名家のウマ娘   作:くうきよめない

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運も実力のうちですわ

「勝負ですって?」

 

「うん、勝負!」

 

 意地の悪い笑みと共にトウカイテイオーの口から放たれた言葉は、彼女の性格から考えればまだ理解できるほどのものだった。

 

 ゲーム全般はトウカイテイオーの得意分野。それは先のエアシャカールやナリタタイシンの発言、並びに彼女のダンスゲームのプレイからして証明されている。己の得意分野で誰かと勝負したがるのは誰だってそうだ。

 さらに、マックイーンとトウカイテイオーはライバル同士。レースのみならず、僕の知らないところでこれまでにも何度も些細なことで争っているらしい。

 以前僕とたい焼きの件で揉めた時も、ノリノリでゴールドシップの提示した勝負に乗ってたし、それは本当のことなのだろう。

 

 

 そう考えると、マックイーンがこの勝負にも乗るだろうことは明白で……

 

 

「嫌ですわ、そんなの」

 

「「えっ」」

 

 マックイーンの予想外の返事に、僕とトウカイテイオーはつい声を漏らしてしまう。

 

「ど、どうしてなのさ!? ここは普通乗ってくるところじゃんか! 勝負しようよー!」

 

「だから嫌だと言っているでしょう。今日はダイヤさんが主役ですのよ? 貴方の戯れに付き合っている場合では……」

 

 戯れて。

 

「だったらダイヤちゃんに聞いてみよう! ねぇ、ダイヤちゃん。ボクとゲームで勝負してみる気はない?」

 

「ええっと……私は……」

 

 マックイーンとトウカイテイオーの板挟みにされてしどろもどろになるダイヤ。

 助け舟を出してやりたいが、マックイーンもトウカイテイオーも僕が決めたんじゃあ納得しないはずだ。つまり丸投げである。

 

「……あの子達、本当にテイオー……『ワガハイちゃん』と戦う気なのかな?」

 

「さぁな。だが、オレが聞いた話しによると、『ワガハイちゃん』に挑んで勝った奴はいねェらしいな。ッたく、どんな確率だ」

 

 ナリタタイシンはダイヤ達の身を案じ(?)ているようで、今まさに目の前で『ワガハイちゃん』の餌食となる人物が増えようとしている場面を見て不安気な声を漏らす。

 そしてエアシャカールはここに来て新たな情報をボソッと……

 

「エアシャカール先輩! 今のお話は本当ですか!?」

 

「おわっ!? な、なんだお前急に!? ほ、本当だ。『ワガハイちゃん』が負けたッて話しなンざ聞いたことねェよ」

 

「マックイーンさん、この勝負受けましょう」

 

「ダイヤさん!?」

 

 ダイヤは目をキラキラと輝かせてエアシャカールにくらいついたダイヤは、答えを聞くや否や即断即決即行動と言わんばかりにトウカイテイオーの勝負を受けようとする。

 どうせダイヤのことだ。『ワガハイちゃん』は負けたことがないというジンクスをその手で壊したいだけだろうに。

 

「ダ、ダイヤさん、考え直しませんこと? テイオーに付き合っていてはこの後のプランが総崩れになってしまいます!」

 

「構いません、マックイーンさん。私はテイオーさんと戦います」

 

「トレーナーさーん! 救援を! 私では手に負えませんわ!」

 

 コントを繰り広げるマックイーンとダイヤを傍観していたが、これ以上はマックイーンでもダイヤのことをコントロールできないらしい。

 かと言って、マックイーンにもコントロールできない暴れん坊を僕が扱えるはずもない。

 こうなってしまっては、一番の円満解決の手はマックイーンを納得させるしかなく……

 

「はぁ……仕方ない。トウカイテイオー、ちょっと耳を貸せ?」

 

「ん、なに?」

 

 マックイーン相手にとある言葉を投げかけるよう、僕はトウカイテイオーに耳打ちする。

 その際、マックイーンとダイヤ両方から物凄い殺気を感じたのは気のせいだと信じよう。

 

 内容は大したものではなく、ほんの5秒もかからずその内容を伝え終えた。

 そしてトウカイテイオーはまたしても悪い子供の笑みでマックイーンの下へと向かう。

 

「ねぇ、マックイーン」

 

「なんですの? 私のトレーナーさんから一体何を吹き込まれたかは存じませんが、例えトレーナーさんの言葉であっても私がそう簡単に動くと思ったら大間違い……」

 

「マックイーン、負けるのが怖いの?」

 

「……上等ではないですか! 今回だけは貴方のそのやっすい挑発に引っかかってあげますわ!」

 

 うーわ、半ばネタみたいなノリでトウカイテイオーに対して「マックイーンを煽れ」と伝えたが、ここまで予想通りだと逆に怖くなってくる。

 懲りもせずこういった挑発に弱いマックイーンは昔から成長していないように感じる。また賢さトレーニングをグラスワンダーに頼むことになるのか。

 

「ふふん、決まりだね! それじゃあ早速行こうか、マックイーン、ダイヤちゃん!」

 

「はい、テイオーさん!」

 

「分かりましたわ」

 

 何にせよ、こうなってしまっては長くなることは間違いない。

 ふむ、暇潰しにそこら辺のベンチに座ってテキトーにスマホでも眺めてても……

 

「トレーナーさん、貴方も行きますのよ?」

 

「……はい?」

 

「はい? ではなくて。テイオーをけしかけたのはトレーナーさんでしょう? でしたら貴方も参加する義務がありますわ」

 

 は? なに、それが分かってるのになんでマックイーンはキレたの? 

 

 

 もしかしてこうなることが分かってて……

 

 

「ひ、卑怯者! 最初から僕を巻き込む気だったな!」

 

「はいはい、私以上に卑怯なトレーナーさんには打倒テイオーに付き合って頂きます」

 

 くそっ、悔しい! 何が悔しいって普段チョロいマックイーンが余計なところで知恵を発揮して僕より一枚上手な行動を取ったことがなによりも悔しい! でもこれも僕がグラスワンダーに頼んだ賢さトレーニングの賜物なんですねちくしょう! 

 

 マックイーンの成長に悔しがりつつ喜ぶという訳の分からない情緒にある状態で、僕は首根っこを掴まれてドナドナされるのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 巻き込まれる形となって始まったゲーム対決のルールは至ってシンプルなもの。トウカイテイオーVSマックイーン、ダイヤ、そして僕の3回勝負の半団体戦だ。

 

 ただし、ゲーム全般が得意なトウカイテイオーに対して普通に勝負してもまず勝ち目はない。そこでハンデとして二つ。

 

 一つは勝負するゲームは我々が選んでも良いとのこと、もう一つは一回でもこちら側が勝てばその時点で僕らの勝ちだというルールが追加された。

 前者はともかく、後者はだいぶ舐め腐っているなとは思うけど、そこについては言及せまい。自らが不利になるようなことはしたくないからな。

 

 そして先鋒はトウカイテイオーのライバルであるマックイーン。

 この一回で勝負を決めてみせますわと意気込んでいたが……

 

 

「……なあ、マックイーン」

 

「なんですの?」

 

「その……なんで勝負事なのにそのゲーム選んだの?」

 

「私が勝てるゲームを選んだまでですわ」

 

 彼女が選んだゲームはパニックを起こしたワニの頭を備え付けのハンマーで殴るモグラ叩きのようなゲームだ。

 

 正直、ゲームセンターで勝負と聞いたからには音楽ゲームや格闘ゲームなどをイメージしていた。

 しかし、これでは休日にアミューズメントパークでエンジョイする家族連れのようではないか。

 

「テイオーとのまともなゲーム勝負なんてハナから考えていません。でしたら、こうして私のフィジカルを活かした勝負の方がよっぽど勝機がありますわ」

 

「くっそ……意外とまともな思考だった……!」

 

 なんだ、今日のマックイーンは賢いぞ。いつものスイーツ狂いの似非お嬢様とは訳が違う。もしかしたら本当にトウカイテイオーに勝てるかもしれない。

 

「マックイーンさん、頑張ってください!」

 

「ええ、お任せください、ダイヤさん。私が必ずや勝負を決めてみせますわ」

 

 マックイーンはダイヤの激励を受けてトウカイテイオーと対峙する。

 そんなトウカイテイオーは不敵に笑い、臆することなくマックイーンを見上げる。

 

「ワニを多く叩いてより高いスコアを出した方の勝ち、それでいいですわね?」

 

「いいよ。ま、君がどんなに頑張ってもボクの勝利は揺るがないけどね。君がボクに敗北する未来がよく見えるよ」

 

「言ってなさい、私にはスコアが足りず泣き崩れる貴方の姿が目に浮かびますわ。先行は頂きますわよ」

 

 互いに煽り合いには事欠かないまま、流れるようにマックイーンの先行が決定する。

 なぜかダイヤはそんな二人を見て目を輝かせていたが、僕には憧れのウマ娘とそのライバルがこんな醜い争いをしているのに何故そんなキラキラとした目で二人を見られるのかが分からない。

 

 とはいえ、マックイーンに期待しているのは何もダイヤだけではない。

 先程の通り、今日の彼女はいつもとは一味違う。なんというか、こう……オーラ? 的なのがいつもと違う気がする。

 ゲームの筐体の目の前に立っていること以外はどこに出しても恥ずかしくない名門の令嬢だ。

 

 マックイーンはハンマーを手に持ちコインを入れる。

 そして軽快な音楽と共に流れ始めた電子に刻まれている開始という合図。それにより顔を出した一匹目のワニ相手に、マックイーンはハンマーを振りかぶり……

 

 

「そいやっ!」

 

 

 思い切り振り下ろして、聞くだけ嫌になるような鈍い音が鳴るほどの勢いでワニをぶっ叩いた。

 

 

 そう、思い切り。

 

 

「……あら、このワニ叩いても引っ込まない……って、煙が!? 煙が上がってますわ! だ、誰か……店員さーん! 故障ですわ!」

 

 それはそう、本来ならこのゲームは人間用に作られた物だ。ある程度の耐久性は保証されていると言っても、ウマ娘が本気で扱ってしまっては簡単に壊れてしまっても無理はない。

 その証拠に、哀れにも最初で最後の犠牲となったワニは頭頂部が凹んでいる。

 

「マックイーンさん……」

 

 急いで店員を呼びに行くマックイーンの姿を見て、さすがのダイヤもフォローしきれない様子だ。むしろこれをフォローできる奴がいるなら出てきてほしい。

 

「……トウカイテイオー、これが君の見た未来なのか?」

 

「うん……まぁ、そうだね」

 

 嘘つけ。目が泳いでるぞ。

 

 マックイーンが成長していると思ったが、それは思い違いだったらしい。嬉しいことやら悲しいことやら……

 

 まあ、こうなってしまっては試合続行不可能だ。

 私に任せてくださいと申し出たマックイーンの戦いは、なし崩し的にトウカイテイオーの不戦勝という結果に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、トレーナーさん」

 

「なに?」

 

「その……どうして勝負事にそれを選んだんですの?」

 

「僕が勝てるゲームを選んだまでだよ」

 

 次鋒戦、トウカイテイオーの相手を務めるのはこの僕だ。

 半強制的に参加させられたのもあり乗り気ではないが、やるからには勝つという信念のもとに行動しているので、例え相手が中学生だろうと容赦はしない。

 

 というわけで僕が選んだゲームはというと……

 

「さあ、トウカイテイオー。闇のゲームの始まりだ」

 

「闇のゲームって……ただの麻雀じゃん」

 

「そうとも言う」

 

 麻雀を闇のゲーム呼ばわりする僕に、隣の席に座るナリタタイシンは冷静なツッコミをいれる。

 ゲームセンターで度々見られる電子の麻雀、その四つの席には僕、トウカイテイオー、そして助っ人のナリタタイシンとエアシャカールが座っている。

 

「まあなんだ、協力助かるよ、二人とも」

 

「別に、アタシは『ワガハイちゃん』に一泡吹かせられる可能性があるってならそれでいいと思っただけだし……」

 

「ああ。それに、麻雀なら運が絡む以上どんなに実力があっても勝てる確率は100%じゃねェ。さらにこっちは三人がかりってンだ。オレは分の良い勝負に乗っただけだぜ」

 

 本当ならマックイーンとダイヤでも良かったのだが、生憎と二人は麻雀のルールを詳しく知らなかった。むしろ知っている方がおかしいと思う。ダイヤに至ってはそもそも麻雀を見ること自体が初めてな様子だったし。

 

 例外として、トウカイテイオーはゲーセンによく来ているというのもありルールは知っているようだった。

 実際に雀卓を囲んだことはないのだろうが、こう言ったゲーセンに設置されている電子の麻雀ならやったことがあるのだろう。

 

「ボクはどんなゲームでもいいよ! ささ、早くやろうよ、どうせボクが勝っちゃうんだし!」

 

「このガキ……二人とも、絶対あいつ負かすぞ」

 

「「言われなくても」」

 

 僕達四人は一斉にコインを入れ、店内対戦モードでマッチングを図り、ゲームを開始した。

 

「マックイーンさん、まーじゃん? とは一体なんなのでしょうか?」

 

「私も詳しくは知りませんが……ゴールドシップやナカヤマフェスタさんがよくやっているのをみかけますわね」

 

 そう、やってることは彼女達となんら変わりはない。違う点を挙げるとすれば、それが雀卓を囲んでいるか電子の画面を挟んでいるかの違いだろう。

 

 ちなみに、紳士ルールとして僕達三人の協力プレイは無しとなっている。だが、三人のうち誰か一人が一位であればトウカイテイオーの負けとなるので、彼女が不利であることには変わりはない。

 

 それぞれに牌が配られ、配牌とドラを確認する。

 ふむ、ドラは發……悪くない、既に僕の配牌には發が二つある。これは配牌的にも早めに鳴くのもありかもしれない。

 親であり僕の対面にいるトウカイテイオー、上家にナリタタイシン、下家にエアシャカールという席となり、ようやくゲーム開始だ。

 

 

 親のトウカイテイオーが牌を一つ取り……

 

「あ、ツモ!」

 

「「「……は?」」」

 

 トウカイテイオーによるいきなりの上がり宣言により思考が停止する。

 

 なんつった? ツモ? 天和……ってコト!? 

 

「ふふん、見てよ、この上がり牌。凄いでしょ!」

 

 画面に表示された彼女の上がり牌を確認すると……

 

「な……天和な上に国士無双十三面待ち……!?」

 

「嘘だろ……天和が発生する確率自体が0.00005%だってのに、さらに国士無双までって……天文学的な確率って話じゃねェぞ……!」

 

 ナリタタイシンとエアシャカールは今の一秒の間に起こった出来事を受け止めきれていない。

 

 かくいう僕もそうだ。これは現実なのかとまだ疑っている。

 ありえない、こんなバカみたいな話があってたまるか。

 今の出来事がどれほど凄いかと言うと……なんというか……すごくすごいって感じだ。

 

 天和、国士無双十三面待ち、トリプル役満。僕達三人の持ち点は一瞬にして吹き飛んだ。

 

「よく分かりませんが、これで二回戦はテイオーの勝ちのようですわね。では、さっさと次の勝負に……」

 

「ま、待てマックイーン! もう一回! もう一回だ! もう一回やれば今度こそ……」

 

「トレーナーさん、その流れはあまりよろしくない気が……」

 

 ダイヤにやんわりともうやめることを勧められるが、流石にこれは納得いかない。ナリタタイシンとエアシャカールもそうだろう。

 僕は懇願の意味も込めてトウカイテイオーの方を見る。

 

「ボクは別に大丈夫だよ? だって何回やってもおんなじだもんね」

 

「っしゃ! 持ち点ゼロにして泣かせたらぁ!」

 

 再戦の許可が降りたため、意気揚々とコインを入れる。

 後ろのマックイーンとダイヤの視線が少しばかり痛いがそんなの関係ない。最終的に一回でも勝てばいいのだ。何回かやれば必ず一回は勝てるはず……

 

 

 

 そう、思っていました。

 

 

 

「あ、それロン!」

 

「はぁ!? 字牌だぞ! 論理的に考えて字牌で待つなんてスマートじゃねェ……字一色じゃねェか!」

 

 エアシャカールがボコられ……

 

「またまたロン!」

 

「だからアンタ早いんだって! 天和の次は人和って……」

 

 ナリタタイシンが秒殺され……

 

「またまたまたまたロン! ボクの勝ちだ!」

 

「なっ、『馬跳(うまぴょい)伝説』……だと……」

 

 僕が粉々にされ、この光景にもっとも相応しい言葉が地獄絵図と言っても過言ではない状況が出来上がっている。

 

「どう、まだやる?」

 

「……もういいです」

 

 これだけ勝っても尚続けるかどうかを聞くトウカイテイオーに、僕の精神は崩壊し二回戦の勝利を譲るのだった。

 

 ……麻雀なんて二度とやらねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでで既に二敗。マックイーンが文字通り戦わずして負けるという結果に終わり、僕が圧倒的な運の前になす術なく散り、もう後がない状況にある。

 

 そして僕達の大将はというと、この勝負を受けることを一番最初に乗った我らがサトノダイヤモンド……なのだが。

 

「……なあ、マックイーン」

 

「なんですの?」

 

「正直に答えてくれ、ダイヤはトウカイテイオーに勝てると思うか?」

 

「……勝負はやってみなくては分かりません。例え目を瞑って針に糸を通すほどの確率でも、信じなければなりませんわ」

 

「無理って言ってるようなもんだなあ」

 

 ふんすふんすと自分の出番を楽しみに待っていたダイヤには申し訳ないが、この大将戦は消化試合みたいなものだと思っている。

 僕だってダイヤの勝利を信じてあげたいけれど、マックイーン以上に世間知らずのお嬢様である彼女はとてもゲームが得意とは思えない。

 ましてや、相手はその道のプロとも言えるトウカイテイオーだ。勝てるビジョンが見当たらない。

 

「まあ、どんなことでもやるからには勝ちたいという思いはありますが、今日の主役はダイヤさんですのよ? 私は彼女が楽しければそれで良いと思いますわ」

 

「……それもそうだな。僕達負け組は隅っこで大人しくダイヤの応援でもしておこうか」

 

 この結果がどう転んでも、僕達が最後までダイヤを応援し続けることに変わりはない。

 

 敗者二人はダイヤ達の邪魔にならないように少し離れた位置で彼女達の戦いを静観する構えをとる。

 

「それでダイヤちゃん、最後の勝負は何にするの?」

 

 二連勝(内一勝は不戦勝)中のトウカイテイオーはノリノリで最後のゲームを何にするかをダイヤに問う。

 その質問に、ダイヤは待っていましたと言わんばかりにはっきりと答える。

 

「では、クレーンゲーム対決なんてどうでしょうか?」

 

「クレーンゲーム?」

 

「はい。お互い三回プレイして、より多くのぱかプチを獲得した方が勝ち、なんてどうでしょうか?」

 

「へぇ、面白そうじゃん」

 

 ここに来てようやくゲームセンターらしい勝負内容が出てきた。

 ゲーセンまで来てフィジカルを試そうとしたり、中学生相手に麻雀という運ゲーを仕掛けようとしてるのがおかしいだけな気もするが。

 

「それじゃあ先にボクから行かせてもらおっかな。こう見えて、クレーンゲームも大得意なんだよね〜」

 

 息つく暇もなく、トウカイテイオーは近くの適当なクレーンゲームにコインを入れて勝負を始める。

 彼女は正確なアーム移動でぱかプチをしっかりと狙い、そのアームでターゲットと思しき大きいシンボリルドルフのぱかプチをガッチリと捉える。そしてアームが上げられると……

 

「い、いきなり三つも獲得ですって!?」

 

「じゅんちょーじゅんちょー! まだまだ行くよー!」

 

 マックイーンが声を上げるのも無理はない。上がったアームにはなんとシンボリルドルフのぱかプチだけでなくトウカイテイオーのぱかプチが二つくっついていた。

 これも半分くらい運な気もするが、大得意というだけのことはあるらしい。

 

 ……しかし、シンボリルドルフに連なって取れるぱかプチがトウカイテイオーというのも、なんだか彼女の執念深さが感じられて若干の恐怖を覚えるな。

 

 続けてコインを入れるトウカイテイオーは二回目のチャレンジでぱかプチを一つ、三回目のチャレンジで二つ手に入れ、合計六つのぱかプチを獲得した。

 それすなわち、ダイヤが勝利するには七つ以上のぱかプチをゲットしなければならない。

 

「おっきいカイチョーも取れたし満足満足。さ、次はダイヤちゃんの番だよ」

 

「分かりました。それでは私は……あっ、この中にあるぱかプチを狙いますね」

 

 トウカイテイオーに急かされても焦ることなく、ダイヤはのんびりとコインを入れる。

 ボタンを押してアームを動かし、そのアームは彼女が狙ったぱかプチを寸分違わず捉え……え? 

 

「え……いきなり四つ……?」

 

 なんと一回目でダイヤが獲得したぱかプチの数は四つ。クレーンゲームであんなに連なるぱかプチは見たことがない。運の一言で片付けることは簡単だが、あの手慣れた手つきを見るとそうは思えない。

 

「ふ、ふーん……や、やるじゃん。でも、まだボクがリードしてるもんね。ダイヤちゃん、早く早く」

 

「お任せください!」

 

 またしてもトウカイテイオーに急かされるダイヤだが、そんなことは気にする素振りも見せずコインを入れ、当たり前のようにぱかプチを二つ獲得する。

 これで六つ、後一つでも取ることができればダイヤの勝利だ。

 

「ま、まだボクの負けが決まったわけじゃないし……」

 

 強がるトウカイテイオーだが、彼女の表情は芳しくない。

 

「それでは最後に……あそこのクレーンゲームにいたしましょうか」

 

「あっ、あそこは……」

 

 ノリに乗ったダイヤが向かうクレーンゲームは、先程僕とマックイーンが挑戦したアームがとんでもなく弱い筐体だ。

 それに気がついた瞬間マックイーンはダイヤを止めようとしたが時既に遅し、ダイヤはコインを入れてしまっていた。

 

 いくらここまで六つのぱかプチを手に入れているダイヤとはいえ、この筐体にあるぱかプチを狙うのは流石に不可能ではないだろうか。

 

 と思ったのも束の間、マックイーン(本物)が数回かけて懸命に位置をずらしたマックイーン(ぱかプチ)を、ダイヤはいとも簡単に獲得した。

 おかしい、この筐体はアームが弱かったはずなのに。

 

「マックイーンさん、トレーナーさん、取れました! マックイーンさんのぱかプチですよ!」

 

「素晴らしいですわ、ダイヤさん! お上手ですのね!」

 

「やるじゃないか。随分と手慣れてた気もするけど」

 

「えへへっ、家にあるものと同型機でラッキーでした……!」

 

「「……家に?」」

 

 今なんつった? 

 

「はい、実家にクレーンゲームの筐体がありまして。クレーンゲームはちょっとだけ得意なんです」

 

 どうして家にクレーンゲームが……と思ったが、確かダイヤの家は様々な事業に手をつけている。詳しく調べた訳ではないが、確かその中にゲーム事業もあったはずだ。

 なるほど、マックイーンが秋シニア三冠を達成した際、金色のクレーンゲームがダイヤから送られてきた理由がようやく分かった。

 ちなみに、そのクレーンゲームの筐体はあの後早々にメジロ家に送られている。

 

「そ、そんな……ボクが……負けた……?」

 

 喜ぶダイヤに変わって一方、必ず勝つ自信があった様子だったトウカイテイオーはこの世の終わりみたいな顔をして……いや、そこまで落ち込まんでも。気持ちは分からんでもないけどさ。

 

 過剰に落ち込むトウカイテイオーに気がついたダイヤは、ゆっくりと歩いて声をかける。

 

「テイオーさん、私にゲームを教えてくださいませんか?」

 

「……え?」

 

「私、クレーンゲーム以外のゲームはてんで駄目でして……。そこで是非テイオーさんにご教示頂けたらならと!」

 

「ダイヤちゃん……! よーし、任せて! このワガハイがダイヤちゃんにゲームのイロハを叩き込んでしんぜよう!」

 

 た、単純だなぁ……。

 先程までの落ち込みはどこに行ったのか、秒でいつものトウカイテイオーに戻った彼女は薄い胸を叩いて高笑いをする。

 

「『ワガハイちゃん』も負けることあるんだ……」

 

「ああ、チーターじゃないってンなら勝てない道理は無ェ。徹底的に分析して、勝利の解を導き出してやらぁ」

 

「うん、アタシも」

 

 そう言いながらナリタタイシンとエアシャカールは僕達を置いてゲームセンターを後にする。

 そんな彼女達は、いつか必ず『ワガハイちゃん』もといトウカイテイオーを倒してやろうという気概に満ち溢れていた。

 結果よければオールオーケー、ダイヤも楽しめたみたいだしな。

 

「あ、そうだ。マックイーン、トレーナー。ぱかプチ貰ってくれない? ボクの部屋にもう置ききれないんだよね」

 

「貰ってって……ご自分でなんとかなりませんの?」

 

「いやぁこれ以上持って帰っちゃうとマヤノの場所も取っちゃうからさ」

 

 普段どんだけ乱獲してんだよ。

 

「はぁ、仕方ありませんわね。トレーナーさんも構いませんか?」

 

「僕は別に構わないけど」

 

「ほんと!? ありがとう! じゃあこれとこれとこれと……後おっきいカイチョーもあげる!」

 

「多い多い! てか、シンボリルドルフのぱかプチも僕に渡すのか?」

 

「うん、だって既に沢山持ってるし」

 

 そう言いながら雑に多くのぱかプチを押し付けるトウカイテイオー。結局ほとんどのぱかプチを僕が持って帰ることになってしまった。

 

「ったく……荷物増えたじゃねぇか……」

 

 仕方なくテキトーな袋を借りて、その中にぱかプチを詰め込む。

 トウカイテイオーにトウカイテイオー、オグリキャップにトウカイテイオー……トウカイテイオー多いな。

 

 一つずつ詰め込み、最後の一つにシンボリルドルフのぱかプチを……

 

 

 …………"皇帝"シンボリルドルフ、か。

 

 

「……? トレーナーさん、ルドルフ会長のぱかプチに何かついていますの? だいぶじっくりと見ているようですが」

 

「……いや、なんでもないよ。良い作りだなと思っただけ」

 

「む……私のぱかプチもよく出来ていると思いますけど」

 

「知ってる。君とダイヤのぱかプチは既に全種類コンプリートしてあるからね」

 

 それを聞いて無言で尻尾を振るマックイーン。

 ご機嫌なとこ申し訳ない、それ自分で取ったわけじゃやくて全部サンプル用で届いたやつなんだよね、とは怖くて言えなかった。

 

「よーし、ダイヤちゃんはどのゲームがやりたい? このボクがなんでも教えてあげるよ!」

 

「とても頼もしいです! でしたら……あちらに行ってみたいです!」

 

「あそこは…………あっ」

 

 一同ダイヤが指を指したところを見ると、一瞬にして表情が強張る。

 

 まずい。あそこはダメだろう。

 

「ダ、ダイヤちゃん、別のところに行かない? きっとこっちにあるゲームの方が楽しいよ!」

 

「え、ですがあちらは凄く賑やかで楽しそうですよ?」

 

「ダイヤさん、あそこに入ってしまわれると不幸になるとのジンクスが……」

 

 ちょ、マックイーンのバカッ! ダイヤにそんなこと言ったら……

 

「ジンクス! なら私がそのジンクスを破ってみせましょう!」

 

「待ってダイヤ! そっちは本当にまずいんだってば!!」

 

 僕達は意気揚々と前進するダイヤを必死に止める。

 

 

 なぜなら、ダイヤが行こうとしている先にあるのは、ゲームセンターに隣接されている公営ギャンブルと似て非なる場所であり……

 

 

 




もう50話だというのにこんな話が進まない内容を書いている現状


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