幾つかの雲が空を漂い、それでも尚晴天の証たる青空を見せる今日という日。
全身を騎士の甲冑に近い見た目に緑色の革を付けた防具に身を包んだ人間と、この空は俺の物だと言わんばかりに飛行する一体の竜が相対していた。
油断無く両手で持つ細長い刀…太刀を握り締めて空を飛ぶ竜、リオレウスを睨みつける。
リオレウスもまた相対している存在が己に迫る強敵だと認識して空に飛んだまま咆哮する。
先に仕掛けたのはリオレウスだ。
空に飛んだまま口から火球を放ち攻撃する…それを人間は左に回転して避ける。
避けたと同時にリオレウスが足の鉤爪で急接近して切り裂こうとするが、お返しと避けた体勢そのままに人間は太刀のリーチを活かして刺し貫く。
しかし浅く、即座に空に舞い上がり人間から距離をとりつつ陸に着地した。
浅くとも己の攻撃にカウンターを決められた事に苛立ちを感じるリオレウス…しかし、頭を振るい感情に左右されず、また油断もしない眼で人間を睨む。
そこらの生物ならば恐れ戦き逃げ出す程の圧を受けてなお…いや寧ろ人間もまた同等の圧を返した。
今度は人間が武器を持って走り出す。
迎撃の為に放たれた火球を右斜めに、左斜めにとギリギリを避けて距離を詰めていく。
目と鼻の先にまでやってきた人間に対して、リオレウスはもう一度火球を放ち、人間が避けたと同時に突進を仕掛けた。
口を大きく開けて焔を燻らせながら噛みつき燃やし殺そうとするリオレウスに、人間は体勢を急ぎ整えると前に飛び上がりながら回る。
予想外の行動に上手く反応出来なかったリオレウスの頭をそのまま踏みつけ、更に飛び上がった後通り過ぎて行ったリオレウスの尻尾に太刀を振り切る。
今度は深く切り裂かれたリオレウスが絶叫を上げ、転びながらも人間の方に向き直ると立ち上がり、怒りに満ちた瞳をしながら咆哮する。
その音量に思わず耳を塞ぐ人間の隙を見逃さず、突進を仕掛ける。
耳鳴りが鳴り止まない中で何とか回避するが、リオレウスは真横を通り過ぎる時に急停止して体を一回転させる。
独楽のように綺麗なその一回転に、棘こそ太刀で防いだが圧倒的質量による直撃を受けて人間が坂を転がる丸太のように転がる。
手応えを感じたリオレウスが即座に追撃と接近して勢いそのままのサマーソルトをする…感じたのは確かに攻撃を当てたという感触とともに、離れ行く己の尾の感覚だった。
先程のとは比べ物にならない絶叫を上げて血が滴り落ちる己の尾を見る。
あった筈の先端が綺麗さっぱり切り落とされて無くなっており、前を向けば落とされた尻尾がある…これまでで一番の殺意を人間に向けた。
人間もサマーソルトに合わせる形で太刀を振るったが、切り落としたと同時に風圧に吹き飛ばされて岩に激突しており、口元は赤く染っていた…それでも戦意は衰えておらず、ポーチに入っている緑色の瓶を取り出すと一息に飲み干す。
互いに殺すという意志を込めて相手を見つめる…駆け出したのは同時だ。
リオレウスが口を開き咆哮しながら突進してくるのに対し、人間は一瞬足りとも視線を離さずにリオレウスだけを見続ける。
すれ違う瞬間、人間がスライディングしつつ太刀を一閃するのと同時にリオレウスは勢いそのままに全身を使って回転…足に当たる直前に地面に向けて火球を吐き出し、その勢いで不安定な体勢にも関わらずジャンプまでして避ける。
その予想外の攻撃に人間は焼けながらも転がって火が回らないうちに鎮火させ、ポーチに入っている回復薬を飲む。
回復を終えた人間は即座に立ち上がって体勢を整えるのと同時にリオレウスが火球を放った。
リオレウスは地上戦ではなく得意な空中戦を選択したようだ…あの体制にも関わらず飛んだあたり、空の王者は伊達では無いということだろう。
しかし飛んだ体勢が体勢だけにまだ低空飛行のリオレウスに勝機を見出し、火球を避けていく。
そして近場の段差を瞬時に乗り越えていき、リオレウスが飛行している高度よりも高い場所に登り切る人間と同時に火球を放つことで離そうとするリオレウス。
それを本当にギリギリ膝を折り曲げてスライディングし、火球の下を通過しつつ、通り過ぎた瞬間体勢を整えてジャンプ。
火球が壁に着弾して爆発…それによって発生する爆風すら利用してリオレウスへと肉薄する。
自身に近付く人間から距離をとろうと羽ばたくリオレウスだが既に遅く、太刀を左翼目掛けて縦に振るう。
薄かった翼が切り裂かれてしまい、飛行する能力を失って落ちるリオレウス…人間は左翼だったものを掴んで足場にすると、リオレウスの頭目掛けて接近し左目に太刀を突き刺した。
落ちるギリギリまで左目に突き刺した太刀をグリグリと捻り回して傷口を広げていく…リオレウスはどうにかしようと藻掻くものの、徐々に力を失って行き、地面に落ちる頃には右目の瞳孔は開かれていた。
これ以上動かない事を確認すると、ナイフを取り出してリオレウスの死体を捌いて剥ぎとる。
剥ぎ取り終えたらさっさと拠点に戻るように足早にその場を去った。
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「こうして俺はリオレウス狩り、ココット村で名の馳せたプロのハンターになったって訳だ。どうだ?中々にいい話だろ」
「空の王者を、空飛んでる時に仕留めに行くあたり頭がおかしいって思うよ」
「だってなぁ…低空飛行だったんだぜ?狩りに行かなきゃ失礼だろ」
「それやられたリオレウスはたまったもんじゃないな」
ため息混じりに親父を見る。
昔リオレウスを狩る際付けたレイア装備の頭を外してドヤ顔していた。
現在確認されている飛竜種の中で最も強く、生息域も広いために危険性が高いモンスター…多くの人々がこのモンスターに恐怖すると同時に、ハンターにとっては狩れば一種の到着点…山の頂上に達したとも言われ、憧れの対象と呼んでも差し支えない存在が空の王者リオレウスだ。
まだモノブロスがこの辺に出没していないから挑戦こそ出来ていないが、一人で狩れば英雄と呼ばれる存在であるかの一角竜を父さんは狩ろうとするだろう…兎に角、リオレウスを狩った親父の息子である俺も当然一流のハンターになれると期待を寄せられたりするわけなのだが、正直まだまだひよっこなんだからこれからに期待してくれと言いたい…期待してる結果が今なんだろうけども。
「ハンターの自慢話も良いですけど、ちゃんと無事に帰ってきてくださいね?貴方」
「勿論さ。死んだらこうやって笑いあえないし、何より俺はまだ死ぬ気が無い」
「死ぬ気が無くても死ぬ時があるのがハンターなんです。きちんと怪我なく無事に帰ってくる…これが出来る時もあれば、出来ない事の方が圧倒的に多いのですからね」
「…そうだな。俺達が生きてる世界はそういう世界だ…だが、同時に自然に生きる者としての摂理を実感する世界でもある。見たことが無い景色やモンスターと会った時の感動は凄いぞ」
「ふふふっえぇ、よくわかってますよ。私も貴方に色々と連れてもらった事がありますから」
真面目な顔で母にそう語った後、惚気話をする父。
今更だが俺は人間と竜人の間に生まれた…所謂ハーフと言うやつだ。
父が人間で、母が竜人だ…親指はあるにはあるが人間に比べたら短くて、逆に成長というか身長が大きくなるのは早く、16になる頃には一般的な竜人の成人男性と同じ大きさまで成長していた。
足も尾骶骨の様に突起物があるだけで基本は4本だし、関節も鳥に近い…耳だって尖ってる。
妹とまだ幼い双子の弟と妹は俺とは違ってココット村に居る人と同じなのにな?あんまりこの事で悩んだ事ないけど。
ギルドが見せてくれた書類とかじゃ竜人の若い人は普通の人とは離れた場所で暮らしているらしいし、更に言えば人間と結婚した前例がほぼ無いと言う…中々変わり者な夫婦で家族だと思うけど、なんだかんだ言われてもこれが俺にとっての普通だから、意識しても仕方ないと割り切っている。
「そう言えば、ナトゥアはいつハンターの仕事をするんだ?」
「明日からだな。まずはキノコか薬草の採取でもやるよ」
「そうか。ランポスやドスランポス、イャンクックに気を付けろよ」
「イャンクックならまだしも、ランポスには…いや、採取してる時に襲われたらどうしようもないか。分かった。気を付けるよ」
大型モンスターと戦闘して、追おうとした時に奇襲を受けて死んだというのは珍しい話じゃない。
一番有名でハンターの教訓にも乗っている話しじゃ、ディアブロスが移動して、一息しようと回復薬や砥石を使って体制を整えてた時にドスゲネポス率いるゲネポスの群れに襲われて二人食い殺された話だ…その時、四人とも痺れさせられて抵抗出来ないことをいい事に生きたままだったそうだ…狩猟する時に麻痺さえ気を付ければ難しい相手じゃないドスゲネポスも、大型モンスターと戦闘して注意を疎かにしてしまった時にはどうしようもない。
ハンターが立つのは…いや、人間が立っているのはモンスターが闊歩する過酷な世界なのだ…油断すれば一瞬にして殺させるのは当然の帰結とも言える。
だからこそ、ハンターが居るのだ。
モンスター達を知り、彼らを狩る事で人々の生活を守る。
ココット村の村長がモノブロスを一人で狩り、そこから始まったハンター家業…ミナガルデのギルド長を初めとした偉い人達が中心となって、様々な場所でハンターを支援する為の体制を作り、腕に自信がある者、金や名誉を欲しがって集まって出来上がったのが今あるハンターだ。
勿論、その後様々な理由で…例えばこの世界を知りたいとか、村を守る為とかそういう理由の人達も入ってきたが。
俺はまぁ、自然に住む彼らモンスターの生態を知りたいというのと、単純に人生を豊かにしたかった…死ぬ危険があるとか、そういう事を避け続けた人生と言うのは味気無いものだと思えたから、ハンターになった。
他のハンター達からはそんな生半可な覚悟で務まるのかと言われそうだけどな。