「「……………………………」」
翌日、晶が掃除、炭治郎が薪割りをしていると、鋼錢塚を名乗るひょっとこの面を着けた男がやってきた。
鱗滝は中にいると言っても鋼錢塚は全く話を聞かず、二人は置いてきぼりを食っており、陰で話を聞いていた鱗滝も呆れていた。
「ほう……お前赫灼の子か。こりゃ縁起がいいな」
鋼錢塚は炭治郎の額の痣を見つめる。
「は?俺は炭十郎と葵枝の子ですけど?」
「違う違う。その赤い痣と目ん玉を持つやつはそう呼ばれるんだ。火に関する仕事をする家に生まれると縁起が良いと喜ばれるんだ」
「そういえば、炭治郎のうちって何かやってたのか?」
「はい、うちは炭焼きを生業にしてました」
「へえ!そりゃちょうどいいや」
鋼錢塚は炭治郎の後に晶を見た。
「お前が五人目の合格者か?」
「五人目?合格者は俺を入れて四人じゃ?」
「おめーにゃ聞いてねぇ!で、どうなんだ?」
「いや、俺は関係ない」
晶はきっぱりと言った。
「こやつは少々特殊な立場にある。それより日輪刀は出来たのか?」
見かねた鱗滝が鋼錢塚を促す。
「もちろんだ。俺が打ったんだぜ」
鋼錢塚はやっと家の中に入った。
鋼錢塚は箱の中から一本の日輪刀を取り出した。
「さあさあ、抜いてみなぁ」
「は、はい……」
炭治郎は緊張気味に日輪刀を鞘から抜いた。
「そういえば、鬼は色の変わる刀しか効かないって聞いたが」
「日輪刀ってのは別名、色変わりの刀って言われるからなぁ。持ち主によって色が変わるのさ。ほら、変わってきた……」
炭治郎の日輪刀は徐々に黒く染まっていった。
「黒っ……!」
「黒いな……」
「何かマズいんですか?」
「もしかして不吉とか!?」
「いや、そういうことはないのだが……漆黒は珍しいのだ」
「……その割には喜んでないような気がしますが」
「判別不可能だからな。黒い日輪刀を持つ剣士は出世できないとされている」
「な、なるほど……」
「キーーーッ!!」
鋼錢塚は癇癪を起こした。
「俺は鮮やかな赤色の刀身が見られると思ってたのにっ!!クソーーッ!!」
鋼錢塚は炭治郎に掴みかかり、晶がそれを必死でおさえる。
「ちょ、ちょっと落ち着け!」
「いったい何歳ですか、あなたは!?」
「三十七だ!!」
(えっ!?俺より二十も上!?)
二回り近く年上だったことに晶は驚きを隠せない。
『カァァッ!竈門炭治郎ォッ!北西ヘト向カエェッ!』
突如、一羽の烏が人語を叫びながら飛んできた。
「へっ……?」
「か、烏が喋った!?」
「鎹烏だ」
「こ、こいつが……!?」
『コレハ鬼狩リトシテノォ、最初ノ仕事デアルッ!心シテカカレェッ!』
「「ッ!」」
鎹烏の仕事という言葉を聞き、炭治郎と晶の顔つきが変わった。
「北西ノ町デワァ、少女ガ消エテイルゥ!毎夜毎夜消エテイル!!!」
「少女が消えている……?」
鱗滝は顎に手をやった。
「なあ、俺は?」
「カァッ!深町晶ハ鬼狩リトハ無関係!好キニシテイイッ!」
「ふむ。では仕方あるまい」
「ええ。仕方ないですね」
晶は鱗滝の言葉を受け微笑んだ。
「となると、そろそろ……」
「こんにちは~!」
「ん?お客さん?」
「この声は……」
晶が戸を開けると、そこにはカナエがいた。
「カナエさん!」
「あら晶君。聞いたわよ、鬼の群れを討伐したんですってね」
「はは、どうも。どうしたんですか、その包みは?」
「あ、そうそう。竈門炭治郎君っているかしら?」
「炭治郎なら中にいますよ。それに禰豆子も……」
「禰~豆~子ちゃ~ん!遊びに来たよ~!」
カナエは笑顔で家に入って行った。
「ふう……しのぶさん怒ってないかな………」
晶も家の中に入った。
「あら鋼錢塚さん、お久しぶりです」
「胡蝶か。花柱にまでなったのに育手になっちまうんだな」
「ええ。肺をやられてしまったので。普通の生活はなんともありませんが、もう前線には立てないでしょう」
カナエは胸に手を当てる。
「世間話はそれくらいにしろ。炭治郎に届け物があるのだろう」
「わかってますよ。炭治郎君、ちょっと来て」
「は、はい……」
炭治郎は緊張しながらも、カナエの前に立つ。
カナエは包みから学ランのような物を出した。
「これって……」
「鬼殺隊士の制服よ。生地が丈夫で、弱い鬼程度なら爪も牙も通さないわ」
(どう見ても学ランだよな)
「そういえば、晶さんの着てた服と似てますよね」
「あれは学生が着る物だよ」
「もしかしたら元になってるのかもね。さあ、着てきて」
「わかりました」
炭治郎は制服を持って奥へと消える。
そして数分後……
「おお……!」
「似合ってるじゃない」
「フフ……」
制服を身に着けた炭治郎が現れた。
「これでいつでも出発できますね」
「まて」
鱗滝が止めた。
「これも持って行け」
鱗滝は奥の部屋から箱を持ってきた。
「これは……」
「禰豆子を背負う箱だ。非常に軽い霧雲杉という素材で作り、表面に岩漆を塗って強度も上がっている」
「ありがとうございます。禰豆子」
「(コクリ))
禰豆子は体の大きさを箱に合わせて小さくなり、箱に入った。
「こんなことが出来たのか……」
「ちっちゃい禰豆子ちゃんも可愛い~~!」
カナエは悶えていた。
「気をつけて行け」
「はい。お世話になりました!」
「鱗滝さん、ありがとうございました」
「礼には及ばん。炭治郎、晶、達者でな」
「「はいっ!」」
二人は鱗滝の家を出て行った。
「へえ……」
晶は大正時代の町並みにキョロキョロと見回す。
「あはは。俺も人里に降りるのは久しぶりです」
「だが……」
町には活気があまりなかった。
二人はやつれた男性とすれ違った。
「ほら和巳さんよ」
「可哀想に、あんなにやつれて……」
「一緒にいた許嫁の里子ちゃんが拐われてから」
(炭治郎……)
(はい……)
二人は女性たちの声に耳を傾けた。
「毎晩毎晩気味が悪いわ」
「ああ、いやだ」
「夜が来るとまた、若い娘が拐われる」
(……行こう)
(さっきの男性ですね)
二人は和巳と呼ばれた男性を追いかけた。
「ここで里子は消えたんだ。誰も信じてくれなかったけど──」
和巳は炭治郎と晶を現場に案内した。
「いいえ!信じます!」
「後は俺たちに任せてください。和巳さんは吉報を待っててください」
「あ、ああ……」
和巳は戸惑いながらも、帰路についた。
「さっそく始めますね」
炭治郎は里子が消えた場所の臭いを嗅ぎ始めた。
(まるで警察犬だな。端から見ると異様な光景だよな)
晶は僅かながら恥ずかしさを覚えた。
「ッ!」
炭治郎は飛び起きた。
「炭治郎!?」
「臭いが濃くなりました!近くにいます!」
炭治郎は屋根に飛び乗った。
「やっぱり身体能力は高いよな!」
晶は炭治郎を追いかける。
「ここか?」
晶は呼吸を整えた。
「はい。ここが一番臭いが濃いです。いきますよ」
炭治郎は日輪刀を抜き、地面に突き刺した。
「ギャッ!!!」
地面から悲鳴が聞こえた。
突き刺した箇所から黒い沼のようなものが広がった。
その中から若い女性の姿があった。
「「っ!」」
炭治郎と晶は黒い沼から女性を引っ張り上げた。
「晶さん!この人をお願いします!」
「わかった!隙を見て離脱する!」
晶は女性を抱き上げた。
(おそらく、この鬼は地面や壁から出てこられる。もしかすると何もない空中から出てくるのかもしれない……!)
(だけどこの鬼は潜ってる間は臭いを消せない!)
炭治郎は日輪刀を握りしめる。
足元に黒い沼が広がった。
(来た!水の呼吸、伍の型──!?)
だが現れた鬼は三体いた。
(落ち着け、やれる!)
「八の型・滝壺!」
炭治郎は技を変え、日輪刀を振り下ろした。
だが途中で技を変えたためか、非常に浅かった。
「晶さん!!」
「必ず戻る!!」
晶は一目散に離脱した。
「………………」
沼鬼は晶を捕らえようと晶の後ろに出る。
「全集中・水の呼吸、弐の型・水車!」
炭治郎は回転し、沼鬼の行く手を阻む。
(女の人は晶さんに任せよう!俺はこいつらが追えないように……!)
炭治郎はさらに一太刀入れるがかわされてしまった。
(深追いできないっ!けど晶さんは何とか逃がせたみたいだ)
「貴様ァァッ!」
沼鬼のニ本角が吼えた。
「邪魔をするなァァァ!女の鮮度が落ちるだろうがぁっ!」
「な……」
「あの女は十六になっているんだよ。早く喰わないと刻一刻と味が落ちるんだ!!」
「冷静になれよ、俺。こんな夜があっても良いじゃないか」
一本角が出てきた。
「この町では十六の娘はずいぶんと喰った。どの娘も肉付きが良く美味だった。俺は満足だよ」
「うるせえぇぇっ!俺は満足してないんだよ!もっと喰いたいんだ俺は!」
「……………(ギリギリ)」
三本角は密かに晶を追って行った。
(やれやれ、食い意地が張ってるな)
「お前たちが拐ったという里子さんはどうした!?」
「里子?ふむ……」
一本角は羽織の内側を見せる。そこにはたくさんの簪や髪飾りがあった。
「確か……これだな。この西洋の髪結びを着けてた娘だ。なかなか良い肉質だったから覚えているよ」
ブチッ……!
炭治郎の堪忍袋の緒が切れた。
「っ!」
炭治郎の足元からニ本角が貫手を放つ。
かろうじてかわし、ニ本角の腕を切り落とす。
「っ!」
いつの間にか移動していた一本角が壁から襲いかかる。
(しまった!壁に近づきすぎたっ!)
炭治郎は焦るも、ギリギリで回避した。
そこを狙ってニ本角が追撃を加えようとした。
(全集中・水の呼吸……!)
炭治郎は息を吸い込む。
「ッ!?」
ニ本角は何かに蹴飛ばされた。
「貴様……人間の分際でなぜ鬼を連れている?」
ニ本角を蹴飛ばしたのは禰豆子だった。
箱の外に出た禰豆子は体の大きさを変えた。
そして殺気を纏い、ニ本角を睨み付けた。
「とりあえずここで……」
「あ、ああ……」
一方、晶は女性を抱えた和巳を休ませるために空き地で休息を取っていた。
一度は帰ったものの、気になって戻った和巳は晶と再会し、晶に頼まれて女性を抱き上げた。
「なあ?あの子は大丈夫なのか?」
「炭治郎なら平気ですよ。鬼狩りの一員ですから」
晶は安心させるために、炭治郎が鬼狩りになりたてとは言わなかった。
「それより離れないでください。あいつらの狙いはその女の人です。俺たちのことは虫けらにすら思ってないでしょう」
「鬼……本当にいたのか………。里子もあいつらに」
「………………」
晶は何も言えなかった。
すると、背後からボコッという音が聞こえた。
「っ!こっちだ!」
「ヒィ!」
和巳は晶の後ろに回った。
黒い沼から三本角が出てきた。
「よこせ………その娘をよこせ………!」
「聞けない相談だな」
「なら……死ね」
「悪いが死ねない。和巳さん少し下がって」
「な、何をするんだ!?」
「殖装します」
「しょく……そう……?」
「ガイバアァァァッ!!」
晶の体は青い障壁に覆われ、鎧のようなものに包まれた。
「なあっ!?」
和巳は腰を抜かした。
「貴様……!!」
【あまり時間はかけない。すぐに終わらす】
「ぬかせぇぇぇっ!!」
三本角はガイバーⅠに襲いかかる。
【はあっ!】
ガイバーⅠは三本角の顔面にカウンターパンチを当てる。
「ぐふっ!?」
【おおおおおっ!!】
ガイバーⅠはパンチの連打を叩き込んだ。
三本角は反撃どころか、異能の行使すらできなかった。
三本角の意識は確実に削られていった。
【くらえっ!】
ガイバーⅠはアッパーカットで三本角を空中へと殴り飛ばす。
三本角は空中で無防備を晒した。
【止めだ!】
ガイバーⅠは高くジャンプし、高周波ブレードで三本角の頸をはねる。
「ち……く……しょう…………!」
意識も絶え絶えになった三本角は消滅した。
「………………………………」
和巳は目の前の光景が信じられなかった。
【……和巳さん】
ガイバーⅠは和巳に語りかける。
「えっ!?」
【その女性をお願いします。もう追ってこないでしょうから、俺は炭治郎の所に行きます】
「わ……わかった。気をつけてな」
【ええ。和巳さんも】
ガイバーⅠは屋根に飛び乗り、炭治郎らの所へと向かった。
「夢………………だよな」
和巳は呆けたようになった。
「ッ!?」
三本角が討たれたことは一本角とニ本角にも伝わった。
(ぬかった……あの男も鬼狩りだったか)
(動きが若干鈍くなった……?もしかしたら晶さんが!)
炭治郎は三本角が討たれたことを半ば確信した。
(それにしても、禰豆子……)
炭治郎は禰豆子が鬼ならではの膂力でニ本角と互角に渡りあっている姿を複雑そうに見る。
(本当のお前なら、あんなことしないはずなんだ。絶対に人間に戻してみせるからなっ!)
炭治郎は一本角に向けて日輪刀を構えた。
日付は既に変わっていた。
次回、沼鬼と完全決着&浅草に向かいます。
鬼滅の規格外品こそこそ話
鋼錢塚さんはあの後、鱗滝さんにぐちぐち文句を言って辟易させていた!さらにカナエさんも巻き込まれたぞ!