込むな……!」
炭治郎は日輪刀を抜いた。
「俺はお前を許さない!今まで言いなりになってきた人たちに代わってお前を討つ!」
(あれって……)
厭夢は炭治郎の耳飾りに注目した。
(そうかぁ……あの方が言ってた花札の耳飾りの鬼狩りはこいつかぁ。俺にも運が向いてきた。下弦狩り諸とも殺せばもっと血がもらえる。そしてもっと強くなって上弦との入れ替わり血戦に申し込めるぞ……)
厭夢は野望の笑みを浮かべた。
「全集中・水の呼吸 拾ノ型・生生流転!」
炭治郎は厭夢を斬るべく、構える。
「ここは確実に。血鬼術・強制昏倒催眠の囁き!」
厭夢の手の口が炭治郎に眠れと囁いた。
だか炭治郎は眠らなかった。
(どうなっている?こいつには効かないのか?)
厭夢は念のため、血鬼術の範囲を広げた。
すると、自身が手駒にしていた男性が昏倒した。
(なぜこいつには効かない?いや、効いている。そうか、既に対策済みか)
厭夢の推測通り、炭治郎には効いていた。
ただし、炭治郎はその度に夢の中で自害することで夢から覚めていた。
(なら……!)
痺れを切らした厭夢は炭治郎に悪夢を見せた。
だがそれは悪手だった。
「俺の家族が!そんなこと言うわけないだろ!」
炭治郎の怒りに火がついた。
「俺の家族を!侮辱するなァァァっ!!」
炭治郎は怒りと共に、厭夢の頸をはねた。
【はあっ!】
「恋の呼吸 壱ノ型・初恋のわななき!」
ガイバーⅠと蜜璃は襲いくる鬼たちを次々に撃破していた。
(血鬼術・爆血!)
禰豆子は乗客同士が繋がっている縄を焼き切る。
【はあ……はあ……どれだけ乗っているんだ……?】
「先頭車両に近づくにつれて多いような……」
「ムー」
「あ、そっちは終わったのね。ご苦労様」
「ムー♪」
禰豆子は蜜璃に撫でられ、笑顔になった。
【ふふ………!?二人とも、下がって!】
ガイバーⅠは車両の異変に気づいた。
車両内に肉の塊のようなものが侵食を始めた。
「これって!?」
【まさか……!】
「そう……そのまさかさ」
ガイバーⅠらの足元に、手首が落ちてきた。
「鬼……!?」
「俺は厭夢。十二鬼月・下弦の壱さ」
【十二鬼月……!】
「やあ、下弦狩りに柱。会えて嬉しいよ」
【会いたくなんかなかったけどな。それより炭治郎はどうした!?】
「耳飾りならまだ先頭車両さ。それより、聞きたいことがそれで良いのかい?」
「それもそうね。これはいったい何!?」
「これらのは全て俺だよ。君たちが話している手首も手首の形であって俺の手首じゃない」
【……列車と融合したんだな?】
ガイバーⅠは手首を睨みつける。
「正~解~!この列車の全てが俺の血となり肉となり骨となった。つまり……分かるよね?」
「乗客全てが人質……!?」
「そして俺をさらに強化させる餌さ。君たちに守りきれるかい?この列車の端から端までうじゃうじゃいる人間たち二百人以上を。俺におあずけさせられるか──」
【失せろ】
ガイバーⅠは威力を上げたヘッドビームで手首を撃ち抜いた。
「深町さん……」
【えらいことになりました。俺はこのまま先頭を目指します。二人は急いで後方に向かってください】
「わかったわ!」
【禰豆子ちゃん、術を使って縄とあのぶよぶよを焼き払うんだ。出来るね?】
「ムー!」
禰豆子は気合いを入れた。
(深町さんの苦境にも怯まない姿勢、素敵だわ……!)
【甘露寺さん?】
「ううん、何でもない。深町さんも気をつけて」
【はい!】
ガイバーⅠは炭治郎と合流すべく動き出した。
「はっ!」
一方、杏寿朗はようやく目を覚ました。
「俺たちは全員寝ていたのか………」
杏寿朗は目頭を押さえる。
「おそらくこれは血鬼術……どうやって解かれた逃れずはわからんが」
杏寿朗たちの足元に切符の燃えカスがあったが、気づかなかった。
「そういえば甘露寺に深町、竈門兄妹がいない。もしや……出遅れたのか?」
杏寿朗は愕然となった。
「なんたることだ!敵の策略に嵌まって眠りこけるとは!穴があったら入りたい!だがそんな暇はないようだ!」
杏寿朗は日輪刀を抜き、乗客に取りついた肉塊を斬っていく。
「お前たちも起きろ!」
刀の鞘で善逸と伊之助の頭に一撃を入れた。
「ふがっ!?」
「んがっ!?」
「やっと起きたか!」
「ほ、炎柱様………って!何この気持ち悪ぃの!?」
善逸は肉塊を直視したことで完全に眠気が吹き飛んだ。
「おそらく鬼の一部だ!この様子では列車全体に及んでいる!」
「そういや文太郎たちはどこだ!?」
「既に動いているはずだ!俺たちが眠りこけてる間にな!」
「くそぉぉぉっ!俺を差し置きやがって!」
伊之助は天井を斬り裂き、先頭車両へと向かって行った。
「はっはっは!元気が良いな觜平隊員は!我妻隊員も続け!」
「………………………」
善逸は失神していた。
「………仕方ない!ここにいろ!」
杏寿朗は日輪刀を手に、前の車両へと向かおうとした。
「っ!あれは……!」
杏寿朗の視線の先には、肉塊に拘束された禰豆子と蜜璃がいた。
「甘露寺!竈門妹!」
「煉獄さん!」
「動くなよ!今すぐ……!」
言い終わるか言い終わらないうちに、杏寿朗の横を何かが駆け抜けた。
「全集中・雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃」
「え………」
二人を拘束していた肉塊は細切れにされた。
「えっと……確か我妻君……?」
蜜璃の前にいたのは善逸だった。
「禰豆子ちゃんと甘露寺さんは俺が守る……!」
「見事だ、我妻少年……!」
「守るっ……フガフガ……zzz………」
善逸はそのまま寝た。
「???」
杏寿朗の思考は暫し止まった。
「我流・獣の呼吸 伍ノ型・狂い裂き!」
ガイバーⅠ、炭治郎と合流した伊之助は暴れ回っていた。
「間違っても乗客は斬るなよ!」
「ったりめぇだ!俺様がそんなヘマするかよ!」
伊之助はさらに加速した。
【もう少しだ炭治郎!】
「はいっ!」
ガイバーⅠと炭治郎も鬼や肉塊をなぎ払いながら先頭車両へと急ぐ。
「行かせるか!」
「喰ってしまえ!」
三人を行かせまいと、鬼たちが立ちはだかった。
「「【邪魔だ!】」」
鬼たちは瞬時に斬られた。
最後の妨害を突破し、三人は先頭車両に到着した。
「な、何だお前らは!?で、出ていけ!」
運転士は遮ろうとしたが、伊之助に突破された。
「下だ!真下にいるぞ!」
「わかってらぁ!」
伊之助は床を十字に斬った。
「晶さん!」
【ああ!】
ガイバーⅠは床をめくり上げた。
そこには、頸の骨のがあった。
「後はこいつをなんとかするだけだな」
「なら……捌ノ型・滝壺!」
炭治郎は日輪刀を叩きつける。
「っ!?」
だが肉塊に防がれた。
【まだこんなにいたのか!しかも再生が速い!】
「なら伊之助!呼吸を合わせて連撃だ!どちらかが肉を斬ってすかさず骨を断つんだ!」
「おおよ!」
二人は動きだそうとした。
「強制昏倒睡眠・眼」
肉塊に宿る厭夢が血鬼術を発動した。
「っ!?晶さん!伊之助!夢の中で首を斬るんだ!」
炭治郎は血鬼術の対処法で覚醒した。
だが続けざまに血鬼術にかかった。
(覚醒しろ!早く首を斬って覚醒するんだ!早く首を……)
【馬鹿野郎!】
ガイバーⅠが首を斬ろうとした炭治郎を止めた。
【しっかりしろ!これは夢じゃなくて現実だ!】
「しょ、晶さん!?」
【俺と伊之助はどうやら効かなかったみたいだ】
「グワハハハハ!俺は山の主の皮を被ってるからな!恐ろしくて目も合わせられねぇんだろ!」
(そうか!晶さんも伊之助も素顔が覆われているから視線を合わせづらいんだ………ハッ!)
炭治郎は、運転士が伊之助を刺そうとしているところを見た。
「夢の邪魔をするなっ!!」
【っ!】
ガイバーⅠが盾になった。
運転士の持った錐はガイバーⅠの腹部に刺さった。
【どこまでも……救えないな………】
「晶さん!!」
【夢に耽って、現実から目を背けて………アンタ終わってるな】
「う、ううう………」
ガイバーⅠから怒りの視線に臆した運転士はがくりと膝をついた。
「大丈夫ですか!?晶さん!」
【大丈夫だ。それより運転士さんを連れて離れてくれ。俺は……】
ガイバーⅠは周りを見渡した。
【聞こえているか、元下弦の壱!】
ガイバーⅠは聞こえるように叫んだ
「元じゃない………俺は下弦の壱だよ」
肉塊に宿る厭夢は顔を出した。
【人を夢で釣って楽しいか?】
「もちろんだとも。それより君だって夢を見たんだろう?楽しい楽しい夢をさ】
【……そうだな。死んだ父さんと一緒にいられる夢だ】
「ほうほう。それはささやかながらも楽しい夢だねぇ。この夢が永遠に見られるんだよ?どうだい?もっと見てみたくないかい?」
【もっと、か……それなら返事は………】
「だ、だめです晶さん!そんなこと……」
【断る、だ】
ガイバーⅠは床をめくり上げた。
【言葉だけ聞けばそれは幸せに聞こえるんだろうな。でも俺にとっては、悪夢そのものなんだよ】
「は…………?」
厭夢は思わず呆気に取られた。
(晶……さん………)
【だが礼は言わせてもらうよ。ありがとう、父さんに合わせてくれて】
ガイバーⅠは先頭車両の屋根に上がる。
【そして消えろ。このクソ野郎】
「な゛……」
ガイバーⅠは高周波ブレードを構える。
【決めるぞ、炭治郎、伊之助!】
「はい!」
「おおよ!」
炭治郎と伊之助も日輪刀を構える。
「まっ……!!」
炭治郎と伊之助がそれぞれ捌ノ型と弐ノ型を繰り出し、ガイバーⅠは先頭車両もろとも厭夢の頸を斬った。
「ギャッ……ギャアアアアッ!!!」
頸をはねられた厭夢は凄まじい断末魔の悲鳴を上げ、その余波はかなりの揺れを出した起こした。
「ヤバい!のたうちまわってやがる!」
「乗客を守るんだ!それとこの人も頼む!」
「あ゛あ゛!?冗談じゃねぇ!鬼の手先みてぇなもんだろが!」
「このままじゃこの人は殺人犯になってしまう!誰も死なせたくないんだ!」
「んなこと言ってる場合じゃ……どわっ!?」
「うわあああっ!!」
列車は横転し、炭治郎らは投げ出された。
【……朗……炭治郎………!】
「おい!三太郎!」
「う…………」
炭治郎はゆっくりと目を開けた。
【気がついたか!】
「晶……さん………」
【どうやらあの肉塊がクッションになって衝撃が和らげられたみたいだ。怪我人こそ多いけど、死人は一人も出なかったよ】
「そう……ですか、良かった。あの運転士の人は……?」
【さっき助け出したよ。ただ、左足が下敷きになってしまったから、運転士を勤められるかはわからない】
「それでも……死ななくて良かったです。罰ならもう十分に受けたはずです」
【そうだな……】
「うぐぐぐ…………」
「「【!?】」」
三人は苦しむ声を聞いた。
「今のは!」
「あいつだ!」
【っ!あそこだ!】
ガイバーⅠの視線の先には、今にも崩れそうな厭夢がいた。
「あの野郎!止めを──」
「その必要はない。もう消える」
【……せめて、最期くらい看取ってやろう】
ガイバーⅠたちは厭夢を見つめる。
(見るな……俺を見るな……!ああ、なんということだ……!あんなガキどもに哀れまれるなんて………なんという惨めな……悪夢……だ………)
厭夢は消滅した。
この瞬間を以て、下弦は全滅した。
「ちょうどあいつも来たぜ」
列車後方から杏寿朗たちが走って来た。
「全員、無事か!?」
「おう!元気いっぱいだ!風邪もひいてねぇ!」
「それは良かった!それより……」
杏寿朗は炭治郎たちを見下ろす。
「三人がかりとはいえ、十二鬼月を葬るとは見事だ。竈門炭治郎隊員、嘴平伊之助隊員、そして深町晶。君たちはよくやってくれた」
【煉獄さん……】
「特に竈門隊員!常中を身につけているとは感心感心!このまま呼吸を極めれば様々なことができるようになる。何でもできるわけではないが、昨日の自分よりも確実に強くなれる」
杏寿朗は微笑んだ。
「俺もか!?」
「勿論だ!」
「よっしゃーっ!」
伊之助は意気込んだ。
【列車内はどうでした?】
「ああ。今まで言いなりになっていた人たちは見ていて哀れになるほど沈んでいてな。甘露寺らに当たる者もいた」
【そうですか……】
(だから列車から悲しみの匂いが……)
「だが、彼らも間違っていたことも理解しているようだ。後は時が癒してくれるだろう」
杏寿朗は列車を一瞥し、炭治郎らに向き直る。
「さあ、後始末は隠に任せて君たちは──」
【煉獄さん!!】
その瞬間、近くに何かが飛び込んで来た。
次回、婀窩座との死闘です。
鬼滅の規格外品こそこそ話
煉獄さんは善逸の技を眠ることが発動条件だと完全に信じ込んでいるぞ!