遊廓に潜入して三日が経った。
晶はときと屋に潜入している炭治郎から話を聞いていた。
「じゃあ、ときと屋にいるはずの須磨さんは足抜けしたっていうのか?」
「はい。花魁の鯉夏さんを始め、ほとんどの遊女さんが証言してます。それに、部屋から日記が見つかりました」
「……マズイことになったな」
「はい。鬼にとっても都合がいいと思います。人がいなくなっても、遊廓から逃げ出したってことで済みますから」
「日記もおそらくは偽装だろうな」
「間違いないと思います。これから支度部屋を当たってみます」
「わかった。くれぐれも気をつけてくれ。明日の定期連絡には遅れるなよ」
「わかりました。晶さんもお気をつけて」
晶は炭治郎と別れた。
「………………」
荻本屋に潜入している伊之助は奇妙な気を感じていた。
(祭りの神の嫁がいるっつう部屋からぬめっとした気持ち悪ぃ感じがしやがる……)
伊之助は呼吸を整え、一気に部屋に踏み込んだ。
「っ!」
襖を開けた瞬間、凄惨な風景が広がっていた。
さらに風の流れを感じた。
(窓も開いてないのに………天井裏か!)
「おいコラ!バレてんぞ!」
気配を察知した伊之助は丼をひっつかみ、天井に投げつけた。
丼が砕けた瞬間、天井から何かが移動する音が響いた。
「待ちやがれ!」
伊之助は部屋を飛び出し、気配を頼りに何かを追った。
「おお?可愛い子がいるじゃないか──」
「どけってんだ!」
伊之助は酔客を殴り飛ばした。
その隙に気配は途切れた。
(クソッ!逃した……!)
伊之助は拳を握りしめた。
(ヤバいヤバいヤバい……!)
善逸は絶体絶命の窮地にいた。
「なんだい、この子は?」
善逸の真後ろには、美しさと苛烈さを兼ね備えた遊女が立っていた。
「も、申し訳ありません蕨姫花魁。この子は先日入ったばかりで……」
下働きの下女が必死に謝った。
(この京極屋の蕨姫花魁……。でもこの音は間違いなく鬼の音……!それもこの間遭遇した十二鬼月の音だ……!)
「ちょっと、聞いてんの?」
「勝手に入ってすみません!部屋がめちゃくちゃだったしあの子が泣いていたので……」
「不細工だねお前。死んだ方が良いんじゃない?だいたいなんだいその髪の色は。そんなに目立ちたいの?」
「…………………」
蕨姫の容赦ないダメ出しに善逸は固まった。
「部屋は確かにめちゃくちゃのままだね。片付けとくように言ったんだけど……!」
蕨姫は片付けていた下女の耳を捻り上げる。
「ギャアッ!」
「五月蝿い!ギャアじゃないよ!さっさと片付けな!」
「ごめんなさいごめんなさい!許してください!」
「ッ!」
善逸は蕨姫の腕を掴んだ。
「……何?」
「手、離してください!」
善逸は勇気を振り絞り、蕨姫を咎めた。
その直後、吹き飛ばされて意識を失った。
「いいか?深町」
安宿に戻って来た晶に天元が話しかけた。
「なんですか?」
「どうしても伝えなきゃならねぇことがある。聞いてくれ」
「わかりました」
晶は姿勢を正した。
「宇随さん、何があったんですか?」
「マズイことになりそうだ」
「マズイこと?」
「嫌な感じはするが鬼の気配ははっきりしねぇ。まるで煙に巻かれているみてぇにな」
「……相当厄介ですね」
「推察の域は出ねぇが、この街に巣くっている鬼は上弦の鬼かもしれねぇ。そうなりゃ派手な殺り合いになる」
「上弦……!」
晶は拳を握りしめた。
「深町……」
「はい」
「命令だ。あいつら連れてこの街を出ろ」
「宇随さん……」
「あいつらの階級じゃ無理だ。無駄死にさせるわけにはいかねぇ」
「なら俺は……」
「お前も死なせるわけにはいかねぇ。未来に帰ったらやることがあんだろ?」
「それは……」
「あいつらに伝えてくれ。じゃあな」
天元は一人部屋を出た。
「宇随さん!」
晶は慌てて追うが、天元の姿は消えていた。
翌朝、晶は待ち合わせ場所にいた。
「おはよう炭治郎、伊之助」
「おはようございます、晶さん」
「よう、兆」
「晶な。後は善逸が来るのを待つだけなんだが……」
「遅いですね」
「あの弱味噌、何してやがる……!」
「仕方ない。先に伊之助、報告してくれ」
「おおよ!」
伊之助は荻本屋で起きた出来事を話した。
「荻本屋に鬼、そしてまきをさんが行方不明、か」
「そうなると、京極屋の雛鶴さんもおそらく……」
「…………………」
晶は顎に手を当てて思案する。
「そういえば、宇随さんは?そろそろ定期連絡に来るはずでは……」
「そのことなんだが、実は──」
「おい茂一郎、腰になんかあんぞ」
伊之助が炭治郎の腰に差してある手紙を見つけた。
「あれ?何でこんなのが……ってこれは!」
手紙の隅には天元とあった。
「差出人は宇随さんみたいだな」
「でも、匂いは全く感じなかったですよ?」
「それなりに準備したんじゃないか?」
「とにかく、開けてみろよ」
「う、うん……」
炭治郎は慎重に手紙を開けた。
そこには『ゼンイツハ来ナイ。消息ヲ絶ッタ者ハ死ンダト見ナス』とあった。
「こ、これって……!」
「どういうことだ!?」
「……二人とも」
晶が口を開いた。
「晶さん?」
「宇随さんから伝言を預かっている」
晶は二人に天元からの命令を告げた。
「そんな……」
「ここまで来て帰れだぁ!?」
「とはいえ、善逸のことは計算外だったけどな」
晶は頭を掻いた。
「うるさかったけど、悪い奴じゃなかったな……」
「あんなんでも死んじまったら、寂しいもんだな」
(善逸……お前死んだことにされてるぞ)
晶は呆れた。
「とにかく、これからどうするかだな」
「悩むこたあねぇだろ。これから鬼をブッた斬りに行くんだよ」
「そうだな。俺たちは鬼殺隊なんだから……!」
伊之助と炭治郎は奮起した。
「なら決まりだな」
晶は笑みを浮かべた。
「これより、この街に巣くう鬼を退治する。おそらく十二鬼月以外の鬼もいるはずだ。俺たちはそいつらを優先的に退治していくぞ」
「はい!」
「おおっ!」
「となると、どう動くかだな」
「今夜、俺は伊之助のいる荻本屋に向かいます。伊之助、それまで大人しくしていてくれ」
「何でだよ!?」
伊之助は炭治郎の頬を捻り上げた。
「俺のトコに鬼がいるって言ってんだから今から来いっつーの!ホントに頭悪ぃなお前は!」
「ひがうよ……」
「あ゛ん!?」
「そうだな。動くなら夜の方が良いな」
「あ゛あ゛ん!?」
「まあ聞け。宇随さんが三日間店の外で見張ってても出入りは確認できなかった。つまり鬼は客としてではなく、店で働いている者の可能性が高いんだ」
「晶さんのおっしゃるとおりだと思います。鬼が巧妙に人間のふりをしていればいるほど、人を殺すのには慎重になるでしょう。バレないように」
「それもそうか……殺人の後始末はどうしたって手間がかかる。血痕は簡単には消せねぇしな」
「ときと屋の須磨さんのように行方不明の人間が出ても足抜けしたことにすれば殺しの証拠は出ないし、警察もそれ以上は詮索しないはずだ」
「なるほどな……」
伊之助は納得した。
「善逸が行方不明というのも、おそらく上弦の鬼と接触してしまったからだと思う。上弦の鬼は善逸のいる京極屋にいるはずだ」
「なら、京極屋に?」
「いや、宇随さんのことだ。もう既に動いているはず。俺たちは荻本屋へ向かおう」
「わかりました」
「今夜、ケリつけようぜ!」
「それじゃ、またな」
晶たちは解散した。
「それじゃ、お世話になりました」
安宿を引き払い、晶は荻本屋を目指していた。
(あの伊之助がそう長く待てるはずがないもんな。炭治郎より先に行って合流しないと──)
「待て……」
「!?」
突然、晶は誰かに呼び止められた。
「誰だ!」
晶は声がした路地に向かって叫んだ。
「お前はときと屋とやらへ行け。既に堕姫は動いている」
「堕姫!?何のことだ!」
「確かに伝えた」
路地から気配が遠ざかっていった。
「待て!」
晶は気配の主を追いかけた。
だが捕まえられなかった。
「ときと屋……まさか炭治郎が!」
いやな予感がした晶はときと屋へと走り出した。
(速い!見えなかった!)
炭治郎はときと屋の向かいの店の二階に叩きつけられていた。
荻本屋に向かう途中、鬼の臭いを嗅ぎ付けたためときと屋に戻ると、鯉夏花魁が鬼に捕らえられていた。
その鬼の瞳には、上弦・陸とあった。
鯉夏花魁を離すよう強く言った瞬間、炭治郎は上弦の陸の帯に吹っ飛ばされた。
(落ちつけ!体は反応出来てる!じゃなきゃ死んでた!)
炭治郎は日輪刀を握りしめ、禰豆子の入った背負い箱を降ろした。
「禰豆子、箱から出るな。自分の命が危ない時以外は……!」
「……………………」
兄の声を聞いた禰豆子は息を潜めた。
「思ったより骨があるのね。目は良いわね、綺麗。目玉だけほじくりだして喰べてあげる」
(行くぞ……集中!)
炭治郎は日輪刀を構えた。
「全集中・水の呼吸 肆ノ型・打ち潮・乱!!」
炭治郎は上弦の陸に斬りかかった。
「っ!」
上弦の陸は帯を展開させ、迎え撃った。
「!!」
炭治郎は四方八方から襲いくる帯を防ぐ。
(ここだ!!)
炭治郎は鯉夏花魁が囚われている帯を斬った。
(空中での身のこなしは悪くなかった。そして……)
上弦の陸は斬り離された帯を見つめる。
(上手く斬り離したわね。不細工だけど愛着が湧くな)
「アンタたち何人で来たの?四人?」
「言わない!」
「正直に言ったら命だけは助けてやってもいいのよ?というか……」
上弦の陸は炭治郎の日輪刀を指さす。
「先刻、ほんの少し斬り合っただけで刃こぼれしてる。それを打ったの碌な刀鍛冶じゃないでしょう」
「違う!この刀を打ったのは凄い刀鍛冶なんだ!」
「じゃあなんで刃こぼれするんだよ、間抜け」
「っ!」
炭治郎は歯軋りをした。
(やっぱり俺じゃ水の呼吸を使いこなせない。水の呼吸に適した身体じゃないんだ)
(俺の場合、一撃の威力はどうしてもヒノカミ神楽の方が強い。それは身体に合っているからだ。でも……その威力故に、連発できなかった。でも……!)
炭治郎は日輪刀を構えた。
(今は違う。やれるはずなんだ。いや、やれる!)
(心を燃やせ!!)
「……気にいらないね。さっさと死にな!!」
上弦の陸は帯を広げ、炭治郎に狙いを定めた。
「これで……っ!?」
突如、上弦の陸は何かに袈裟斬りにされた。
【っ!】
そのまま中段蹴りで蹴り飛ばされた。
【無事か!炭治郎!】
「晶さん!!」
それはガイバーⅠだった。
(不意打ちとはいえ堕姫を斬るとは……やるな下弦狩り)
屋根の上からガイバーⅠと炭治郎の合流を見ている者がいた。
(だが心せよ下弦狩り。堕姫は上弦であって上弦に非ずだ………)
【大丈夫か、炭治郎!】
「は、はい何とか!」
【良かった。堕姫とか言う鬼が動いているって聞いてな……!】
「そうだったんですね。堕姫って言うのか……あの上弦の鬼は」
【……どうやらまだ終わってないようだぞ】
ガイバーⅠは先ほどからピクリとも動かない堕姫を見つめる。
「ゴミのくせに……不細工のくせに……やってくれるじゃない………」
「っ!?」
炭治郎は思わず日輪刀を握りしめる。
【お前みたいな鬼と比べられるなら、ゴミだの不細工で結構だ】
「その言葉……後悔するんじゃないよ!!」
再生した堕姫は帯を操り、ガイバーⅠと炭治郎を襲う。
「晶さん!ヒノカミ神楽で行きます!!」
【出来るのか!?】
「やれます!!」
【無茶だけはするなよ!】
回避に専念していた二人は反撃に転じた。
【はあっ!】
ガイバーⅠは高周波ブレードで帯を斬り裂く。
(こいつが下弦狩り……!無惨様が絶対に殺せと言う化け物!)
【くっ!?】
ガイバーⅠは堕姫の帯に拘束される。
(とりあえずこいつは後回し……まずはこのガキから──)
「ヒノカミ神楽・烈日紅鏡!!」
炭治郎も襲い来る帯を斬り落とす。
(こっちのガキの太刀筋が変わった。先刻より鋭い。それに何なのこの音?)
「ヒノカミ神楽・炎舞!!」
堕姫に接近した炭治郎は斬りかかった。
だが堕姫には炭治郎の姿が見えていた。
(大したことないわね。所詮この程度──)
【う、うおおおおっ!!】
ガイバーⅠは帯を引きちぎった。
それにより、堕姫の意識がガイバーⅠに逸れる。
「ちいっ!」
【逃がすか!】
ガイバーⅠは引こうとした堕姫にヘッドビームを放った。
「がっ!?」
堕姫は左目を押さえた。
【今だ炭治郎……!?】
「はあ……!はあ……!」
炭治郎は呼吸を荒くして倒れていた。
【くっ……!】
ガイバーⅠは追撃を中止し、炭治郎にかけよった。
【炭治郎!大丈夫か!?】
「は、はい………」
【こ、これは!?】
炭治郎に触れたガイバーⅠは違和感を感じた。
【炭治郎の身体が熱い……。体温そのものが高くなっているのか!?】
【ヒノカミ神楽の連発し過ぎ?いや、蝶屋敷での鍛練の時にはこうはならなかったはず……】
【炭治郎……お前いったい………】
次回、ガイバーⅠが………
鬼滅の規格外品こそこそ話
炭治郎の腰に手紙を仕込む前、天元さんは徹底的に体を洗ったぞ!