名家のウマ娘   作:くうきよめない

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誤字が多くて本当に申し訳ないです……


宣戦布告

 

 

 マックイーンの趣味がスポーツ観戦ということが世間にバレ三日間メジロ家に引きこもり、メジロライアン達に引っ張られようやく彼女がトレセン学園に姿を現してから数日後。

 

 メジロマックイーン立て篭り事件のせいで結局トレーニングの時間が短くなってしまったが、この際仕方がないと割り切り、今では普通にいつものトレーニングを行なっている。

 

 いよいよ秋の天皇賞やその他GⅠレースも間近に迫り、学園内は多少ピリついた雰囲気が流れていた。ジュニア級なら朝日FSやホープフルステークス、クラシック級なら主に菊花賞や秋華賞、シニア級なら天皇賞やジャパンカップ、有記念などを目標としている。

 

 うちのお嬢様も例に漏れず秋のGⅠレースを目指している。

 それについて聞きたいことがあったので、先日彼女と話をしようとしたら……

 

「……汚名返上ですわ……ここで勝たなければ私のプライドとメジロ家の誇りが……」

 

 暗い顔をしてぶつぶつと呪詛のようにこれを繰り返していた。

 

 彼女は別の理由でピリついており、野球好きということがバレてしまったのがかなり応えたようだ。ちなみに、その件以降マックイーンのファンが急増したらしい。ここ最近彼女はレースにも出てないのにどうしてなのだろうか。

 

 いつまでも拗ねていては時間が勿体ないというのはマックイーンも理解しているため、復帰当初は半ばヤケクソ状態だった。今ではかなり落ち着いている。

 

 なんにせよ、今こうして普通にトレーニングができているので良しとしよう、うん。

 

 

 今日は併走トレーニングとはまた別のレース形式でのトレーニングだ。

 この半年近くでダイヤにもかなり力が付いた。まだマックイーンに並ぶほどの実力ではないが、ここからの伸びでマックイーンと同等、もしくはそれを凌駕する実力を備えてもおかしくはない。

 必死にマックイーンの背中を追い縋るダイヤの姿を見て、そんな考えが頭をよぎった。

 

 

 ふとここでマックイーンの走りに違和感を覚える。走り方ではなく走り、つまりはレース展開だ。

 レースはタイムアタックではない。故に他のウマ娘との駆け引きが必要となってくる。例外なのはサイレンススズカとツインターボくらいのものだろう。

 

 今のマックイーンの走りは一見すると彼女の走りに他ならないが、先程の緩急を付け相手を惑わすようなあの走りはまるで……

 

 僕がマックイーンの走りに誰かの姿を重ねかけた時、背後に誰かの気配を感じた。思い切って後ろを振り返ると

 

「……すぅー、ふぅー。よし、いつまでもこうしていられない! 行動しなくちゃ何も変わらないんだから!」

 

「…………トレーナー、そう言ってからもう30分くらい経ってる……トレーナーが行かないなら私が行きます…………」

 

「ま、ままま待ってくださいミーク! いきなり話しかけるのは緊張します! きちんと挨拶の言葉を考えてから……」

 

 何やら面白げな漫才を繰り広げているコンビには見覚えがあった。片や白毛のウマ娘、片や僕と同じトレーナーを生業とする人間の女性。ウマ娘の方について詳しいことは分からないが、トレーナーの方についてはなんとなく知っている。

 

 容姿から察するに、彼女は数多くの優駿ウマ娘を育てた名門トレーナー一族『桐生院家』の後継……

 

「イメージトレーニング……イメージトレーニング……よし、流れをおさらいしておきましょう。まずは……」

 

「どうかされましか? 桐生院トレーナー」

 

「って、うひゃああ!? いつからそこに!?」

 

「僕はここから動いてませんけど……」

 

「そ、そうですか、取り乱してしまいすみません……」

 

 これもしかして話しかけなかった方がよかった? 話しかけられるのを待った方がよかった? 

 

「それより、桐生院トレーナーと話すのは初めてでしたね。挨拶が遅れて申し訳ない」

 

「あ、あはは、私達って実は同期なんですけどね……」

 

 ……え、まじ? 僕ここに来てからそこそこ経つけど……嘘でしょ? 

 

「……いや、その……なんかすみません」

 

「大丈夫ですよ、こちらこそ急に話しかけてすみません、って、なんか謝ってばかりですね」

 

(ほぼ)初対面でこんなに謝罪が続く会話なんて早々ないだろう。僕の人間関係構築の下手くそさが窺える。

 

「…………トレーナー、目的忘れてる……」

 

「ああ!? そうだった!」

 

 白毛のウマ娘に指摘され、本来の目的を思い出したらしい桐生院トレーナー。

 はて、名門のトレーナーが僕のような三流トレーナーに何のようだろうか。

 

「マックイーンさんのトレーナー、まずは私の隣のウマ娘を紹介させていただきますね。この子はハッピーミーク。凄い素質を持った子なんですよ!」

 

「………………こんにちは……」

 

 ハッピーミークと紹介されたウマ娘は、簡素な挨拶と共に頭をぺこりと下げる。表情に変化が表れにくいのか、先程から真顔を貫いている。

 

「僕はここでメジロマックイーンとサトノダイヤモンドのトレーナーをやっている者だ。よろしくね、ハッピーミーク」

 

「…………はい、よろしくお願いします……あの、聞きたいことがあるんですけど……」

 

「ん? なんだい?」

 

「……あなたは、トレーナーの男なんですか?」

 

「ミーク!?!?」

 

 は? 今この白いのサラッととんでもないこと言わなかったか? 

 ハッピーミークの言うトレーナーとは桐生院トレーナーのことだろうし……

 

「ミーク、ダメですよ! マックイーンさんのトレーナーが困っちゃうじゃないですか! うちのミークが本当にすみませんでした!」

 

「…………しょぼーん……」

 

 そこじゃないでしょ。気を使ってもらうのはありがたいけどそこじゃないでしょ。まず否定しなさいよ。

 

「僕は気にしてないんで大丈夫ですよ」

 

「本当ですか? ありがとうございます……。はああ、どうしてこう上手くいかないんだろう……今日だって挨拶しようとしただけなのに……」

 

「…………トレーナー、また目的忘れてる」

 

「あっ、そうでした! このままだとミークの紹介しただけ……待ってください、目的忘れてた理由ってミークのせいじゃないですか?」

 

 ハッピーミークの指摘がマッチポンプなことに気がつく桐生院トレーナー。漫才師としても彼女達は中々いいコンビなのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、先程まで漫才をしていたはずの桐生院トレーナーは、表情が真剣な面持ちに変化する。

 

「来月の天皇賞、メジロマックイーンさんが出走するとお聞きしました。……そのレースにうちのミークも出走する予定です」

 

 贔屓目無しに見ても、次の天皇賞で最も注目されるのは我らがメジロマックイーンだろう。そんなマックイーンのトレーナーである僕に、このタイミングで担当ウマ娘を引き連れて話しかける桐生院トレーナー。

 つまりはあれか。

 

「宣戦布告ってわけですか」

 

「えっ…………はい、そうです!」

 

 絶対違うやん。最初の『えっ』はなんなんだよ。

 

「……すみません、本当は同じレースを走ると決まったので、同期のトレーナーということもあり挨拶をしにきただけなんです……」

 

 律儀。僕がだらしないだけなのかもしれないけど、それだとしても超律儀。

 

「これは自信を持って言わせてもらいますが、うちのマックイーンは強いですよ?」

 

「それはミークだって負けてません! なんせこの子はこのトレセン学園でも屈指の素質を持つ子…………ミーク? 何やってるんですか?」

 

「…………写真撮ってます。トレーナーが憧れだって言ってた人と話……」

 

「ミ、ミミミミーク!? そう言うことはいちいち言わなくていいんですよ!」

 

「でもトレーナー、機会があればお茶にでも誘……」

 

「わあああああ! わあああああああ! 今!? それ今言うんですか!?」

 

 は、話が進まねえ……

 

 ハッピーミークが何かを言いかける度に、大声を出してそれを遮る桐生院トレーナー。よっぽど聞かれたくないことでもあるのだろうか。

 

「と、とにかく! 秋の天皇賞では私の担当ウマ娘であるミークも出走します。お互い悔いの無いレースにしましょう。ライバルとして!」

 

 桐生院トレーナーは右手を差し出してくる。

 

 レースはウマ娘の戦いではあるが、それと同時にトレーナーの戦いでもある。レースでウマ娘が勝つということは、ウマ娘の能力とトレーナーの指導力が評価されるということだ。

 ウマ娘を勝たせてあげたいという気持ちが一番だが、他のトレーナーに負けたくないという競争心が生まれてもおかしくない。

 

 まあ僕の場合は本当にマックイーンが凄かっただけなので、マックイーンの勝利によって僕までも称賛されるというのはなんとも違和感が半端なかったが。

 

 桐生院トレーナーは名門の一流トレーナー。対して僕はマックイーンのおこぼれにあやかる形となってしまった三流トレーナー。

 自分では釣り合わないと彼女のライバル発言を否定しようとしたが、差し出された右手と熱意のこもった目を向けられてしまってはそれをすることもできない。

 

「……ええ、こちらこそよろしくお願いします」

 

「っ、はい! それでは私達は失礼します! 行きますよ、ミーク! 天皇賞までみっちりとトレーニングです! メジロマックイーンさんを徹底的に分析しますよ!」

 

「…………むん……!」

 

 そう言って僕に背を向けて歩き出した桐生院トレーナー達は見るからにやる気に包まれている。

 

 これは自分もうかうかしていられない。マックイーン達にばかり気合を入れさせておいて自分が抜けていたら本末転倒だ。少しでも僕にできることをこなして、彼女達をサポートしなければならない。

 

 今回桐生院トレーナーと話して分かったことは二つ。

 一つは秋の天皇賞にマックイーンの脅威となり得る可能性のあるウマ娘が出走すると判明したこと。そしてもう一つは、桐生院トレーナー、後ろから見たら実はポニーテールだということだ。これ超重要。

 

「トレーナーさん、そろそろよろしいですか?」

 

「あ、ごめん、待っててくれたんだ。結果はどうだった?」

 

「ダイヤさんは途中まで私の背中にぴったりと張り付いてきていたのですが、一定の距離を超えると私とダイヤさんの差がどんどん離れていきまして……走り終わってからあの状態ですわ」

 

 マックイーンの目線の先には、水分片手にターフに倒れ込んでいるダイヤの姿があった。……大丈夫、あれ? 死んでない? 

 

 流石に心配になり、彼女の近くに寄り声をかける。

 

「お、おーい、ダイヤ? 大丈夫かい?」

 

「コヒュー……コヒュー……だ、大丈夫です……も、もう少しだけこのままで……」

 

 だめみたいですね、呼吸がおかしい。

 先程のマックイーンの発言からして途中で引き離されたらしいが、裏を返せば途中まではマックイーンに食らいついていたということだ。彼女もとんでもない素質を持っている。

 

 ダイヤの方は回復してからまた話すとして、今は先に話すべき相手がいる。

 

「……トレーナーさん、少しよろしいでしょうか?」

 

「奇遇だね。僕も君に聞きたいことがあるんだ」

 

「先程の、私の走りについてですか?」

 

「ああ、今までの君の走りとは少し違った気がしてね」

 

「……やっぱりトレーナーさんに隠し事はできませんわね」

 

「うん、昨日こっそりスイーツ食べてたことも知ってる」

 

「な、なぜそれを知っていますの!? あっ、いえ、違うんです! 食べたと言ってもほんの少しだけで……誤差ですわ! 誤差の範囲内ですわ!」

 

 聞いても無いことをベラベラと話し出すマックイーン。こういうことを言われたらまず情報源を問うのが定石だが、今の彼女にはそれすらも考えられないほど焦っている。

 ちなみに、僕のこれはブラフなので情報源もクソもない。つまりはマックイーンが自滅したということだ。

 

「体重の減量はまた後で考えるとして、今は君の走りについて聞かせてもらってもいい?」

 

「言い出したのはトレーナーさんですのにっ……!」

 

 顔を赤くして拳を握り締めるマックイーン。

 

 おっと、暴力はやめていただこう。君の腹パンには少々トラウマがあってね。

 

 マックイーンの暴力に怯えていると、彼女はため息をついて話し出す。

 

「自意識過剰と言われても仕方がないかもしれませんが、次の天皇賞で多くの方が私をマークしてくると思っています」

 

「それは間違いないね。最悪、完全に囲まれると考えた方がいい」

 

「その状況に陥ってしまったのが、かつての阪神大賞典ですわ。幸いなことに、出走人数が少なかったため抜け出せないことはなかったのですけど」

 

 確かにあの時のマックイーンは他のウマ娘にかなりマークされていた。敵はメジロマックイーンただ一人、そう言わんばかりの徹底ぶりだったのが印象深い。

 

「もしかしたら天皇賞でも同じことが起きるかもしれない。そんな状況にさせないために、走り方を変えてみたってことか」

 

「はい、負ける可能性は少しでも削っておきたいので」

 

 マックイーンは真剣な表情で僕を見つめる。

 

 正直に言って意外だった。彼女は己の走り方を曲げないものだとばかり思っていた。いや、違うな。変えたところも全てひっくるめてメジロマックイーンの走りだ。彼女の走りや信念が曲がった訳では無い。

 

「見た感じ悪い走りではなかったし、僕は君の考えに従うよ。無責任とも取れる言葉だけど、僕は君のことを信頼してるからね」

 

「貴方が隣にいてくれるだけで充分すぎるほどですわ」

 

 僕の言葉にマックイーンは柔らかに微笑む。

 

 マックイーンにそんな気はないだろうが、今の彼女の言葉は中々に考えさせられるものがある。

 またしても何も出来なかった、またしても彼女に全て丸投げするような形となってしまった。共に走ろうと言ったのに、僕は彼女に何もしてあげられない。昔からそうだったが、日に日にそう言った感情が強くなっていくような気がする。

 

「それよりトレーナーさん、先程話されていたあの女は一体誰なんですの?」

 

「え? ああ、桐生院トレーナーのこと? 彼女は名門トレーナーを輩出している桐生院家の後継なんだってさ。実は僕と同期だったらしいよ」

 

「『だった』とか『らしい』とか言ってるあたり、貴方は知らなかったみたいですわね……」

 

 いやあ、本当に申し訳ないと思っています、はい。

 

 桐生院トレーナーのことは前から知っていた。ただ、僕にはサブトレーナー期間というものがあったため同期というのをあまり意識したことがないというのがある。

 その点、噂によると桐生院トレーナーはトレーナーライセンス試験をトップで合格したらしく、サブトレーナーとして活動しなくてもよかったのだろう。

 

 同期というのは一人のトレーナーとして独立した時のことであろうから、活動年数だけで言ったら僕の方が長い。でも悲しいかな、トレーナー業は年功序列ではないので、ベテランだろうが新人だろうが一番に見られるのはやはりその人の能力だ。

 

 話が逸れたが、そんな桐生院トレーナーの担当ウマ娘はハッピーミークと言う子。なんとなく知っている気はするが、やはり詳しいことは思い出せない。

 それが表情に出ていたのか、マックイーンが不安気に僕の顔を覗いてくる。

 

「どうかされましたか?」

 

「マックイーン、もしかしたらこの天皇賞、一筋縄ではいかないかもしれない」

 

「ふっ、望むところです。油断せず、しっかりと気を引き締めて勝利を掴みに行きますわ!」

 

 気合いは充分、それが空回りしている様子もなく、心身共にコンディションは万全だ。

 

 しかし、あのハッピーミークというウマ娘。桐生院トレーナーが育成しているのもあってなんだか嫌な予感がする。

 

 ……少し調べてみるか。僕にできることはこのくらいなのだから。

 

 

 

 

「それはそれとして、さっき桐生院トレーナーのこと『あの女』って言った?」

 

「言ってません」

 

「言ったよね?」

 

「言ってませんわ」

 

 

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