(どういうことなんだ……?)
一本角の目の前の光景が信じられなかった。
(剣士と鬼が連れ立って行動している?意味がわからない)
「!!」
禰豆子はさらに攻勢に出る。
「ぐうっ……!」
禰豆子の蹴り技は相当な威力があるらしく、ニ本角は防御に専念せざるを得なかった。
たまらず黒い沼に潜ったニ本角を、禰豆子が追おうとしたが──
「禰豆子、深追いするな!戻ってこい!」
炭治郎が待ったをかける。
「っ!」
禰豆子は炭治郎の側に戻った。
(いいんだろうか、禰豆子に任せて……)
炭治郎は以前に鱗滝から聞かされた言葉を思い出した。
(鬼だから必ずしも俺が守ってやらなきゃいけないほど弱いわけじゃないのは分かる。でも……ここは晶さんが戻って来るのを………!)
炭治郎の鼻は黒い沼の匂いを嗅ぎ当てた。
黒い沼は禰豆子の足元に広がる。
「禰豆子!跳べっ!」
「!!」
禰豆子は高く跳んで黒い沼から逃れた。
「禰豆子!下は任せてくれ。晶さんが来るまで無理はするなよ!」
代わりに炭治郎が黒い沼に飛び込んだ。
禰豆子は踏み留まり、ニ本角と対峙した。
炭治郎は沼の中をゆっくりと沈んでいく。
(これが沼の中!そして辺りを漂っているのは犠牲になった女の人たちの着物や持ち物!)
(何の罪もない人たちをこんなにも殺した!!絶対に許せない!!)
炭治郎は今まで犠牲になった少女たちを想い、怒りを覚えた。
「ククク……」
一本角が炭治郎の目の前に現れた。
「苦しいか?小僧。この沼の中には空気がほとんどない。さらに、沼の闇が体にまとわりついて重いだろう?ハハハハ……!」
(確かに泥の中にいるみたいに重い。これじゃ地上の時みたいに動けない……!)
「ハハハ、自ら飛び込んできたその浅はかさを呪いながら死ね」
(なめるなっ!)
炭治郎は冷静だった。
(俺が今までどこで修行したと思ってるんだ!ここより狭霧山の頂上の方が空気は薄かった!)
(そして、水の中でこそ力を発揮する技がある!)
炭治郎は上半身と下半身を激しく捻る。
「無駄な抵抗はするなっ!!」
一本角は沼の中を縦横無尽に、かつ鋭角に動く。
これには炭治郎も驚いたが、自分と技を信じることに集中した。
そして炭治郎の感覚は一本の糸を見いだした。
(全集中・水の呼吸 陸の型・ねじれ渦!!)
炭治郎は体を捻り、渦を作りだした。
渦は鋭く大きな刃となり、周囲を巻き込みながら斬り裂いていった。
一本角は渦にのまれ、頸を落とされた。
(っ!そうだ!あれを!)
炭治郎は一本角の羽織を掴もうとさらに下に行く。
何とか掴み、上を目指すが容易ではなかった。
(早く!早くしないと禰豆子が!)
炭治郎は焦っていた。
一方、禰豆子はニ本角と互角にわたり合っていた。
隙を突いて、禰豆子の右拳がニ本角の腹部を正確に捉える。
(ぐっ!?この女、強い!!)
ニ本角は一旦下がる。
(まだ何の異能は使えないようだが、それでいてこの強さ!おそらくあの方から分けられた血の量が多いんだ!!)
禰豆子は前蹴りを叩き込む。
(速すぎて沼に潜れない!だが単調な攻撃にも目が慣れてきたぞ!)
ニ本角は地面を蹴り上げた。
砂利が飛び、禰豆子は思わず目を逸らした。
「もらった!!」
ニ本角の爪が禰豆子の額を引っ掻く。
「!?」
禰豆子は額を負傷した。
「その面に風穴空けてやるっ!!」
ニ本角は貫手で禰豆子の顔を狙った。
【させるかっ!】
「がっ!?」
突然、ニ本角の両腕はふっとばされた。
「ムー!」
禰豆子もふっとばした相手に気づいた。
【とおっ!】
ガイバーⅠは禰豆子とニ本角の間に飛び降りる。
【済まない!遅くなった!】
「ムー!」
禰豆子は首を横に振る。
「貴様……!」
【三本角はもう来ないぞ】
「ではあの娘は!!」
【無事だ。後はお前を倒すだけだ!】
「ムー!」
ガイバーⅠはニ本角を指さし、禰豆子も構える。
(ぐっ!どうする!?)
すると、ニ本角の後ろの地面が盛り上がる。
「なっ!?」
「はあはあ……!禰豆子!無事か!?」
【炭治郎!】
「晶さん!来てくれたんですね!」
【必ず戻るって言っただろ】
「ぐ、ぐぐぐ………!」
多勢に無勢を悟り、ニ本角は膝をついた。
炭治郎とガイバーⅠはニ本角を囲むように並んだ。
「zzz……」
禰豆子は壁に背中をつけて眠っていた。
【…………………】
ガイバーⅠは腕組みをした。
「お前たちは腐った油のような臭いがする!とてもなくひどい悪臭がする!いったいどれだけの人を殺してきたんだ!!」
「女共はな!あれ以上生きてると醜く不味くなるんだよ!そうだろう!?人間ってのは醜く老いさらばえていくものだろう!?」
「だから喰ってやったんだ!永久に若い姿のままで死んでいけるんだからな!感謝しろっ!!」
【っ!!】
身勝手な理屈にガイバーⅠはニ本角にヘッド・ビームを撃ち込んだ。
「うぐっ……!」
【貴様……よくもそんなことが………!!】
「晶さん」
【炭治郎………】
「もういい」
炭治郎はニ本角に日輪刀を向ける。
「人間を鬼に変えることが出来るのはこの世でただ一人。鬼舞辻無惨について知ってることを話してもらう」
鬼舞辻無惨の名を聞いたニ本角は青ざめ、ガタガタと震えだした。
「い、言えない……。言えない言えない言えない言えない言えない言えない!!!」
【っ!?】
ニ本角の豹変にガイバーⅠもたじろぐ。
(本気で怖れている……骨の奥まで震えるような恐怖の匂いだ)
「言えないんだよおっ!!」
両腕を修復させたニ本角は炭治郎に襲いかかる。
【「っ!」】
ガイバーⅠがヘッド・ビームで動きを鈍らせ、炭治郎が頸をはねた。
ニ本角は震えながら消滅した。
だが炭治郎と晶の心は晴れなかった。
(また……聞けなかった)
「……………」
殖装を解いた晶は炭治郎の肩に手を置いた。
「晶さん……」
「次に遭った鬼に聞いてみるとしよう」
「え……」
「チャンスはまだ無くなったわけじゃないだろう?」
「……はいっ。そうですね」
炭治郎は禰豆子に近づく。
「もう少しだけ我慢してくれ。俺が、兄ちゃんが必ず人間に戻してやるからな」
炭治郎は禰豆子を抱き締めた。
これにて、炭治郎の初任務は終了した。
「これ……は……」
和巳は震えながら一点を見つめていた。
炭治郎と晶は一本角の羽織を手に、和巳に会いに行った。
「この髪結びは、里子さんの物ですよね?」
「里子……!」
和巳は踞った。
すると──
「お前ら何をしている!!」
「「「っ!?」」」
中年の男が怒鳴り込んできた。
「ここはうちの土地だ!さっさと出ていけ!」
「す、すみません──」
「待て!貴様……どの面下げてここにいる!!」
中年の男は和巳に掴みかかった。
「貴様のせいで里子は……娘は……!」
(里子!?)
「待ってください!和巳さんを離してください!」
炭治郎は里子の父親の腕を掴んだ。
「部外者を引っ込んでいろっ!」
「里子さんの遺品を持って来たんですっ!」
「……………何?」
里子の父親は呆気にとられる。
「話を聞いてください」
晶も問いかける。
「………………………」
里子の父親は和巳を離し、崩れ落ちた。
「鬼に………?」
里子の父親は炭治郎と晶の話をゆっくりと聞く。
「鬼狩りのこともご存知でしたか」
「母親や祖父母から聞かされたことがあった。まさか実在するとは思わなかった……」
里子の父親は顔を上げた。
「それで、里子は!?」
「………………………………」
炭治郎は無言で羽織からリボンの付いた髪飾りを渡した。
「これは………里子に買ってやった…………」
「娘さんを拐った鬼は……女性の簪や髪飾りを収集していました。殺した……証として!」
晶は顔を歪め、手が真っ赤になるほど握りしめた。
「お、おお………!!」
里子の父親は髪飾りを抱き締め、額を地につけ泣いた。
「………………………」
「和巳さん。気をしっかり持ってください」
「婚約者を失って………そんなことできると思うか……?」
「失っても失っても、生きて行くしかないんです。どんなに打ちのめされようとも」
(炭治郎………)
晶は炭治郎の言葉を一言一句聞き逃さなかった。
「お前に何が分かる!お前みたいな子どもに……!」
和巳は炭治郎の襟を掴む。
「……………………」
炭治郎は抵抗することなく、哀しげに微笑む。
「あ…………」
和巳は思わず手を離した。
「俺たちは行きます。もう会うことはないと思います」
「……失礼します」
炭治郎と晶は歩きだした。
(君も……君たちもなのか……?)
和巳は炭治郎と晶の悲しみを感じ取った。
「済まない!ひどいことを言って、本当に悪かった!許してくれ!」
和巳は二人の背中を見続けた。
「「…………………………」」
炭治郎と晶の胸中は怒りに満ちていた。
「晶さん」
「ああ」
「俺は……鬼舞辻無惨が許せない」
「俺もだ」
炭治郎と晶はまだ見ぬ宿敵、鬼舞辻無惨打倒を誓った。
『カァアアッ!次ノ任務ハ東京府浅草!鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ!』
「えっ、もう次に行くのか?」
『行クノヨォォォッ!!』
鎹烏は炭治郎を嘴でつつく。
「痛い痛い!」
「そういえば、お前名前はあるのか?」
『カアッ!俺ハ天王寺松衛門ダ!』
(えっ!?天王寺松衛門?)
「ずいぶんと立派な名前なんだな」
『カァアッ!俺モ気ニイッテル。サア、ボヤボヤスルナッ!カァアアッ!!』
二人は松衛門に急かされ、浅草を目指した。
「そうか。無事に初任務をやり遂げたか」
一羽の鎹烏の報告を聞いた若い男は微笑んだ。
「人を喰わない鬼を連れた赫灼の痣を持つ剣士。そして古の伝承にのみ残る躯の鬼人様。この鬼殺隊の歴史に新たな風を送り込んでくれるかな?」
「フッ。あなたの予知なら見抜けるだろうに」
若い男の枕元にいた長髪の男は鼻で笑う。
「その力も段々失われていく。もはや君の顔も輪郭くらいしか見えない」
「だからこそ、例の場所に案内すると言っているのだがな」
「私にとってはかなり魅力的だ。だが今離れるわけにはいかないよ」
「子どもにべったりというのは如何なものかな」
「親とは死ぬまで子どものことを考えるものさ」
「………………………」
長髪の男は立ち上がった。
「もう行くのかい?」
「そろそろ夜が完全に明ける」
「また会える日を楽しみにしてるよ」
「フッ……」
長髪の男は出て行った。
(かつてこの世界、いや地球を支配した者たちの遺産。君はその力をどう使うんだい?顎人)
次回、浅草に行きます。
鬼滅の規格外品こそこそ話
和巳さんは里子さんの両親と和解した後、一生独身を貫いていくそうだぞ!