名家のウマ娘   作:くうきよめない

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だから私は

 

 

『私、ライバルのキタちゃんに勝ちたいんです!』

 

 

 デビュー戦を勝ち、二戦目のプレオープンも勝利することができた帰りの車内。

 あの日、トレーナーさんに改めて自分の目標を伝えたことは印象深く記憶に残っている。

 

 私のこの目標は、お家のためにGⅠレースを勝ちたいという目標と同じくらいに大きなもの、トレセン学園に入る前から志している夢なのだ。誰かに、それも自分のトレーナーに伝えるとなれば、それは記憶にこびりつく。

 

 

 私は夢に向かって走った。

 憧れの背を追い、信頼できる師と共にし、マーチさんやスカイさんといった色々な出会いも経験した。

 時には、レースの前に不安になったり、負けが続いて落ち込んだりもしたけれど、いつだってあの方は……トレーナーさんは私のことを信じていてくれた。

 

 

 だから私は応えたい。

 

 どんな形であっても、自分自身の夢を叶える。それが今の私ができる、最大の恩返しなのだから。

 

 

 

 ***

 

 

 

『じわりじわりとキタサンブラック! 見るようにシルバーアクトレス、そしてサトノダイヤモンド!』

 

 

 最終直線で私は前にいる二人をギリギリ捉える。

 

 二人には、特にキタちゃんには逃げ切らせない。

 そう息巻いていたのだが現実は非情なもので、私の体力はもう限界に近い。

 トレーナーさんの言う通り、キタちゃんを注意深くマークしたけれど、なかなかどうしてこれが簡単なものじゃ無かった。

 

『ここで先頭はシルバーアクトレスか!? キタサンブラック苦しいのか!? サトノダイヤモンドも上がってきている!』

 

 残り200m、ここからは心臓破りの急坂だ。脚が重い、肺が苦しい。

 

『先頭はシルバーアクトレスとキタサンブラック、シルバーアクトレスとキタサンブラック! 外からはサトノダイヤモンドさあ広がった!』

 

 しんどい、きつい、辛い、前の背中においつけない、ゴールまでが遠い。

 ネガティブな言葉が私の頭の中でこだまする。

 

 でも、どんなに辛くても、どんなにしんどくても、それでもね、私……

 

『先頭はキタサンブラック! 先頭はキタサンブラック!』

 

 

 

 こうしてキタちゃんと走るの、楽しいな……! 

 

 

 

 その瞬間、不思議な感覚に陥った。

 それまで聞こえていたはずの歓声も、風の音も、周りどころか自分の足音でさえも、何も聞こえない、感じない。

 世界にたった一人、私だけが取り残されたような感覚。

 

 ああ、好都合だ。これなら私の集中を妨げるものは何もない。

 

 決めたんだ、キタちゃんの背中を越えるって。

 誓ったんだ、誰かの期待に応えられるようなウマ娘になるって。

 宣言したんだ、神戸新聞杯も菊花賞も、有記念も全部勝つって。

 

 

 

 だから……だから私は……っ! 

 

 

 

「「ああああああああああああああっっ!!」」

 

 

『サトノダイヤモンド! サトノダイヤモンドだ! キタサンブラックか!? サトノダイヤモンドか!? 並んでゴールインッ!! 捉えたか!? それとも残したか!?』

 

 

 全てを出し切って走り抜いた私は、着順を確認する余裕も無く、長い袖を広げて芝の上に仰向けになる。

 こんな姿、お父さまとお母さまには見せられないと思ったが、ここはレース場。大衆の目に晒されている以上関係ないかと思考を放棄する。

 あと、走った直後というのもあり足が一歩も動かない。回復にはもうしばらくの時間が必要だ。

 

 最後の一歩、ゴール板を完全に通過するまで私の意識は朧げだった。正確には最終直線に入ってすぐくらいか。

 少し前、スカイさんと模擬レースをした時も似たような状況に陥ったことがある。

 あの時は負けた悔しさもあって有耶無耶になってしまっていたが、あれは一体なんなのだろうか……? 

 

 

 そんなことを考えていると、スタンドから急に歓声が上がる。何事かと思うと、その人達は皆電光掲示板の方を見ていた。

 

 そうだ、結果は、レースの結果は……! 

 

 ある程度回復した私は、体を起こして注目を集める掲示板を見ると……

 

「……やっ……た……っ!」

 

 光る1の文字の横には、私の番号である11が映っていた。

 二着、キタちゃんとの差はクビ差。私の……いや、私達の完全勝利だ。

 

 いつまでも座っているわけにもいかないため、産まれたての子鹿のように脚を震わせながら立つと、菊花賞の時と同じかそれ以上の心の高鳴りを感じる。

 今すぐにでも私の思いを、どこかで見ていてくれているであろうトレーナーさんに伝えたい、応援してくれたマックイーンさんに届けたい。

 

 でも、その前にやらなきゃいけないことがある。

 

「……おめでとう、ダイヤちゃん」

 

 歓声を浴びるのもそこそこに、私は話さなければならない相手と相対立する。

 

「凄かったね、最後の末脚。あたし、粘りきれなくて……最後、粘れなくて……あとちょっとだったのに……っ」

 

 最初こそキタちゃんはいつもの声音だったが、次第に声が震えて涙を零す。

 キタちゃんの涙はきっと、本気で勝ちたいと思っていたからこそのものなのだろう。負けて悔しい気持ちは、私だってよく分かる。

 

「……私ね、ずっとキタちゃんの背中を追いかけてた」

 

「あ……」

 

「小さい頃から私の手を引っ張ってくれて、私にいろんなことを教えてくれて。そんなキタちゃんに私は憧れてたの」

 

「ダイヤちゃん……」

 

「ねえ、キタちゃん」

 

 

 こうしてレースを終えた今だからこそ伝えなくてはならない。最大にして最高の親友に。

 

 

「私と走るの、楽しかった?」

 

「……っ! 楽しかった……楽しかったよ! ダイヤちゃんと走るのすっごく楽しかった! 今までで一番楽しかった!」

 

 私の問いに、キタちゃんは泣き笑いで返答してくれる。

 言うまでもなく、私も楽しかった。楽しかったからこそ勝てたんだと思う。

 

 笑顔で無理矢理涙を抑えるキタちゃんに、私はお互いの顔が見えないように抱擁をする。

 

「ありがとう、キタちゃん。あなたが相手だったからこそ、私はこのレースで全力以上の力を出せたの」

 

「……あたしこそありがとう。そしてごめんなさい。宝塚記念の時、酷いこと言っちゃって」

 

「ううん、いいの。だってこうして私の大好きなキタちゃんが戻ってきてくれたんだもの」

 

「ダイヤちゃん……」

 

 こうして顔を隠してないと泣いてしまいそうで。今顔を合わせると抑えていた感情が溢れてしまいそうで。

 

 実際抱擁を交わしたのは五秒にも満たないだろうけど、私にとっては永遠にも感じられた。

 その短くも長い時間で涙をぐっと堪え、もう一度キタちゃんに向き合う。

 

「私、またキタちゃんと一緒に走りたいな」

 

「あたしもだよ。だって今日こんなに楽しかったんだもん」

 

 近いうちにまたキタちゃんとレースで相見える。確証はなかったが、そんな気がしてならなかった。

 

「……キタちゃん、一ついい?」

 

「奇遇だね、ダイヤちゃん。あたしも言いたいことあるんだ」

 

 それ故に、彼女にはもう一つ伝えなければならないことがある。

 

 

「「次も(は)負けない!」」

 

 

 今度はライバルらしく、私とキタちゃんは固い握手を交わす。

 その瞬間、今まで気にしてなかった歓声がより一層大きくなり、それによって自分達はまだターフにいることを実感させられ……ん? まだターフに…………っ!! 

 

 

 私は、大勢の人の前で自分がキタちゃん相手に何をしたのかを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、今年の有の覇者さんや」

 

「……っ!」

 

 恥ずかしさのあまり、控え室に戻ろうと急いで地下バ道を走っていると、今一番感謝を伝えたい相手の顔を見つけて足を止める。

 それと同時に目に涙が浮かんでしまう。今にも泣いてしまいそうだ。

 

「トレーナーさん……! 私のレース、見てくださいましたか……?」

 

「もちろん見てたさ。枠入り前の落ち着き、レース中しっかり前のウマ娘への食らいつき、君が先頭でゴール板の前を駆け抜ける勇姿。そしてキタサンブラックに対し大衆の前であんな大胆なことを……」

 

「さ、最後のは忘れてください!」

 

「ごめんごめん、冗談だよ」

 

 トレーナーさんの余計な一言で雰囲気が台無しだ。

 彼の顔を見たら今にも泣きそうと言った状態だったが、その涙も引っ込んでしまった。

 

「もういいです、ダイヤは怒りました。今度マックイーンさんと一緒にトレーナーさんにセクハラされたって一色さんに言いつけます」

 

「そ、そこまで拗ねなくても……待って、君たちいつの間に仲良くなったの?」

 

 スカイさんとの模擬レースの後、スカイさんのトレーナーさん、一色さんとはマックイーンさんも含めてよく話す仲となった。

 

 速く走るコツやオススメのクールダウン、狭い場所でもできるトレーニング方法など、実際に話を聞いてみて彼女の知識量はトレーナーさんに引けを取らないと感じる。

 たまになぜトレーナーとはいえウマ娘についてそのような微細なところまで知っているのか疑問に思うところもあったが、女性であるが故なのもあるのだろうと深くは考えなかった。

 

「模擬レースの後です。一色さん、トレーナーさんのこともお話してましたよ」

 

「え、マジで。なんて言……いや、やっぱいい。怖いわ」

 

「上目遣いで甘い声出してお願いすれば大概のことは聞いてくれるニブチンさん、と」

 

「言わなくていいって言ったじゃん! マジであの野郎覚えとけよ……!」

 

 復讐の炎に燃えるトレーナーさんを見て、心の中で一色さんに小さく謝罪する。ごめんなさい。

 

「クソが……もう二度と飯奢らねぇからなあいつ……」

 

 そんな一色さんのことを考えるトレーナーさんを見ていると、なんだか心にチクリとした痛みを感じる。

 この痛みがなんなのか、どういった感情なのか。そんなのはもうとっくに分かっているし気付いている。

 でも駄目だ。それを自覚してしまったら、私はきっと悲しい思いをすることになる。

 

 

 知っていた、私の憧れは……マックイーンさんはトレーナーさんに恋慕の感情を抱いている。

 

 

「……? ダイヤ、どうした? 優勝した後だってのにそんな辛そうな顔して」

 

「……えっ? あ、いえ、これはなんでもないです」

 

「本当か? 見た感じ怪我してる様子は無いけど、どこか痛むようであれば絶対に言ってくれよ?」

 

 トレーナーさんの的外れな心配に呆れてしまう。

 でも、それは私を心の底から心配してくれているからこその発言だ。胸が温かくなる。ニブチンなのは変わらないけれど。

 

「そうだ、ダイヤ。ここに来るまでにマックイーンに会わなかったか?」

 

「マックイーンさんですか? いえ、お会いしてませんけど……。ご一緒されてなかったのですか?」

 

「それがなぁ、レース前にゴールドシップ達に攫われちゃって。レース終わった後ここに向かうがてら連絡入れたんだけど返信が無くて……」

 

 ……そっか、今ここにマックイーンさんはいないんだ。

 

 その事実を知ると同時に、私の脳裏に悪魔的思考が過ぎる。

 ここは地下バ道、人はほとんど通らず、共に出走した他のウマ娘達も今までの会話で全員部屋に戻っているはずだ。

 

「〈スピカ〉の連中も知らないって言ってたし、ほんとどこ行ったのやら……」

 

 つまり、この場には私とトレーナーさんの二人しかいない。

 そう考えると居ても立っても居られず、私はその悪魔的思考に従うほかなかった。

 

「駄目元でもう一回あいつに連絡……ってうおっ!? ダ、ダイヤさん!?」

 

「大きな声を出さないでください、誰か来てしまいます。あと、トレーナーさんがよろしければもう少しこのままでいさせてください」

 

「……」

 

 マックイーンさんに連絡をしようとするトレーナーさんの手を遮り、私は彼に正面から抱きつく。

 

 正直、この後どうするかは何も考えていない。なんなら恥ずかしさで今にも消えてしまいそうだ。

 でもチャンスは逃したくない。ここで一歩踏み出せなかったら、もう二度と踏み出すことができない。そんな気がしてならなかった。

 

「トレーナーさん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「私、まだあなたに褒めてもらってません」

 

「……ああ、そうだったな」

 

 トレーナーさんに抱きついたまま、私は彼に賛辞を要求する。

 

「ダイヤ」

 

「はい、なんでしょう」

 

「……やったな」

 

「っ……はいっ!」

 

 たった一言、それだけで私の心は温もりを得た。

 彼と共に歩んできたからこそGⅠ制覇に手が届いた、ライバルに打ち勝つことができた。

 この事実が、私にとある一つの感情を完全に自覚させる。

 

 先の通り、トレーナーさんはマックイーンさんの想い人だ。そこに私が介入する隙はないものだと、そう思い込んでいた。

 でも、自覚したものは仕方がない。この想いはお墓まで持っていくなんて、そんなこと私にはできない。

 

 ふと顔を上げると、トレーナーさんは困った顔をしながらも微笑んでくれる。

 

 

 そっか、やっぱり私はトレーナーさんのことが……

 

 

 

 ***

 

 

 

 ステージ、それもセンターに立ち、応援してくれたファンのためにウイニングライブを行うダイヤら。

 

 いつもなら僕は前列でマックイーンとペンライトを振っているのだが、今日はレースの時同様人の少ない後方で彼女のライブを眺めていた。

 こうして一人でいるのも、相変わらずマックイーンと連絡が取れないというのがあるのだが、ダイヤについて考えたいことが二つあるからだ。

 

 

 一つは先程地下バ道でのダイヤの行為。

 

 自分は常々ウマ娘との距離感というのを考えてきた。

 世間からすればウマ娘とトレーナーという関係は、普通の学校で言う生徒と先生の関係という認識だろう。

 もちろんその二つの関係性は似て非なるものだが、共通点はウマ娘並びに生徒側は未成年というところだ。

 故に、時に一瞬血迷うこともあったが、不可抗力を除いて今まで自分から下手な行為をしたことはない。

 そもそも自分は彼女達に対してそう言った感情は抱いていない。むしろ抱いていたら大問題だろう。

 

 とはいえ、これらは僕自身の話だ。自分自身の話だけで解決できたらそれに越したことはないが、これは恋愛シミュレーションゲームではないため相手側の気持ちも考える必要がある。

 

 一色曰く僕はニブチンとのことだが、残念ながら自分は難聴系でなければライトノベルの主人公でもない。

 前も話したが、マックイーンからの好意にはとっくの昔に気が付いている。その上で、今までそれなりに自然になるよう受け流してきた。

 トレーナーとして、教育者として、彼女の気持ちを無碍にしないよう細心の注意を払わなければならない。

 

 

 話を戻そう、先の地下バ道でのダイヤの行為について。あれを恋慕の感情と決めつけるのは些か早計だろう。

 僕の勘違いならそれはそれでいい。思春期の男子中学生の如く、優しくされた女子に対して「あれ……? こいつ俺のこと好きなんじゃね? ……?」的な発想なら、ただ僕が人知れず恥をかくだけで済む。

 ただ問題はそうでなかった場合だ。

 

 前例として、担当のトレーナーに特別な感情を抱くウマ娘は珍しい事例ではない。そのためトレーナーは、特に男性トレーナーはほとんどの者がそのような状況に対応する術を備えている。マックイーンへの対応を見ての通り、例に漏れず僕もそれを心得ている……つもり。

 

 なんだか話がまとまってない気もするが、何が言いたいかと言うと、自分はこれまで以上にダイヤの精神面を気にしなければならないということだ。

 彼女達はアスリートである前に年頃の女の子。精神的に不安定になる可能性は十二分にある。

 

 それらを踏まえた上でもう一度ステージに目を移すと、煌めくダイヤモンドの光はかつてないほどに輝きを増していた。

 

 ……ああ、今の調子であればそこまで心配する必要はない。

 考えすぎも毒だと自分に言い聞かせ、その話に一旦蓋をする。

 

 脳内会話が一段落したところで、人影が一つこちらに近づいてくる。

 

「ダイヤさん、素晴らしい走りでしたわね」

 

「……その割には浮かない表情をしてる気がするんだけどな、マックイーン」

 

 今までどこに行ってたんだ、なぜ電話に出なかったんだという疑問はさておき、僕は静かにマックイーンの話に乗る。

 

「そんなことありませんわ。ダイヤさんが有という大舞台で頂点の座に輝いたことは心から喜ばしく思ってます。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……それより、最終直線でのダイヤさんの走りについて話してませんこと?」

 

 結局相も変わらず有耶無耶にされたが、マックイーンの言う最終直線での話は僕が考えてたかったことのもう一つのことでもあるので、思考がついそちらに傾いてしまう。

 

「ダイヤさんのあの走り、模擬レースの時からそうでしたが……」

 

「十中八九、領域(ゾーン)に入ってただろうね」

 

「……やはりそうでしたか」

 

 時代を作るウマ娘、自分でさえも知らない剛脚、超集中状態。

 一度領域に足を踏み入れると、感覚が研ぎ澄まされ普段と比べ飛躍的に高いパフォーマンスを発揮できると言う。

 

 滅多にお目にかかれるものではないが、僕達はそれほど驚きは無かった。

 というのも、隣にいるマックイーンは秋シニア三冠を達成する際、領域(ゾーン)に踏み入ったことは記憶に焼き付いている。

 ノウハウがあるというのは素晴らしいもので、過剰に驚くことなくこうして冷静に分析をすることができているのだ。

 

「セイウンスカイとの模擬レース以降音沙汰無かったけど、ここ一番で覚醒するとはな」

 

「そうですわね。物怖じする方ではありませんし、本番に強いタイプなのでしょう」

 

「いいなぁ。僕なんか試験とか公式レースとかって聞くとつい調子出なくなるタイプだからさ」

 

「貴方はもっと心臓を鍛えてくださいまし……」

 

 んなこと言ったって緊張するもんは緊張するだろ。

 

 今後毎日心臓に腕立て腹筋背筋でもさせようかと考えていると、ライブはいよいよ終盤、クライマックスへと突入する。

 煌びやかなステージで飛んで跳ねて歌ってを繰り返すダイヤ達を見ていると、これまでの疲れも吹っ飛ぶ、そんな気がする。

 

「…………今回だけは見逃してあげますわ、ダイヤさん」

 

「え、何が?」

 

「いえ、なんでもありません。それよりトレーナーさん。ダイヤさん、ここからですわよ」

 

「……ああ、分かってるさ」

 

 マックイーンのその一言にどれだけの意味が込められていたのかは計り知れない。

 元より、レースにおいて油断怠慢というのは命取りだ。有記念優勝という王者の席に位置するとしても、今後どんなレースでも手を抜くつもりはない。

 少なくとも僕はそう思っている。

 

 

 見上げると、サトノダイヤモンドはステージ中央でキタサンブラックと共に締めのポーズを決めている。

 

 彼女は皆の期待が集まれば集まるほど、それを力に変えることのできるウマ娘だ。

 大丈夫、彼女ならきっと今後もトゥインクル・シリーズで活躍することができる。

 この輝きを一瞬のものにするのではなく更なる輝きを放ち、その走りで多くの人々を魅了し続けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、思っていた。

 

 

 




二章前半終了
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