【急募】父親を中二病から解放する方法    作:Pekky

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何故だ!!

何故やつ(誤字)に勝てない!?

何故だぁ!!!!(サンダーボルト並感)


感想と誤字報告、ありがとうございます。

第2終末安価の世間視点。そして恐怖の死柄木一家です。


幕間 暗然とする社会? 慟哭の夕ご飯!!

 スーパー娘の再来

 

 その一報は瞬く間に全国を駆け巡り、薄れ始めた恐怖を呼び覚ました。

 

 遡ること半年前の、オールフォーワンとオールマイトの決戦。

 

 あわや平和の象徴を失う事態になりかけた時の驚愕と絶望は、未だ人々の心に重く横たわっていた。

 

 それがオールマイトの生存報告を境に、ゆっくりと時間をかけて解かれている所だったと言うのに。

 

 その掲示板と配信動画の情報が広がるや否や、誰もがスマホに釘付けとなった。

 

 車両の交通が止まり、雑踏の歩みが止まり、学校の授業が止まり、現場の仕事が止まった。

 

 情報に疎い者もまた、異様さに気付いて事態を知る。

 

 端末を持たないような老いた世代でさえ、テレビをつければ配信の映像をそのまま流していた。

 

 ――――そして、彼らは目撃することとなる

 

『あぁ……痒いぃ……』

 

 魔王が育てる、もう一人の継嗣。

 

 果てなき破壊衝動を身に宿す、もう一つの恐怖を。

 

『小さい頃、ヒーローに憧れてたんだ』

 

 誰もが胸に刻まれた。

 

 多くの人々が共感する過去の憧憬。それを同じく抱いていたと語る彼の言葉を。

 

『父が言っていたよ。ヒーローは他人(だれか)のために家族を傷つける……ってさ』

 

 多くが首を傾げた。いったい何を言っているのかと。

 

 命を救う立派な仕事。それがヒーローだ。

 

 それが家族を傷つけるなんて、意味がわからないと。

 

 多くの者が胸を押さえた。ヒーローとして活躍する家族(だれか)を想って。

 

 命を救う立派な仕事だとわかっている。

 

 それでも傷つき、倒れる姿を見るのは辛いのだ。

 

 いつか取り返しのつかない事になるんじゃないかという恐怖が、ふと心を蝕むのだ。

 

 ヒーロー達の脳裏を、大切な人達(だれか)の顔がよぎった。

 

 自分の仕事を誇りと笑い、讃えてくれる。しかし自分が傷つき倒れれば、誰より泣き苦しむであろう存在を。

 

 誰かを救うための仕事が、存在が、逆に誰かを傷つけるというジレンマ。

 

 どこかで気付いていて、しかし目を背けていた事実を眼前に突きつけられた。

 

 誰かを救うために誰かを歪ませ、それが彼のような存在を生んだというのであれば――――

 

 それはなんと……なんと虚しい悲劇だろうか。

 

『窮屈な家族を壊して、窮屈な家を壊した。でもこの世にはまだまだ窮屈な檻がたくさんあった』

 

 窮屈。

 

 その通りだ。この世は総じて窮屈。

 

 子供の頃は世界が無限に見えた。大人の背中が何より大きかった。

 

 歳をとり成長すれば、今よりも自由に駆け回れると信じていた。

 

 だから言った――――はやく大人になりたいと。

 

 けれど、そうではなかった。

 

 自分達は世界の広さを知らないのではなく、世界の狭さを知らなかったのだ。

 

 大人の背中が大きく見えていたのは、その不自由さを見せてもらえなかっただけなのだ。

 

 大人になり、理不尽に抗うのではなく受け流す術を学び、小さく背中を縮めるようになった。

 

 そうして、誰にも聞こえないように零す――――あの頃に戻れたらと。

 

 たとえ小さくとも、確かな自由のあった時間を取り戻したいと、叶わぬ思いを抱き続けて――――

 

『ならもう壊そう! いったん全部!!』

 

 プツン――――と。

 

 何処かの誰か達の中で、そんな音がした。

 

 会社に勤めるサラリーマン。家事に勤しむ主婦。犬の散歩をする老人。子供に振り回される教師。

 

 様々な場所で、様々な人の何かが切れて、代わりに胸が高鳴った。

 

 モザイクと加工で姿も声も分からない。自分達よりも遥かに年下だろう子供の言葉に、何かが壊れた。

 

 ただその言葉が、何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度でも心に響き続ける。

 

 言い様のない感覚に戸惑いながら、しかし決して目を逸らせないし逸らしたくない。

 

 そして――――

 

 個性は人に生まれた第四の欲求

 

 その言葉を、その身で、その存在で現すかのように――――

 

 兄妹は争い始めた。自ら以外の全てを知らぬとばかりに破壊し尽くして。

 

 兄は笑っていた。溜まって濁って滾り続けた全てを吐き出すように。

 

 妹は揺らがなかった。絶死の波をそよ風の如く捌き、変わらぬ自分で舞い続けた。

 

 間違いなく悪党だ。疎ましく悍ましい、今すぐに法で裁くべき巨悪の卵。

 

 けれど……だが、しかし……あぁ……

 

 そこには、紛うことなき自由があった。

 

 かつて自分達も持っていた筈のもの。けれど誰もが、いつの間にか手放していたもの。

 

 奪われた憎悪に泣く市民が、駆け付けた警察が、戦わんとしたヒーローが、悉く塵にされていた。

 

 人も秩序も正義も何もかも、彼らを縛る事は出来ない。

 

 徹頭徹尾、己のために笑い、己のために叫び、己のために力を振るう。

 

 その様を例えるのなら……そう。

 

 あの兄妹は、誰よりも――――()()()()()

 

 自身という存在を何よりも尊び、何よりも優先して、何がなんでも貫き通す。

 

 決して揺らがぬ芯が、彼等から感じられたのだ。

 

 社会で生きている内に、誰もが折れて曲がって、その内気にもしなくなるもの。

 

 なんと恐ろしく、なんと妬ましい。

 

 どうしてこんな化け物が存在するんだ、という思い。

 

 どうしてあんな風に生きられないんだ、という想い。

 

 戦いは、ほんの20分程度の時間だった。

 

 誰もが口を閉ざし、意味は違えど見入っていた。

 

 勝敗が決し、魔王が現れ、全員が姿を消すその瞬間まで。

 

 呼吸を忘れかけた口から大きく息を吐き、ゆっくりと世界は動き始めた。

 

 どれほどの衝撃があったとしても、生きるために必要な動作は続けなければならない。

 

 骨の髄まで刻み込まれたルーチンをこなし、人々は日常へと戻り始めた。

 

 ――――しかし。

 

 そんな彼等の見る世界は、前よりほんの少しだけ、何かが違っていた。

 

 

 

 

 

 

 被害報告

 

 指名手配ヴィラン仮称「魔女」、およびその兄と呼ばれるヴィランによる被害の中間報告。

 

 被害状況――

 7街区、建物48棟の倒壊。被害面積1.75㎢相当

 

 人的被害――

 死亡者数408名。内、市民309人、警察官79人、ヒーロー20人。

 他重軽傷者数289名。内意識不明38名。

 

 他、物的被害等については調査中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おおファッキンゴッド。どうか迷える子羊をお救いしなくていいからくたばれ。

 

 この世に神が存在するのなら、彼は人生最大の笑顔と共に中指を立てていただろう。

 

「じゃーん! 葬ちゃん特製のビーフカレーじゃい! 味わえ!」

 

「……ふんっ。カレーくらいで威張んな」

 

「こらこら弔。喧嘩腰はやめなさい。客人の前なのだから。すまないね狩人君。大したおもてなしも出来ないが、ゆっくりしていってくれ」

 

「あ、ハイ」

 

 俺はどうして……こんなところに……来てしまったんだろう……。

 

 そんな風に悔恨の念を浮かべる彼だったが、同時に現実的な回答を自分で出す。

 

 あんな状況で断れるわきゃねぇだろボケェ!!

 

 意味のない自問自答は、要するに防衛本能による現実逃避以外の何物でもない。

 

「狩人ニキもたーんと召し上がれ! 今日もありがとうね」

 

「あ、ハイ」

 

 ドンッと置かれた大皿には山盛りのカレー。

 

 その香りは実に良し。食欲をそそり、疲労の溜まった体にはたまらない誘惑となるだろう。

 

 こんな――――魔王三人衆に囲まれた食卓(ゲヘナ)でなければ。

 

「というか、何でそいつ連れて来たんだよ? ただ吹っ飛んでただけの雑魚のくせに」

 

 文句を言ってたわりには我先に食い始めた兄上……否、弔が話の矛先を向けてきた。

 

 まさか一番槍がお前かよと、彼――――狩人ニキは冷や汗を浮かべた。

 

 こっちが聞きたいわと言いたいが、問われているのは自分というより招待主だろう。

 

 狩人ニキもチラリと、向かいに座る父魔王に視線を向けた。

 

「葬の友達ならば是非招待したいと思っただけさ。まさかこんな機会が訪れるとは思っていなかったからね」

 

 言外に友達出来ないやつ判定してね? 狩人ニキは怪しんだ。

 

「まあ、とても興味深い個性を持ってたのもあるがね」

 

「パパ。あたしが見つけたんだからね」

 

「わかっているさ。手出しなんてしないよ」

 

 これ完全に目つけられてますね本当にありがとうございました。

 

 わかってる。手出ししないよ(何もしないとは言っていない)ってやつですね。ちくしょう。

 

 庇ってくれてるイッチも、これからも使うから壊すな的なニュアンスをヒシヒシと感じまする。

 

 なおどちらも命の危険しか感じない。さすが親子。

 

 というかさっきは聞こえなかった筈の名前が普通に聞こえちゃってるあたり、もはや逃げ場ないよね。

 

 狩人ニキの精神は涅槃に到達しようとしていた。

 

 ああ……本当に、どうしてこうなったんや。

 

「そいつ確か潜伏だろ? 無能ってわけじゃないが……そこまで珍しいか?」

 

「プークスクス」

 

「あ?」

 

 何故かイッチがわざとらしい嘲笑。兄上オコオコ。

 

 ちなみに一般家庭的な四角いテーブルに狩人ニキとパパ上が向かい合せに座り、狩人ニキの向かって右にイッチ、左に兄上である。

 

 イラついた兄上の手の中でスプーンが崩壊しちゃいました。

 

「あーあー、お兄ちゃん分かってないなぁ。周りへの観察力が磨けてないねぇー」

 

「……喧嘩売ってんのかお前? それならそうとハッキリ言えよ」

 

 そんな会話の中でも、イッチは新しいスプーンを用意し、兄上はそれを受け取っている。

 

 仲が良いのか悪いのか、それとも家族ってこんなもん?

 

 狩人ニキの精神は(ry

 

「だってさぁ、おかしいと思わない? パパとオールマイトとの戦いの時も今回も、こうして無事に生きてるんだよ?」

 

「個性で隠れて離れてただけだろ。前回なんか途中でくたばってただろうが」

 

「ふーん。じゃあさ――――」

 

 ピンと立てた指を、イッチは真下に向けた。

 

1()0()()()()()()()8()()()()()()()()()()()()なのは……普通かな?」

 

「っ…………!」

 

 ギロリッと、兄上の視線が狩人ニキに突き刺さった。

 

 狩人ニキは無心にカレーを貪っている。とっても美味である。

 

 市販のカレーを食い尽くした狩人ニキにはわかった。これは完全にオリジナルだと。

 

 市販カレーにちょこっと味付けして手作りとかほざいてるのとは訳が違う。真の手作りカレーだ。

 

 肉もしっかりと煮込み、柔らかく溶けていくのが素晴らしい。

 

 この甘美な食に溺れて、どうかこのまま過ぎ行く時に身を任せていたいです。

 

「潜伏ってのは嘘か。だが姿を消していたのは知ってる……本質は別にある、か」

 

「その通り」

 

 黙って見守っていたパパ上がログイン。狩人ニキのSAN値が砕けた。

 

「彼が警察に捕まっていない……どころか、何故か()()()()()()()()()()()のも彼の個性が関係していると僕は踏んでいる」

 

「他人の認識に干渉する……? いや、それだと落ちて無傷だった説明がつかない。認識じゃなくて、別の……」

 

 兄上が思考に没頭し、パパ上とイッチが狩人ニキをニヤニヤと見つめている。

 

 狩人ニキは空っぽの皿を差し出した。

 

「おかわりいいっすか?」

 

「はーい。どんどん食べてねぇ」

 

 受け取り、よそって、返す。

 

 美少女にご飯をよそってもらうという一幕に、狩人ニキは密かに感動していた。

 

 なんか……こういうの、良いよね。

 

 狩人ニキの思考は、そんな現実逃避に邁進していた。

 

「――――さて。では本題に入ろうか、狩人……いや、狩谷(かりや)離人(りひと)君」

 

「ブッ……!!」

 

 吹き出すのだけはなんとか耐えて、思わずパパ上を直視した狩人ニキ。

 

 視線が合っただけで心が屈服してしまいそうな雰囲気をそのままに、親し気な笑みを浮かべていた。

 

 まるで養豚場の豚になった気分だった。

 

「予想はついていると思うが、君を勧誘したい。その素晴らしい個性で、是非とも手伝って欲しい事があるんだ」

 

 両手を広げ、素晴らしいの部分をやけに強調する。

 

 自尊心がちょこっと満たされた。狩人ニキはチョロイのだ。

 

「基本的には葬の手伝いという形になるが、たまに僕や弔の用事にも手を貸してほしい。もちろん相応の報酬を用意するよ」

 

 形は相談である。

 

 しかし狩人ニキは知っている。これは交渉じゃない、命令だ。(四刃並感)

 

 兄上は思考の海の底からこちらを睨んでいらっしゃるし、イッチは断るとは思っていない……否、断ることなんて不可能だと理解しているからか、ニコニコである。

 

「もちろん嫌なら拒否してくれて構わない。娘の友達の判断を尊重するよ」

 

 尊重する(何もしないとは以下略)ってやつですね分かります。

 

 しかし、いくら金と勢いでやって来た狩人ニキだって理解している。

 

 ここから先に行けば、もう引き返す道などありはしない。魔王軍の尖兵として永久就職が決定してしまう。

 

 平穏な人生を望むのなら、ここで断固として退かねばならぬ。

 

 今こそ勇気を振り絞る時。弱き己を超克するのだ!

 

 さらに向こうへ! プルスウルトラァァァアア!!

 

「俺は――――」

 

「あ、これ今回のお礼ね! 渡し忘れてた」

 

 スッと差し出されたのは、一枚の薄い紙だった。

 

 反射的に受け取ったそれは、なにやら0がたぁ~くさん書かれていた。

 

 一番上には「小切手」とある。

 

 記憶が正しければ、前回のお礼の倍……どころか、三倍はあった。

 

「思った以上に楽しかったから、色つけといたよ!」

 

 ニコニコイッチを見て、小切手を見て、イッチを見て、小切手を見た。

 

 色? 色と言ったのか。

 

 この『色』だけで狩人ニキの年収は鼻クソと等価になってしまう。それが『色』だと?

 

「どうだろう。引き受けてくれるかい?」

 

 パパ上の言葉を、真っすぐに受け止めて。

 

 狩人ニキは――――皿を差し出した。

 

 

 

 

 

 

「おかわりいいっすか?($目)」




子供が当たり前にできることを大人ができないという不条理も、ままあるのが人間というものの奇妙さだからな(糞眼鏡並感)


おかしい……狩人ニキの過去にちょっとは触れようと思っていたのに(驚愕)

気が付いたら書き終わっていた……何者かの個性?(阿呆)




再び相まみえる、巨悪の卵と平和の象徴

「君はなぜこんなことをする! こんなことはやめるんだ!!」

オールマイトは悲哀を叫ぶ

小さな子供が親に感化され、当たり前のように罪を犯す悲劇に

「仕方ないんだよオールマイト。これは、あたしがやらなくちゃいけないんだ!」

少女は笑う

己の運命を受け入れて、逃れ得ぬ定めに従うのだ

その笑顔の裏に、全てを押し隠して

「君もだ少年! 彼女をこのままにして良いと、本当に思っているのか!?」

「それは……っ!」

ヒーローの叫びは、狩人の心を揺り動かす

己のすべきことはなんなのか

己の望む道とはなんなのか

少年は苦悩する。自らが願うものとは……

「命をかけて綺麗ごとを実践するのが、ヒーローだ!!」

正しさとは

正義とは

少年は今こそ、その答えを見る




次回「安価は絶対! オールマイトの厄日!?」
肉「プルスウルトラァァ!!」
狩「明日の朝刊は『平和の象徴、14歳女児に襲い掛かる!?』これで決まりだ!!」

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