名家のウマ娘   作:くうきよめない

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※二章をご覧になる前に以下の点にご注意ください。

・レースの展開上、ウマ娘化されていない競走馬はアニメのように名前を変えて登場させて頂く場合があります。

・史実ではゴールドシップとキタサンブラックは同じレースを走ったことがありますが、当ssでは考えないようお願いします。

・一章に比べたら影は薄くなりますが、マックイーンは二章でもちゃんと重要人物です。

・キタサンブラックやサトノダイヤモンドはゲームやアニメではまだ出番が少ないです。なので、本家で不明なところは私の独自の解釈となってしまうことをお許しください。


それでは本編をどうぞ




第二章 ダイヤモンドは砕けない
磨かれた原石


 最初はただの憧れだった。

 

 

 

 幼い頃から応援していたウマ娘と、そのトレーナーともなる人に対して、私は高嶺の花のような存在だと思っていた。

 事実、トレセン学園に入学するまで実際に会って話すことはほとんどなかった。

 

 生意気ながらも入学式の日に『その人』を試すような口ぶりで質問をしてしまったことは今でも記憶に残っている。憧れの人であるうちの一人に、そんなことをしてしまったのは反省している。

 でも後悔はしていない。なぜならあれのおかげで『その人』は本当にウマ娘に対して真剣なんだなと知ることができたのだから。

 

 

 次に『その人』の魅力を知ったのは、『私の憧れ』が走ったファン感謝祭の時。

 

 惜しくも『私の憧れ』は負けてしまった。

 負けてすぐ姿を眩ませた『私の憧れ』を探すために学園を走り回っていると、偶然にも『その人』を見つけた。『その人』も私と同じく『私の憧れ』を探しているのだろうとすぐに分かった。

 声をかけようかと思ったが、なんとなく『その人』の後を付いていき、『その人』がレースで負けた『私の憧れ』を励ます所を目撃した。

 

『その人』にも言ったが、その場面を盗み見するつもりはなかった。たまたま、偶然。

 そのおかげで『その人』の良さをさらに知ってしまった。

 

 そこからの流れは早い。

 それらがあった次の日には、私は『その人』の下へトレーナー契約書を持って指導していただくことをお願いした。

 

 そして本格的に『その人』の下でのトレーニングが始まり、夏合宿、『私の憧れ』のウマ娘のレース、そして満を持して私自身のデビュー戦、重賞レース、クラシックレース等様々な出来事があった。

 

 私は『私の憧れ』のウマ娘に負けないくらい、『その人』と絆を結んだはずだ。

 そのおかげで私は目指していたものに手が届いた。

 これは一人では成し得なかったに違いない。

 

 それまでは、『その人』に対しての気持ちの変化はそれほど無かった。

 幼い頃に抱いていた時同様、『その人』に対して抱いていた感情は純粋な憧れだったはずだ。

 

 

 

 

 

 でもいつ頃だろうか、この気持ちがただの憧れではないと気がついたのは。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

第二章『ダイヤモンドは砕けない」

 

 

 

 メジロマックイーンが秋シニア三冠を達成してから一年と少しが経った。

 

 たった一年と思うかもしれないが、一年あれば色々なことが変わってくる。

 例えば、何かの技術を身につけるために、一年間真剣に取り組めばそれなりに成果は出せるだろう。

 新卒の社会人が仕事に慣れたり、学生の場合一つの教育課程を終えたりすることができる。

 

 その変化はトゥインクル・シリーズも例外ではない。

 一年あれば世代交代だってあり得るし、逆に一年通して無敗の覇王のようなウマ娘が現れる可能性だってある。

 この先、次のレースですら予測が難しいのだ。一年先などと到底見通せるものではない。

 

 何が言いたいかというと、一年というそれほど遠くない未来でも何が起こるかは分からないということだ。

 

 

 しかし、往々にして強いウマ娘というのは、未来をも予測させてしまうほどの絶対を見せ続ける。

 

 車を運転している僕の隣、助手席に座り『本日の主役』という襷をかけさせられている彼女の名前はサトノダイヤモンド。

 

 彼女はデビュー戦、そして今日行われたプレオープンで一番人気且つ一着という絶対的な強さを見せつけた。

 そのため、ダイヤは今トゥインクル・シリーズを出走するウマ娘の中でも一目置かれている存在となっている。

 

 そんな彼女は恥ずかしそうにかけさせられている襷を見てそわそわしており……

 

「……あ、あの、ゴルシさん。この襷恥ずかしいので外してもいいですか?」

 

「ダメに決まってんだろ! その襷はなぁ! 昨日徹夜して縫い込んだんだよ! トレーナーがなぁ!」

 

「トレーナーさんがですか?」

 

「ナチュラルに嘘をつくんじゃないよ。まあ、主役って点は間違ってないと思うけどね」

 

「ト、トレーナーさんまでもそんなことを……」

 

 ダイヤは自己主張の強い襷をかけているのが恥ずかしいのか、顔を赤くしている。

 

 先の通り、ダイヤはプレオープンを制した。

 今はその帰り道というわけであり、ダイヤが本日の主役という点では何も間違っていない。

 間違っているのはその襷を僕が作ったという点とそのレースが昨日だったという点だ。

 

 ちなみに、プレオープンが開催されたのは阪神レース場。

 ダイヤはだいぶ前の夏合宿の時、長時間車に揺られ続けることがいたく気に入ったらしく、彼女の強い要望で車での移動となった。

 ちょうど冬休みの時期なので多少無理しても問題はない。

 

 夏合宿の時と違い、そこそこ大きい車なので広さは問題ないが、いかんせん人数が多い。

 ここにいるのはダイヤとマックイーンはもちろん、ゴールドシップをはじめとするかつてマックイーンを応援してくれていたメンバーが揃っている。

 

「大丈夫ですわ、ダイヤさん。貴方はとても強いウマ娘です。もっと自信を持っても良いと思いますわよ?」

 

 僕の後ろに座るマックイーンは、自信なさげなダイヤにアドバイスの言葉を贈る。

 彼女の言うことは最もだ。自信を持たずしてレースに勝ち続けることは不可能である。

 

「マックイーンさん……。分かりました、ダイヤ、もっと自信を持ってみます!」

 

「その意気ですわ」

 

「誰かさんは自信満々で秋シニアに挑んで全部ダメになった時あったけどな」

 

「……何か言いまして、ゴールドシップ?」

 

 後ろの席でギャーギャーと騒ぎ出すマックイーン達。

 また始まったよこいつら……

 

 ゴールドシップがちょっかいを仕掛け、マックイーンがそれに反応するという一連の流れをもう何度見たことか。

 ツッコミ役であるはずのタマモクロスでさえも彼女達へのツッコミを放棄している。

 まともに止めようとしているのはライスシャワーくらいだ。

 ハルウララに至っては何が起こっているのかよく分からずニコニコしてるし、イクノディクタスはああ見えてノリが良いためこの状況を楽しんでいるように見える。

 

「もう結構な時間車に乗ってるってのに、あいつら元気だなあ」

 

「そうですねぇ」

 

 既に高速道路を降りており、大阪から東京への旅路も終わりが近い。

 

 この間かなりの距離があるように思えるかもしれないが、実際のところ休憩を入れても車で六時間もかからない程の距離だ。

 それでも六時間という時間は決して短くはないため、ただ車に乗っている側というのもそれなりに疲れる…………はずなのだが。

 

「今日という今日は許しません! ゴールドシップ、表へ出なさい! みっちりしごいてあげますわ!」

 

「おっしゃ乗った! アタシだってやられっぱなしじゃねぇんだ! マックイーンに蟹みたいに泡吹かせてやらあ!」

 

「おい、運転中だからせめて危険なことするなよ?」

 

 今にも運転中の車から外へ飛び出して行きそうな勢いのマックイーンとゴールドシップ。

 ここまで来たらもうポリスからの目は諦めるしかない。

 

 もう無理だ、なんとかしてくれ、タマモクロス。

 そう彼女に目線を送っても「無理やで」と言わんばかりの顔をされてしまった。ちくしょう。

 

「あの、トレーナーさん」

 

「ん? どした、ダイヤ」

 

「その、すみません。私のわがままで車で行きたいなんて言ってしまって」

 

 ああ、なんだ。そんなことか。

 

「構わないよ、このくらい。直前に言われたら難しかったかもしれないけど、ちゃんと余裕を持って言ってくれたんだ。スケジュールなんていくらでも立てられるさ」

 

「……そんなこと言って、私、トレーナーさんが徹夜してスケジュール練ってくださっていたこと知ってるんですからね?」

 

 なんで知ってんだよ、怖いわ。

 

「本当に大丈夫なんだって、もう慣れたから。それに、レースでは君のコンディションやモチベーションを保つことが最優先だからね。そのために前日入りもしてるわけだし」

 

「……でも」

 

「でももへちまもないよ。ウマ娘とトレーナーは一心同体、二人三脚だ。君は僕に気を使わず、存分に僕を利用するといいさ」

 

「……やっぱりあなたは変な人ですね」

 

「え、なに、唐突に罵倒された?」

 

 急な変人扱いにより、危うく握っているハンドルがぐらついてしまうところだった。

 

 危ない危ない、運転手である僕は、車に同乗している彼女達の命を預かっているのだ。そんな今、交通事故なんて起きたと考えると恐ろしい。

 そういえば、こんなこと前も考えたな。あの時よりも人数が多いから尚のことだ。

 

 

 

 そう思っていた矢先に

 

「っっ!?!?」

 

「きゃあ!」

 

「おわっ!?」

 

 青信号を通過しようと十字路に差し掛かった時、一台の車が信号を思い切り無視して僕達の車の前を駆け抜ける。

 それにより急ブレーキをかけてしまい、前の席にいた僕やダイヤはもちろん、後ろで暴れていたマックイーン達にも被害が及んだ。

 

 幸いなことに大事には至っていないが、後少し判断が遅かったら大惨事は免れていなかっただろう。

 自分の反射神経と動体視力を誉めてやりたい。

 

「びっくりした……心臓縮んだわ……」

 

「最近はここらへんで事故が多発していると聞きますからね。まさかこれほど危険な運転をしているとは思いませんでしたが」

 

 心臓を抑えるポーズをするタマモクロスとは反対に、イクノディクタスは今の状況を冷静に分析する。

 ライスシャワーとハルウララは最後方で目を回しており、マックイーンとゴールドシップは狭い座席でずっこけている。だからシートベルトをしろとあれほど。

 

「と、とにかくみんな無事か? 無事なら後ろの車つっかえてるしそろそろ出発したいんだけど……」

 

「んだよ今の車、許せねえ! ゴルシちゃん頭に来た! 車なんて乗ってられねえや!」

 

 そう言ってゴールドシップは車を降り出し……え? 

 

「おい、何して……」

 

「おっしゃー! 今から学園まで競争じゃーい!」

 

 何言ってるんだこいつは。

 たしかにここからならトレセン学園は遠くはないが、わざわざ車から降りて走ろうなんて考えるやつは……

 

「お、なんや、勝負か? 受けてたったろうやないか」

 

「それでは僭越ながら私も。ここからならば良いスタミナトレーニングになるはずです」

 

「みんなはしるの? じゃあわたしも! うっらら〜!」

 

「ま、待ってよウララちゃん!」

 

 え、ええ……なんでツッコミ不在なんだよ。

 何度も言うがタマモクロス、君はツッコミ担当だろ? 君がそっち側に行ったら手がつけらなくなるんだよ。

 

「もう、貴方達? 戻ってきなさい。トレセン学園の生徒として、みっともないまねはよすべきですわ」

 

 ここに救世主(メシア)がいた。

 やっぱり頼れるのは一番長い付き合いでもあるマックイーン……

 

「一番最初に着いたやつはトレーナーの奢りでスイーツ食べ放題なー?」

 

「スイーツゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 ……嘘だよな、マックイーン。

 

 頼みの綱であったはずのマックイーンまでもが陥落してしまったため、車内に残ったのは僕とダイヤのみとなる。

 

「……皆さん、行っちゃいましたね」

 

「どうしてこうなる……。あいつら帰ったら覚えてろよ……」

 

 まだ明るい時間帯であるため門限という面では心配ないだろうが、迷子にならないかだけ本当に心配だ。

 これでもし僕の監督不行き届きと言われたら、それを提言した人間をボコボコにしてやりたい。

 あの面子をコントロールしろって言う方が無理なもんだ。できるやついるならやってみろ。

 

「……トレーナーさん、少し私の話を聞いてもらってもいいですか?」

 

「? 少しと言わずいくらでも聞くけど、どうした?」

 

「その、私の走る目標についてです」

 

 そういえば、デビューして数ヶ月経とうというのに、ダイヤのそう言った話はあまり聞いてこなかったな。

 

 トゥインクル・シリーズに望むにあたって、目標を持って走るウマ娘は多い。

 マックイーンならば春の天皇賞の連覇、トウカイテイオーならば無敗の三冠と言ったように、誰しも目標や憧れを抱いて走っている。

 もっとも、彼女達を突き動かす一番の原動力は底知れないほどの勝ちたいという欲求に他ならないのだが。

 

 運転に集中しつつも、僕は真剣に話を聞く態勢を整える。

 

「私の目標は二つあります。一つはGⅠレースで勝つこと。私の家系のウマ娘はGⅠで勝てないというジンクスがあるんです。そして私はサトノ家にようやく産まれたウマ娘。だから、それに勝って家族をよろこばせてあげたいんです」

 

 ああ、道理で彼女は時々ジンクスという言葉を漏らしていたわけか、合点がいった。

 

 それにしても、GⅠレースでの勝利を目標か。

 

 レースの世界において、GⅠどころかGⅡやGⅢといった重賞を制覇することはそう簡単なことではない。故にそれらを目標とするウマ娘は珍しくない。

 ダイヤはそれに加えて家族のためというのがある。走る理由には充分すぎるものだろう。

 

「なるほどね。GⅠ制覇、いいじゃないか。となると、次はそのGⅠに出場するための場数を踏まなきゃいけないな」

 

「場数?」

 

「現状君はメイクデビューとオープン戦の二勝。これだけだとGⅠに出走すらできない可能性がある。そうだな……よし、次のレースはGⅢきさらぎ賞だ!」

 

「……とうとう私も重賞を走れるんですね」

 

「おうとも。ここを勝てば、今から一番近いGⅠである皐月賞に出走できるしね」

 

 先の通り、ダイヤは現在二戦二勝。

 次に予定しているきらさぎ賞を勝てば、クラシックへの挑戦権を余裕を持って得られるだろう。

 

「君ほどのウマ娘なら、GⅠ勝利のみならず、"皇帝"や"英雄"のような無敗の三冠すら叶えちゃうかもな」

 

「無敗の三冠……わ、私、頑張ります!」

 

 レースで勝つことは簡単なことではないと言った後にこんなことを言うのもあれだが、ダイヤなら無敗の三冠を叶えたって不思議ではない。むしろその可能性は充分にある。

 最初に持っていた夢や目標を叶えるウマ娘は一握りだが、それは挑戦してこそのものだ。

 

 夢や目標はその都度形を変えていく。

 いつかダイヤがGⅠ勝利という目標を叶えた暁には、また別の目標を胸に走るはずだ。

 それを焚き付けるのもトレーナーの仕事。これからも彼女と足踏み揃えて走っていかなければならない。

 

 

 これまで話していた間車は進み続けており、ようやくトレセン学園の近くになってきた。これ以上長話はできないため、先程から気になっていたことを彼女に伝える。

 

「それで、ダイヤ。さっき目標は二つあるって言ってたよね? その二つ目を聞かせてもらってもいいか?」

 

「そうですね。私の二つ目の目標、それは……」

 

 僕の問いにダイヤは一つ間を置く。

 

 GⅠレースと来たら次に何が来るのか。自分にはなんとなく予想がついていた。

 

 

 

「私、ライバルのキタちゃんに勝ちたいんです!」

 

 

 

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