「いいかお前ら!!」
吉原遊廓へと向かう道中、天元は炭治郎たちを整列させた。
「俺は神だ!お前らは塵だ!まずはそれを頭にしっかりと叩き込め!ねじ込め!」
「俺が犬になれと言ったら犬になり、猿になれと言ったら猿になれ!猫背でもみ手しながら俺の機嫌を常に伺い全身全霊でへつらうのだ!!」
「もう一度言う!俺は神だ!!」
「「「………………………………」」」
晶、炭治郎、伊之助は黙って聞いていた。
(やべぇ、コイツやべぇ奴だ……)
善逸は別の生き物を見るような目を向けた。
「っ!」
おもむろに炭治郎が挙手をした。
「具体的に何を司る神様なんでしょうか?」
(とんでもねぇ奴だ……)
善逸は炭治郎の天然さに、天元に向けたものと同じ目を向けた。
「良い質問だ。お前見込みがあるな」
(アホの質問だよ。見込みなんかねぇよ)
「派手さを司る神……祭りの神だ」
(どう考えてもアホを司る神だろ)
「俺は山の王だ。よろしくな、祭りの神」
伊之助が前に出た。
「………何言ってんだお前?気持ち悪い奴だな」
天元が伊之助を嫌悪の目で見つめる。
(いやアンタとどっこいどっこいだろ!?引くんだ!?)
「(同族嫌悪ってやつか)それはともかく宇随さん。このまま吉原に向かうんですか?」
今まで黙っていた晶が天元に問いかけた。
(え!?晶さん、アンタまさか今までのを無かったことに!?)
「いや花街の道中に藤の家紋の家があるからそこで準備を整える。それと深町、お前何歳だったっけか?」
「17歳ですけど」
「わかった。とりあえずお前は決まりだな」
(決まり?)
(年齢が関わってくるのか?)
炭治郎と善逸は首をかしげた。
「それじゃ、付いてこい──」
天元の髪飾りが鳴った瞬間、天元は姿を消した。
『!?』
炭治郎たちは呆気にとられた。
「えっ?」
「消えた!?」
「違う!あそこだ!」
晶が指さした。
指さす方向には、天元が胡麻粒のように小さくなっていた。
「これが祭りの神の力……!!」
「いや、あの人は音柱の宇随天元さんだよ」
「いいから行くぞ二人とも!」
「追いかけなきゃ!」
晶たちは必死で天元の後を追いかけた。
「「やっと着いた………」」
「祭りの神はどこだ……!?」
「宇随さんならあそこだ……」
しばらく走って、晶たちは藤の家紋の家にたどり着いた。
既に天元が家の主人にいくつかの指示を出していた。
「コレとコレとコレ、後コレもな」
「かしこまりました、柱様」
家の主人は微笑みながら、天元の言うとおりに動き始めた。
「ったく、ようやく来やがったか。仮にも鬼殺隊がこれくらいで音を上げてどうすんだ。恥を知れ恥を」
「む……無茶な………」
「深町も丙なんだからコイツらの手本になりやがれ」
「俺は普通の人間ですよ………」
「あんな派手なもんに変身できるくせに何言ってんだ。とにかく中に入れ」
天元はさっさと入って行った。
「強引だよなあの人……」
「とにかく入ろう。お邪魔します」
晶たちは家の主人に断りを入れて、藤の家紋の家に上がった。
「「「ふ~~~~っ」」」
部屋に通された晶たちは湯飲みに入ったお茶を飲んで一息ついた。
「爺かお前ら」
「そんで?俺らは何すりゃいいんだよ?」
「慌てんな猪頭。今から説明してやる」
天元は一息入れた。
「遊廓に潜入したらまず、俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから」
『……………………』
部屋は沈黙に包まれた。
「とんでもねぇ話だ!!」
堪りかねた善逸が叫んだ。
「あ゛あ?」
「ふざけないでいただきたい!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!」
「はあ?何勘違いしてやがる」
「いいや!言わせてもらう!アンタみたいな奇妙奇天烈なヤツはモテないでしょうとも!だがしかし!鬼殺隊員である俺たちをアンタ自分の嫁が欲しいからって!」
「馬ァ鹿かテメェ!俺の嫁が遊廓に潜入して鬼の情報収集に励んでたんだよ!定期連絡が途絶えたから俺も行くんだっての!」
「そういう妄想をしてらっしゃったんでしょ?」
「このクソガキ!!」
天元は怒りとともに、善逸に手紙の束を投げつけた。
「ずいぶん多いんですね」
「量を見る限り、長い間潜入してたってことですか」
「三人いるからな、嫁」
「三人!?嫁……さ、三!?テメッ……テメェ!!なんで嫁三人もいるんだよ!!ざっけんなよ──おごぇっ!」
天元は善逸の腹に一撃を入れて黙らせた。
「何か文句あるか?」
「「…………………」」
炭治郎と伊之助はそっと顔を背けた。
「それはそうと、宇随さんのお嫁さんというのはもしかして忍者なんですか?」
「ああ。腕利きの女忍び、くの一だ。花街ってのは鬼が潜むには絶好の場所だと思ってよ。以前ある店に客として入ったが尻尾が掴めなかった。だから客よりももっと内側に入ってもらったんだ」
「そういうことでしたか……」
「それで、潜入したお店というのは?」
「怪しい店は三つに絞ってある。お前らは店に潜入して俺の嫁を探してもらう。〝ときと屋〟の須磨。〝荻本屋〟のまきを。〝京極屋〟の雛鶴だ」
「ただ宇随さん。手紙によると、極力目立たないようにと念を押されています。具体的にはどうするんです?」
「そりゃまあ変姿の術、つまり変装だ。不本意だが地味にな。お前らにはあることをして潜入してもらう」
「先ほどご主人に頼んでいたものですか?」
「ああ。深町はすぐに発てるだろうがコイツらはちと時間がかかる」
「いったい何を頼んだんです?」
「もうそろそろ届くはずだ」
「つーかさ」
お茶請けをたいらげた伊之助は耳をほじり始めた。
「嫁もう死んでんじゃねぇの?」
「「っ!?」」
伊之助の暴言に晶と炭治郎は愕然となった。
「っ!!」
天元は伊之助の腹に一撃を叩き込んだ。
(炭治郎……このバカにいくつか追加な)
(そうですね……)
二人は蝶屋敷での教育を増やすことを決めた。
「失礼いたします」
藤の家紋の家の主人が木箱を持って入ってきた。
「どーも。それじゃ、着替えたら出発するわ」
「何のお構いも出来ず、申し訳ありません」
「良いってことよ。おい深町、支度するぞ」
「わかりました」
晶は天元が指さした小さな木箱を開けた。
「これは……?」
中に入っていたのは軍服一式だった。
「なんで軍服?」
「遊廓の客は大半が金持ちだが、休暇を取った軍人もいたりするのさ。お前はさしずめ士官候補生だな」
「設定はわかりましたが、俺の役割は?」
「お前は主にコイツらからの情報の預り役だ。基本的には俺と一緒に行動してもらうが、時には客として店に入ってもらうぞ」
「行動するのは良いんですけどね。18歳未満がそういう店に入って良いんですか?」
「18歳未満?何かマズイのか?」
「当たり前でしょう。立派な法律違反です」
「そうなんですか?」
「ああ、風営法って言って──」
晶は炭治郎たちにかいつまんで話した。
「そんなことになってるんですね、未来では」
「じゃあ、遊女の人とかはどうなってるんすか?」
「少なくとも、18歳越えてなきゃ雇うことは禁止されてる。摘発されたらそのお店は営業停止とかになるはずだ」
「おいおいおいおい。ちと厳し過ぎねーか?」
天元は呆れたように言った。
「女性の人権ってやつですよ」
「人権、ねぇ」
「晶さんの時代は女の人の権利がしっかりとしてるんですね」
「ああ。20歳以上の男女にはきちんと選挙での投票権が与えられているし」
「20歳以上なのは良いとしてもよ、女に政治なんかわかんのか?」
「なんなら、女性の国会議員もいますよ?」
「マジか!?」
天元は目を見開くほど驚いた。
「女の人でも政治家になれるんですか!?」
「外国に比べればまだまだ少ないけどね」
「すげぇな。いや恐れいった。だがそれとこれとは別問題だ」
「……わかりました」
晶は軍服に着替えた。
「ほう?似合うな。俺には及ばねぇが」
「……どうも」
「それで俺たちは?」
「慌てんな。ああ。そこ置いといてくれ」
藤の家紋の家の主人は大きな木箱を置いて部屋を出て行った。
「そこにお前らのが入っている。さっさと着替えろ」
「はい」
炭治郎は木箱を開けた。
「え…………」
「なんじゃこりゃ…………」
中を見た炭治郎と善逸は固まった。
「こ、これって………」
晶は思わず二度見した。
中には女物の着物が三着入っていた。
「ほら、化粧もすんだから着替えろ」
「嘘だろ……」
「が、頑張れ……?」
「晶さん、不安そうに言わないでください……」
炭治郎たちは着物に着替え、天元に化粧を施してもらった。
「そんじゃ、行くぞ」
天元を先頭に晶たちは出発した。
「こりゃまた……不細工な子たちだね………」
(だろうな………)
現在、晶たちは天元が怪しいと睨んだ店の一つであるときと屋に来ていた。
天元の計画は、炭治郎らを一人ずつ遊女見習いの禿として潜入させることだった。
だが天元の施した化粧は紅やら白粉やらを塗りたくったようなものになり、不細工な仕上がりとなった。
ちなみに晶が外れた理由は、背が高く17歳という年齢では通用しないということだった。
「ちょっとうちではね。先日も新しい子入ったばかりだし悪いけど……」
ときと屋の主人は難しい顔をした。
「まあ、一人くらいなら良いけど……」
「!?」
隣に座っていた女将は天元を見ながら言った。
「じゃあ一人頼むわ。悪ィな奥さん」
天元は化粧を落とし、髪を下ろしていた。
「じゃあ、真ん中の子をもらおうかね。素直そうだし」
「一生懸命働きます!」
炭治郎はときと屋に勤めることになった。
「す、炭子……頑張れよ………」
「うん。お兄さんも元気でね」
晶たちは炭治郎と別れた。
「ほんとにダメだなお前らは。二束三文でしか売れねぇじゃねぇか」
(ダメなのは他にも理由があると思うけど……)
「おい、見ろよ。人間がうじゃうじゃいやがるぞ」
伊之助が指さす方向には美しい遊女が歩いており、その周りに人々が列をなしていた。
「宇随さん、あれは……」
「ああ。花魁道中だな。にしても派手だな。いったいいくらかかってやがんだ」
「まさか……あれが嫁!?」
「んなわけあるか、ブス。ありゃときと屋の花魁鯉夏だ」
「お兄さん方、ちょいと良いかい?」
突如、老婆が晶と天元に話しかけてきた。
「これはこれは荻本屋さん。如何しました?」
「この子、売ってもらえないかい?」
「こいつ……猪子を?」
「あたしゃこれでも見る目はあってね。この子、売れるよ」
「さすがは荻本屋さん。どうぞどうぞ」
「お代は後で取りに来ておくれ」
そう言って老婆は伊之助を連れて行った。
「後は……」
(ヤダ……アタイだけ売れ残ってる!?)
その後、善逸は天元の交渉により京極屋にタダ同然で引き取られた。
「なんだか人身売買に加担してるんような気がするんですが……」
晶と天元は河原に佇んでいた。
「まあ、間違っちゃいねぇ。ここにいる女のほとんどが口減らしで売られてきた」
「口減らし……」
「武士でも商人でも農民でも後継ぎになる長男は特別で次男以下は居候同然。女はさっさと嫁に出されるか遊女に売られるかだ」
「本当にあったんですね。小説の中の出来事ではなくて」
「ああ。全部が本当のことだ」
「………………」
晶は無言になった。
「……その、悪かったな。連れて来たりしてよ」
「良いんです。日本の歴史が綺麗なことばかりじゃないってことを再確認できたんで」
「そうか……」
天元は遠くを見つめる。
「良い時代だな、お前のいる所は」
「問題がないとは言えませんけど」
「それでも良いじゃねぇか。女が自由に生きられるなんてよ……それならあいつらも………」
「天元さん……」
「おら、そろそろ安宿に行くぞ。しばらくはそこをヤサにする」
「わかりました」
晶は天元と共に拠点へと向かった。
ときと屋
「ちょっと何よこの痣!?こんなんじゃお客取れないじゃない!!良い男だと思ってたらすっかり騙されたわ!!よくも騙しやがったわねえぇぇぇっ!!」
「やめなさい。この子に当たっても仕方ないだろう……」
(みんなは大丈夫かな……)
炭治郎は禿ではなく、雑用係を命じられた。
荻本屋
「おおっ!」
「これはまた……」
「どうだい?綺麗になったでしょ?それにしてもなんであんなに塗りたくってたんだか」
「他の店に取られないようにしたんじゃないですか?」
「それもそうかもね」
(動きづれぇ。腹も減ったし)
京極屋
「それじゃ、もう一回やってみな」
「!!」
「も、もう覚えたのか!?」
「一回聞いたらそれでね」
「顔はともかくすごい才能だな……」
「わかってないね。ありゃ執念さ。自分を捨てた男どもを見返してやろうって執念さ」
(見てなさいよぉ!花魁にまで登りつめてギャフンと言わしてやるんだから!!)
「!?」
「宇随さん、どうしました?」
「いや、怨念みてぇなのを感じた」
「?」
次回、上弦の陸と遭遇します。
鬼滅の規格外品こそこそ話
善逸は僅か一日でお座敷に呼ばれるようになるぞ!