名家のウマ娘   作:くうきよめない

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スポーツとスイーツって語呂が似てませんこと?

 

 

 

 夏が終われば秋が来る。そうは言っても、秋になったところで夏の暑さが消えて無くなるというわけではなく、最高気温が30℃を超える真夏日になるなんてことは珍しくない。

 そんなクソ暑い中、多くの学生は夏休みが終わり学校に呼び出されて絶望を味わうだろう。諸説あるが、そもそも夏休みというのは夏季の暑熱を回避するためのものである。しかし、秋になってもこの暑さでは、一ヶ月休みにした程度ところでという話になってくるので、もう一ヶ月くらい夏休みを延長してもいいのではないかと思う。

 あ、嘘。社会人には夏休みとか関係ないからやっぱいらねえや。学生はもっと苦しめ苦しめ。

 

 秋が来るということは、ウマ娘のレースも本格化すると言うことだ。もちろん夏の間にもGⅡやGⅢといったレースは行われてはいたが、GⅠレースは10月に入るまで行われない。マックイーンが最初の目標としている秋の天皇賞なんかは10月の最後の最後だ。

 秋に入ったこのタイミングからなら約二ヶ月ほどの時間がある。だからといって気を緩めてはならない。二ヶ月あるからといってトレーニングをサボったり、体重管理を怠ったりした場合には目標のレースで負けてしまう可能性グンと上がる。マックイーンなら前者はともかく、後者はすごく不安だ。隠れてスイーツバカ食いとかしていないだろうか。

 

 少し未来の話になるが、ダイヤのデビュー戦をいつにするのかも考えなくてはならない。トレーナーにとって、もしかしたらこの時期が一番多忙なのかもしれない。いや、いつも忙しいんだけどさ。

 

 ウマ娘にとってもトレーナーにとっても、秋は勝負の時期だ。夏のトレーニングをレースでいかにして発揮できるか、これが勝負となってくる。

 練習で発揮できないことを、本番で都合よく発揮できることができるのなんて漫画の世界だけだ。そのため、今日も元気いっぱいマックイーン達のトレーニングプランを考えている

 

 

 はずだったのだが…………

 

 

「かっとばせええええええ、ユ・タ・カ!! ゴーゴーレッツゴー、ユ・タ・カ!!」

 

 そこには、満員御礼の野球場で、人目を気にせず大声ではしゃいでいるとても令嬢とは思えない誰かさんの姿。どうしてこうなったんだ……

 

 話は数時間前に遡る。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その日、マックイーンは唸っていた。トレーナー室の真ん中で唸りながら歩いていた。何かしらのコンタクトを取ろうにも、声をかけるのすら躊躇わせる雰囲気を漂わせているため、部屋の隅っこでダイヤと一緒に大人しくしているしかなかった。

 

「……今日のマックイーンさん、絶対変ですよね?」

 

「ああ、いつもに比べたら様子がおかしいな。もしかしたら今日はアホの日なのかもしれない」

 

「ア、アホの日ってなんですか……?」

 

「文字通りアホになる日だよ。ダイヤもマックイーンのアホな姿に心当たりがあるでしょ?」

 

「いえ、私はそんな……あ、でも……あー……」

 

 否定しきれてないじゃないか。おいマックイーン、今一度自分の姿を見つめ直せ。

 

「くっ、マックイーンさん……! あなたがどんな姿になっても私は……私だけはあなたのことを……!」

 

「と、いう冗談は置いておいて、今日のマックイーンは本当に何か悩んでるみたいだね。レースが近いってこともあるし、ここでコンディションの調整ミスというのは避けたいんだけど……」

 

「嘘だったんですか? マックイーンさんのアホの日っていうのは嘘だったんですか?」

 

 当たり前だが、ウマ娘も人間と同じようにストレスを抱えるし、悩みだって抱くだろう。体調が良い時もあれば悪い時もある。体調が悪い時にトレーニングを行っても効率は良くない。それだったら、いっそのこと調子を取り戻すことに専念したほうが良いまである。

 

「いいですかトレーナーさん。たしかに私は世間知らずのウマ娘です。騙されてしまうことだって多々あります。でもマックイーンさんを出汁にしてまでそれをされてしまうとですね……」

 

 それに、マックイーンはこの秋から冬にかけてはかなりのハードスケジュールとなる。ならば今の期間に少しずつ休みを入れておくの手ではないか? 

 どちらにせよ、この調子のままトレーニングをしても、得られるものは少ないだろうね。あまり余裕があるわけじゃないけど、ここは一旦休みに……

 

「トレーナーさん、聞いているんですか!?」

 

「あ、聞いてなかった。なんて?」

 

「もう! マックイーンさんをネタにしてまで私は揶揄わないでくださいってことです!」

 

「ごめんごめん、ダイヤの怒る姿が可愛くってついね」

 

「……そういうのはマックイーンさんに言ってあげてください」

 

 ダイヤは頬を膨らませ、ぷいと顔を背ける。

 

 言ってから思ったんだが、マックイーン相手ならまだしも普通は担当ウマ娘にこういうことを言うのはまずいのではないか? どうしよう、もしかしたら明日には豚箱行きかもしれない。

 

「それより、いい加減マックイーンさんに話を伺いましょう」

 

「そ、そうっすね。このまま熊みたいに歩いてるマックイーンを放置するわけにはいきませんからね」

 

「なんで敬語なんですか……?」

 

 明日も美味しいご飯が食べられるかどうか分からない状況に置かれていることに恐怖しつつも、これ以上マックイーンを野放しにはしていられないので覚悟を決めて話しかけることにした。

 

「……なあマックイーン。何か悩みがあるんなら聞くけど……」

 

「この……は……ない……でも……近いことですし……」

 

「マックイーン? おーい、マックイーンさーん?」

 

「でも……を見な……不調にも……チケットも……なって……」

 

 だめだ、完全に自分の世界に入ってる。僕の声が全く聞こえていない。

 

「よしダイヤ、作戦会議だ。君は今のマックイーンが何か変なことをしないように見張っておいてくれ。その間に僕はゴールドシップを連れてくる」

 

「ゴールドシップさんを連れてきた方が変なことになりそうですけど……」

 

 でもこの現状を並大抵のことで突破出来るとは思えない。それこそゴールドシップを連れてきたり、今ここでマックイーンに食事制限を課したりしなければ……

 

 打開策を見出すためにダイヤと悩んでいると、マックイーンからハラリと一枚の紙が落ちる。それを拾い上げ、ダイヤと共に内容を確認する。

 これは……チラシ? スタジアムで行われる野球の案内。それも開催日は今日…………あっ

 

 僕とダイヤが全てを察した時には、物凄いスピードでそのチラシを奪い取ったマックイーンによってそのチラシは引き裂かれていた。

 

「マックイーン……君は……」

 

「マックイーンさん……」

 

「ち、違います! べ、べべ別にスポーツ観戦をしに行きたいというわけではなくてですね!? たまたま、偶然そのチラシを持っていただけですわ! さ、さあトレーニングです! 今日もビシバシとご指導よろしくお願い致しますわ!!」

 

 いや、君がスポーツ観戦好きなのは知っているからそこまで焦る必要はないとおもうんだが。あれか、大事なレースを控えているのに、趣味にうつつを抜かしていると思われるのが嫌なのか。

 

 全く、しょうがないお嬢様だ。

 

「今日は夏の間の疲れもまだ残ってるだろうし休みにしようと考えていたんだけどね」

 

「わぁ、それは良いお考えですね。私も久しぶりに実家へ帰って両親と顔を合わせたいなと思っていたところなんです!」

 

「そう言うわけで、後はマックイーンの意見も聞いておきたいなと思ったんだが、どうやら今日はトレーニングの方を望んでるっぽいから、休日はまた後日に……」

 

「あ、あ──! なんだか夏の疲れが出てきたような気がしますわね。そ、それに、私も今用事を思い出したところですし、今日は休みを希望しますわ」

 

 棒読みが過ぎるだろ。名優の名が泣くぞ。

 

「とりあえず満場一致ということで、今日のトレーニングは休みとする。それぞれ体調やコンディションを整えるように」

 

「はい!」

「分かりましたわ」

 

 そんなこんなで、今日は一日休日とすることが決定した。もっとも、休日なのは彼女達ウマ娘だけであり、自分は普通に仕事をこなさなければならない。

 ええっと、夏合宿の間の報告書の提出と、新しいトレーニング用品の仕入れと、ウマ娘によって破壊されたトレーナー寮のドアや部屋の損害費の計算…………おい、なんだこれは。襲われたのか? 僕がいない間に他のトレーナーは担当ウマ娘に『襲われた』のか? 道理でトレーナー寮のドアがおかしなことになっていたわけだ。

 

「あ、あの、トレーナーさん」

 

 他のトレーナーが成仏したことに黙祷を捧げていると、マックイーンはオドオドとした態度で話しかけてくる。

 

「どうした、マックイーン。何か不都合でもあるの?」

 

「い、いえ、そうではないのですが……トレーナーさんは今日のご予定は…………大量にありそうですわね……」

 

「あ、この山積みの資料のこと? これなら一日徹夜すればなんとかなるからへーきへーき」

 

「それは平気と言って大丈夫なのでしょうか……?」

 

 なに、学生時代にエナドリ飲んでオンラインゲームで三徹した僕に怖いものなんてない。良い子は真似しないでね。

 

「こんな事務仕事よりも担当ウマ娘の方が何倍も大切だよ。それで、今日の僕は実質暇と言っても過言じゃないけど、何かあるの?」

 

「そう言われたら逆に躊躇ってしまうのですが……」

 

「いいから」

 

「わ、分かりましたわ。んんっ、ぐ、偶然ここに先程の野球観戦のチケットが2枚あるのですが、同行していただける方が見当たりませんの。ですので、トレーナーさんがどうしてもと言うのなら連れて行ってあげなくもありませんわよ?」

 

 マックイーンは何故か挑発気味にスポーツ観戦へと誘う。もし僕が同行するとなった場合、交通的な面で車を出せる僕が連れて行くという形になると思うんだが。

 それにこれってあれじゃない? もっとラブコメ的な雰囲気が出されてもいいやつじゃないの? いや、担当ウマ娘とそういう関係みたいになるのはそれはそれで駄目なのだが。

 

 自身満々な顔をした彼女のほっぺたをこねくり回してやりたいという欲求を抑え、このまま彼女の策に乗るのも癪だと感じたので何か反撃の手を打たねばならない。

 

「あ、そういえば三女神像の前でゴールドシップが暇そうにしていたよ。なんでもマックイーンと一緒に種子島で火縄銃を作るんだとか」

 

「えっ」

 

「良かったじゃないか、暇そうなやつがいて。早速ゴールドシップにマックイーンが探してるって連絡を……」

 

「分かりました! トレーナーさん、一緒に行きましょう! 私と共にスポーツ観戦へと参りましょう!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 そして話は冒頭へと戻る。

 

 僕達が位置するのは、応援席ではなく試合全体を見渡すことのできるグラウンドから少し離れた席だ。

 相変わらずマックイーンは後日声が枯れてしまうであろうような大声を出して応援しており、周りの人からもちょっと引かれている。

 

「ほら、トレーナーさんも盛り上がっていきますわよ! ああっ、次の打者とピッチャーは前年度のドラフトで争った選手ですわ!」

 

「落ち着いて、頼むから落ち着いて。それと、僕は野球にそこまで詳しくないから雰囲気でしか楽しめないんだよ」

 

「なっ!? そ、そんなの人生の半分損しています!」

 

「……ちなみに残りは?」

 

「そんなのスイーツに決まっていますわ!」

 

 どうやらこのポンコツお嬢様の脳内は野球とスイーツの二つで構成されているらしい。なんて分かりやすいんだろう。

 

「そういえば、今日はどうして僕を誘ったんだ? 野球の話ができる人なんて探せばいるとおもうんだけど……」

 

「うっ、ト、トレーナーさんなら私がスポーツ観戦が趣味ということを知っておられるので安心なのですが……メジロ家のウマ娘以外ではこのことについて話しているのはダイヤさんくらいなもので……」

 

 なるほど、要はスポーツ観戦が趣味ということを知られたくないのか。僕は別にいいと思うんだけど。

 その旨の内容をマックイーンに伝えると、

 

「い、いけませんわ! メジロ家は常に優雅に高貴であらねばなりません! 故にこの趣味が世間に知られるなどあってはならないのです!」

 

 マックイーンは早口に捲し立てる。だから申し訳程度の変装用具として耳を隠すような帽子を被っているのか。

 

 いやあ、君が中々はっちゃけたことしてるのは周知の事実だからそんなの今更だと思うんだけど……マックイーンが趣味を隠したいと言うなら、それを知っている僕もこのことを墓まで持っていくことにしよう。

 

 今のところマックイーンの応援しているチームは勝っている。野球に詳しくないとは言ってもルールくらいは把握しているので、どう言った展開かは分かる。だが、選手の名前までは分からないので、結局雰囲気でしか楽しむことができない。

 

「あっ、次の打者は満を持してユタカですわ! きゃあああああああああ! ユタカああああ! ユタカああああ!」

 

 うわ。こんなにはしゃぐマックイーンをかつて見たことがあっただろうか。いや、ない。

 

 ユタカと思しき打者はバッターボックスに立ち、ピッチャーが投げるのを待つ。そして最初の一球目を…………スルー、見送った。ボール球というわけではなく、ストライクボールを見送ったようだ。

 

「ユタカああああああああああああ! どうして振りませんの!? 今は点差が開いていて押せ押せムードですわ! 流れはこちら側にあるのです! 多少強引にでもバットに当てに行くべきですわああああああああああ!」

 

 こっわ。え、マックイーンってこんなキャラだった? こんな漢字の漢と書いて漢の中の漢みたいなこと言うキャラだった? 

 

 僕が漢マックイーンに恐怖していると、早くも二球目が投げられる。次は狙いに行ったのか、ユタカはそのボールに向かってバットを思い切り振るが…………スカッ。ピッチャーの見事なフォークボールにまんまと騙されストライクを取られてしまう。

 

「ユタカああああああああああああ! どうして振るんですの!? これまでの試合の相手ピッチャーの投げる球種からしてフォークボールを多用してくることは自明の理でしたわ! それなのにこんなあっさりと騙されるなんて情けない! 私はそんな選手を応援した覚えはありませんわよおおおおおおお!」

 

 もうどうしろってんだよ。ユタカが可哀想だ。

 

 その後マックイーンの応援するユタカは三振を取られてしまい、敢えなくバッターボックスを去る。

 

「ああ……ユタカ……」

 

「まあまあ、試合はまだ始まったばかりだよ」

 

「そ、そうですわね、私も声を出して応援しなくては。ファイトですわああああ! ほら、トレーナーさんも!」

 

「はいはい。頑張れー」

 

 

 しかし、マックイーンの応援していたチームが大きくリードしていたのも束の間。相手チームがヒットを多発し、得点が一点差になるまで追いつかれる。そのたびにマックイーンの応援という名の奇声が響いたが、ここまで来ると場の流れでマックイーンと同じように応援する人も増えきていたのでそこまで目立ちはしなかった。

 

 そして点差は動くことなく一点差でリード、拮抗した勝負が続きいよいよ9回表の相手チームの攻撃だ。ここの攻撃を凌ぐことができたらマックイーンの応援するチームの勝利となる。

 

「この回を抑えれば勝利ですわ! 気を引き締めてください!」

 

 マックイーンは初回から9回までずっとこの調子だ。明日声が枯れるのは確定だろう。

 

 今の状況はツーアウト、ランナー1、3塁だ。ピンチでもありチャンスでもある。

 

 ピッチャーが一球目を投げる。ストライクだ。電光掲示板には黄色の光が灯る。そして二球目を投げる。またしてもストライクだ。黄色のランプがもう一つ並ぶ。いい流れだ。この調子ならば勝てる可能性は充分にある。

 

「あと一球……あと一球……」

 

 固唾を飲んで見守るマックイーン。その表情は真剣そのものだ。

 

 そして三球目。ピッチャーが全力投球と言わんばかりのフォームでボールを投げると…………

 

 

 カキーン

 

 

「…………は?」

 

 バッターが打ったボールはいい感じの角度で飛び、そのまま正面の電光掲示板にぶち当たる。つまりはホームランだ。

 既に塁には二人の走者が出ているため、バッターと合わせて三人がベースを踏むことになる。これで相手側に三点追加、一点のリードがあったため二点負け越しているということになる。

 

「あ…………あ……そんな……」

 

 まだ負けたわけではないのに、マックイーンはうまく言葉を発せないほどに落ち込んでいる。それは本気で応援しているからこその感情なのだろう。僕もマックイーンが負けた時は凄く悔しい。応援している人やウマ娘が負けた時の悔しさはよく知っているつもりだ。

 

 でも、自分は野球に詳しくない。野球にわかな僕としては、マックイーンのように本気になれたりは…………待てよ。このままマックイーンの応援するチームが負けたらどうなる? 

 チームが負けることによってマックイーンの調子が上がるどころか下がる可能性だってあり、今日を休日にした意味がなくなってしまうわけで…………

 

「も……もうおしまいですわ……今ので流れが……」

 

「うおおおおおおおおおおおおお! まだ逆転できる! まだ終わっちゃいない! 勝ってくれえええええ!」

 

「ト、トレーナーさん!?」

 

「どうしたマックイーン! 君はここで諦めるのか!? 君の野球に対する気持ちはそんなもんなのか!?」

 

「……トレーナーさんも分かっていただけたのですね。最後の一回、全力で応援しますわよ!」

 

 ああ! マックイーンの調子を下げないようにするためにも勝ってくれ! 

 

 三点の失点があったものの、それ以上は失点することなく最後の勝負、9回裏に突入した。僕達の応援が届いたのか、最初のバッター、そして次のバッターが次々とヒットを打ち、ランナーは満塁といい流れが作れている。

 喜んでいたのも束の間、あっさりと二人の打者が打ち取られ、ツーアウトと追い込まれた状況になってしまった。

 

 そして泣いても笑ってもこれが最後、バッターボックスに立ったのは……

 

「ユタカああああああああああああああ! 先程の汚名返上ですわよおおおおおおおお! 私達に勝利を届けてくださいませええええええええ!」

 

 前半でマックイーンにボロクソ言われてたユタカが、球場のファン全員の期待を背にバットを構える。

 

 一球目、空振り。

 

 二球目、またしても空振り。

 

 あっさりとツーストライクを取られてしまい、マックイーンが過呼吸状態になる。やばい、このままじゃ本当にマックイーンの調子が……

 

 最後の一球、ピッチャーがボールを投げ、ユタカがバットを振ると……

 

 

 当たった。それも素人の僕でも分かるような良い当たりだ。

 

「や、やりました! あとはこれがアウトにならなければ……!」

 

「……ん? なんかボールこっちに飛んできてない?」

 

 恐らくホームランなのだろうが、ユタカによって打ちあげられたボールは僕達の方向に向かって落ちてくる。

 

 人が多いこともあって変に動くこともできない。ものすごいスピードで落下してくる硬式野球のボールが体のどこかに当たったら最悪怪我も考えられる。せめてグローブがあればまだ救いはあったのだが、そんなものを持っているわけがない。

 ここで考えられる最悪の結果はマックイーンの怪我だ。調子を上げるために野球観戦に行ってホームランボールで怪我しましたなんて本末転倒もいいところである。せめて、せめて彼女だけは……! 

 

 迫り来るホームランボールに対し、マックイーンを庇おうと覚悟を決める。

 

 さあ、かかってこい! 

 

「マックイーン! 君は僕の後ろに」

 

「フンッッ!!」

 

 素手で取りやがった。怪我覚悟で守ろうとした相手が素手でボールを取りやがった。ウマ娘のフィジカルってすげー……

 

「きゃあああああああああああああああああ! ありがとうユタカー! ありがとうー! きゃあああああああああああ! オオーオオーオオオー♪ 勝利ーのー……」

 

 …………まあマックイーンが楽しそうだしいいか。ユタカが満塁サヨナラホームランを打ったことにより、マックイーンの応援していたチームの勝利となる。

 これで明日からもトレーニングができそうだし、結果良ければオールOKだ。

 

 マックイーンがホームランボールを手にしたということは、ボールを追っていたカメラに捉えられたということであり、ボールを持って大はしゃぎしているマックイーンの姿が全国中継に流されたということを今の僕達は知る由もない。

 

 

 

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