名家のウマ娘   作:くうきよめない

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評価や感想をいただけると作者は泣いて喜びます。

あと一章は今年中に終わらせる予定です。


奥の手

「あっ、お帰りなさいトレーナーさん! マックイーンさんの様子はどうでし……いえ、今はトレーナーさんの方が問題みたいですね」

 

「何であんたが息切らしとるんや? 逆やろ」

 

「う、うるせぇ……こちとら、普通の、人間、ぜぇはぁ……だぞ……」

 

 マックイーンと別れた後、普通にダイヤ達の元へ向かっては間に合わないと思ったため全力疾走をした結果、ものの見事に体力が底を尽きた。

 天皇賞の時はダイヤが一緒だったこともあり、ウマ娘である彼女に手を引かれ……もとい引っ張られたため時間を気にする必要は無かった。だが、その分酔いが酷かったためにどちらが良かった悪かったと言う話になればどっちもどっちだ。

 

「それでそれで、アタシらの注文の品は買ってきてくれたんだろうな?」

 

「…………さて、そろそろレースが始まるな。今回はブロワイエ以外にも強敵が多い。油断せずに行こうか」

 

「おい、こっち向けよ。まさか何も買ってないってこたぁねぇだろうな?」

 

「ええい、うるさいうるさいうるさい! てか何君達は当たり前に僕に買ってもらおうとしてるんだ! そんなもん自分で買え自分で!」

 

「ご、ごめんなさい……ライスが沢山お願いしちゃったから……ライスのせいで……ライスのせいで……!」

 

 えっ

 

「いや、これはライスシャワーのせいじゃなくて……」

 

「あー! こいつお米泣かせたー!」

 

「トレーナーの風上にもおけんわ!」

 

「彼女の弱みにつけ込み自身の怠慢を正当化しようとするとは……」

 

 ああくそっ! めんどくさいノリになってきた! 

 

 そんな時、やんややんやと僕のことをからかい続ける状況を黙らせるかのごとく、東京レース場にファンファーレが鳴り響く。

 

「……ん? どうしたダイヤ。そんなゲートの方じっと見て」

 

「マックイーンさん、随分落ち着いているように見えるなと思って……トレーナーさん、マックイーンさんとどんなお話をされたんですか?」

 

「別に、大したことは言ってないよ。ただ行ってらっしゃいって言っただけ」

 

「……そうですか。そうですか、ふふっ」

 

 ……な、なんだよ、なんだよその笑顔。本当に僕はそれくらいしか言ってないんだぞ。今の会話のどこに笑う要素があったんだよ。

 

「おい、よそ見してっと始まっちまうぞ」

 

「ああ、悪い」

 

 ダイヤと話しているうちに、ほとんどのウマ娘の枠入りが終了していた。

 マックイーン本人は内枠、この東京芝コースでは有利な枠だ。先行脚質な彼女にとってはもってこいと言ってもいい。

 

『さあ次々とウマ娘達が枠入りを済ませます。最後に大外枠、ブロワイエが入ります』

 

『外枠でありながらも人気を博す彼女の実力、是非期待したいですね』

 

 そして今回最も注意すべき相手、ブロワイエはマックイーンとは対照的に大外枠。基本的に外枠のウマ娘は人気を集めるのが難しいはずなのだが、それをねじ伏せて彼女はそこにいる。

 それだけの人気と実力がブロワイエにはある。

 

 でも、それはマックイーンだって負けてない。

 

『スタートしました。各ウマ娘まずまずの出だしです。外枠、一番人気ブロワイエは少し下げる形でしょうか。その間に二番人気のメジロマックイーンが意気揚々と前に出ます』

 

「マックイーンさーん!」

 

「マックちゃーん! がんばれー!」

 

「マックイーン、気合だー!」

 

 内枠有利なことを活かし、持ち前の集中力で好ダッシュを決めるマックイーン。対してブロワイエは外枠且つ作戦が差しであろうこともあり中団より後ろ側に位置する。

 

『おおっと、後続を一気に突き放して飛び出したのはメジロマックイーン! メジロマックイーン先頭のまま、各ウマ娘第1コーナーをカーブしていきました』

 

「マックイーン、天皇賞の時の違って初っ端から飛ばしとるみたいやな」

 

「そうですね。ですがあれこそ本来の彼女の走り……いえ、何かがおかしい気が……」

 

 誰が見ても分かるように、マックイーンの走りは前回の走りと大幅に異なる。そのことに気がつきつつも、タマモクロスとイクノディクタスはどこか違和感を覚えたようだ。

 

 それもそのはず、今日のマックイーンは先行策ではなく逃げ。

 サイレンススズカやツインターボほどの大逃げではないが、マックイーンの走りは会場の観客や実況、解説を少々どよめかせていた。

 

「トレーナーさん、どうしてマックイーンさんは逃げてるの?」

 

 普段のマックイーンを知っている者なら至極当然の疑問をライスシャワーは僕にぶつける。そう思っていたのはライスシャワーだけでなく、ダイヤやタマモクロス、イクノディクタスも頭に疑問符を浮かべているようだった。

 ハルウララとゴールドシップはそれを気にせず大声でマックイーンの応援を続けているのは放っておこう。

 

「理由は二つ。一つ目は多人数からマークされて囲まれるのを避けるため。マックイーンなら抜け出すことは難しくないだろうけど、それに胡座をかいて何も対策をしないというわけにはいかないからね」

 

 レースにおいて、執拗なマークをされることは珍しくない。ただ問題は、それが重なりあって四方を囲まれてしまうことだ。そこから抜け出すことに力を使ってしまい最終直線で足が前に行かなくなってしまっては元も子もない。

 

 それに、元々マックイーンは逃げ先行を得意とするウマ娘だ。前回のような奇策を使う走りをするというわけではない。

 

「なるほど。たしかに囲まれないという点では逃げという手段は理に適っていると思います。ですが、そうだとしてもわざわざ逃げをする必要はあるのでしょうか? あれでは無駄に体力を消費してしまうだけな気もしますが」

 

「まあ落ち着いて、イクノディクタス。二つ目の理由は簡単、相手がブロワイエだからだよ。あれが相手は、半端な作戦じゃあ意味がない。なるべく序盤に差をつけておく必要がある」

 

「ですから、あのペースだとスタミナの問題が出てきます。それに、あなたが言っている考えでは、天皇賞であなた方の作戦にかかったハッピーミークさんと同じではないのですか?」

 

「スタミナ面に関しては問題ないよ。今先頭を走ってるのが誰なのか、それをもう一度見たらね」

 

「……ええ、そうですね」

 

 2400という中距離において、春の盾を二度も勝ち取ったマックイーンであればこのくらいのスピードなら問題ないはずだ。他のウマ娘に囲まれてスタミナを無駄に消費させられるよりはよっぽど安上がりとだろう。

 

『向こう正面の中間を通過。各ウマ娘3コーナーへ向かいます。先頭は相変わらずメジロマックイーン、1200を通過、リードは1バ身。まだブロワイエに動きはありません。他のウマ娘も必死にメジロマックイーンに食らい付きます』

 

 と、今日のマックイーンの動きを解説している間にレースは早くも中盤と差し掛かっていた。ここまでにブロワイエに動きはない。やはりマックイーンをマークするわけではなく、後方から一気に差しにくるみたいだ。

 

「ブロワイエ、随分余裕そうに走ってますね」

 

「ああ、それだけの実力が彼女にはある。体力勝負なら負けないだろうけど、単純なスピード勝負となると……」

 

 弱気な発言をしてしまったのが悪かったのか、僕の言葉の途中でブロワイエは見て取れるほどにスピードを上げる。

 

「来たっ……!」

 

「すごーい! 九州のウマ娘って速いんだね!」

 

 まだ終盤直前だというのにもう仕掛けてくるブロワイエ。これが何を意味しているか。

 

『ここで来た! ここで来たぞブロワイエ! 世界のブロワイエがここで仕掛けた! メジロマックイーンが3コーナーと4コーナーの中間に差し掛かったところでブロワイエが順位を上げていきます!』

 

 間違いない、彼女はマックイーンの心を完全に折りに来ている。

 逃げや先行が有利なこの東京芝2400において、差しで大差をつけ完全勝利。これがブロワイエの思い描く勝利のビジョンだろう。

 

「おいおいおいおい、これまずいんとちゃうか? あんだけあったブロワイエとの差がもう無くなってきとるで!」

 

「いえ、マックイーンさんももうすぐ第4コーナーに入ります。恐らくここで……」

 

 入学前からマックイーンのレースに駆けつけていただけあって、マックイーンの仕掛け所をばっちりと把握しているダイヤ。

 

 彼女の言う通り、マックイーンもギアを上げてブロワイエのスピードに対抗する。

 

『ここでメジロマックイーンもスパート! 2バ身まで迫ったブロワイエを懸命に引き離そうとします!』

 

 マックイーンもスピードが上がったことにより、勝負は完全にマックイーンとブロワイエの一騎打ち。一着は確実にこの二人のどちらかだろう。

 

「マックちゃーん!」

 

「マックイーン!」

 

「マックイーンさん!」

 

 手を挙げてマックイーンを応援するダイヤ達の隣で、僕も心の中で彼女の名を呼び手を握りしめる。

 

 しかし、そんな応援とは裏腹にブロワイエは加速を続け、最終直線に入る頃にはマックイーンと並んでしまう。

 

「あかん、並ばれたら今までの苦労が水の泡や!」

 

「それに、ブロワイエはまだ体力を温存しています! このままでは……っ!」

 

 タマモクロスとイクノディクタスの言うように、マックイーンは不利な状況に置かれてあることは間違いない。

 でも、まだ手はある。あの夏の日、合宿で見せたあれが……

 

『なんとメジロマックイーン、ブロワイエに並ばれたと思ったらさらに加速! これまでは余裕を見せていたのか、二度目のスパートだ!』

 

「よしっ、来た!」

 

「マーチさんとのレースで見せた二度目のスパート!」

 

 僕とダイヤが喜ぶ中、タマモクロス達は驚愕の表情を見せている。

 それもそのはず、これはマックイーンの奥の手として今まで誰にも言っていない。そのため、学園の生徒で知っているのは合宿にいたマックイーン、ダイヤ、セイウンスカイだけとなる。

 

 これを使えば勝てる。実力一本勝負とはいえ、このカードを切ればどんな強敵にも立ち向かえる。

 

 

 

 それが慢心だと気づくのは、その直後だった。

 

 

 

「……は?」

 

『な、なんとメジロマックイーンに合わせてブロワイエも加速! マックイーンを逃さないと言わんばかりのスピードでまたしても並ぶ!』

 

 ブロワイエの実力を見誤ったか? 今までは遊ばれてたということか? なぜ二度目のスパートをかけたマックイーンに追いつける? なぜブロワイエが追いつくことを想定しなかった? なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ

 

「っ……!」

 

 ブロワイエの脅威的な末脚に圧倒され言葉も出ないどころか、頭に浮かぶのは疑念と後悔ばかりだ。

 いつか沖野トレーナーに「お前は予期せぬ事態に弱い」と言われた気がする。ああクソ、これでは彼の言う通りではないか。何がヒントを得られただ、僕は何も変われていない。

 

 言葉が出ないのは僕だけではなくダイヤ達も同じなようで、空いた口が塞がらないといった状況だ。

 無理もない。ブロワイエのあの走りを見せられて我を忘れない人なんて、死ぬほど前向きな性格を持つ人かただの変人だ。そんなの早々……

 

「うおおお! マックイーン、根性見せろおおおおお!」

 

「マックちゃーん! まだまだここからー!」

 

 ああ、いたわ。死ぬほど前向きなウマ娘と、トレセンきっての変人が。

 

「……うちらも黙っとる場合やないな」

 

「ライスも、ライスもウララちゃんみたいに声出さなきゃ……!」

 

「ええ、我々に出せる最大限の声量でマックイーンに激励を飛ばしましょう」

 

「そうですね! マックイーンさーん!!」

 

 ブロワイエの走りに動じずマックイーンを応援するハルウララとゴールドシップを見て、残りの面子もより一層声を出す。

 

 レースは残り100メートルをきった。

 並んでいると実況されてはいるが、僅かながらにブロワイエの方が先行している。このままのスピードであれば負けは確実、さらにブロワイエにはまだ余裕の笑み。

 

 粘れ、粘るんだマックイーン。最後の最後まだくらいつけば……

 

 

 

 その時だった。マックイーンの蹴り上げた芝が異常なほど宙に舞い、それと同時に彼女がさらに加速、三回目のスパートをかけたのは。

 

 それもただのスパートじゃない。今回のそれは一回目、二回目とは比にならない速度だ。

 

 ブロワイエもこれには笑みを失い、焦りの表情を浮かべる。だが時すでに遅し、残りの距離が短かったというのもあり、マックイーンは一瞬でブロワイエを追い抜きゴール板を通過する。

 

『えっ……あっ、メジロマックイーン! メジロマックイーンだ! ブロワイエを華麗に抜き去りメジロマックイーンが一着でゴールイン!』

 

 自分の仕事を忘れるくらい実況も呆気に取られていたようだ。それほどマックイーンの走りが凄かったということに他ならない。

 

「……あっ、やった……! 勝った勝った! マックイーンさんが勝ちました!」

 

「マックちゃーん! おめでとー!」

 

「マックイーンさん、おめでとう!」

 

 ダイヤ達はマックイーンの一着を確認すると誰よりも早く大喜びする。それに連鎖して周りの観客からも次々と歓声が上がり、マックイーンがゴールして一拍遅れての歓声がレース場中に鳴り響いた。

 

 正直、先程の光景が未だに信じられない。

 百歩譲って、これがただ三度目のスパートをかけただけなら僕だってダイヤ達と一緒に無邪気に喜んでいた。でも、あれはただの加速じゃない。

 

 タマモクロスの顔をちらりと見ると、案の定彼女も驚いた顔をしていた。

 

 

 誰かが言った。

 

 時代を作るウマ娘は、必ずこの領域に入る。自分も知らない剛脚、限界の先の先……

 

 

 そこまで考え僕はこの場を去ろうとする。

 本来ならすぐにでもマックイーンの所へ向かわなければならない。怪我の確認はもちろん、彼女を褒め称える言葉をかけてあげたい。

 

 でも、今は少しだけ考え事がしたい。一人で考える時間が欲しい。

 

「おい、どこ行こうってんだ」

 

 足を後ろに向けた瞬間、ゴールドシップから声をかけられる。普通ならマックイーンのところに行くと考えるのが妥当だろうが、ゴールドシップはどこへ行くのかと敢えて聞いてきた。

 それほどまでに僕は張り詰めた顔をしていたのだろうか。

 

「なに、ちょっと雉を撃ちにね」

 

「……マックちゃんが待ってんだ。あんまり長すぎると大きい方だと思われっぞ」

 

「余計なお世話なんだよなあ……」

 

 せっかく言葉を濁したのに台無しだよ。

 

 真面目腐った顔で問いかけられたと思ったら、彼女なすぐにいつもの調子に戻り笑いながらダイヤ達に紛れる。

 

 今度こそこの場を後にし、人混みをかき分けてなんとか人気のなさそうな場所にたどり着き、ゆっくりと目を閉じる。

 

 瞼に映る光景は先程のレースの最終場面。マックイーンの剛脚が光ったあのシーン。

 おそらくあれは『領域(ゾーン)』。分かりやすく言うなら天衣無縫の極みのようなもの。

 

 噂程度にしか聞いたことがなかったため、あの場で一瞬何が起きたか分からなかった。それだけ珍しいということだ。

 

 マックイーンが、メジロマックイーンが時代を作るウマ娘であることに疑いようはない。故に、今日の彼女の走りを見せつけられて、今まで上手く整理のつかなかった焦りの正体が言語化された。

 

 

 自分は本当にマックイーン達の隣に立っていていいのか。 

 

 

 マックイーンの成長は嬉しい。今日だって彼女がゾーンに入ったと確信した時は胸の高鳴りが半端じゃなかった。

 

 それと同時に劣等感も感じた。

 自分が三流トレーナーであることなんて分かっている。こんな三流トレーナーのもとで、超がつくほどの一流ウマ娘を好きなようにさせておくことが気に入らないと言う声も知っている。

 

 いてもいなくても変わらない。

 

 それがメジロマックイーンのトレーナーである僕だ。いたところで何もできない。

 

 そんな事実に気がついてしまった今、焦りや不安は一層加速していく。

 

 こんなの、独りよがりで、身勝手で、筋の通っていない、幼い子供がする癇癪のようなものだということは分かっている。

 それでもそう考えずにはいられない。

 

 そしてもう一つ、気がついてしまったことがある。

 

 このように、所詮自分は大人になりきれない程度の存在だ。関係性が重要視されるこの仕事に置いて、こんな自分はこの仕事に向いていないのだろう。

 

 

 秋シニア三冠、残るレースは有記念のみ。

 

 

 

 湧き立つレース場を見て、一つの決意を胸に抱く。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……っはぁ……はぁ……」

 

 過去経験したことないような息切れとともに、気がついたら私はゴール板を通過していた。

 なんだ、何が起きた。先程までの記憶がいまいち鮮明じゃない。もっと正確に言えば、二度目のスパートをかけた後のこと。直線での記憶にまるで靄がかかっているようだ。

 

 それでも全く覚えてないわけじゃない。二度目のスパートをかけた後、応援に来てくれた皆さんの声をはっきりと耳に残っている。

 

「J'ai perdu. Je ne pensais pas qu'ils avaient laissé une si bonne méthode derrière eux.(負けたよ。まさかあんな奥の手を残しているとはね)」

 

「え……? あ、はい……?」

 

 まだ息切れが続く中、ブロワイエが私の後ろから話しかけてくる。何を言っているのか分からないが、彼女は私の後ろから話しかけてきた。

 ここでようやく私はこのレースの結果を知る。

 

 勝ったのだ。あのブロワイエに勝ったのだ。

 

 今にも大声を上げガッツポーズを決めたくなったが、観衆の目に晒されている状況、気品を保つためにも舌を噛んで我慢した。

 

 その我慢した言葉の代わりに、私は先日調べた言葉を彼女に告げる。

 

「Un pour tout le monde, tout le monde pour un」

 

 この言葉を聞いて、ブロワイエは面食らったような顔をした。私は笑みを溢しながらブロワイエの後ろを見る。

 

 私の見る方向が気になったのか、ブロワイエもそちらを向く。

 そこにあったのは、ダイヤさんをはじめとした私の応援に来てくれた友人達。

 

 ブロワイエはようやく先程の私の言葉を理解したようで、呆れたように、でもって笑いながら私に手を差し伸べる。

 

 もう言葉はいらない。

 ブロワイエの目には、次は絶対に負けないという強い意思が込められている。

 私も負けじと、上等だ、と言わんばかりに彼女の手を取った。

 

 その瞬間、ブロワイエがターフに姿を現した時よりも大きな歓声が上がり、レース場は大盛り上がりとなる。

 それは私の友人達である彼女らも例外ではない。ダイヤさんに至っては近くにいたウララさんを抱きしめ、彼女の顔を青くさせていた。

 ウララさんが天皇賞の時に記憶が無いと言っていた原因って……

 

 そんな彼女達らしい姿を見て、自分も早くその場に行きたいという思いが強くなる。走り終わった後で疲れているにも関わらず、そんな所に行けば余計に疲れることは目に見えている。

 それでもいい。それでも、このレースの余韻は今しか味わえない。

 

「……あら?」

 

 ブロワイエとの握手を終え、皆さんの所に向かおうとした時、この場にいるはずの人がいないことに気がつく。

 

 始めは暴れるダイヤさん達に隠れて見えないのかと思っていた。

 でも違う。彼女達の周りのどこを見渡してもいないのだ。

 

 今、一番声をかけて欲しいあの方が。

 

「トレーナーさん……?」

 

 

 

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