名家のウマ娘   作:くうきよめない

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輝く一等星

 

 雨はとうに止んでおり、既に日は沈みきり、寮生に定められた門限はとっくに過ぎ去っている時刻となっている。

 

 そのため、学園内の暗い夜道を歩いているウマ娘は、この場において私しかいない。

 

 ふと空を見上げると、そこにはまばらに光る星々がある。

 トレセン学園は都市部にあり、満天の星を見られるというのは停電でも起こらない限り叶わないだろう。

 それでもなお薄く輝き続ける一等星を見て美しいと感じ、私は情趣を覚える。

 

 そういえば、私が今見てる星の輝きというのは、何万年、何億年と昔に放たれた光だということを同室のイクノディクタスさんから教わった覚えがある。

 

 そんなことを思い出しながら今日あったことを振り返る。

 

 

 …………

 

 

 何やっちゃってるんですか私はああああああああああああああああ!?!? 

 

 

 え? いきなり後ろ向いてくださいって言われて何も疑うことなく従うトレーナーさんもトレーナーさんですが、そこに後ろから思い切り抱きつくなんて淑女としての欠片もありませんわよね!? 死ぬの? 私死ぬんですか!? 

 

 

 放たれた星の光が後になって目に届くように、自分の行為が後に羞恥となって自分自身に届いた私は、頭を抱えて蹲ってしまう。

 

 彼と会うこと自体は別に珍しいことではないが、トレーナー室で時間を共にするということは久しぶりであったため、つい気分が昂まってしまった。

 

 トレーナー室に微かに漂う彼の匂い、そしてそこで繰り広げられる他愛もない会話。

 それだけで、最後の奇行を行わせる程度には、私の気を狂わせることは充分すぎた。

 

「もしかしてバレました……? 私がトレーナーさんを好きってことがバレました……?」

 

「なんでバレてねえと思ってんの?」

 

「ひゃああああああああああああああああ!?!?」

 

「おいおいそんなでかい声出すなよ。今海王星にいる土星人と通信してんだから抑えろって」

 

 私の独り言に反応したのは、美しい芦毛をたなびかせ、レースでは後方から凄まじい追込をみせるトレセン学園きっての変人……ゴールドシップだ。

 

「ゴ、ゴールドシップさん……? き、急に後ろから声をかけてこないでくださいます!?」

 

「いやあ、マックイーンが一人で面白そうなことしてっからよ」

 

「……面白そうなこと? 私第三者目線からしてどのようなことしていたんですの……?」

 

「ダンゴムシみたいに丸まって地球にトレーナーへの愛を語ってたな!」

 

「やってません! やってませんわ!! ……本当にやってませんわよね?」

 

「なんでお前が不安になるんだよ」

 

 どうやらゴールドシップの言うようなことはやっていないらしい。

 羞恥からか、ついさっきまでの記憶があやふやで、自分が何をしていたかをはっきりと覚えていない。

 

「それで、どうして貴方はここにいますの? もうとっくに門限の時刻は過ぎていますのよ?」

 

「だってマックイーンが学園に戻ってきてるって聞いたから大人しく待ってたのに、このゴルシちゃんの所に姿を現さないからよ。こっちから会いにきてやったぜ!」

 

「本当に大人しくしていたかは疑わしいのですが、どうりで今日は学園内を平和に歩けていると思いましたわ……」

 

 彼女のことは決して嫌いではない。

 ただ絡まれると高確率で面倒事が襲ってくるので、つい避けてしまう。

 それでも憎めないウマ娘なので、こうして相手をしているわけなのだが。

 

「んで、何悩んでんだ?」

 

「……え?」

 

「さっき聞いた感じ、マックイーンのトレーナー絡みってのは分かんだけどさ。いつも世話になってるマックイーンのために、悩みくらい聞いてやろうと思ってな」

 

「……貴方がそんな殊勝な態度を取るだなんて、何か企んでるのかと勘繰ってしまいますわね」

 

「どっちかって言ったら企んでるぜ」

 

「さようならゴールドシップさん、スピカの皆さんにはよろしく伝えておいてくださいまし」

 

「冗談だって! この程度で拗ねんなよ!」

 

「はあ……私、家の者を待たせているので、そろそろ本当に失礼しますわ」

 

「ちょっと待てよ、まだ何があったか聞いてねえぞ?」

 

 

 ……これは話さないと帰れなさそうですわね。

 

 

「べ、別に聞いてて面白い話ではありませんのよ?」

 

「あたしはマックイーンの話ならなんでも面白いと思うぞ」

 

「何故でしょう……貴方に言われるとあまり良い気はしませんわ……」

 

「いいから話せって! 早くしねえと火星探査機ゴルシちゃん3号が全宇宙にマックイーンがトレーナーの隠し撮り写真集見てニヤニヤ」

 

「あああああああああああああ! 分かりました! 分かりましたので少し黙ってくださる!? ていうかなんで知ってますの!?」

 

「え、冗談のつもりだったんだけど……マジなん?」

 

「……ゴールドシップ、貴方は今私の悩みを聞いていただけ。いいですわね?」

 

「いやでも」

 

「い い で す わ ね ?」

 

「……うっす」

 

 

 少しゴールドシップがよく分からないことを言っていたが、それを無かったことにして私は先程トレーナー室で行った一連の行為を彼女に話した。

 

 正直あれだけの痴態を晒した後なので、彼女であれば何を言っても笑い飛ばしてくれるだろう。

 

 そう思っていた。

 

 

「お前、何やってんだ」

 

「ちょっ、また真顔ですの!? せめて笑ってくださいます!?」

 

「いやだって……他の担当ウマ娘が増えるの嫌だからってバッド入って嫉妬して最大限に自分の匂いをトレーナーに擦り付けるって」

 

「しーっ! 声が大きいですわよ! もしこんな情報が生徒会の耳に入ったら私ここにはいられませんわ!」

 

「おう安心しろ。あたしちょうど今生徒会の奴らに狙われてっからよ」

 

「貴方はいっつもそうでしたわね!!」

 

 ゴールドシップは冷静な雰囲気を醸し出しながら、自分がとんでもなく危険な吊り橋を渡っていたことをサラッとカミングアウトする。

 

 これが生徒会の耳に入ったらとんでもない。

 決してそんなことはないのだが、十中八九私とトレーナーが淫らな関係にあると疑われてしまう。

 

 地方のトレセン学園では特に"そういった"不祥事が多いらしく、事中央に至っては厳しい監視体制が敷かれてある。

 

 とどのつまり、このままここに居続けるのはマズイということだ。

 

「ゴールドシップさんっ……貴方覚えておきなさい……!」

 

「およ? 元はと言えばいつまで経っても奥手なマックイーンのせいなんじゃねえか?」

 

「なっ!? 私、今回はかなり勇気を出してアプローチしましたわ!」

 

「おいおい、その程度で勇気を出したなんて言ってもらっちゃあ困るぜ。そこまで行ったんなら抱きついてキスして告白までしろってんだ!」

 

「キ……キスに告白だなんて……む、無理ですわ! 私にはまだ……」

 

「そういうところじゃねえのか? お前とトレーナーの関係が進展しねえのはそういうところなんじゃねえのか? このままの関係が嫌ってんなら一歩踏み出せよ! 男だろ!? 富士山のてっぺん目指して這い上がれってんだ! 目指せキリマンジャロおおおおおおお!」

 

「うるさいですわよ! そもそも私ウマ娘だから女」

 

「おい! 見つけたぞゴールドシップ!」

 

 ゴールドシップに反論しようとした時、私でもないゴールドシップでもない第三者の声が外野から発せられる。

 

 

 生徒会副会長であり、『女帝』と呼ばれるに相応しい佇まいであるそのウマ娘

 

 

「やっべ、エアグルーヴのとっつぁんだ! 生徒会室にネザーゲート開通させたのがバレちまったみたいだな!」

 

 本当にこのウマ娘は何しているのだろうか。一度本気でしばかれた方が良いのではないかと思う。

 

「というわけでマックイーン。お前のトレーナー、もたもたしてっと取られちまうかもって話、忘れんなよ! じゃあな!」

 

「えっ、そんな話──」

 

「おい本当に待て! 生徒会室のあの珍妙な物体をなんとかしろ! ブライアンは見当たらないし、会長は駄洒落がウケなかったことで拗ねておられるし、風紀委員は別で問題を起こすし……ああ、胃が……」

 

 エアグルーヴ副会長も相当苦労なさっているのですね……

 

 ただでさえ立場上苦労人なのに、そこにゴールドシップという特効薬の無いウマ娘を相手にするなど、並のウマ娘では本当に胃に穴が空いていてもおかしくはない。

 

 

 それにしても、取られてしまう……か。

 

 確かにトレーナーさんは多くの人やウマ娘と交流がある。

 普段は私が目を光らせているので問題無いが、それでも私の目を盗んではトレーナーさんに接して自分の匂いを残す卑しいウマ娘もいる。

 

 あの方は私のトレーナー、私だけのトレーナーのはずだ。永遠では無いにしろ、この関係が続くと思っていた。

 だが、もうすぐそうじゃなくなると考えると胸が張り裂けそうになる。

 

 分かっていたことだが、どうやら自分はかなり独占欲が強いらしい。

 

 トレーナーさんの、ナンバーワンではなくオンリーワンのウマ娘。彼にとって、ただ一つの一等星であったはずだ。

 その立場が、今は顔も名前も分からない新たなウマ娘に崩されてしまう。とても穏やかな気分ではいられない。

 

 もういっそトレーナーさんに自分の思いを打ち明けてしまおう。

 

 そんなことが私の頭を過ぎった。

 しかし、自分からガツガツ行くというのも淑女としてどうなのか。

 

 私はメジロのウマ娘。

 それを誇りだと思っているがゆえに、相手がトレーナーさんとはいえ、ホイホイと殿方を求めるというみっともない真似はできない。

 

 それでもトレーナーさんを取られるのは嫌だ。

 例え強欲だと言われようと、トレーナーさんもメジロ家の誇りも我が物としたい。

 

 ならばどうすれば良いか、そんなの考えるまでもない。

 

 

 私の足を懸けて、私の脚で駆けて

 

 この怪我を乗り越え、トレーナーさんから告白させてみせますわ! 

 

 

「おい、何自分は関係無いみたいな顔してるんだメジロマックイーン。お前もゴールドシップの関係者として、後日生徒会室に呼び出しだからな」

 

「……え?」

 

 

 

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