史実はラノベよりも奇なり ~歴史短編集~   作:ロッシーニ

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義経編のオマケみたいなお話です。(読んでなくても問題はない)


義経だけど転生したらモンゴルにいた件
前編 ~楽しい草原戦記~


1162年のモンゴル高原に一つの命が生まれた。

モンゴル族の長・イェスゲイと妻のホエルンとの間に誕生した、その丸々と太った赤ん坊は、イェスゲイによりテムジンと名付けられた。

 

「鉄の人」を表す力強い名前だが、その由来はイェスゲイ自身が戦い、捕らえて処刑したタタール族の首長の名前だという。

 

「強敵を倒した記念に息子の名前に、アイツの名前そのままつけちゃうぜぇ!!」

というDQNな名前の由来を聞いた途端、赤ん坊はますます大きな声で泣き出した。

 

「そんな変な名前やめてくれ!」

と思ったからだ。

 

なんと、この赤ん坊には既に自我が芽生えていた。赤ん坊は前世の記憶と知識を持つ転生者だったのだ。

 

前世の名を源義経という。そう、あの一ノ谷、屋島、檀ノ浦と、日本の歴史に燦然と輝く戦果をあげた源義経である。

義経は、対立した兄・頼朝から逃れる為に身を寄せた奥州の地にて、藤原泰衝の裏切りに合い死亡した。

その後、フワフワとした魂となり、いくつかの次元を彷徨った後、このモンゴル高原にたどり着いた。

そして、草原の中で新たな母・ホエルンの姿を見つけると、魂が吸い寄せられ、いつの間にか彼女の胎内にいた子どもに宿っていた。

 

義経には、転生というものの仕組みがよくわからない。(後から知ったことだが)どうやら義経が死んだ時から時代も少し遡っているらしい。

 

彼自身も戸惑っていたが、とにかく、このテムジンという名前にはなりたくない。転生したこの場において、それがまず一番の優先事項だった。

 

「そんな名前やめてくれ! 僕は義経だ!」

そう叫ぼうとしたが、泣き声をあげることしか出来ない。

 

鞍馬山の住職によると、釈迦は生まれた瞬間に言葉を話し

「天上天下唯我独尊」

と言ったらしいが、どうやら、転生者は釈迦とは違う。

天地がひっくり返ろうが、転生などという摩訶不思議な出来事がおきようが、どうしても赤ん坊とはそういうものらしい。

 

テムジンとなった旧義経が大声で泣くとイェスゲイは

「おお! この名前を気に入ったか! 大きな声を出して喜んでいるぞ!」

と呑気に言った。

 

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いきなりハプニングに見舞われた訳だが、彼はスクスクと成長した。旧義経ことテムジンは、モンゴル族の生活が気に入っていた。(自身の名前以外だが。)

 

モンゴル族は一つの場所に定住しない。豊かな牧草地を求め移動しながら暮らし、適当な場所につくとゲルというテントを張りしばらく過ごす。そして、資源が足りなくなると、また部族ごとにまとまって移動する。

食糧に関しては、家畜から乳を採ったり、それを原料としてチーズを作るなどするが、勿論それだけだと足りないので、狩りをする。

 

狩りは、部族の男たちが協力し馬で獲物を追いかけて行う。その為、モンゴルに生まれた男児は物心がつくのとほぼ同時期に騎乗を覚える。

 

新しい身体…つまりテムジンの身体は前の義経の身体よりも一回り以上大きく何をするにも感覚が違ったが、前世、騎兵を使った奇襲を得意とした記憶が残っているのか、騎乗は部族の誰よりも上手くこなした。

また、狩りに欠かせない弓の技術も同様だ。前世ではセンスがあっても身体が小さく力が弱かったので、矢が敵まで届かず、嘲笑を受けることもあった。だが、テムジンは違う。

今の身体には彼のセンスを生かすパワーが十分に備わっており、矢は百発百中を誇った。

テムジンはそれが嬉しくてたまらない。

 

そして、何より楽しいのは略奪と戦争だ。遊牧生活は、飢饉などの異常事態を除けば概ね一年の内に一定の収入を保証してくれる農耕生活とは違う。自分たちに足りないモノや欲しいモノがある時は他の部族から奪い取る。食糧、土地、道具、女…。その全てが略奪の対象だった。

 

一見、恐ろしい世界のようにも思えるが、テムジンには居心地が良かった。前世では兄・頼朝や後白河法皇の政治的な謀略に随分と翻弄された。力こそ全て。それは、テムジンにも非常に分かりやすい草原の真理であった。

 

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悲劇は、テムジンが9歳の時に起きた。

父・イェスゲイがタタール族の罠にかかり毒殺されたのである。罠、とはいっても非常に単純である。

 

遊牧民には、滞在する土地に他の部族が通りかかると、その長を招いて歓待する風習がある。イェスゲイはタタール族に招かれて彼らの住居へ赴き、そこで酒に毒薬を盛られた。

 

タタール族というのは、以前、イェスゲイと争ったことのある部族だった。

それこそ、テムジンの名前の由来になったあの、「テムジン将軍」がいた部族でもある。

 

いくら、通り掛かりの部族と酒を酌み交わすのが遊牧民の慣習でも、それは友好の証として行われるものであり、敵対する部族のところにノコノコやっていくバカは滅多にいない。

 

イェスゲイは何故かそれをして殺されてしまった。

相手を舐めていたか、それとも逆に余程信じていたか、どちらかだろう。

 

おそらく後者である、とテムジンは考えていた。

息子の名前に自らぶっ殺した将軍の名前をつけるような親父のことだ。一度殴り合えば、ドラゴンボールか、あるいは、どこかのヤンキーマンガのように相手と分かりあえると思っていたのではないだろうか。

 

何にせよ、モンゴル族の長・イェスゲイは死んだ。

こうして、テムジンがモンゴル部族の長になることになった訳だが、部族内の有力者だったタイチウト氏族のタルグタイ・キリルトクがテムジンの下を離れ独立すると言い出すと、ほとんどの者はそちらの方についていった。

 

力が全ての草原において、偉大な父を失った9歳の首長についてくる者はいなかった。

 

「裏切り者どもめ!」

母や兄弟たちは悲しみ怒ったが、テムジンは落ち着いていた。

 

人は権力や立場の為に簡単に人を裏切るものだと、前世で思い知っていたからだ。確かに彼らの行動は美しくないが、モンゴル高原の社会構造上、そういう判断をするのも仕方がないとも思っていた。

 

テムジンたち家族はタルグタイが送ってくる刺客から逃れながら、各地を転々と暮らすことになった。その生活は貧しく遊牧民が普段口にしない魚や野草を食べて暮らす毎日だった。

 

時にタルグタイの追手に追い込まれることもあったがスルドス氏のソルカン・シラやその息子チラウン、またモンゴル部ジャダラン氏族長のジャムカに助けられて、何とか命を拾った。

 

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テムジンはそれでもその武勇によってコツコツと名声を高め、1180年の18歳になる頃には一介の族長として、並みの部族には負けない勢力を持つようになっていた。

 

テムジンの部族がメルキト族に襲われたのは、そんな折であった。

 

略奪である。

食糧や財宝は勿論、テムジンの妻・ボルテまでもが奪われた。

 

テムジンは怒りに震えた。

ボルテは父・イェスゲイが存命でテムジンがまだ大部族の後継者と見なされていた頃からの許嫁であった。

 

本来ならイェスゲイが死に、テムジンが落ちぶれた今、約束を反故にされてもおかしくなかったところ、ボルテは

「愛する人と暮らせるならそれでもいい」

と言ってテムジンと婚姻を結んだ。

 

そんな愛すべき妻が拐われたのだ。テムジンの怒りは最高潮に達していた。

 

そして更にいえば、女も略奪の対象になる遊牧民にとって、首長の妻を奪うという行為は、その部族に対する最大級の侮辱である。捨てておけば、テムジン個人だけでなく、部族全体が舐められる。

メルキト族は大部族でテムジンの部族が単体で敵う相手ではないが、それでもテムジンは決起することを決めた。

 

テムジンが出陣の準備をしていると、ジャダラン氏族のジャムカがやってきた。

 

「加勢するぞ! テムジン!」

ジャムカの力強い声を聞いて、テムジンは勝利を確信した。

 

彼らはテムジンの逃亡生活中に出会った。

短い間ではあったが、近隣の地区に滞在した二人は、双方ともに武術や兵法談義が大好きであり、そうした交流を重ねる中で互いの才能を認めあった仲であった。

 

彼らが出会った当時は、お互いに小さな部族の若い当主で、手持ちの兵もメルキトやタタールとは比べ物にならない程少なかった。

その為、大きな部族に牧草地を譲れと命じられたら、その場を立ち去り、新たな居場所を探さなければならない立場である。

彼らが出会ってしばらくすると、二人のいた地域にも案の定、大部族がやってきたので、二人の部族は追い出され、離れ離れにならざるを得なかった。

 

その際に二人は盟友の契りを交わした。

今は小規模な軍団しか持っていないが、タタールやメルキトと同程度の軍団があれば、その指揮で負けることは決してない。

そう互いに評価しあう二人は、次に合うときまでに、それぞれの軍団を大きく成長させることを約束して別れた。そうして、再会したあかつきには、二人で力を合わせて、モンゴル高原を支配する。そんな夢を思い描いていた。

 

ジャムカはジャムカで、メルキト族との間には争いを持っていた。その為、テムジンがメルキト族討伐の準備を進めていると聞くと、「テムジンと一緒に戦える」と大喜びでやってきたという訳だ。

 

とはいえ、ジャムカは慎重だった。

 

決起にはやるテムジンに対して、

「二つの部族を合わせても、まだメルキト族には敵わない。ケレイト族のトオリル・カンを頼ろう。」

と言った。

 

ケレイト族というのは、当時勢いの強かった遊牧民の一派で、ネストリウス派キリスト教を信仰する部族だ。

その首長、トオリル・カンはテムジンの父・イェスゲイの盟友でもあった人物でテムジンとも面識がある。

 

父・イェスゲイから引き継いだキヤト氏族(テムジンと兄弟たちの一族)の再興とモンゴル部族の再統一への願いから、どんなに苦しくても他の部族の下につく事のなかったテムジンだが、今はボルテのこともある。

テムジンは意地を捨て、トオリルに帰順した。

 

トオリルの亡き父・イェスゲイへの気遣いからか、名目上は同盟関係ということになっていたが、力関係から言えば、まさしくその言葉が相応しい。

 

とにかく、テムジンはメルキト族を追い払い、ボルテを奪還することに成功した。

トオリルの持つケレイト族の大軍勢は、軍を預かったテムジンとジャムカの巧みな指揮によってメルキト族を散々に打ち破ったのであった。

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