名家のウマ娘   作:くうきよめない

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直接ストーリーには関わりませんが、今回から名前をもじったウマ娘が登場します。もしよかったら元ネタを考えてみてください。


額に煌めく

 キタサンブラックというウマ娘をご存知だろうか。

 

 明るく元気で、どんなことにも積極的にチャレンジする行動力を持つ、お祭り大好きなウマ娘……と、彼女の幼馴染であるサトノダイヤモンドから聞いた。

 自分の目から見ても、キタサンブラックというウマ娘はそのように映っている。

 

 キタサンブラックは、ダイヤより少し早くデビューしたため、世代が一つずれている。

 そんな彼女のデビュー戦からクラシックデビューまでは上々だった。

 デビュー戦からプレオープン、さらにはGⅡスプリングステークスを一着で制し、彼女の憧れであるトウカイテイオーと同じく無敗でクラシックに挑むこととなった。

 

 しかし現実は非情なもの。憧れ、それもトウカイテイオーという実力者と同じ道を辿ることはそう簡単なことではない。

 

 キタサンブラックの皐月賞とダービーは、それぞれ3着という惜敗、14着という大敗に終わった。

 皐月賞はまだしも、日本ダービーに至ってはスプリングステークスと皐月賞の連続出走という結果だ。

 まだデビューして間もない彼女にはキツいローテーションだったのかもしれない。

 

 そしてなによりも悔しかったであろうことは、皐月賞もダービーも同じウマ娘に負けたということだろう。

 正直、キタサンブラックを始めとした強豪を抑え、皐月賞とダービーの二冠を達成したそのウマ娘は格が違うように見えた。

 そのウマ娘がダービーを勝った瞬間、多くの人の脳裏に三冠を達成するのではという考えを過ぎらせたに違いない。

 

 夏を越え、GⅡセントライト記念を制したキタサンブラックは、最後のクラシックの冠を取るために菊花賞へ出走した。

 

 彼女の実力なら、たとえ相手が誰であろうと菊の勲章を取れる実力は充分にあったはずだ。

 キタサンブラックだけじゃない、他のウマ娘達だってそう。誰が勝ってもおかしくなかった。

 

 それでも、世間はそんな考えは有していない。

 皐月賞とダービーを制したそのウマ娘は骨折で菊花賞を回避。世間ではそれを惜しむ声が相次いだ。

 それはまるで、トウカイテイオーが骨折で出走を回避した菊花賞の時のようだった。

 

 その年の菊花賞は、キタサンブラックが本命不在と言わせないほどの見事な走りで制した。

 でも、彼女も嬉しい反面複雑な気持ちを抱いていただろう。

 事実、その本命は菊花賞には出走していなかったのだから。

 

 キタサンブラックは間違いなく強い。実力は高い。心配なのは精神面だ。

 彼女はチーム〈スピカ〉のウマ娘であるため、心配は必要ないと思われる。

 彼女、その二冠ウマ娘にあまり固執しすぎないといいのだが……

 

 

 

 ***

 

 

 

 京都レース場。

 スタンドにはそこそこ多くの人がおり、その一番前で僕らはレースが始まるのを待つ。

 

「せっかくのダイヤさんの重賞レースだと言うのに、皆さんが応援に来れないというのはなんだが寂しいですわね」

 

「誰のせいだと思ってんの?」

 

 ダイヤがトゥインクル・シリーズ二勝目を挙げて車で東京に戻っていたあの日、何人かのウマ娘がその車を飛び出してトレセン学園まで全力疾走するという事件が起きた。

 ウマ娘専用の通路があるとは言え、万一にもウマ娘と一般の通行人が衝突すれば目も当てられないようなことになる。

 

 それを踏まえてか、URAのお偉いさんは厳重注意を下した。…………僕に。

 

「そ、それはその……スイーツをダシにしたゴールドシップが悪いわけで……」

 

「マックイーン」

 

「本当にすみませんでした」

 

 マックイーンは腰を90度に曲げて平謝りをする。

 

 厳重注意とは言っても、それは形だけのものであり、むしろ憐れみの目すらも向けられた。

 やっぱりお偉いさん方もトレセン学園の問題児については把握しているようだ。

 

 その厳重注意の結果として、チームでの移動を除く、大勢のウマ娘を引き連れて行動するということが禁止されてしまったわけなのだが。

 

「あれに懲りたら、自分はちゃんとツッコミ役だということを自覚してゴールドシップの相方を努めるんだね」

 

「貴方は一体何を言ってますの?」

 

 ちっ、ダメか。体よくツッコミ担当を押し付けられると思ったのに。

 

「もう、お二人とも。今日私のレースなんですよ? どうして漫才をされているんですか?」

 

 ターフに姿を現した体操服姿のダイヤは、僕達を見つけると真っ先にこちらに近寄ってきた。

 一連の会話を聞いていたのかは知らないが、彼女は心なしかげんなりしているように見える。よし、ツッコミ担当は彼女に押し付けよう。

 

「漫才してるとかしてないとかそれは置いておいて。今日は初めての重賞レースだ。気分はどうだ?」

 

「はい、バッチリです! でも、やっぱりどこか緊張しちゃって……」

 

「ダイヤさん、大切なのは自分自身を誰よりも信じることですわ。まずは落ち着いて深呼吸。はい、ひっひっふー」

 

「ひ、ひっひっふー」

 

 こいつわざとやってるのか? 

 深呼吸でラマーズ法を促すとかそんなベタなボケされてもツッコんでいいのか判断に困る。

 

「ふぅ……なんだか少し落ち着いてきました」

 

 本当に落ち着いたの? それお産の時のやつだぞ? 

 

「ま、まあ君がそう言うなら大丈夫なんだろ。重賞とはいえ、あまり体を縮こませないこと。いつもと同じように走るんだ。いいね?」

 

「はい! それでは行って参ります!」

 

「ファイトですわー!」

 

 ダイヤはゲートに向かうべく、僕達の下を離れた。

 ここを勝てば文句無しに皐月賞へ挑戦できる。今は彼女の安全と勝利を願い……

 

「あ、そうだ。ダイヤ、一番大事なことを伝え忘れてた」

 

「っとと、一番大事なことですか?」

 

 僕の急な呼び止めに、ダイヤも急ブレーキをかける。

 

 レースを走る上で一番大切なこと。それは人によってそれぞれ違う。

 勝つこと、ファンを集めること、そのレース自体に参加すること。

 もちろんそれらは大事だが、まだレース経験の浅いダイヤにはやはりこれが一番大切だろう。

 

「楽しんで走ってこい!」

 

「っ、はい!」

 

 拳を突き出す僕に呼応するように、ダイヤも同じポーズで今日一番のいい返事を返し、ゲートへと向かった。

 

 そんな彼女の姿は、かつてのマックイーンの姿と被って見えて……

 

「……? なんですか、私の顔をジロジロと見て。私に見惚れるのは構いませんが、今はダイヤさんのレースに集中するべきです」

 

「うーん、今更だけどやっぱ君あの有の後から遠慮なくなったよね?」

 

「ええ。だって私には走る理由ができたんですもの」

 

「へぇ、どんな理由?」

 

「それは秘密ですわ!」

 

 なんでそんなこと自信満々に言ったんだよ。気になるじゃんか。

 

 秋シニア三冠を叶えたマックイーンの走る理由か。

 なんだろう、ライバルであるトウカイテイオーに勝つといったところか。

 

 レース場にファンファーレが響き渡り、出走するダイヤ含む九人がそれぞれ枠入りを済ませる。

 

『最後にサトノダイヤモンドが収まって態勢出来上がります』

 

「あっ、トレーナーさん、そろそろ始まりますわよ!」

 

 おっと、いけないいけない。

 マックイーンの走る理由は大切だが、今は目先のことに集中しなくてはならない。

 

 今回のレースはGⅢであるきさらぎ賞。京都レース場の芝1800m。

 向正面直線を延長した2コーナー奥のポケットからのスタートとなる。そこから3コーナーまでの直線が約900mと長い特殊なコース形態だ。

 二つしかコーナーが無く直線が平坦なこともあり、各ウマ娘の上がり差がつきにくい。

 そのため最後の直線だけで差し切るのは難しく、差しや追込のウマ娘はペースが緩んだところで前と差を詰めておく必要がある。

 

 基本的に差しを得意とするダイヤ。外回りということもあり差しはかなり有利ではあるがはたして。

 

『スタートしました。サトノダイヤモンド好スタートを切りました。クロムカップボードもいいスタートです。まずは向正面いっぱいに使っての先行争いですが……』

 

「よしっ、いいスタート!」

 

 綺麗なスタートを切ったダイヤは、先行争いに参加することなくすっと後ろに下がる。

 その隙に他のウマ娘が前に出て、結果的にダイヤは中団より少し後ろに控える形となった。

 

『過去二戦はいずれもノーステッキ、真価が問われるサトノダイヤモンドが後方四番手、それから後ろに二番の……』

 

「ダイヤさん、理想的な位置取りですわね」

 

「ああ、このまま冷静さを保てれば……」

 

 最初の長い直線でダイヤは良い位置をキープしつつ、先頭のウマ娘は3コーナーの外回りコースに入る。

 

『先頭は五番のインザストーレートです。サトノダイヤモンドは中団でまもなく前半の1000mを今通過、59秒から1分。予想よりは速いペース、平均ペースで流れています。ピンクのゼッケン、サトノダイヤモンドはいつ仕掛けるのか』

 

 ダイヤは未だ中団、そろそろ仕掛けなければ厳しくなってくる。

 

 そう思ったのも束の間、1200mを通過したあたりでダイヤが少し加速した。

 

「トレーナーさん、これなら……!」

 

「ダイヤ、仕掛けたな。後は前のウマ娘達にブロックされなければいいんだが……」

 

 じわりじわりと前と差を詰め、最終コーナーを回り最後の直線へと入る。

 

 前にはウマ娘が三人。ダイヤの末脚ならこの娘達を避けて前へ出ることは容易いはずだ。

 

「ダイヤさーん! そこですわー!」

 

「ダイヤー! 一気に差せー!」

 

 僕とマックイーンの声援が届いたのか、ダイヤは少し笑みを浮かべて本格的にスパートをかける。

 

『サトノダイヤモンドはまだ保ったまんま! 額に光るダイヤの印! サトノダイヤモンドが上がってきた!』

 

 一気に先頭に躍り出たダイヤはそのままの勢いで後方との距離を突き放す。

 一バ身、二バ身。こうなっては無重力状態だ。

 

『外から他のウマ娘も上がってくるが、先頭は抜けた! サトノダイヤモンド! これぞ煌めく逸材だ! サトノダイヤモンド完勝!』

 

「よっし! 勝った!」

 

「流石はダイヤさんですわ! 二着に三バ身以上離してのゴールだなんて!」

 

 初の重賞レースだというのに、これだけの強さを見せつけての完勝。それもここまで三戦無傷。

 いやはや、我が教え子ながら末恐ろしいな。

 

 歓声が溢れ、それに手を振り応えるダイヤ。

 そんな彼女はこちらに気がついたようで、出走前と同じく駆け足でこちらに向かってくる。

 

「トレーナーさん、マックイーンさん、私やりました! 一着です!」

 

「おめでとうございます、ダイヤさん。最後の直線、素晴らしいキレ味でしたわ」

 

「おめでとう、ダイヤ。これで三連勝、無傷でクラシック戦線に挑むことになるな。溢れる才能、原石がついに輝きだすってところか」

 

「そ、そんな、大袈裟ですよ。この勝利は、普段指導してくださってるトレーナーさんやマックイーンさんのおかげです」

 

 褒められ慣れてないのか、ダイヤは体を捩らせて赤い顔をする。

 別に大袈裟でもなんでもなく、ダイヤはとてつもない才能を有している。

 百億歩譲って僕の指導が良かったとしても、最後の直線の伸びは彼女の才能、そして人並み以上にしてきた努力の賜物だ。

 そこななんの疑いはない。

 

「あっ、私そろそろ行きますね。ウイニングライブの準備もしなきゃいけないので」

 

「おう、ちゃんと水分補給と汗の処理忘れるなよー」

 

「わ、分かってますから! そんなこと大きな声で言わないでください!」

 

 ダイヤは先程とは別の意味で赤い顔をしてターフを去っていく。

 

 はて、僕は何かまずいことを言っただろうか。

 水分補給はもちろん、汗の処理だって大切なことだ。それを怠ると風邪を引きかねない。

 

「……貴方、そういうデリカシーの無いところは昔から変わっていませんわね」

 

「え、でも大事じゃん、汗の後処理」

 

「はぁ……」

 

「わ、悪かったよ、僕が悪かった。だからそんなゴミを見るような目はやめてくれ」

 

 正直ちょっと狙ったところはある。

 あれだ、やるなと言われたらやりたくなるやつ、カリギュラ効果に違いない。

 

「それにしても、無敗でクラシックに挑戦だなんて、なんだか懐かしい気持ちになりますわね」

 

「そうだな。なんせ、君のライバルであるトウカイテイオーもそうだったんだ。それもここまで快勝と来た」

 

 骨折で菊花賞を回避したとはいえ、トウカイテイオーは皐月賞と日本ダービーも無傷で冠を頂戴している。

 トウカイテイオーの他にミホノブルボンや『皇帝』シンボリルドルフ、さらにはあの伝説的な『英雄』もクラシックを無傷で挑戦している。

 

 そんな彼女達と同じ条件のダイヤが注目されないはずがない。

 

「もしかしたら本当に叶えちゃうかもな……無敗の三冠」

 

「……ええ、是非叶えてほしいですわね。私も、怪我でダービーに挑戦できなかった身であるので……」

 

「…………さ、なんだか湿っぽい話になってきたし、そろそろ僕達も移動するか。ダイヤが重賞を制覇して初のウイニングライブ、思いっきりサイリウム振って応援しようぜ」

 

「そうですわね。今はダイヤさんの重賞制覇を目一杯喜ぶべきですわ」

 

 才能溢れるダイヤモンドの原石。

 それは、ターフでもステージの舞台でも常に光り輝いており、見る者全てを魅了していた。

 ダイヤが今後どのようなレースを見せてくれるのか、トレーナーである自分も楽しみで仕方ない。

 

 ………………ん? そういえば、今日はダイヤの重賞レースだというのに、キタサンブラックの姿を見かけなかったな。

 

 ここは京都レース場、東京からはかなり離れているが、たとえ遠くてもダイヤはキタサンブラックの応援に毎回行っていた。

 前回のダイヤのレースの時はキタサンブラックもレースを控えていたため、あの場にいなかったのは分かる。

 でも、彼女の次のレースは大阪杯であり、今回応援に来る分には余裕があるはずだ。

 

 僕達と別行動をしているとも考えたけれど、その考えは一瞬で切り捨てた。

 レース場には大勢の人がいるのだから気がつかないのも仕方ないかもしれないが、彼女ほど目立つウマ娘を一回も見かけないというのもおかしい。

 

 チームは違えど、彼女達は親友であり『ライバル』なはず。

 それなのになぜキタサンブラックはいないのだろうか……? 

 

「トレーナーさーん、先に行ってしまいますわよー?」

 

「ごめん、今行くよ」

 

 まあそれは気にしすぎても仕方のないこと。

 僕はマックイーンとサイリウム片手にウイニングライブが行われる会場へと足を運んだ。

 

 

 

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