名家のウマ娘   作:くうきよめない

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憧れの姿

 

 

 

『あの、ビワハヤヒデ先輩は体調管理で気をつけてることはありますか?』

 

『バナナを食べることだ。バナナは栄養価が高く、ビタミンやミネラル、食物繊維が多く含まれているため重宝しているな』

 

『あ、はい! 健康面で気をつけてることってなんですか?』

 

『うむ、バナナを食べることだな。バナナを食べると、美肌効果や貧血予防、暑い時期には熱中症予防となり、様々な効果が期待できる』

 

『あ、次私! ビワハヤヒデ先輩のおすすめダイエット方法はありますか?』

 

『やはりバナナを食べることだな。バナナは多くの種類の糖を含んでおり、それぞれ体内に吸収される速度が違う。そのため血糖値の上昇が緩やかとなり、脂肪を溜め込むことを防いでくれるのだ』

 

 バナナばっかりじゃないか。

 バナナが優れた果物だと理解した上で言わせてもらうが、バナナに可能性感じすぎだろ。

 

「バナナはダイエットにも有効……バナナを組み込んだスイーツなら実質0カロリーですわね!」

 

「そんな訳ないでしょ。今度バナナを使ったスイーツ作ってあげるからその認識は改めなさい」

 

 先程のトウカイテイオーの講演が終わり、次はビワハヤヒデの番だ。

 

 彼女は有記念こそトウカイテイオーに敗れたものの、菊花賞を始め、宝塚記念、春の天皇賞など数多くのG1レースを勝ち取っている。

 

 さらに、走ったレースはほとんどが1着か2着。競走成績を見ると、もう笑いが出てくるほどの強さだ。

 三強と呼ばれたBNWの中でも頭一つ抜けており、他のウマ娘と大きく差を付けたと言ってもいい。

 

『む、誰だ今私の頭がデカイと言ったのは! 私の頭はデカくない!』

 

 言ってない。そんなこと誰も言ってない。

 言ってないけど多分僕のせいですねごめんなさい。

 

 唐突に訳の分からないことを言い始めたビワハヤヒデに新入生達はポカンとしているが、在校生達からすれば「ああ、また始まったな(笑)」くらいにしか思ってないのだろう。

 むしろ一種の伝統芸くらいの認識なのかもしれない。

 

 話が逸れ、時間も来てしまったためビワハヤヒデの講演の時間はここで終わりとなった。

 

『姉貴、もう終わりだ』

 

『ま、待てブライアン! このままでは新入生達に私の頭がデカイと思われたままになる! 新入生の諸君、私の頭はデカくない! デカくないからなあああああああああああ!』

 

 妹のナリタブライアンにズルズル引き摺られるビワハヤヒデを見て、我々も新入生も苦笑いを浮かべる。

 

「……さあトレーナーさん、次は私達の番ですわよ! テイオーばかりにいいところは見せられません!」

 

「はいはい。マックイーンお嬢様のためにも頑張りますか」

 

「その意気ですわ! それと、はいは一回!」

 

「張り切りすぎでしょ」

 

 重い腰を上げて体育館内へと向かう。

 

 

 

 ***

 

 

 

「新入生の皆さん、ごきげんよう。メジロマックイーンですわ」

 

 マックイーンが舞台裏から新入生の前に姿を現すと、黄色い歓声がワッと上がる。

 分かっていたことだが、やはり年度代表ウマ娘に選ばれるだけあって、マックイーンの人気は物凄い。

 あまりの感激からか、新入生の中には見るからに大はしゃぎしだす子もいる。

 

 いや、あれサトノダイヤモンドじゃん。君は何回か会ってるだろ。

 

 僕自身、サトノダイヤモンドと話したことはあまり無い。

 その少ない会話から彼女はしっかり者だという認識をしていたが、それを改める必要があるかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、なんか僕に視線が集まっている気がする。

 舞台裏から出てきたのは、大人気を博すメジロマックイーンと、冴えない一人の男……ああ、そういうこと。

 

 マックイーンからマイクを渡され、ハウリングしないことを願いながら口を開く。

 

「えー……メジロマックイーンのトレーナーです。今回話すのはほとんどマックイーンなのですが、以後お見知り置きをということで」

 

 簡素な挨拶にでもきちんと拍手を送ってくれる新入生。いい子達だ。

 

 マックイーンのトレーナーと認識されて表舞台に出ることの多かった自分にとって、今回の挨拶は少し新鮮だった。

 

「さっそくなのですが、時間も押していることですし、まずは私のトゥインクルシリーズでのレース成績をお話しますわね」

 

 と、言った感じで始まったマックイーンの講演会。

 当初の予定通り、彼女の競走成績をはじめとする様々なことを語った。

 

 初めて制したG1レースの菊花賞のこと。メジロライアン、メジロパーマーに続いて勝ち取った宝塚記念のこと。そして、メジロマックイーンを語る上で外すに外せない春の天皇賞連覇のこと。

 

 もちろん良かったことだけではない。

 一回目の春の天皇賞の後、出走した宝塚記念では惜敗の二着。

 京都大賞典では勝利したものの、次の秋の天皇賞は1着でゴールしたが、他のウマ娘の進路を妨害したと見なされ18着に降着。

 追い討ちをかけるように、その後のジャパンカップ、有記念で敗北した。

 

 苦い思い出だが、過去を美化し、良いところだけを新入生に伝えるわけにもいかない。

 トゥインクルシリーズで走るには、相応の覚悟を持って走らなければならないという意識を持って欲しいと考えている。

 

 一通りマックイーンの話が終わり、早くも質疑応答の時間へ入ることにした。

 質問をするべく手を挙げたウマ娘は、トウカイテイオーやビワハヤヒデの時と負けず劣らず多い。

 全員が質問できるというわけではないので、申し訳ないが人数絞らなくてはならない。

 

「はい! マックイーンさんはレース前のルーティーンとかありますか?」

 

「ルーティーン、というほどでもないのですが、私はレース前に心の中で必ず勝つと誓います。トレーナーさんに、友に、メジロ家に、そしてライバルに」

 

「マックイーンさんの趣味はなんですか?」

 

「そうですわね……やはり休日にスポーツ観……し、食後に紅茶を飲むことですわ」

 

「マックイーンさんの好きな食べ物ってなんですかー?」

 

「それはもちろんスイーツですわ! 最近では駅前のケーキ屋さんのモンブランが絶品で……」

 

 ちょっとマックイーンさん? 化けの皮剥がれるのが早すぎんよー。

 

 このままじゃまずいと感じ、意図的にマイクをハウリングさせる。その音で我に返ったマックイーンは、顔を赤くしながら小声で謝罪する。

 

 まあ新入生もそこまで気にしてないだろう。

 むしろ、マックイーンの意外な一面を見ることができたのを喜んでいる。

 

 ほら、サトノダイヤモンドとか飛び跳ねてる。君マックイーンのことになると暴走しすぎじゃない? そう考えると、唐突にキタサンブラックが苦労人に思えてきた。

 

「ええと、じゃあ気を取り直して次の人」

 

 マックイーンは少し声を震わせながら次のウマ娘を指名する。

 ここでピンと手を挙げたのは、満を辞しての登場か、サトノダイヤモンドだ。

 

「サトノダイヤモンドです。私はトレーナーさんに質問があります」

 

「え、僕に?」

 

「はい。マックイーンさんの今後、そして復帰戦。それらをどういう風に考えているのか、あなたの口から教えてください」

 

 そう言ったサトノダイヤモンドの表情は真剣そのもの。先程の腑抜けた雰囲気とは違い、今の彼女は凛としたお嬢様だ。

 

 ウマ娘にとって、トレーナーという存在は必要不可欠。

 どんなに優れたウマ娘でも、トレーナーが付かないと実力を引き出せないまま引退してしまうなんてこともある。

 

 だが、トレーナーという存在がプラスの方向ばかりに働くわけではない。

 トレーナーの中には非人道的な行いをする奴もいる。

 そんなトレーナーは即刻処分を下されるのだが、非人道的な扱いを受けたウマ娘は、心に傷を負いトレセン学園を去ってしまうという事件もあった。

 

 自分はサトノダイヤモンドからそのような人間達と同じように思われているのかもしれない。

 

 彼女達に話しかけられたトレセン学園の時間の日を思い返す。

 その時のサトノダイヤモンドは「マックイーンさんはまた走れるようになりますか?」ではなく、「マックイーンさんはお元気ですか?」だ。

 

 もちろん、サトノダイヤモンド自身マックイーンの走りをまた見たいという気持ちは強いだろう。

 しかし、彼女はその気持ちを仕舞い込んでマックイーンの身を案じたのだ。

 まだ小学生ながら、その判断をしたことは敬服に値する。

 

 だからこそ言わせてもらおう。

 あの日、自分はマックイーンとメジロの使命を共に背負ったということを。

 

「まず最初に、マックイーンがもう一度走ることを決意したのは彼女自身の決断だ。そこを理解して欲しい」

 

 先程のハウリングで使うのは最後だろうと考えていたマイクをかざす。

 

「そして復帰レースについて、まだ詳しいことは言えないんだけど、一応決まってる。マックイーンの発症した怪我は再発しやすい。だから、レースや練習の後に細かに足の調子を確認して、少しでも異常を感じたり、ドクターストップがかかった場合はすぐに休養に入るつもりだ」

 

 サトノダイヤモンドは一言も口を挟まない。

 

「何かあったら責任は僕が取る。そうメジロ家とも約束したしね」

 

 そう言ってマックイーンに目配せすると、彼女はやれやれと言わんばかりに僕の隣に並び立つ。

 

「今トレーナーさんが言ったことが全てです。私はまだ走りたい、勝ちたい。そんな思いを持って、もう一度ターフに立つことを決意しました」

 

 僕に代わってマックイーンが話の主導権を握った。

 

「怪我をして走ることができなかった期間、私を応援してくださった皆さん。そして、私の側で支えてくれて、私のために行動してくれて、私の勝利を信じてやまなかった人のためにも、ここで新たに宣言します」

 

 マックイーンは一息ついて、僕の方をちらりと見る。

 

「私はこの先、誰が相手でも負けません。最強の名を懸けて、誰よりも早くゴールを駆け抜ける姿をお届けしますわ!」

 

 …………ほんと、大きくなったよ。

 

 出会った時から、他のウマ娘に比べて精神的に成長していたマックイーン。

 あの時より、彼女の背中が大きく感じられる。

 

 その顔だ。自分の勝利を信じてやまない君のその顔が僕は……

 

「……マックイーンさん、そしてトレーナーさん。私の質問に答えていただきありがとうございました」

 

 先程の張り詰めた表情から打って変わって、サトノダイヤモンドは笑顔で席に座った。

 今更ながら、彼女が僕に対して棘を含んだ言葉を投げかけてきたことに違和感を感じる。

 

 さては僕のこと試したな? コノヤロウ。

 

 何はともあれ、彼女の質問の答えになっていたかは分からないが、納得したのならそれで良いだろう。

 結果良しならオールオッケーだ。

 

 すると新入生の最後列で、どこかで見たことのある芦毛のウマ娘が勢いよく手を挙げる。

 

「はいはいはーい、マックイーンはトレーナーのことが好きなんですかー?」

 

「ええ、それはもう大す……って何故貴方がいますのゴールドシップさん!?」

 

「あたしがいるとかいないとかいらないとかどうでいいんだよ! 今はマックイーンがトレーナーのこと好きかどうかって話してんだ! 誰だ今あたしのこといらないって言った奴!」

 

 何故か新入生に紛れてマックイーンに質問をするゴールドシップ。

 

 これは良いのかと主催の生徒会の方に目を向けるが、鬼の形相のエアグルーヴ以外気にしてないように見える。

 シンボリルドルフなんてニッコニコだ。なんでだよ。

 

 そしてゴールドシップの質問で流れが変わったのか、新入生達も一気に騒ぎだす。彼女達もアスリートの前に一人の女の子だ。しかも恋愛話が大好物な年である。

 

「マックイーン、無理するな。答えたくないなら無理して答える必要はないよ」

 

「い、いえ。メジロのウマ娘として、投げられた質問には全て返答してみせますわ」

 

 メジロ家関係なくない? 

 

 変なところで意地を張るのは彼女の悪い癖だ。

 

「私はトレーナーさんをお慕いしています。そして好きかどうかについてですが、皆さんが考えているような恋愛としてではなく、親愛としての意味ならば、トレーナーさんのことを好意的に思っていますわ」

 

 ……嫌われてなくて良かった。

 

 こんな大勢の中で大々的に嫌いですなんて言われたらショックで二年は寝込める。

 

 それにしても、こんなピーキーな質問をよく上手いこといなせたな。

 返答次第では僕の首が飛ぶ可能性があったが、首の皮一枚繋がった感じだ。

 

「え? でもマックイーン、トレーナーに抱きついて身も心も一つになるって言ったんじゃねえの?」

 

 終わった。

 

 これが虚偽の発言であり、言った本人がゴールドシップとはいえ、この発言で僕が痛い目を見るのはもう目に見えている。

 

「なっ、言い方を考えてください! 私達は一心同体だということを再確認しただけですわ!」

 

「でも抱きついたってことは否定しないんだな?」

 

「…………」

 

 ばか。まっくいーんのおばか。かしこさとれーにんぐたりてない。

 

 一瞬収まったかと思われた新入生のざわめきは、今この瞬間最高潮を迎えた。

 口笛を吹き、歓声を上げ、もう体育館内はめちゃくちゃだ。

 

 先のゴールドシップの発言から、マックイーンはいつの日かのことを話したと推測できる。

 

 なんでよりによってゴールドシップなんだよ。せめて他のウマ娘にしておけよ。

 

 マックイーンが話しただけあって、微妙に本当のことなのがゴールドシップの発言を更に否定しにくくしている。

 

 ……よし、逃げよう。

 

 事の発端はゴールドシップだが、墓穴を掘ったのはマックイーンだ。

 つまり、僕は何も関係ない。何も悪くない。

 

 完全に動かなくなったマックイーンに注目が集まっているうちに、僕は消えるように舞台からフェードアウトし、そのまま通路を通り、体育館の裏口へそそくさと向かう。

 

 ここまで来ればもう大丈夫だろう。

 後はここを脱出し、トレーナー寮に逃げ込むだけだ。

 

 自由を手にするべく、ドアを開けると……

 

 

「待っていたぞ。貴様がここに来」

 

 

 エアグルーヴの顔が見えたのでそっとドアを閉じた。

 

「閉めるな! 先程のメジロマックイーンの発言、生徒会副会長として聞き逃せん! あれがどういうことか聞かせてもらおうか!」

 

「……誤解と言ったら?」

 

「貴様の言い訳は生徒会室で聞こう。バンブーさん、お願いします」

 

 エアグルーヴが合図すると、横から竹刀を持ったウマ娘、バンブーメモリーがひょこっと現れる。

 

「了解っス、エアグルーヴ先輩! 学園の風紀を乱す者は何人たりとも、この風紀委員長であるアタシから逃れられないっス! さあ堪忍するっスよ!」

 

「待ってくれ。これじゃあ完全に僕が黒確定みたいじゃないか。この場合マックイーンも連れていくべきだろ」

 

「まずは当事者である貴様に話を聞くだけだ。そもそも、そこで貴様が無罪を証明できれば何の問題も無い」

 

「一心同体なのでここは平等にマックイーンも道連れ……連れて行くべきだと思います。……ねえバンブーメモリー、なにその手。どうして僕の腕を掴んでるの? ちょ、痛い! レンジャロールはやめて! ウマ娘とは言え年下にその担ぎ方されるの恥ずかしいんだよ! やめ、やめろおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

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