鬼滅の規格外品   作:ボルトメン

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明けましておめでとうございます。


第弐拾玖話

煉獄家訪問から数日が経った。

 

傷がすっかり癒えた炭治郎たちは蝶屋敷を拠点に任務をこなしていた。

 

炭治郎は当初、前回と同様に移動しながら任務をこなすつもりだったが、善逸が強硬に反対し、なほきよすみの説得もあり蝶屋敷に留まることになった。

 

杏寿朗は実家に戻り、書物を読み漁りながら鍛練に励んでいた。

 

最初は父親の槇寿朗とぶつかることも多かったが、見かねた晶の説得により、多少なりとも軟化した。

 

そんなある日、炭治郎たちは煉獄家に招かれた。

 

 

 

「ヒノカミ神楽・円舞!」

 

炭治郎は杏寿朗らの前でヒノカミ神楽を披露した。

 

「これが炭治郎さんのヒノカミ神楽……!」

 

「むぅ………」

 

千寿朗は目を見開き、槇寿朗は腕を組んだ。

 

「どうですか?」

 

「うむ。初めて見たが、炎の呼吸に近いな。これを一晩中舞い続けるとは、驚嘆すべきことだ」

 

杏寿朗は微笑む。

 

「なんだろう……不思議な音がする……!」

 

「スゲェ!紋滋郎のやつ、こんなもん持ってやがったのかぁ!」

 

隣で見ていた善逸と伊之助は圧倒されていた。

 

「父上……」

 

「何も言うな」

 

槇寿朗は炭治郎を見つめる。

 

「確かにあの子は日の呼吸の剣士ではない。一人の鬼殺隊士だ」

 

「父上……!」

 

「杏寿朗……」

 

槇寿朗はゆっくりと立ち上がった。

 

「やはりお前は凄い奴だ。さすがは俺と瑠火の子だ」

 

槇寿朗は笑みを浮かべ、杏寿朗の頭に手を置いた。

 

「っ!……はいっ!」

 

杏寿朗の両目から熱いものが溢れた。

 

「そして千寿朗、お前も望むままに生きろ。虫がいいのは重々承知だが、今からでもお前が望むなら……」

 

「……いいえ。僕は剣士になるのを諦めます」

 

千寿朗は父を見ながら言った。

 

「千寿朗……」

 

「その代わり、秘伝書の修復のお手伝いをさせてください。兄上や炭治郎さんたちのためになることがしたいんです」

 

「そ、そんなことでいいのか……?」

 

「はい。僕も煉獄家の男子ですから……!」

 

千寿朗は毅然とした態度で父と兄に言った。

 

「そうか……!」

 

槇寿朗は千寿朗を抱き締めた。

 

「いつの間に大きくなったんだな……」

 

「父上……!」

 

千寿朗の目から涙が流れた。

 

「本当に……良かったですね、晶さん」

 

「うん……本当にな」

 

(氷が溶けていくみたいな音がする……)

 

(なんだ……このもやもや……?)

 

伊之助は胸に何かを感じた。

 

 

 

「改めて、礼を言うぞ。深町」

 

「礼なんて……むしろすみませんでした」

 

煉獄親子の完全和解を見届けた晶たちは杏寿朗と千寿朗とで、縁側で茶を啜っていた。

 

「何があったんです?」

 

「父上と俺が揉めた時、深町が出てきてくれてな。よもや父上の胸ぐらを掴むとは思わなかったが」

 

「ええっ!?」

 

「すみません……頭に血が上ってしまって」

 

「晶さんがそこまでするなんて……」

 

善逸は信じられなかった。

 

「親父さんが煉獄さんに対して「塵以下のお前に何が出来る。余計に泥を塗る気か、この恥晒しが」って叫んでな。気づいたら親父さんの胸ぐらを掴んでたんだ」

 

「そして深町は「それが父親の言う言葉かよ!奥さんに先立たれたか何だか知らないが、それが酒に溺れて暴言吐いて良い理由になんのかよ!あんた父親が何も言ってくれない気持ちが分かるのかよ!」と父上に一歩も引かなかったのだ」

 

「マ、マジすか……」

 

「後から話を聞いて腑に落ちました。晶さん、お父さんを亡くされていたんですね。家族の話をする時、晶さんから悲しみのような匂いがしてたんです」

 

「やれやれ、炭治郎の鼻はすごいな……」

 

晶は苦笑した。

 

「……確かに俺たちは幸せかも分からんな。形はどうあれ、父上が生きておられるのだから」

 

「父親、か……」

 

「…………………」

 

善逸と伊之助は空を見上げた。

 

 

 

「その後、父上と晶さんで掴み合いになって、最終的に父上が根負けしたんでしたね」

 

「済まない」

 

「いえ、何だかスッとしたんです」

 

千寿朗は微笑んだ。

 

「父上も、晶さんには感謝しているみたいですよ」

 

「感謝なんて……分かってなかったのは俺の方なのに」

 

「晶さん……」

 

「父上は、俺たちに鬼殺隊を辞めさせるために心を鬼にして言っていたのだ」

 

「ど、どうして……!?」

 

「親心だったのだろう。父上なりの」

 

「そんな言わなきゃわかんないことを……」

 

「俺も修練が足らんな。父上の心の中が読めんとは」

 

「分かるわけねぇだろ。見えねぇもんが」

 

「お前はもう少し心のことを勉強しろ」

 

「炭治郎の言うとおりかもな」

 

「なら悲鳴嶋さんに付くといい。あの人は住職まで務めた僧侶でもあるんだ」

 

「いっそのこと、出家したらどうだ?」

 

「「伊之助が!?」」

 

縁側に暫し笑いが響いた。

 

 

 

「カァ!カァ!伝令!伝令!」

 

『っ!!』

 

突然飛んで来た鎹烏に晶たちは反応した。

 

「炭治郎タチニ新タナ任務!至急、北北西ニ向カウベシ!」

 

「来たか!」

 

「ああもう!こんな時に!」

 

「よっしゃーっ!腕が鳴るぜぇ!」

 

炭治郎たちは頭を切り換える。

 

「尚、晶ト杏寿朗ハ待機スベシ!」

 

「わかった。俺は蝶屋敷で待機していますよ」

 

「俺は実家でだな!まあ、竈門隊員たちで事足りるだろうがな!」

 

杏寿朗はデンと構え、晶は帰り支度を済ませる。

 

「では皆さん、お気をつけて!」

 

「ありがとう、千寿朗君!」

 

炭治郎たちは北北西へと向かい、晶は蝶屋敷へと急いだ。

 

 

 

さらに数日後

 

晶と炭治郎は不在のカナエとしのぶに代わり、洗濯と掃き掃除に勤しんでいた。

 

「このところ、人を襲う鬼がほとんど出なくなったみたいなんです」

 

「産屋敷さんも言っていたんだが、下弦が壊滅してから各地の鬼の活動が減っているらしいんだ」

 

「やっぱり晶さんの活躍があってこそですね!」

 

「あんまり持ち上げるなよ。ただ、善逸から聞いたけど、鬼殺隊員を見ただけで逃げ出す鬼も出たらしいんだ」

 

「鬼が逃げたんですか!?」

 

炭治郎には信じられなかった。

 

「あの鬼舞辻無惨が許すとは思えないが……そうらしい」

 

「晶さんはアイツと直に会ったんですよね。どんな感じでした?」

 

「とにかく、自分が特別だと言って憚らない奴だな」

 

「手下にも呪いをかけているくらいですもんね」

 

「いつでも殺せるから手下の鬼たちは鬼舞辻無惨に従う他ない。嫌になるくらいよくできた関係だよな」

 

「だからこそ、俺たちで倒さなきゃならないんです!」

 

炭治郎は意気込んだ。

 

「炭治郎……」

 

晶は炭治郎を見た後、足元を見た。

 

「……意気込むのはいいけど集めたゴミが散らかったぞ」

 

「あっ!!」

 

炭治郎は足元を見渡した。

 

「……手伝うよ」

 

「うう……ありがとうございます………」

 

晶と炭治郎は手早く掃除を済ませた。

 

 

 

「さて、他にやることは──」

 

「離してください!!」

 

突如、少女の声が響いた。

 

「っ!?」

 

「今の声は!!」

 

晶たちは一目散に駆けつけた。

 

「あ、あれって!?」

 

「嘘だろ!?」

 

晶たちは思わず目を見開いた。

 

「うるせーぞ。つべこべ言わずに来い!」

 

音柱の宇随天元がアオイとなほきよすみを担いでどこかへと連れて行こうとしていた。

 

「ま、待って……!」

 

カナヲは天元の上着を掴んで引っ張るが、天元は意に介さなかった。

 

「炭治郎、俺は殖装して上から捕まえる。お前は頭突きで押さえてくれ。くれぐれもアオイさんとなほちゃんきよちゃんすみちゃんに当てるなよ」

 

「分かりました!」

 

炭治郎は晶と二手に分かれ、天元の前に立ちはだかった。

 

「女の子に何をしているんだ!手を離せ!」

 

「あぁん?」

 

天元は炭治郎を面倒くさそうに見る。

 

「人拐いです~っ!助けてくださぁい!」

 

「この馬鹿ガキ……!」

 

必死に助けを乞うなほを天元がギロリと睨む。

 

「っ!」

 

炭治郎は天元に頭突きをぶちかまそうと接近する。

 

「フッ……」

 

天元に一瞬にして跳んだ。

 

その際、きよとすみが落ちる。

 

「危ないっ!」

 

「大丈夫!?」

 

「はい~~!」

 

カナヲがすみを受け止め、炭治郎がきよの下で地面への激突を防いだ。

 

 

 

「愚か者」

 

屋根の上に移動した天元が炭治郎たちを見下ろす。

 

「俺は元忍びの宇随天元様だぞ。その界隈では派手に名を馳せた男」

 

「てめえの鼻くそみたいな頭突きを喰らうと思うか?」

 

「アオイさんたちを放せこの人拐いめ!!」

 

「そーよそーよ!!」

 

「いったいどういうつもりだ!!」

 

「変態!変態!」

 

炭治郎たちは天元を糾弾し、その後ろでカナヲが右手を突き上げる。

 

「てめーらコラ!誰に口利いてんだコラ!俺は上官!柱だぞこの野郎!」

 

「お前なんか柱とは認めないぞ!」

 

「「そーだそーだ!」」

 

「…………………」

 

炭治郎ときよすみが抗議する後ろでカナヲはおろおろしていた。

 

「そーだそーだじゃねぇよ!!お前が認めないから何なんだよ!?この下っぱが!!脳味噌爆発してんのか!?」

 

「なんだと!?」

 

「俺は任務で女の隊員が要るからコイツら連れて行くんだよ!継子じゃねぇ奴は胡蝶の許可を取る必要もない!!」

 

「なほちゃんは隊員じゃないですっ!隊服着ていないでしょっ!」

 

「じゃあ、いらね」

 

天元はなほをあっさりと放した。

 

「なんてことするんだ!この人でなし!」

 

「とりあえずコイツは任務に連れて行く。役に立ちそうもねぇがこんなのでも一応隊員だしな」

 

「…………………」

 

アオイは震えて声も出せなかった。

 

「人には人の事情があるんだから無神経に色々つつき回さないでいただきたい!アオイさんを放せ!」

 

「ぬるい、ぬるいねぇ。このようなザマで地味にぐだぐだしているから鬼殺隊弱くなっていくんだろうな」

 

【多少は仕方ないとは思ったけど、見るに堪えないな】

 

「っ!?」

 

背後からの声に天元は焦りと共に振り返った。

 

しかし誰もいなかった。

 

「ど、どこにいやがる!?」

 

【よっ!】

 

『おお~~っ!』

 

炭治郎たちは一斉に拍手した。

 

ガイバーⅠは指一本で天元の頭の上に立っていた。

 

【グラビティー・コントロールを駆使すればこんなことも出来るんだ。限界まで使い続けろっていう鱗滝さんの課題は間違ってなかったな】

 

「なんだなんだ!?」

 

天元はキョロキョロと周りを見回すが、姿を捉えられなかった。

 

「っ!?」

 

その拍子にアオイが天元の手から離れた。

 

【おっと!】

 

ガイバーⅠはアオイを所謂お姫様抱っこに抱え、ゆっくりと着地した。

 

「晶さん!」

 

「あっ!?てめえ深町!」

 

「宇随さん。任務にかこつけて人拐いですか。そしてどこかに売り飛ばすと」

 

アオイを下ろし、殖装を解いた晶は害虫を見るような目を天元に向けた。

 

「アホ。見くびるんじゃねぇ」

 

「こういうのを女衒師って言うんでしたっけ?」

 

「任務だっつってんだろ!」

 

「……で?その任務とは?」

 

「機密事項だ。深町といえどそう簡単には明かせねぇ」

 

「……まあいいでしょう。とにかく、お引き取りください。女性隊員なら他にも──」

 

「待ってください、晶さん」

 

炭治郎が待ったをかけた。

 

「炭治郎?」

 

「アオイさんの代わりに俺たちがその任務に行きます」

 

「炭治郎が?それに……」

 

天元の両脇には伊之助と善逸が立っていた。

 

「今帰って来たばかりだが力があり余っているからよ。俺も連れてけ」

 

「こここここ怖いけど、女の子一人で行かせやしない。たとえアンタが筋肉の化け物でも一歩もひひひ引かないぜ」

 

「………………………………」

 

天元は炭治郎たちを品定めするような目を向けた。

 

「………あっそう。じゃあ一緒に来て頂こうかね」

 

「!?」

 

(ずいぶんあっさりと引いたな)

 

「ただし絶対に俺には逆らうなよお前ら。後深町も来い」

 

「俺もですか?」

 

「人を女衒師呼ばわりしやがったからな。本来なら上官侮辱罪ってやつだ」

 

「……分かりました」

 

晶は仕方なく了承した。

 

 

 

「ごめんなさい……晶さん……!」

 

「気にしなくていいよ。無事で良かった」

 

晶は申し訳なさで泣いているアオイを宥めた。

 

「で?どこ行くんだ?オッサン」

 

伊之助が天元に問いかけた。

 

「日本一色と欲と愛憎にまみれたド派手な場所」

 

「「?」」

 

「…………」

 

炭治郎と伊之助はなんのことだかさっぱりだが、善逸は思い当たった。

 

「鬼の棲む吉原遊廓だ」

 

 

 

「そんなことが……!」

 

「まったくもう、宇随さんは……!」

 

夕方、用事を終えて帰宅したカナエとしのぶはアオイたちから報告を受けていた。

 

「それで炭治郎君たちが代わりに行ったのね?」

 

「はい…………」

 

アオイは縮こまった。

 

「それで………」

 

しのぶは立ち上がった。

 

「宇随さんは晶さんも連れて行ったのね?」

 

「はい………」

 

「ふーん?そう……」

 

「あ、あの!晶さんは音柱様から上官侮辱罪だって言われて仕方なく……!」

 

「わかってるわ。わかってますとも……」

 

しのぶはゆっくりと縁側の方に歩く。

 

「し、しのぶ……?」

 

カナエは部屋の空気が一瞬で変わったのを感じた。

 

「……ふざけたことしやがって………!」

 

しのぶの口から呪詛のような声が漏れる。

 

(しのぶ~~っ!?)

 

(((ひいぃぃぃぃぃぃ~~~っ!!)))

 

((あ、あわわわわわ!!))

 

カナエ、なほきよすみ、カナヲ、アオイは部屋の隅で震えあがった。

 

(しょ、晶~く~ん!!早く帰って来てえぇぇっ!!)

 




次回、遊郭に潜入する準備をします。



鬼滅の規格外品こそこそ話

槇寿朗さんは家にあった酒という酒を全部廃棄して酒瓶を全て木刀で粉々にしたぞ!
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