二日後、晶と炭治郎は浅草に来ていた。
「へえ~~っ!」
晶は浅草の雰囲気にテンションが上がっていた。
「この時代の浅草は賑わっているんだなぁ。そう思わないか、炭治……郎………」
炭治郎は目玉が飛び出るかのような顔になっており、呆然としていた。
(街ってこんなに発展しているのか!夜なのに明るい!建物高っ!なんだあれ!都会って、都会って……)
「ええっと……大丈夫か?」
「き………」
「き?」
「気持ち悪い……」
「あー………人波に酔ったのか。とりあえず、向こう行くか」
「目眩が……」
「わかったわかった」
晶は炭治郎の腕を引っ張り、大通りから離れた。
「すみません、山かけうどん二つ」
「はいよ」
大通りから離れた所にうどんの屋台を発見した晶は炭治郎を休ませるために立ち寄った。
「ほら、水」
「あ、ありがとうございます……」
炭治郎は湯飲みに入った水を少しずつ飲む。
「晶さん、よく平気でいられますね」
「言っとくが、199X年はあんなもんじゃないからな?」
「あ、あれ以上……!?」
「浅草は繁華街というより観光地って感じだからな。海外からの観光客も来てるし」
「が、外国人が!?」
「外国人も気軽に来れるくらい日本は平和だってことさ」
「そうなんですか。外国人なんて年に一度見れればすごく幸運なのに」
「そういうものなのか」
「ええ。そうで──」
炭治郎の顔つきが変わった。
「どうした?」
「あいつが……」
「え?」
「鬼舞辻無惨が……!」
「なにっ!?」
「っ!!」
「お、おい炭治郎!!」
「おい、兄ちゃん。俺のうどんを食わずに立ち去るってか!?」
「後で絶対に来ます!」
「え、ちょっ……!?」
晶はうどん屋台の店主の制止を振り切り、炭治郎を追おうとした。
(いや、まて。手がかりへの助けになるかもしれないぞ!)
晶は踵を返し、屋台に戻った。
「私に何かご用ですか?ずいぶん慌てていらっしゃるようですが……」
女の子を抱いた裕福そうな男が炭治郎と対峙する。
(こいつ……こいつ!!こいつ!!人間のふりをして暮らしているんだ!!)
仇敵にして宿敵の鬼舞辻無惨の匂いをたどった炭治郎は鬼舞辻無惨本人にたどり着いた。
そこで目にしたのは妻と子をというごく普通の家族模様だった。
(人間だ……。女の人と子どもは人間の匂いだ。わかってるのか!?人を喰う鬼だって……!)
「月彦さん、お知り合い?」
「いいえ。初対面です。人違いではないでしょうか?」
月彦と呼ばれた男は視線を逸らす。
そして通りすがりの男のうなじを目にも止まらぬ速さで引っ掻く。
通りすがりの男は苦しみだし、鬼と化した。
途端に大混乱に陥った。
「麗さん、ここは危険だ。向こうへ行きましょう」
男は妻子を連れて離れようとした。
「鬼舞辻無惨!!」
鬼になった男を取り押さえながら炭治郎は吼えた。
「俺はお前を逃がさない!どこへ行こうと必ず!地獄の果てまでも追いかけてお前の頸に刃を振るう!」
「俺は絶対にお前を許さない!!」
(あれは……)
男──鬼舞辻無惨は古の記憶を呼び覚ました。
(あの耳飾りは……!!)
「どけどけ!」
「邪魔だ!」
騒ぎを聞きつけたのか、警官隊が押し入って来た。
「だめだ!拘束具を持ってきてください!頼みます!この人は俺以外には押さえられない!!」
警官隊に委ねるわけにはいかないとばかりに、炭治郎は退かなかった。
「少年を引き剥がせ!!」
警官隊を炭治郎を引き剥がしにかかる。
「やめてくれ!この人に誰も殺させたくないんだ!お願いだから邪魔しないでくれ───」
突如、不思議な香りが炭治郎の鼻をくすぐった。
(なんだ!?この香りは……」
同時に炭治郎の周りは花の紋様で覆われた。
「あなたは……鬼となった者にも『人』という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしてくれている」
目付きの悪い青年を連れだったおしとやかな女性が炭治郎の前に現れた。
「ならば私もあなたを手助け致しましょう」
「な、なぜですか?だってあなた方の匂いは……」
炭治郎は二人から発せられる匂いにとまどった。
「そう。私たちは鬼です。ですが、医者でもあり、あの男──鬼舞辻を抹殺したいと思っている」
女性は真剣な眼差しを炭治郎に向ける。
「私の顔色は悪く見えるか?」
本通りを離れ、妻子とも別れた鬼舞辻無惨は人通りの少ない裏路地で、些細なことで絡んできたヤクザ者を殺し、情婦に迫っていた。
「私の顔は青白いか?病弱に見えるか?長く生きられないように見えるか?死にそうに見えるか?違う違う違う違う」
「………………………………」
情婦は恐怖で口も聞けなかった。
「私は限りなく完璧に近い生物だ」
鬼舞辻無惨は人差し指で情婦の額に触れる。
そして突き刺した。
「私の体を流れる血を大量に与えられ続けれるとどうなると思う?」
「!?!?!?」
情婦の体は醜く変貌していった。
「人間の体は変貌の速度に耐えきれず、細胞が壊れる」
「………………………………」
情婦は声も上げられずに死亡した。
「…………」
鬼舞辻無惨はフィンガースナップを鳴らそうとした。
【お前が鬼舞辻無惨か?】
「!!」
鬼舞辻無惨はフィンガースナップを止め、声のする方を見た。
「なんだ、貴様は」
【限りなく完璧に近い生物、か。本当にそう思っているなら……】
【お前は勘違いが過ぎるただの自惚れ屋だ】
「っ!きさ……」
鬼舞辻無惨は声の主に接近しようとした。
【はあっ!】
声の主──ガイバーⅠは鬼舞辻無惨の足をヘッドビームで撃ち抜く。
「がっ!?」
【遅いっ!】
よろけたところをガイバーⅠの拳が鬼舞辻無惨の顔面にヒットする。
【もう一発!】
さらにローキックで鬼舞辻無惨の右膝を粉砕する。
「チィィイッ!!」
無様に転がった鬼舞辻無惨は倒れこみながら爪で薙いだ。
だが目の前にガイバーⅠの姿はなかった。
【でやぁぁあっ!!】
ガイバーⅠはジャンプでかわしていた。
そのまま壁を蹴った勢いで、高周波ブレードで鬼舞辻無惨の顔面を削ぎ落とした。
「ぐっ……ああああああっ!!!」
鬼舞辻無惨は両手で顔をおさえた。
【っと!】
ガイバーⅠは予め用意しておいた手桶で鬼舞辻無惨の面の皮を地面に落ちる前に受け止めた。
【うどん屋台のおじさんに無理を言って借りてきて良かった。でももう使えないな】
ガイバーⅠは手桶の中に鬼舞辻無惨の面の皮があることを確認した。
【おい、鬼舞辻無惨】
ガイバーは悶え苦しむ鬼舞辻無惨を見下ろす。
【この面の皮は証としてもらって行く。だが覚悟しておけ。いずれ……】
ガイバーⅠは高周波ブレードを出す。
【お前を歴史から永遠に消し去ってやる!】
ガイバーⅠはそれだけ言って、屋根の上に跳んだ。
「ぐううう……!鳴女ぇぇぇっ!!」
突如、何もない空間に襖が現れた。
そして鬼舞辻無惨はフィンガースナップをならした。
どこからともなく男女の鬼が現れた。
「お、お呼びでございますか……」
「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りと、あの化け物を殺してこいっ!!出来なければ殺すっ!!!」
鬼舞辻無惨は半狂乱になって命令を下した。
「ぎょ、御意!!」
男女の鬼は一目散に動き出した。
【鬼舞辻無惨の気配が急に消えた……。異空間にでも移動したのだろうか】
ガイバーⅠは屋根の上で思案していた。
【とにかく、今は炭治郎たちを探そう。気配は掴みづらいが、あっちの方向だな】
ガイバーⅠは屋根を飛び越えながら進んだ。
しばらく進むと、開けた場所が見えた。すると、ガイバーⅠは奇妙な感覚を覚えた。
【変だな。何も無いように見えるのにあそこから炭治郎と禰豆子ちゃん、それに鬼の気配を感じる。何かの罠か?】
ガイバーⅠは慎重に進む。
【これは……】
進んだ先には診療所のような建物があった。
「誰だ!!」
【っ!】
ガイバーⅠの目の前に目付きの悪い青年が立ちはだかる。
「どうやって俺の術を……!」
【鬼か。やはりここは罠だったのか!】
「訳のわからないことを!」
目付きの悪い青年はガイバーⅠに飛びかかろうとした。
その時──
「ちょっと待ったああああっ!!」
目付きの悪い青年を誰かが押さえつける。
「邪魔をするな!鬼狩り!!」
「待ってください!この人は敵じゃありません!」
【炭治郎!?やっぱり炭治郎か!】
「はい!晶さん!」
「どけ!こんな奴は……!」
「愈史郎!」
「っ!」
愈史郎と呼ばれた青年の動きが止まる。
「珠世さん!」
「すみません。炭治郎さんのお知り合いでしたか」
珠世という女性はガイバーⅠを見つめる。
そして不意に持っている手桶を凝視した。
「こ、これは……!?」
【お察しのとおり、鬼舞辻無惨の面の皮です。炭治郎、ちょっと持っててくれるか?】
「は………はい…………」
炭治郎は落とさないように受け取った。
【はあ…………】
ガイバーⅠは殖装を解き、晶に戻った。
「に、人間!?」
愈史郎は驚きを隠せなかった。
「……どうやら何か訳があるようですね。こちらにいらしてください」
「失礼ながら、あなたは鬼ですよね?こちらの方も」
「はい」
「炭治郎たちをどう丸め込んだのかはわかりませんが、信用しろと?」
「貴様珠世様に向かって!!」
「愈史郎」
「はい」
愈史郎は引き下がった。
「彼の言葉は無理もないことです」
「ぐっ!」
愈史郎は奥歯を噛んだ。
「大丈夫ですよ、晶さん」
「炭治郎……」
「この方たちからは嘘偽りのない匂いがします。さっきだって、鬼にされた人を助けたんです」
「……………………」
晶は珠世について行った。
(ギリギリギリギリギリギリギリギリ……!!)
愈史郎の殺意を背中に受けながら。
「改めて、私は珠世。この子は愈史郎と言います」
「深町晶です」
珠世と晶は互いに自己紹介をした。
「先ほどの姿……あれはいったい?」
「あれはガイバー。俺は普通の人間じゃありません」
「普通の人間じゃない?なら、俺の血鬼術を見破れたのも……!」
「あ、ああ。炭治郎と禰豆子ちゃんの気配を追ってたらここまで来たんだ」
「くっ……!」
愈史郎は悔しさを露にした。
「それにしても、こんな場所に診療所があったなんて」
「ここでは普通の人間の治療はもちろんのこと、鬼に変えられた人を救うための研究を行っているのです」
「炭治郎、それなら……」
「いえ。結論から言えば、禰豆子さんを人間に戻すことは不可能なんです。現時点では」
「では、方法が?」
「はい。大元である鬼舞辻の血を研究することで答えが掴めるかもしれません」
珠世は断言した。
「鬼となって幾星霜、これほど気持ちが昂ったのはいつぶりでしょうか」
「……これですか」
晶は手桶を渡した。
「はい……!鬼舞辻と相見え、面の皮を持ち帰るなど鬼狩りにもそうはいないでしょう。晶さん、本当によくやってくれました」
「向こうが油断していたからです。挑発に乗ってくれたことが幸いしました」
「いったいどのようにして、鬼舞辻と?」
「はい。それは──」
晶は鬼舞辻無惨とのやり取りを話した。
「まあ……!」
(すごい……すごいよ、晶さん。俺は近づくことで精一杯だったのに、面の皮まで取ってくるなんて……!やっぱり……すごい人だ!)
炭治郎は晶を羨望の目で見つめる。
(俺でさえ見たことのない珠世様の笑顔をこんな奴に……!!!)
愈史郎は晶を憎悪の目で見つめる。
「炭治郎、ぼーっとするのはいいけど、禰豆子ちゃんは大丈夫だろうな?」
「は、はいっ!大丈夫です。時々揺れてますけど眠っているはずです!」
「なら良いんだけど。それはともかく珠世さん」
晶は珠世の方を向く。
「この面の皮を、デスマスクにすることは出来ますか?」
(ですますく……?)
炭治郎にはちんぷんかんぷんだった。
「お前……!」
「愈史郎」
珠世は待ったをかけた。
「無論可能です。鬼舞辻の血を採った後、型をとり、石膏や蝋で固めれば作ることは可能です」
「そうですか」
「ですが、晶さんは何のために?」
「禰豆子ちゃんを救うためにです」
「禰豆子を……?」
「炭治郎、話してもいいのか?鱗滝さんが言ってたこと」
「は、はい……」
「実は──」
晶は珠世と愈史郎に禰豆子をめぐって一悶着が起きることを話した。
「ふん!」
愈史郎は鼻を鳴らした。
「なるほど。事情はわかりました。晶さんは取引に持ち込むおつもりなんですね?」
「はい。鬼舞辻無惨の情報と引き換えに禰豆子の安全を保証させます」
「愚かだな。連中がお前を野放しにしておくと思うか?」
「ないでしょうね」
「当たり前だろうが」
「いくつか監視をつけられるはずだ。その役目を炭治郎にやってもらうつもりなんだけどな」
「ぃええええっ!?」
炭治郎は目が飛び出んばかりに驚いた。
「炭治郎は正式な鬼殺隊員だ。今まで見たことのない鬼の始祖の面の皮を持ち帰ってくるような恐ろしい奴と通じているならうってつけの人材だと思う」
「そ、そうか!仮に晶さんに何かあってもすぐに対処できるのは俺だけだ!」
「捕らぬ狸の皮算用が過ぎるだろうが!絶対に認めないって言ったらどうするつもりだ!」
「策はもう一つある」
「なんですか?」
「それは──」
「っ!まずい!伏せろっ!!」
診療所内に何かが飛び込み、跳ね回る。
落ち着いた時には、毬が転がっていた。
「こ、これは!?」
「この臭い!晶さん、来ました!!」
炭治郎は鬼の来襲を嗅ぎ付けた。
次回、毬鬼との戦いです。
鬼滅の規格外品こそこそ話
癒史郎君は晶を炭治郎や他の男以上に敵視しているぞ!(血鬼術を初見で見破られたことと、珠世さんが笑顔を見せたことで)