「カアッ!カアッ!御館様ヨリ伝令!」
『ッ!』
顎人来訪から数日後、蝶屋敷に松衛門が飛んできた。
「新たな任務か?」
「カアッ!晶ハスグニ御館様ノ元ニ向カエッ!」
「俺?」
「なんでしょう?つい先日呼ばれたばかりなのに」
「とにかく、行ってみます」
晶は身支度を整え、待っていた隠と共に産屋敷家に向かった。
「おはようございます、産屋敷さん」
「おはよう。すまないね、何度も呼び出してしまって」
耀哉は晶に詫びた。
「いえ、お世話になってるんですからこれくらいなんでもないです」
「ありがとう。早速なんだけど、君に頼みたいことがあるんだ」
耀哉が目をやると、娘のひなたが二通の手紙を持ってきた。
「これは?」
「先日言った、全員鍛練をやる上で二人ほど応援を頼みたくてね。元水柱と元鳴柱に宛てた手紙なんだ」
「元水柱というと、鱗滝さんですね。その鳴柱というのは?」
「呼吸の基本の内の一つ、雷の呼吸を極めた者のことだよ。善逸の育手にあたる人だね」
「なるほど」
晶は頷いた。
「他の柱はそれぞれの任務に就いていて、頼めるのが晶しかいなかったんだ。どうか頼まれてくれないか?」
「承りました。任せてください」
晶は笑みを浮かべた。
「すまない。こんな雑事を」
「気にしないでください。俺も一応、鬼殺隊の一員ですから」
「晶……」
「では行って来ます」
晶は隠と共に産屋敷家を出た。
「………………………」
耀哉は晶の背中を見送っていた。
「あなた、深町さんをずいぶんとお気にめしたのね」
「そうだね」
耀哉は微笑んだ。
「あまね……」
「はい?」
「私はいつ死んでも構わないと思っていた。たとえこの身が滅んでも、剣士たちが鬼舞辻を倒してくれると信じている。だけどね……」
耀哉は両手を見つめた。
「最近になって、もっと生きたいと思うようになってしまったんだ……」
「あなた……」
「鬼舞辻無惨を歴史から永遠に消し去る、誰も出来なかった偉業を成し遂げた晶の言葉にどれほど感動したことか」
「私は見てみたい。晶や皆が産屋敷家千年の呪いを解いてくれる瞬間を」
「それでいいんです……」
あまねは後ろから耀哉を抱きしめた、
「あまね……」
「定めとはいえ、夫が苦しんでいる姿は見たくありません。もっとあなたと共にいたい……!」
「ああ、そうだね」
耀哉は空を見上げた。
(晶……頼んだよ)
「そうか。それでここに」
一方の晶は狭霧山の鱗滝の住処に来ていた。
「それにしても、下弦の大半を討伐するとはな。凄まじいものだ」
「ありがとうございます。鱗滝さんの修行を受けてなければ、こうはならなかったでしょう」
「ふっ。それで、儂に一肌脱げと仰せか」
「はい。鱗滝さんの時も全員での鍛練はなかったんですか?」
「一口に呼吸と言っても、性質が違う。流れるような攻防一体の水と、先手必勝に長けた雷ではな。派生した流派ではもはやわからん」
「呼吸じゃなくて身体能力、とかですかね?」
「まあ、それなら何とかなるだろう。炭治郎に叩き込んだやり方でいいならな」
「柱主導ですから、良いんじゃないですか」
「他人事のようだがお前も受けるのだぞ?」
「……ですよね」
晶は肩を落とした。
「……ところで晶」
「はい?」
「おかしいとは思わんか?」
「何がですか?」
「水柱なら既に義勇がいる。なぜ儂に頼むのか」
「あ、そういえば……」
「御館様も分かっておいでではあろうが」
「どういうことでしょう……?」
「おそらく……」
突如、ガラッと戸が開いた。
「俺は柱じゃないからだ」
そこには義勇が立っていた。
「富岡さん……」
「どうした、急に」
「近くで鬼の住処があったと指令を受けたので」
「そうか……」
鱗滝は頷いた。
「それより、富岡さんは水柱じゃないってどういう?」
「言葉の通りだ。俺は柱じゃない」
「いや、だから理由を聞いてるんですが……」
「…………………」
「富岡さん?」
「まあ待て。奥の部屋が空いている。そこで寝ろ」
「……世話になります」
義勇は奥の部屋へと向かった。
「さっきはすまん」
夕食を終え、布団を敷いていた晶に義勇は詫びた。
「いえ、俺の方こそすみません」
「……………………」
「……………………」
そのまま無言が続いた。
「……聞かないのか?」
「何がです?」
「いや………」
「誰だって話したくないことはありますよ」
「そうか………」
義勇は胡座をかいた。
「……錆兎という男がいた」
「錆兎……?」
「本当なら、あいつが柱になるべきだった」
義勇は遠くを見つめた。
「剣も才能も、あいつの方が上だった」
「……………」
「深町」
「?」
「俺は藤襲山で一人も鬼を倒していない」
「え?」
「最終選別のあの日、山にいた鬼は全て錆兎が倒し、俺はただ守られていただけだった。俺は鬼の一撃をくらい、気絶していただけだった」
「富岡さんが……」
「そして七日目、錆兎は鬼に喰われた」
「……手鬼、ですね」
「最終選別が終わり、死んだのは錆兎だけだった」
「……………………」
「わかっただろう。俺は柱ではない。柱に相応しくない」
「ならどうして辞めなかったんです?」
晶は義勇の目を見ながら言った。
「責任を感じるなら、辞めるのが普通では?」
「それは……」
「錆兎さんの分も背負うためじゃないんですか?」
「……………………………」
義勇は晶に背を向け、布団に入った。
「……お休みなさい」
晶も布団に入り、明かりを消した。
「…………………………………」
陰で聞いていた鱗滝は、なぜ弟子の想いに気づけなかったのかと悔やんでいた。
翌日、晶は鳴柱に会うために出発の準備を進めていた。
ちなみに義勇は晶よりも先に出た。
「それにしても鳴柱か」
「ご存知なんですか?」
「桑島慈五郎。おそらく、育手の中では最年長だろう」
「鱗滝さんより年上ですか……」
「現役時代はかなりの腕だった。下弦を含めた数人の鬼を一度に倒したという」
鱗滝は懐かしそうに言った。
「凄い人なんですね……!」
「だが腕利きの隊士は優れた育手にはなれぬもの。噂によれば、弟子の内の一人はどうしようもない博打好きだという。そしてもう一人は手紙にある通り壱ノ型しか使えないという」
「善逸本人から聞いたことがあります。兄弟子の方は壱ノ型以外全て修得したとか」
「ここまで両極端なのも珍しいのだがな」
鱗滝は腕を組んだ。
「それで、産屋敷さんの話は……」
「……断ろうと思う」
「鱗滝さん……」
「儂は既に柱どころか鬼殺隊も引退した身だ。やはり今の者たちが対処すべきだ」
「そうですか……」
「とはいえ、傍観を気取るつもりはない。それに禰豆子のこともある」
「それを聞いて安心しました。では、また」
「うむ」
晶は出発した。
「やはりか……」
鎹烏からの手紙を受け取った耀哉は納得していた。
「元水柱は参加せぬと?」
耀哉の警護を任されることの多い、行冥は問いかけた。
「そうだね。義勇の裁量に任せるとある」
「それにしても富岡にそのような事情が……」
「義勇が柱就任以前から何か抱えていたのは知っていた。おそらく、義勇にとって大きな壁だ」
「もし、その壁を越えた時、義勇は誰にも負けない剣士になるんじゃないかな」
耀哉は義勇の進化を半ば確信していた。
「地図だとこの辺りか」
晶は地図を頼りに、桑島が住む稲光山に来ていた。
「善逸の師匠……かなり厳しい人らしいけど」
しばらく歩いていると、晶は白髪の老人を発見した。
「あの人か?」
晶は声をかけようとしたが、老人の姿が消えた。
「消えた!?いや違う!」
晶はその場から離れ、後ろを向いた。
「ほう……少しは出来るな」
晶の目の前に、老人が木刀を構えていた。
「迷い人ではなさそうじゃな」
「さすがは元鳴柱ですね……」
「儂を知っておるような口ぶりじゃな。おぬしは?」
「申し遅れました、深町晶です。産屋敷さんからの使いで来ました」
「御館様の?そうか……おぬしがたまに聞く鬼殺隊の客将か」
老人は近くの岩に腰かけた。
「儂は桑島慈五郎。雷の呼吸を専門に育手をしておる」
「善逸の師匠にあたるんですね」
「!?深町とやら、善逸を知っとるのか!」
桑島は晶に迫った。
「ええ。知ってますよ」
晶は桑島に善逸と出会ってからのことを話した。
「はっはっは!そうかそうか!善逸も楽しくやっとるようじゃの!」
晶から話を聞いた桑島は愉快そうに笑った。
「しかし……あの怠惰で泣き虫で逃げ腰だった善逸がのう……」
「毎日毎日地獄の特訓だって言ってましたが……」
「その地獄の特訓からいつも逃げておったわい……」
桑島はため息混じりに頭を垂れた。
「そんなことだろうとは思ってました。ただ、俺が見てきた善逸はびくびくしながらも、立派に鬼狩りを努めてますよ」
「なるほどのう……」
桑島は頷いた。
「そういえば桑島さん、善逸の髪って珍しい金髪ですよね。あれは最初から?」
「あ~~、雷が落ちたんじゃ」
「は?」
晶はポカンとなった。
「修行から逃げようとして木に登って降りてこなくてなぁ。その時、善逸の頭に雷が落ちた」
「それで……あの髪の色に?」
「元々は真っ黒な髪じゃったが、あのような色になった」
「そうだったんですね……」
「それはそうと深町。御館様からの使いで来たと言ったな」
「はい。こちらになります」
晶は桑島に耀哉の手紙を渡した。
「ほう……」
桑島は手紙を開けて読み始めた。そしてゆっくりと閉じた。
「話はわかった。この老骨でよければ力を貸そう」
「桑島さん……!」
「善逸はもちろんだが、獪岳のこともあるのでな」
「もう一人の兄弟子という……?」
「うむ。壱ノ型しか使えぬ善逸と弐から陸ノ型しか使えぬ獪岳。二人を同時に後継者にと育てたのだ」
「でも、それはそれで問題があるんじゃ……」
「ああ……」
桑島は空を見上げた。
「もう一度、あの二人と向き合いたい。それだけなのかもしれんな……」
「桑島さん……」
「さて。そうと決まれば善逸に会いに行くとしよう。確か今は蝶屋敷におるんじゃな?」
「はい。炭治郎と伊之助、炎柱の煉獄さんの四人で修行してます」
「よしよし。少し待っていろ」
桑島は一度住処へと戻り、簡単な荷物を背負ってきた。
「では行こう」
「はい。あ、その前に」
晶は桑島から離れ、殖装した。
「おおっ!?」
【これが俺の力です】
「ううむ……長生きはするもんじゃ。なら修行だと思って儂を背負っていってもらおうか」
【分かりました】
ガイバーⅠは桑島を背負い、蝶屋敷に向けて出発した。
「ここか」
「ええ。すっかり遅くなってしまいましたが」
日はとっくに落ち、辺りは暗くなっていた。
「とにかく入りましょう」
晶は桑島と共に蝶屋敷に入った。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。まあ、鳴柱様!」
出迎えたカナエは桑島を見て頭を下げた。
「久しぶりじゃのう」
「カナエさんもご存知だったんですね」
「花柱就任の際にお会いしたきりだけどね。そっか、例の全員鍛練の件でお呼びしたのね」
「鱗滝さんは辞退されましたが」
「水柱か。もう十何年と会っとらんな。それより善逸は?」
「善逸君は先に休んでいますよ」
「ほほう。どれ、さっそく試してみるか」
桑島は草鞋を脱いで入って行った。
「大丈夫ですかね……」
「大丈夫よ。今は善逸君一人のはずだから」
「あ、そっちですか──」
その数秒後、汚い悲鳴が響きわたった。
「なんでジイちゃんがここにいるのさぁぁぁっ!!」
「お前の成長を見に来たに決まっとろうが!!」
「嫌だよ今日頑張ってくたくたなんだからぁぁぁ!!」
「諦めるな!!自分を信じて限界を突破してみせぃっ!!」
「だれかたすけてえぇぇぇぇぇっ!!!」
次回、煉獄家へと向かいます。
鬼滅の規格外品こそこそ話
御館様の中で桑島さんが来る確率は2割ほどで、本当に連れて来た晶への信頼度は爆上がりしたぞ!