名家のウマ娘   作:くうきよめない

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想い片手に

 

 

 

 感謝祭の片付けは後日行われるため、散らかった学園内を一人のウマ娘を探すために歩き回る。いつの間にか体の発光は収まっており奇々怪々な視線を送られることは無くなった。

 

 レースの後、タマモクロス達に一言告げてからマックイーンの元へ向かおうとしたが、既に彼女はその場から立ち去っていた。

 彼女の後を追おうと、同じレースに出走していたナイスネイチャやマチカネタンホイザにマックイーンの行方を聞いてみても、有力な手がかりは掴めなかった。トウカイテイオーにも聞こうとしたが、彼女も彼女で姿が見えなかったので見つけ次第聞いてみることに決めた。

 

 校門を見張ってたフジキセキからはマックイーンが外に出たという旨の連絡は受けていないため、まだ学園内にいるのは確実だ。

 

 先程送った連絡に反応を示していることを願いながらウマホを開くが、彼女からの返信は無いどころか既読すらも付いていない。正直、こうなった場合もうお手上げに近い。

 

 担当ウマ娘とはいえ、こうして追い回すような真似をするのは良くないのかもしれない。一人になりたい、一人にさせて欲しい、そんな時があっても何も不思議ではない。

 

 だが、話さなければ何も始まらないのもまた事実だ。言わずとも分かる、理解し合えるなんてものは幻想だ。それは一心同体を誓い合った僕達でも不可能に近い。

 

 だから、あのレースの最後に一体何が起こったのかを聞かなければならない。このまま彼女を一人にしても何も前に進まない。

 

 そんな思いを胸に、彼女を探す足を早める。

 

 

 

 ……ん? 何か今背中に視線を感じたような……気のせいかな? 

 

 

 

 ***

 

 

 

 マックイーンを探し出してから数分、彼女の行きそうなところを隅々まで探したが、その全てが無駄足に終わった。トレーナー室を始め、グラウンド、体育館、彼女の所属する教室。

 さすがにトイレや更衣室には入れなかったので近くにいたウマ娘に協力してもらったが、それでもマックイーンが見つかることはなかった。

 

 残すは各チームの部室付近のみ。

 自分はチームを作っているわけではないので、マックイーンが行くような場所とは考えられない。しかしそこを探さないわけにはいかないので、部室周辺をゾンビの如く徘徊する。

 

 〈カノープスの〉部室……〈リギル〉の部室……そして〈スピカ〉の部室……ん? 誰かいる? 

 

 〈スピカ〉の部室付近で人の気配を感じ、茂みに隠れながらそーっとその方向を見る。

 そこにいたのは、探していたメジロマックイーン、そして同じく姿が見えなかったトウカイテイオーがいた。

 

「なんですの、テイオー。こんな所に呼びつけて。まるで青春ドラマの1ページみたいですわね」

 

「茶化さないでよ、マックイーン。さっきのレースの最後、一体何があったのさ」

 

「……なんのことだかよく分かりません」

 

「っ、とぼけないでよ! 気付いてないとでも思った!? 最後の一瞬、君は明らかに減速した! あれが無かったらボクが負けてたかもしれなかった!」

 

 真剣な顔で質問をするトウカイテイオーだが、マックイーンにはぐらかされたことにより激昂する。

 

「…………やっぱりまだ脚が……」

 

「左脚の怪我は完治しています。痛みは感じませんし、レースで再発したなんてことはありえません」

 

「……また走れるんだよね?」

 

「貴方に心配されずとも、私は走り続けます」

 

「じゃあなんで……?」

 

「……今回のレースにおいて、私より貴方の方が速かったというだけですわ」

 

 マックイーンはそう答えるが、彼女の目は明らかに何かを隠しているような目をしている。この位置からの僕が分かるんだ、トウカイテイオーがそれに気が付いてないはずがない。

 

「……どうしても答える気は無いんだね」

 

「……」

 

 トウカイテイオーの返答にマックイーンは黙りこくってしまい、そのまま沈黙が流れた。

 

「じゃあいいよ。君が話したくないんだったらボクはこれ以上聞かない。今回は君の口車に乗ってあげる」

 

 頑なに事情を話そうとしないマックイーンに、トウカイテイオーは背中を向ける。ただその様子には諦めや失望と言ったような感情は含まれていない。

 

「でも、これだけは覚えといて」

 

 トウカイテイオーは首だけを動かし、横目でマックイーンを見ながら言い放つ。

 

「ボク、こんなので君に勝ったなんて思ってないから」

 

 その言葉に、ずっと握りしめられていたマックイーンの左手がより強く握りしめられた。

 

 トウカイテイオーの迫力は、さながらどこかの皇帝を思い出させるほどのものだ。

 

 前に聞いたことがある。

 昔、皇帝に対して当時は無謀に近い要求をしてきたウマ娘がいた。そのウマ娘の付き添いの娘曰く、その時の皇帝の返しはこの世のものとは思えなかったと。

 今のトウカイテイオーは、それに負けないほどのものなのだろう。

 

「次は全力の勝負、できるといいね」

 

 そう言い残し、トウカイテイオーはその場を立ち去る。この場に残されたのは、儚げな、しかしてどこか後悔の残る表情のマックイーンだけだった。

 

 その表情のまま、マックイーンはずっと握りしめていた左手を開く。

 

 そこにあったのは、欠けた蹄鉄が一塊。

 

 

 ……なるほど、そういうことか。

 

 

「私だって……私だって、あんな不本意な終わり方……!」

 

「納得、いかないよな」

 

「ト、トレーナーさん……!? いつからそこに……」

 

 急に現れた僕に、マックイーンは驚きの表情を見せていた。

 

「あー……すまん、盗み聞きするつもりはなかったんだが……」

 

「はぁ……まあ構いませんわ。聞いての通り、今回は私よりテイオーの方が速かった」

 

 落ち着きを取り戻した彼女は、どこか自嘲気味な様子で僕に語る。

 

「情けないですわね。あれだけ大勢の前で1着を取ると宣言しておきながら、あれだけ貴方に勝利を誓っておきながら、結果がこれですもの。これでは、トレーナーさんにも応援してくださった皆さんにも申し訳が……」

 

「その蹄鉄、さっきのレースの時に使ってた物でしょ?」

 

「……」

 

 不意に言葉を挟んだことにより、マックイーンはまたしても黙りこくってしまった。

 

「沈黙は肯定とみなすよ。ゴール直前、君が一瞬だけ減速したのは僕にも分かった。最後の最後で落鉄して、バランスがほんの一瞬だけ崩れた。でも、あのレースの勝敗を決するには充分過ぎる要因だった」

 

 マックイーンは左手にある蹄鉄を再度握りしめる。

 

「もしかしたら原因は怪我にあるんじゃないかって思ったけど、君から言い出さないということはそうじゃないってすぐに気が付いたよ」

 

 これは一種の信頼関係だ。レース後、異変があればすぐに伝える。これを事前に決めていたため、最悪の事態を想定することはなかった。

 

「負けた理由が道具のせいってのはカッコ悪いからね」

 

 マックイーンは沈黙を貫く。

 

「ライバルにそんな姿は見せたくなかったんだろうね」

 

 マックイーンは沈黙を貫く。

 

 ……

 

「ま、今回は理由が理由だ。仕方がなかった、運が無かった」

 

「…………え……? いやっ、ちがっ……」

 

「このレースはマックイーンに勝利の女神が振り向かなかった。天に見放されたって訳だ」

 

「そ、そんなの……」

 

「レースで勝つためには運も必要だ。今日に限ってその運が無かった。これはどうしようもない。諦めるしかない。マックイーン、君もそう思ってるんだろ?」

 

「ち……違う……私は…………私はそんなことは……!」

 

「ん、言ってみ?」

 

「ぁ…………」

 

 これだけ彼女の心を揺さ振れば充分だろう。

 

 マックイーンの頭を撫でると、彼女の目からは大粒の涙がポロポロと流れ出した。

 

「…………勝ちたかった……勝ちたかった、勝ちたかった勝ちたかった!!」

 

 何かの糸が切れたかのように、マックイーンは心の内を曝け出す。

 

「僅差で負け? 運に恵まれなかった? そんなこと関係ない! そんなの知ったことじゃない! 私はただ勝ちたかった! 勝って証明したかった! メジロマックイーンは、今後も最強のウマ娘であり続けるということを! 他でもない、貴方と共に!!」

 

 マックイーンの独白は続く。

 

「私の今日のコンディションは完璧でした。それ故に悔しい……! テイオーとだってもっと良い勝負ができていたはずなのに……!」

 

 それは後悔か、懺悔か、それとも彼女の欲望か。

 

「あんな不甲斐ない形で終わってしまって……私は……私は!!」

 

 頭の中では分かってる。今回のは事故だ。道具の手入れを怠らない彼女にとって、防ぎようがない事故だ。

 

 そんなことは分かっている。それでも納得がいかない。

 

「マックイーン」

 

 不意に名前を呼ばれたことにより、目に涙を浮かべたまま彼女はこちらを向く。

 

「まだ負けていない、これは勝ちの途中だ。君の強さを、君の想いを、もっと見せつけてやろう」

 

「っ……!」

 

 オレンジ色に輝く太陽とカラスの鳴き声が寮の門限の時間を告げ、マックイーンは目に浮かべていた涙をこぼし、再び赤子のように泣きじゃくる。

 

 そんなマックイーンの泣き声は、日が暮れるまで辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「少しは落ち着いた?」

 

「…………はい……その、トレーナーさん、連日みっともない姿を見せてしまい申し訳ありません……」

 

「いいって、気にしないで……って前もこんなやり取りしたね」

 

「そうですわね」

 

 マックイーンは少し大人びた表情でふふっと笑う。

 彼女が成長したようで嬉しいような、なんだか少し悲しいような。

 

「その……お洋服なんですけど……」

 

「ああ、マックイーンの涙と鼻水でベトベトだよ」

 

「は、恥ずかしいので言語化しないでくださいます!? もう、どうしてそういうところのデリカシーは無いんですの!!」

 

 赤い顔をして僕をポカポカ殴るマックイーンに苦笑いを浮かべる。

 

 あんまり成長してないかな。やっぱりマックイーンはマックイーンだ。

 

 ……あの、ウマ娘のポカポカは人間で言うところのボコボコなのでそろそろやめて欲しいんですけど……

 

 そう思ってると、マックイーンは急に叩くのをやめ不安気な表情を見せる。

 

「……トレーナーさん」

 

「ん、どした?」

 

「私、勝てるのでしょうか? 今後トゥインクル・シリーズに復帰して、勝利を収めることが……」

 

 先程のことで自信がなくなったのか、マックイーンはいつになくらしくないことを言う。

 

 ……しょうがねえなあ。

 

「よっこらせっと!」

 

「へっ、きゃわっ!? ちょっ、ど、どうして私を持ち上げますの!? 降ろしてください! ていうかその掛け声はなんですの!? もしかして重いとでも……」

 

「その顔だよ、その顔。落ち込んでる顔は君には似合わないっての!」

 

「っ……!」

 

「ここからだ、マックイーン。ここが君の新たなスタート地点だ! 世間に見せつけてやろうぜ! これが新しいメジロマックイーンだってことをさ!」

 

「分かりました! 分かりましたからいい加減降ろしてください!!」

 

「ああ、ごめんごめん、マックイーンの反応が面白くってついね」

 

 そうだ、マックイーンはここからだ。これで終わりなはずがない、ここで終われるはずがない。

 彼女の闘志はまだまだ燃え盛っている。勝ちたいという欲望に抗えるウマ娘はいない。

 

「それより、なんか重かった気がするんだけどもしかして太」

 

「ふんっ!!!」

 

「がはあっ!?」

 

 僕の一言を聞いた瞬間に、マックイーンは即座にみぞおちに拳を入れる。

 

 あ、これまずい、明らかに余計なこと言った。

 意識が……

 

「今日のことは感謝していますわ。ありがとうございます、トレーナーさん」

 

 ど、どういたしまして……

 まだかろうじて意識保ってるけどもう限界……

 

「…………それと……その……実は私、貴方のことが……」

 

 

 

 ***

 

 

 

 言ってしまった。

 この思いは来たるべき時まで隠しておこうと思っていたのに、言ってしまった。

 吹っ飛ばした後でこんなことを言うのはロマンの欠片も何もないが、ここで言わなければいつまでも伝えられない気がしてならなかった。

 

 今この気持ちを伝えてしまったら確実に彼を困らせてしまうことなんて分かっている。私はまだ学生の身分。対して彼は成人だ。

 少なくとも、学園を卒業するまでは伝えるべきではないと思っていた。だがもう我慢できない。

 

 貴方が好きだ。どうしようもなく好きだ。

 

 こうしていつも寄り添ってくれて。自信が持てなくて弱気になった時に、あの日の気持ちを思い出させてくれて。貴方と一緒だったらどこまでだって行けそうな気がして。

 

 一時期は貴方の方から告白させようとしていた。けど、それでは遅すぎる。

 どうせもう一人担当ウマ娘が増えるのだ。だったら、ここで貴方を私のものにすればいい。そうすれば貴方を取られる心配もなくなる。どこのウマ娘の骨とも分からない輩に掻っ攫われてはたまったものではない。

 

 トレーナーさんは告白を受け固まっている。

 恐らく返事に迷っているのだろう。でも聞かなければならない。

 

 そしてゆくゆくは……

 

 

 

 

 

「あの……返事を聞かせてもらってもよろしいでしょうか……あら、トレーナーさん? ト、トレーナーさん、もしかして気絶してますの!? う、嘘でしょう!? 返事をしてください、トレーナーさん!!」

 

 

 あんなに勇気を振り絞ったのに!!! 

 

 

 

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