今回と次回を小話にし、いよいよ次章へと向かいます。
遡ること
オールマイトとサー・ナイトアイは事務所のある県から離れ、とある森を訪れていた。
ヒーローコスチュームではない非番用の服装をまとい、髪形を変え、サングラスで顔を隠して歩いている。
それでも目立ってしまう巨体のオールマイトは、大きなフードを深く被ってシルエットを変えていた。
「ナイトアイ、ここに?」
「ああ。ほぼ毎日、同じ時間帯にこの場所に入っていく姿が目撃されているようだ」
人の手が入っていない、観光場所がある訳でもない辺鄙な山。
「度々大きな音が聞こえるそうだ。十中八九、個性の練習でもしているのだろう」
「ありそうだなぁ」
ヒーローに憧れる少年少女が、人目のつかない場所で個性の練習をする。
この時代ではありふれた事。オールマイトはともかく、ナイトアイにだって身に覚えがある。
彼の場合、個性使用が人に察知されにくい類のものだったこともあり、毎日使っていた。
したがって、こういう時はヒーローによって対応が変わる。
厳格に叱責し親に連絡する者、様子を見て危険性が低ければ注意で済ませる者、応援しつつ見て見ぬふりをする者まで様々だ。
なるべく危険な真似しないでいて欲しいと願いつつ、2人は山を登っていく。
そんな彼等の思考を鼻で笑うかのように――――
「死ぃねぇぇぇええええ!!」
BOOOOOOOM!!
不穏な言葉と危険な音が同時に聞こえて来た。
即座に駆けだしたオールマイトとナイトアイ。万が一ヴィランであった時のため、オールマイトが先行した。
時間にいて1秒も経っているかどうかという駿足で辿り着いたオールマイトが目にした光景とは。
「こいつで沈めやぁ!」
「まだまだぁ!!」
二人の少年が、殺し合いかと思う程の形相で立ち合う姿だった。
見た目から中学生程だと推測されるが、並外れた真剣な表情に確信が持てない。
それでも、その決闘のような衝突を訓練の一環だと判断したのは、二人の装いと周囲の環境だった。
どこから調達したのか、体の各所を覆うプロテクターとヘッドギア。特に頭部と胴体の守りを厚くしている。
地面も、この一帯だけ運動場のように平たくならされ、人工芝まで施されているではないか。
周りの木々には緩衝材まで巻いてあり、完璧ではなくとも出来る範囲で最大限の配慮をしているのが窺える。
学生の身でここまでの環境を整えるなど、並の努力で成し得るものではない。
その事実と彼等の表情から、途方もない熱意を感じたのだ。
一目でそれらを読み取ったオールマイトが感じたのは、偽りなき感嘆の念。
突き動かされるように、一歩前に進んだ――――その瞬間。
「っ――――!」
「誰だ!?」
全く同時に、二人は距離を空けてオールマイトの方へと振り向いた。
特に大きな音を立てた訳でもないというのに、この反応速度。
オールマイトは自身の口角が上がっていくのを自覚していた。
何も言わないのは不自然だろうと、両手を上げながら口を開いた。
「いやぁ邪魔をしてすまないね少年達。怪しい者じゃ――――」
「オールマイトォォぉぉォォオオオ!?」
「えーーーー!?」
学生の片割れ、緑髪の少年の叫びにオールマイトも度肝を抜かれた。
顔も髪も隠し、特徴的な笑い声も控えて話したというのに秒でバレるとは思いもしなかった。
もう片方の爆発頭も唖然とした表情で硬直し、一拍の間が空いた。
そこで到着したナイトアイが一瞬で状況を把握し、サングラスのズレを直しながら前に出た。
「あー、そこの君。勘違いしているようだが彼はオールマイトでは―――――」
「サー・ナイトアイもいるぅぅぅうう!?」
「なっ――――!」
ナイトアイ、硬直。
しかし脳内では様々なシミュレーションが行われ、即座に次に起こすべき行動を算出する。
「……おい出久。ほんとにこいつ等がオールマイトとナイトアイだってのか?」
「間違いないよかっちゃん! あの身長に筋肉量に肌の色に声音! 確かに画風は普通だから一瞬だけ分からなかったけどこれは多分個性を発動していない影響でそうなってるのであって逆に脳内で補完して見れば間違いなくオールマイトであることが分かるしついでに言えばナイトアイもサングラス付けてるけど顔の輪郭が隠れてないから分かりやすいし片方だけなら他人の空似の可能性も考えられたけれど二人揃うとなると別人という線は限りなく低くなるし今の時間は統計的にオールマイトが必ず活動してる時間帯なのに今調べてみたら記事が見当たらないってことは――――」
「うるっせぇからそれ止めろって何万回言ったらわかんだコラァ!」
「いだいッ!?」
怒涛の独り言が始まったかと思えば、爆発頭の少年によるビンタ。
空中で一回転して倒れた緑髪の少年は、しかし何事もなかったかのようにスクッと立ち上がった。
「ごめんなさい。ちょっと取り乱しました」
「ちょっとではなかったと思うけど……まぁ、うん。気にしない……さ」
そう言うオールマイトの笑顔がヒクついていることに、誰も言及しなかった。
トップヒーローとして様々なファンの対応をしてきた彼をして、濃いなと思わざるを得なかった。
微妙な空気となった場を仕切り直すように、ナイトアイが咳払いした。
「どうやら下手な誤魔化しは無駄なようだ。どうして分かったのか……は、あまり聞かない方が良さそうだから省こう。色々と言うべきことはあるが、まず最初にそこの緑色の髪の君……緑谷出久。君に聞かなければならない事がある」
ナイトアイに名を呼ばれて驚愕する少年――――出久に向け、鋭い視線が向けられた。
「率直に問おう。2年前、死柄木葬と接触した無個性の少年は君だな?」
「その通りです」
答えは迷いなく、簡潔だった。
いつか、そう聞かれる事が分かっていたかのように。
僅かに目を見開いたナイトアイは、次いでもう片方の少年に目を向けた。
「そちらの君は――――」
「ああそうだよ」
吐き捨てるように、彼――――
自身があの日、葬と接触した一人であり、誰あろう出久をイジメていた張本人であると。
自分達を訪ねて来たのがオールマイトとナイトアイであると分かった時点で、その目的を察していた故に。
一見、開き直っているようにも取れる態度ではあった。
しかしオールマイトとナイトアイは、その瞳の奥に燻る後悔の念を確かに捉えていた。
「誤解のないように言っておくが、君達に何かをしようと来た訳ではない。あの女の起こす騒動の対応に追われて遅れてしまったが、本来であればヴィランに接触した子供が精神的な後遺症を負っていないか、可能であれば当時の会話などから有益な情報が得られないかを確認するのが当然だ」
こうして時間がかかってしまったのは、言ったように様々な対応に人手が足りていなかったのと、通常の手続きで二人と接触した場合、情報が市井に漏れる危険性が高かった為。
そんな危惧が現実性を帯びるほど、当時の出久への関心は高かった。
慎重に慎重を重ねなければ、子供の日常が跡形もなく崩れただろう。
身元を特定し、念のために関係性を疑い、世間の関心が薄れるのを待った。
接触する人物としてオールマイト自身の強い要望があり、サポートする形でナイトアイが同行したという訳だった。
「アポイントメントなしで訪ねたことは謝罪しよう。だがこれは君達のプライバシー保護のための措置だと理解してもらいたい。今の我々は個人としてここにいるのであり、この場にヒーローはいないという事だ。君達のやっている訓練についても一切口外しないと約束しよう」
ナイトアイのその言葉に、出久と勝己が視線を交わした。
出久が強く頷けば、分かっていたと言わんばかりに肩を竦めてみせる勝己。
その様を見て、オールマイトは笑みを浮かべた。
かつてはイジメの被害者と加害者という関係だった筈の二人が、こうして互いに高め合う関係になっている。
それはとても素晴らしい関係……ではあるが、その切っ掛けが葬だと思うと微妙な気分にもなるが。
出久がナイトアイに向き直り、口を開いた。
「お話はわかりました。でも僕達には……少なくとも後遺症の自覚はありませんし、彼女に関しても世間で知られている以上の情報はありません」
「それでも構わない。こちらから幾つか質問をするから、答えられる範囲で答えてくれ」
彼等の会話は、時間にして1時間とかからず終わった。
精神的な負担は日常生活のみならず、思想や行動原理にも影響を及ぼす可能性がある。万が一にもヴィランに感化されるなどあってはならない。
多種多様な質問から、出久と勝己の精神性を探っていった。
結果として、危惧していたような影響は見られなかった。
専門職ではなくとも知識はあり、加えてヒーローとして様々なヴィラン犯罪の被害者と接した経験から、問題はないと判断した。
「最後になるが、君達はあのヴィラン……死柄木葬について、どう感じている?」
その問いに、一拍の間をおいて同時に口が動いた。
「必ず僕が捕まえます」
「必ず俺がぶっ倒す」
夢見がちな子供の願望――――そう一笑に付す事が許されない気迫があった。
オールマイトは、変装がバレた時に覚悟していた事があった。
ヒーローを目指す無個性の少年を前に、訪れる瞬間に内心で身構えていた。
――――無個性でもヒーローになれるか。
そう、訊かれると思っていた。
かつて自分も、無個性でありながらヒーローを目指した。
結果的に師から個性を継ぎ、アメリカでデビューして今日までトップヒーローとして活躍してきた。
だからこそ言える。そんなことは不可能だと。
仮に師と出会う事なく無個性のまま道を歩んでいたら、こんな所まで来る事は出来なかっただろう。
ヒーロー免許を取得するだけなら不可能ではない。
一定の状況でしか効果を発揮しない個性でも活躍しているヒーローはいるし、そういった類の者は試験でも個性を活用出来ない場面も多い。
中には、戦闘の大半は鍛えた肉体で行い、個性は補助的な役割でしか使わない、なんてヒーローもいるのだ。
だから、個性が無くてもヒーローに
問題は、なった先。その存在をヴィラン達に知られた時だ。
無個性という存在を蔑視する風潮がある現代社会で、社会に不満を持ってヴィランに身をやつした者が、無個性でありながらヒーローになった人間がいるなどと知ったらどうなるか?
間違いなく標的にされ、悪意の大波に呑まれて散るだろう。
元よりヒーローとは復讐や八つ当たりに晒されるものだが、無個性というだけでより大勢が気安く手を出してくるだろう。
元無個性として……否、元無個性だからこそ。個性を後天的に得て、その恩恵を人より深く実感したからこそ。
個性が無くてもやっていける、などと無責任な言葉は絶対に言えない。言ってはならない。
かつての自分と同じ少年に、自分とは別の無情な現実を突きつけなければならないと、そう思っていた。
だとういうのに、少年は何も訊いてこなかった。
どうすれば、ではなく。
可能か不可能か、でもなく。
なる、と。
言葉ではなく、その瞳で、その意気で、示してみせた。
もはや、なれるかどうかなど他人に訊くような段階ではないのだと。
その力強い覚悟に感服し、同時に己の浅慮を恥じた。
――――皆が笑って暮らせる世の中にしたい。
そう心の底から願ったあの日。そこに、無個性であるからと言う懸念など欠片もなかった筈だ。
誰がなれないと言っても関係ない。今まで誰もなれなかったのなら、自分が最初の一人になればいいと。
そうして走ったからこそ、誰より目の前の少年の志を理解出来て然るべきだったというのに。
そんな出久の隣に立つ勝己の存在が、羨ましく思えた。
無個性時代のオールマイトに、理解を示し、ましてや協力し共に高め合ってくれる存在はいなかった。
その目を見れば、無個性がヒーローを目指す事になんら隔意など持っていないのが分かる。
こんな様を見せられて、諦めろなんて言葉をかけるのはオールマイトには到底出来やしない。
何よりオールマイト自身が、彼等に大きな可能性を感じてしまったのだから。
「協力ありがとう少年達! 私達はこれで失礼するが、くれぐれも無茶はしないようにね!」
「は、はい! ――――あ、あとサイン頂けますか!?」
去り際にそう願い出る出久。口には出さないが勝己も欲しそうに視線を向けていた。
そんな2人に、オールマイトはサムズアップした。
「もうしたさ!」
驚愕する2人の、そのヘッドギアにはデカデカとオールマイトのサインがあった。
さらに、そのシャツにはナイトアイのサインもあった。
「うわーー! ありがとうございます! 家宝にします!」
「……あざす」
比喩ではなく滝の涙を流す出久と、小さくも礼を言う勝己。
打って変わって少年らしい態度に笑みを溢しつつ、オールマイトとナイトアイは場を後にした。
これが、4人の初邂逅。
この時はまだ、ヒーローと一般市民に過ぎない関係だった。
関わったヴィランが葬だったからからこその、特殊な対応が齎しただけの出会い。
それが後に、とても長く深い関係の始まりになる。
まだ誰も、それを知らない。
「それで、どこまであの二人にやらせるつもりなんじゃ?」
しわがれた老人の声が、薄暗い室内に響いた。
空間を埋め尽くすように備え付けられた電子機器の群れ。多くのモニターの一つを食い入るように見つめていたオール・フォー・ワンは、その視線を声の主へと向けた。
「それは弔と葬のことかな、ドクター?」
「それ以外になにがある? 随分と好き勝手にやらせているが、これではお前さんの影響力にも変化があるのではないか?」
ドクターの言葉に、オール・フォー・ワンは笑みを濃くする。
「そうだろうね。実際、海外だと僕より葬との関係を太くしようとする動きがある。まぁここ数年は大した動きも見せていないから仕方ない事だね」
「そんな悠長に言っとる場合か。既にヴィラン連合は一組織としては世界でも指折りになっておる。弔はともかく、葬に至ってはもはやお前さんでも勝つのは難しいのではないか?」
世界最悪のヴィラン。悪の頂点。闇世界の魔王。
一昔前であれば、それはオール・フォー・ワンの事を指していた。
多くがその力に怯え、オールマイトさえいなければ本当に世界がヴィランの手に落ちていたかも知れなかったのだ。
だが今現在、それらの称号は全て葬のものとなっていた。
個性を奪うまでもなく取得出来る能力は、本人の成長速度という一点においてAFOを上回っている。
加えてあっさりとOFAまで手にした結果、
今はまだ、手に入れて来た個性の数において圧倒的な優位がある。蓄えた経験も天と地の差。
しかしそれも、時と共に埋まっていく。恐るべき速度でだ。
「信奉者を奪われ尽くして零落、などとなったら目も当てられんぞ」
「ははは。その心配はないよドクター。あの子のやり方は良くも悪くも破天荒すぎるからね」
ヴィラン連合は、表向きには弔と葬の二人がトップという事になっている。
しかし実際には、大多数の人間は葬が頂点と捉えているのが実情だ。
まず弔は表立った活動が少なく、その動向がメディアに取り上げられる事もない。
裏で色々と動いているが、当人も暴れ役は葬に任せている節がある。
したがって、ヴィラン連合の行いは葬の意向とイコールで結ばれる。
故に、敵も作りやすい。
ヴィラン連合と銘打たれていると言っても、その所業が全てのヴィランに利するものとは限らない。
とある国の反政府組織を壊滅させて拠点を奪うだの、テロリストの犯行を無駄に掻き回して被害を広げたりだの。
なんなら、ヒーローが極端に少ない国に赴き、一ヶ月だけヒーローごっこして犯罪発生率を激減させる、なんて真似もしている。
そんな葬だからこそ心酔する者もいれば、邪魔だと思う者もいる。
少し考えれば、誰だって理解する。
死柄木葬という人間は、世界を救うヒーローにも、世界を破滅させるヴィランにもなれる。
しかしその本質は何処まで行っても、
ただ暴れたいだけのチンピラや、世間に疎まれたはみ出し者にとっては、なるほど魅力的に映るかもしれない。
その逆。信念を振り翳す者や、富や権威を求める者にとっては、どこまでも有害な毒。
どれほど強大になろうとも裏世界の支配者にはなり得ないし、本人もそんな気は全く持ち合わせていないだろう。
「そちらは専門外じゃ。必要以上の口出しはせん。わしとしても、あの娘には脳無の研究で大いに助けられているからのう」
そう言うドクターが見据える先。
円筒状の巨大な容器。透明で中が何らかの液体で満たされているそこには、大きな人影があった。
全身が黒く、シルエットは人だが体の各所に異形が見受けられる。
何より目を引くのは、頭部にある剥き出しの脳だ。
常人が目にすれば嘔吐は免れないような、凄惨な姿の怪物。
「こんなにも早くハイエンド個体を量産出来たのは嬉しい誤算じゃった。おかげでマスターピースへの研究も捗っておるしの」
「良い事だ。あの子を産み育てたのはつくづく正解だったと思うよ」
「わしとしては、
ドクターが髭をさすり、一拍の間を置いた。
「あの個性がどういう原理で生まれたものなのか、興味は尽きん。お前さんの個性と似て非なる代物なのは――――
「そうだと思うけど、今となっては証明しようがないね。あれだけ何度も試したのに、葬のようにはいかなかった」
「まぁ、あんな天然のマスターピースのような存在が簡単に生み出せたなら、たまったものではない」
マスターピース。
それはドクターの悲願であり、オール・フォー・ワンが己の野望を達成するための秘策。
個性特異点を克服するための手段の一つであり、完成すれば人類を一つ先の段階へと進める事も可能となる。
個性を解明せんとした人の科学が導き出した答えだ。
「科学によって特異点を克服する。それがわしの
個性の成長に肉体が伴わず、いずれ破綻を迎える――――それが個性特異点。
葬の場合、オール・フォー・ワンと違って力を個別に保存しているのではなく、一つの個性の機能を拡張し続ける。
世代を経ることで起こる個性の進化を、葬は単体で、それも理論上は無限に果たすのだ。
当然、真っ先に特異点に達している筈が、しかし本人が不調をきたす兆候は見られない。
それはつまり、ソフトと共にハードの更新も行われていると考えるのが自然。
生まれながらに超越者となることを約束された存在。パーフェクトワン。
ドクターの長年の研究を嘲笑うような存在はしかし、むしろ明確な指標としてはこの上ない。
「望むところじゃよ。あれを超えてこそわしの悲願の成就。インスピレーションの刺激として申し分ないわい」
「それは何よりだ。僕としても、あの子がどこまで行くのか楽しみで仕方ないよ」
「……それは後継としてか? 弔の方はどうする?」
ドクターの疑問は、弔への心配から来るものではなかった。
単純な比較として、どちらが優れているかは明白。だが先に述べた通り、葬には支配者としての気質が備わっていない。
オール・フォー・ワンにとって、二人の位置付けがどうなっているのか。それを問うていた。
「それは彼等のこれから次第だね。葬はもちろん、弔だって可能性に満ちている。僕の後継者として大成するか、或いは僕の予想をも超えてくれるかもしれない。これはこれで新鮮な気分だ。子の成長を見守る親の心情と言うのは、こういうものなのかもね」
愉快そうに語るオール・フォー・ワンに、ドクターは笑った。面白い冗談を聞いたというように。
子を見守るというが、その目はまるで餌の熟成を淡々と待つ捕食者のソレだ。
常人の数倍の時を生き、自身が魔王として君臨する夢を持ち続ける男が、ぽっと出の子供に道を譲るなど想像も出来ない。
この親子がいずれ辿る未来を予想することは、ドクターにとって容易い事だった。
「僕だって、ただ座して何もしてないわけじゃない。不甲斐ない姿は見せられないからね。それに現時点でも――――あの子が
どれほど世界が変わり、新たな悪の芽が生まれようとも。
魔王の威容に、些かの陰りもない。
「というわけで、今日から仲間になる殺ちゃんでーす」
「紹介にあずかった斬太刀殺でござる。よろしくお頼み申す」
「いやサラッと申してんじゃねーよ」
某国某所、ヴィラン連合の拠点内にある会議室の一つにて。
帰還した葬と殺と立哉、他に離人や大輝含め幹部勢が勢ぞろいしていた。
巨大な円卓をズラリと囲むのは20名程。椅子に座っていたり、壁にもたれかかっていたりと様々。
余談だが、葬が人を集める時に声をかける事が多い人物が組織内で幹部のような認識になっているだけであって、特に地位が割り振られているということはない。
葬にとっては悪戯に友達を誘うような意識であり、序列など設ける気は全くなかった。
無論、誰もがそれに倣っている訳ではない。
例えば上座に座っている葬の斜め後ろで秘書の如く佇んでいる女性――――人呼んでヒュドラちゃんなどがその筆頭と言えるだろう。
葬を神の如く崇拝する一派の頭を務め、組織運営に誰より精力的に貢献している。
彼女がいなければヴィラン連合結成は年単位で遅れていただろう、というのは運営に携わる者達の共通認識だ。
当時、予定が大幅に早まって大喜びした葬が頬にキスした時、彼女は気絶して3日間目覚めなかったとか。
そんな彼女だから、殺の紹介に思わずツッコんだ離人に向ける視線は殺人的だった。
葬様の決定に異を唱えるなど死にたいんかコラ。そんな副音声が聞こえてくるようだ。
「え、狩人ニキは反対?」
「むしろ出会い頭に斬りかかってきといて仲間になってくださいとか何なの? 今まさに仲間4人も重傷にされた直後なんだが?」
さらに余談だが、この拠点に来てから殺は出会う人間全てに刃を向けた。
幸い会議室に辿り着くまでエンカウントした人数が少なかったため、被害はそこまで多くはなかった。
ただ不幸にも出会ってしまった7人中3人がバッサリ斬られて緊急手術中なくらいだ。
会議室に人を集めた時も例に漏れず襲い掛かり、幹部扱いの者が1人だけ腕を落とされもしたが、それくらいだ。
なので室内はかなりギスギスした空気なのだが、気にせず葬は紹介を始めただけだ。
「え、面白くない?」
「え、お前馬鹿じゃね? そのイカレてるくせに無駄に良い頭で分析してみろよ」
「今日も皆が楽しそうだなーって」
「そんな平行世界は存在しねーよ」
呆れ返る離人の肩を、隣に座っていた大輝がポンと叩いた。
「気持ちは分からんでもないが、こうなっては覆らないだろうよブラザー」
「ハイそうですかで終わらせられるか。生活拠点にナチュラル通り魔が居着くんだぞ?」
「なーに、危険度で言えば同程度の連中とさんざん関わったではないか。すぐに慣れる」
「……」
慣れたくないって話だよ。
そんな言葉が喉元まで上がってきて、どうせ変わらないという部分は同意しているので溜め息として吐き出した。
この数年、似たようなやり取りを繰り返してきた。もちろん葬が意見を覆したことなどない。
それも言いたい事は言わずにはいられないために行っている、一種のルーティンだった。
と、そこでもう一人の新参者が恐る恐る手を上げた。
「えー、俺は師岡立哉です。スレでは腕立て師でコメしてました」
そんな見た目も挨拶も平凡な様子に、まばらな拍手が上がった。
奇襲をしてこないという時点で、殺よりも初期の好感度は上だった。
「歓迎しよう腕立てニキ。我は禅羅大輝。全裸待機と言えば分かるだろう」
「あぁ……うん、よろしく」
歯切れの悪い返事をした立哉だったが、真顔で全裸待機なんて言葉を出されれば、さもありなん。
そんな自信満々に言う言葉かと思ったが、近年の全裸教の事を考えれば、口にしない方が吉と考えた。
立哉の心情を察した離人が、分かるぞと言わんばかりに頷いた。
その場の人間達と一通り挨拶が終わったタイミングで、葬が口を開いた。
「じゃあしばらく2人は誰かとペアになって色々と教わってね。殺ちゃんは狩人ニキに任せるとして、誰か腕立てニキに教えたいって人いる?」
「……ん?」
静まりかえった会議室で、離人の声がよく響いた。
「いや、は? なんで俺だけ固定?」
「だって殺ちゃんと24時間一緒にいて生き残れるのって狩人ニキくらいじゃん。個性的に」
事実、他の者が必死に防いだ殺の斬撃を、離人だけが苦も無く弾いた。
傍からすれば、殺の奇襲を受けても微動だにせず、何の脅威にもならないと言わんばかりに悠然と佇んでいるように見えた。
本人としては速すぎて全く見えず、気が付いた時には首を一閃され、危うく失禁するところだったりした。
とは言え、少なくとも現状で殺の力が離人の防御を抜けないというのは確かだ。
いつでもどこでも襲われる危険がある以上、真っ当な采配である。
苦い顔で唸る離人の元へ、殺が歩み寄った。
「お世話になるでござるよ、狩人ニキ」
「あ~……くっそ。わかったよ、よろし――」
渋々と手を伸ばした瞬間、手首に僅かな衝撃。
いつの間にか刀を振り切った姿勢の殺が、残念そうな表情を引っ込めて握手してきた。
「ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いいたす」
「おいなにサラッと言ってんだボケナスぅ!」
何もなかったかのように手をブンブン振る辻斬り女に向かって、離人は叫んだ。
意趣返しに全力で手を握り潰しにかかるが、増強効果有りな個性を持つ殺にとっては子供のじゃれ合いに等しい。
加えて、己の刃を真っ向から防ぐ存在を前に、彼女の瞳は爛々と揺らめいていた。
これからの日々を否応にも想像し、離人の瞳は死んでいた。
それから時折、各地の連合の拠点にて、離人の怒号が響くようになった。
葬の個性の弱点ってなんだろう?(考え中)
世は問う、その在り方を
世は見る、その生き様を
世は語る、その結末を
考え、交わし、また考えて
その行きつく先に思いを馳せて、今日も言葉を尽くすのだ
その未来に、己の日常がないと分かっていても
次回「ヴィラン連合について語るスレpart1000」
民「葬ちゃんprpr」
民「弔きゅんhshs]
民「狩人ニキ萌えー」
魔「オールマイト絶対ぶっ殺すマン」
民s「「「ファッ!?」」」