名家のウマ娘   作:くうきよめない

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これと次の話はおふざけ回なので……




どうしてウマ娘はいつも勝負したがるんですの?

 

『悲願叶った、サトノダイヤモンド! 今一着でゴールイン! この一冠だけは渡せなかった!』

 

 スタンドから少し離れたところで、ダイヤちゃんの圧勝という結果に終わった菊花賞を観戦していた。

 画面越しではなく、こうして生で彼女のレースを見るというのはなんだか久しぶりな気がする。

 それほどまでにこれまでのあたしは自分のことしか頭になかったのかと思うと、いつか一緒に走ろうと約束し合ったダイヤちゃんに対して凄く申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 

 そしてあの宝塚記念の日、激情に駆られダイヤちゃんの気持ちを考えなかった後悔も……

 

「……おう、遅くなってすまん」

 

「トレーナーさん……。遅すぎます、レース終わっちゃいましたよ?」

 

「お前がレース直前になって大量注文するからだろ……。今日はゴルシ達もいないしそんなに出費が重ならないと思ってたのによ……」

 

「何か買ってこようかって言ったのはトレーナーさんですよね?」

 

「はいはい分かりました、俺が悪かったです。ったく、そういうところ誰に似たのやら……」

 

 今日私がここに来ているということはダイヤちゃん達には伝えていない。

 かと言って一人で菊花賞の舞台である京都レース場へ行くというのは、あたしがまだ中学生というのもあって許可が降りず仕舞い。

 仕方がないからテレビで見ようと思ったけど、どうしてもこのレースは生で見とかなければならない気がしてならなかった。

 

 そこであたしが頼んだのは……

 

「それで、分かったのか? 今のお前自身に足りない物ってのは」

 

「……いえ、まだ全然。正直、これからどうすればいいのか分からなくて……。でもでも、はっきりとしたものは分からなくても、覚悟は決まりました!」

 

「へぇ、覚悟……」

 

「今日のレースを見て思ったんです。今のあたしはテイオーさんや先輩達を追いかける立場であると同時に、今年クラシックデビューしたウマ娘に追いかけられるんだなって」

 

 あたしはこの学園に入って誰かを追いかけることしかしなかった。憧れの先輩、テレビや雑誌でしか見たことのなかったウマ娘。

 そんな偉大な方達を実際に見ると、いずれ追いかけられる立場になるということを忘れさせられてしまっていた。

 

 でも、今日のダイヤちゃんの走りで気付かされた。

 いずれあの走りが後ろから迫ってくる。あの走りがあたしを差し切ろうとする。

 

 

 絶対に負けたくない。あたしの心の奥底で、そんな感情が湧き上がった。

 

 

「来月のジャパンカップで勝ってそして……次の有記念、そこでダイヤちゃんを迎え撃つんです」

 

「……それがお前の答えなんだな?」

 

「はい、あたしはもう迷いません! よーし、勝つぞー! せいやっ、そいやっ、せいやっ!」

 

「……ひとまずなんとかなったってとこか」

 

「ん? 何か言いましたか?」

 

「いや、何も。それより、勝つぞ、サトノダイヤモンドに」

 

「っ、はい!」

 

 あたしは滾る気持ちを抑えてもう一度ターフを見下ろし、スタンドに向かって深々とお辞儀をするダイヤちゃんをじっと見つめる。

 

 

 見てて、ダイヤちゃん。あたしは絶対にあなたには負けない……! 

 

 

 

 ***

 

 

 

 都内某所ゲームセンター

 

 

 研ぎ澄まされた神経、流れる汗水、永遠のようにも感じさせられる緊迫した空気。

 

 幼い頃からこの場所へ足を運ぶことが多かったというのに、この緊張感というのはいつまでも新鮮味を感じる。

 諸行無常、万物流転、つわものどもが夢の跡と言わんばかりに様相が変化しているというのもあるが、それは些細なことに過ぎない。

 

 大事なのは好奇心。人はそれを繰り返して成長する。

 故に、何度挑戦してもまた新しい発見によって生み出される好奇心が、自分をまた一つ高みへと連れて行ってくれる。

 

 

 さあ、もう観察は十分だろう。そろそろこの静けさに決着をつけようじゃあないか。

 

 

「トレーナーさん! 私を! 私のぱかプチを狙ってくださいませ! ぜひ私を手に入れてくださいますよう……」

 

「うるせぇよ! 分かったからちょっと黙ってろ! お口チャックだ!」

 

 ……気を取り直して。

 

 人差し指で弄ぶは一枚の百円玉。そして対面するはウマ娘のぬいぐるみ、通称ぱかプチが入ったクレーンゲーム。

 五百円玉を入れた方がお得だよ、と言ったアドバイスは不要だ。今の僕なら一発で取れる気しかしない。

 

 

 ワンクレ上等、いざ尋常に! 

 

 

 親指でコインを弾き、片手でキャッチしたそれを筐体に入れ、今度こそ固唾を飲むマックイーンに見守られながらボタンを押す。

 格闘ゲームをやっている最中、バックで流れるBGMが全く聞こえなくなるのと同様、アームを操作している最中は集中のあまり何も聞こえなくなる。

 

 右、そして上。二つのボタンをジャストタイミングで離し、お目当てのマックイーン(ぱかプチ)のちょうど真上でアームを止める。

 

 ……へっ、勝ったな。

 

 勝利の美酒に酔いながら、降ろされるアームがマックイーン(ぱかプチ)をしっかりと捉えるのを確認する。

 そのままマックイーン(ぱかプチ)を持ち上げようとしたアームは……

 

「「……あっ」」

 

 あろうことか、持ち上げることすらせずマックイーン(ぱかプチ)の体勢を座っている状態から仰向けに崩しただけで幕を閉じた。

 

 一体何が起きた? 確かにアームはしっかりとマックイーン(ぱかプチ)を捉えていたはずだ。僕の完璧な計算に狂いはないはず。

 

 だとしたら考えられる可能性は一つしかない。

 

「は? なにこれしょうもな。アーム弱すぎだろ。ウマゾンで運んでもらった方が早いじゃん」

 

「って、ああああ!? そんなこと言ってる場合ではありませんわよ! わ、私のぱかプチが……」

 

「ん、どうしたそんなに慌てて、マックイーン(本物)」

 

「……何かイラッとくる呼ばれ方ですわね。そうではなくて、私のぱかプチの下着が丸見えになってます! なんてはしたない……。どうにかしてください、トレーナーさん!」

 

 はしたない、ねぇ……。

 出会った頃ならいざ知らず、スイーツに簡単に釣られたり、男湯に入りそれを正当化したり、野球中継でタオル振り回しながら奇声を上げてた姿が全国中継されたんだから今更だとは思うんだけど……

 そもそも下着が丸見えって、ぱかプチなんだからそんなところ大した作りでもなかろうに。

 

「……まあ別に問題無いんじゃないかな。あれはあれで面白いし」

 

「問題無い!? 面白い!?」

 

 ぎゃーぎゃーと抗議するマックイーンを無視していると、本日の主役と呼べる人物が姿を現す。

 

「あ、トレーナーさ〜ん!」

 

「おう、ダイヤ。ゲーセン一周してみてどうだった?」

 

「とっても楽しかったです! 物凄い手の早さで鍵盤? のようなものを叩くお方がいたり、洗濯機のような筐体を身体全体を使って叩いていたり、今年はお猿さんの年ではないのに『今年は申年ぃ』と叫ぶお方がいたりで……」

 

「うん、多分楽しみ方間違えてるね」

 

 そんな所と言ってはなんだが、ゲーセンガチ勢の闇が見え隠れするような場所にダイヤを踏み入れさせてしまった僕の罪はかなり重いのでは無いか? 最後に至ってはエクストリームでバーサスなゲームだし。

 彼女には先の記憶を墓場まで持っていかせることにしよう。

 

 本日はダイヤが菊花賞を優勝したということで、彼女への御褒美として可能な範囲で望みを叶えることになっている。

 そこで彼女がチョイスしたのがゲームセンターという訳だ。

 何故ゲームセンター? と思うかもしれないが、ダイヤは生粋の箱入りウマ娘。きっとこう言った場所や、そもそもゲーム等に縁があまりなかったのだろう。たぶん、知らんけど。

 

「それで、マックイーンさんは何をなさっているのですか?」

 

「あいつは気にしなくていいよ。クレーンゲームで自分のぱかプチ狙ってるだけだから」

 

「まあ、クレーンゲーム! でしたら私が……あら? あそこにおられるのは……」

 

 マックイーンが鬼の形相で硬貨を入れ続ける向こうで、トレセン学園の制服を着た二つの後ろ姿が何かを探すような素振りを見せていた。

 

 あの二人は確か……

 

「エアシャカールとナリタタイシン……?」

 

 片や頭脳派ロジカル主義なデータ至上主義者。片やBNWの一人で人気の少ないところを好む一匹狼。

 自分は彼女達のことはあまりよく知らないが、分かっていることと言えば少なくとも二人で仲良くゲーセンに行くような仲ではなかったはず……

 

「お二人とも何をなさっているのでしょうか……?」

 

「さあ? 何かあったんかな?」

 

「ふむ……私聞いてきますね!」

 

「あっ、ちょっと待っ……」

 

 まずい、エアシャカール達のことをよく知らない僕でも分かっていることがもう一つある。

 というのも、彼女達は共通してかなりの曲者であり……

 

「こんにちは、エアシャカール先輩にナリタタイシン先ぱ……」

 

「あ゛ぁ!? 見せ物じゃねェぞコラァ!」

 

 こっわ。並のメンタルの持ち主じゃ漏らしていてもおかしくない。

 あのダイヤですら一瞬怯んでしまっている。

 

「ちょ、やめなよ。この子怖がってんじゃん。悪かったね、嫌な思いさせて。アタシ達急いでるから……あれ、アンタ……もしかしてサトノダイヤモンド?」

 

「あン? ……って、マジじゃねェか」

 

「え? 私のこと知ってくださっているのですか?」

 

 すかさず止めに入ったナリタタイシンと初手威嚇から入ったエアシャカールはダイヤのことを知っているかのような口ぶりだ。

 それはそうだろう。今のトゥインクル・シリーズ、特にクラシック級においてダイヤは最も注目されているウマ娘と言っても過言ではない。

 

「おう、もちろンだぜ。こないだの菊花賞、オレもテレビで見てたからな」

 

「アタシも。てか、今じゃアンタのこと知らないって人の方が少ないと思うよ?」

 

「そ、そんな……少しばかり照れますね……」

 

「あン時の走りは痺れたなァ。3000mの距離だッてのに上り3ハロンは推定34秒前後、さらに二着に二バ身以上の差をつけての圧勝。……もっと正確なデータが欲しいな。サトノダイヤモンド、今度都合良い時に併走付き合ってくれねェか?」

 

「え、えっと……私は構いませんけどトレーナーさんに許可を……」

 

 ダイヤは少し遠慮しがちに僕の方を向く。

 それに釣られてエアシャカールも僕の方を見……いやこれ睨んでるだろ、子供泣くぞ。

 

「あー……こちらとしても願ったり叶ったりってとこだ。この先、シニア級のウマ娘とも戦う必要がある以上、エアシャカールのような実力者との併走は有益だからね」

 

「へっ、アンタも中々ロジカルな考えができンじゃねェか。ッしゃ、決まりだな。楽しみにしてるぜ。とすると、オレももっとスタミナつけねェとな。あの走りから逆算して……」

 

 決して言わされたわけではない。もう一度言う、決して言わされたわけではない。

 

「それで、二人はどうしてここにいるんだ? さっきから何かを観察しているようだったけど」

 

 併走云々の話しが一段落ついたため、ようやく本題に入る。

 

「そうだった……! アンタ達には関係ないから。ほら行くよ、シャカール」

 

「……まあ待てよ、タイシン。なぁ、アンタ、『ワガハイちゃん』ッて名前に覚えはねェか?」

 

「ちょっと、シャカール!」

 

『ワガハイちゃん』? はて、一体何のことだろうか。

 ここのゲームセンターは昔から知っているとは言っても、よく来ているというわけではない。ダイヤも知っている様子ではなく、エアシャカールの問いに首を横に振っていた。

 

「その『ワガハイちゃん』とやらは一体なんなんだ?」

 

 普段なら質問を質問で返すな、と怒られそうだが、そんなことを気にする暇もなくエアシャカールとナリタタイシンは『ワガハイちゃん』についての説明を始める。

 

 曰く、FPSゲームであり得ないほど正確なエイム力を持つ凄腕プレイヤー。

 曰く、パズルゲームでとんでもないスコアを叩き出す天才プレイヤー。

 

 そしてその『ワガハイちゃん』がこのゲームセンターに出没するとのこと。

 情報源はどこか分からないが、法に触れていないことを願おう。

 

「……でもいいのか? こんな特定みたいな行為して……」

 

「目の前に解があるンだ。解かねェ道理はねェだろ」

 

「それはそうだけど……」

 

 口ではああ言っているナリタタイシンだが、己を負かしたプレイヤーが気にならないというわけもなかろう。

 ある種のゲーマーの性とも言える。

 

「トレーナーさん、私達でお力になれるようなことはないでしょうか?」

 

「つってもなぁ。僕たちはその『ワガハイちゃん』についての情報をほとんど持ち合わせてないし……」

 

「そのような暗い顔をなさって、どうされましたの?」

 

 片足突っ込んでしまった以上、『ワガハイちゃん』について多少なり考えなければならなくなったところで、先程までクレーンゲームに悪戦苦闘していたマックイーンが戻ってきた。

 

「マックイーン、目的は達したのか?」

 

「ええ、二千円かけて位置を少しずらすことができましたわ!」

 

 ダメじゃねぇか。あまりにも渋すぎるだろ。

 

「それで一体何が……あら、シャカール先輩にタイシン先輩? あの方達と関係がありまして?」

 

「ああ。どうにもあの二人、『ワガハイちゃん』っていう天才ゲーマーを探してるらしくってな」

 

「……『ワガハイちゃん』? どこかで聞いたことあるような……」

 

「マックイーンさん、知ってらっしゃるのですか!?」

 

「え、ええ。あれは確か……」

 

「あれっ、みんなこんなところで何してるのー?」

 

 マックイーンが『ワガハイちゃん』について思い出そうとしている中、横から聞き覚えのある声が聴こえ、また一人登場人物が増える。

 

 はちみつドリンク片手にトレードマークの白い流星とポニーテールを揺らすその人物とは……

 

「トウカイテイオー……。奇遇だな、君もここによく来るのか?」

 

「うん、ボクは暇つぶしにちょっとね。ここ行きつけなんだ。君達こそ勢揃いでどうしたのさ?」

 

「テイオーさん、私達とある人物を探してるんです。『ワガハイちゃん』というお名前に聞き覚えはございませんか?」

 

 なるほど。よくゲームセンターに入り浸りしてるらしいトウカイテイオーなら『ワガハイちゃん』についての情報を知っているかもしれない。

 少し遠目に見ているエアシャカールとナリタタイシンも気になっているようだ。

 

「え、それボクのことだけど」

 

「君なんかい。いや、探す手間省けたからいいんだけどさ」

 

 ケロッと答えるトウカイテイオーになんだか脱力感を感じてしまう。

 

 しかし、その『ワガハイちゃん』がトウカイテイオーだということに疑問は抱かなかった。

 天才気質な彼女にとって、ゲームなどは朝飯前と言ったところなのだろう。実際に彼女がゲームをプレイしているところを見たわけではないのでなんとも言えないが。

 

 マックイーンも思い出したようで、手のひらに握りこぶしを乗せるという古典的なエモートを行っている。

 ちょっとアホっぽかったのは黙っておこう。

 

「待てよ。お前が『ワガハイちゃん』なら、それを証明できるようかもンがなけりゃ解は出せねェ」

 

「アタシも……名乗られるだけじゃ納得いかないから」

 

 エアシャカールとナリタタイシンは納得いかないようで、『ワガハイちゃん』を名乗るトウカイテイオーに食ってかかる。

 トウカイテイオーはそんな二人に気を悪くすることなく、近くのダンスゲームの筐体にコインを入れると……

 

「……は?」

 

 そのゲームに詳しくない僕でも分かるほどの難易度の高いコースを、意味の分からないステップで安易と攻略するトウカイテイオーに開いた口が塞がらなかった。

 それを見たエアシャカールとナリタタイシンもポカンとしている。

 

「わぁ……テイオーさんすごい……」

 

「私も以前彼女にゲームセンターに連れて行かれた時、あのステップを間近で見せつけられましたわ」

 

 これが俗に言うテイオーステップというやつか。いやはや、恐れ入った。

 

「ふぅー、楽しかった。やっぱりゲームは体を動かす系なのが一番楽しいよね!」

 

 トウカイテイオーが足を止め、画面にニューレコードの文字が見えたところで我に返る。

 彼女のそれは間違いなく天才のそれ、僕が何年かかっても到達できそうにないようなものだった。

 

「テイオーさんカッコよかったです! よろしければ私にも教えて頂けませんか?」

 

「いいよいいよ! ゲームはみんなでやるともっと楽しいからね!」

 

 まるでマックイーンが走る姿を見る時のように、ダイヤは今のトウカイテイオーに目を輝かせている。

 気持ちは分からんでもない。あの姿にはつい僕も見惚れてしまうほどのものだった。

 

「にしても、FPSやパズルゲーム、それに加えてリズムゲームまで得意って凄いな。なあ、マックイーン」

 

「…………皆してテイオーテイオー……」

 

「……マックイーン?」

 

 ああ、そういえばここ最近忘れがちだったが、マックイーンとトウカイテイオーはライバル同士だった。

 相手の得意分野を素直に褒める気持ちはあっても、僕やダイヤがトウカイテイオーを褒めちぎるのは面白くないのだろう。

 

 そんなマックイーンに気がついたのか、トウカイテイオーは意地の悪い笑みを浮かべてマックイーンの方へと歩む。

 

 

 

「ねえ君達。ちょっとボクと勝負していかない?」

 

 

 

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