名家のウマ娘   作:くうきよめない

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後書きにおまけを載せているのですが、そこだけ台本形式なのをお許しください





自分のことに全力を

 

 

 

「現地で調達は可能でしょうけど、非常食用のカップ麺は持ちましたの? ハンカチとちり紙は? フランスの地でおかしな人に騙されないように気をつけてくださいまし。寂しくなったらいつでも電話をかけてきてくださいね。トレーナーさんからの連絡なら私、24時間365日対応しておりますので」

 

「君はおかんか。いや仮に母親でもそこまで甲斐甲斐しくしねぇよ」

 

「まぁ、まるで奥さんのようだなんてそんな気が早いですわ」

 

「言ってないからね、そんなこと一言も言ってないからね?」

 

 マックイーンの難聴癖と記憶改竄の病気は治ってないらしい。それどころか夏の暑さでさらに酷くなっているようだ。

 

「まあそれはそれとして。トレーナーさんもダイヤさんと共にフランスへ行くことを、理事長が快く了承してくださって助かりましたわね」

 

「全くだよ。もしも断られてたら自腹で遠征費を出さなきゃいけないところだった」

 

「メジロ家の力をお使いになれば、たとえ断られていたとしても遠征費を捻出することくらい容易いことでしたのに」

 

「だからどうして君達はそんな簡単に大金を払えるとか言えちゃうの? 教え子にそんなことさせるわけにはいかないんだって」

 

 空港のチェックインカウンター前において。

 大荷物を携えた僕に対して、見送りに来てくれたマックイーンはいつものボケをかます…………ボケだよな? 流石にこれを本気で言ってたら怖すぎて今後マックイーンと顔を合わす度顔を引き攣らせるレベルなんだけど。

 

 かなり昔にダイヤにも同じようなことを言われたなと思いつつ、指摘されても尚キョトンとしているマックイーンの金銭感覚を心配してしまう。将来彼女と結婚する人はきっと苦労するのだろう。

 

 

 季節は夏真っ盛りの八月上旬。宝塚記念は一ヶ月以上前に終わっており、今日この日僕とダイヤはフランスへと旅立つことになる。

 

 凱旋門賞自体は十月の頭。少し早いかと思われるかもしれないが、その前哨戦として九月にGⅡのフォワ賞に出走する予定だ。

 そのレースに間に合わせるためにも、早めに環境の変化に慣れさせたいと考えこの時期に出発をすることを決めた。

 

 ダイヤは少し離れた位置で一色をはじめとした彼女の知り合い連中に囲まれている。

 その中にはマンハッタンカフェやマチカネタンホイザなど、意外な面子も含まれていた。

 

「ダイヤさん、緊張されていないようですわね」

 

「……ああ、そうだな」

 

 見送りに来てくれた彼女の友人達に囲まれ楽しげなダイヤ。

 そんな彼女の姿は一見していつもと変わらない。

 

 

 そう、変わらなすぎるのだ。あの日、キタサンブラックに負けた春の天皇賞以来。

 

 

「浮かない顔だな、トレーナー君」

 

「シンボリルドルフ……」

 

「会長……!」

 

 みんながみんなダイヤへと集まる中、こちらに近づいてくるウマ娘が一人。

 それは我らがトレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフだった。

 まさか彼女が現れるとは思っていなかったため、僕もマックイーンもつい声が出てしまう。

 

「摘果満車、彼女は随分と人気者だな。私としても期待せずにはいられないよ」

 

「そりゃうちの自慢の担当ウマ娘だからな。それよりシンボリルドルフ、君もダイヤの見送りに来てくれたのか?」

 

「勿論、何せサトノダイヤモンドが挑戦するのは凱旋門賞。そうでなくても、海外のレースに挑戦するウマ娘というのはそう多いわけではない。生徒会長として私ができるのは、こうして激励の言葉をかけるくらいなものだよ」

 

 そう言ったシンボリルドルフの顔は少し儚げだ。あれだけの功績を上げ生徒の悩み相談に乗り、学園全体に貢献している彼女だがまだ足りないらしい。

 

「充分なんじゃない? 君がそういう姿勢を見せることで、後ろについてくるウマ娘も多数いる。ダイヤも、他の海外遠征するウマ娘もきっと感謝してるはずさ」

 

「そう言ってもらえるだけで喜色満面なのだがそうもいかない。私には、創らねばならない世の中というものがあるからな」

 

「……そっか。ま、何かあったら他人を頼るんだな。君に手を貸してくれる人は大勢いると思うぜ?」

 

「ふふっ、その時はまた君にでも頼ろうかな」

 

「これ以上仕事増やすのやめてくれよ……」

 

 ただでさえURAファイナルズとやらの業務をやらなくてはならないことは確定しているんだ。これ以上は死ぬぞ。

 

「では君に頼るのは次の機会ということにして、私はここに来た目的を果たすとしよう。トレーナー君のその様子だと、かなり強く押せばすぐにでも折れてくれそうだからね」

 

「やんねえっつんてんだろ! さっさと行け!」

 

 相変わらず僕を手玉に取るのが慣れているシンボリルドルフ。

 彼女は小さく笑いながらダイヤのいる方へと向かって行った。

 

 ああくそ、この間の大晦日の仕返しでもしておけばよかった。今に見てろよ、フランスで世界一臭いチーズ買ってきてゴールドシップにばら撒かせるからな。

 

 拳を握りしめてシンボリルドルフへのしょうもない復讐を考えていると

 

「…………トレーナーさん? 随分と会長と仲がよろしいご様子ですわね?」

 

「ひっ……」

 

 背後からマックイーンの冷徹さを感じさせる声が届き、強制的に背筋を立たされる。これはどこかの学級委員長も満点をくれるに違いない……じゃなくて! 

 

 まずい、マックイーンのこと忘れてた。

 あいつナチュラルに僕のこと"トレーナー君"と呼んでたし、つい自分もその雰囲気に釣られてしまっていた。

 

 これもシンボリルドルフの手の内なのか、適当な言い訳を脳内で探していると、マックイーンはこれ見よがしに一つため息をつく。

 

「はぁ、トレーナーさんと会長がどう言ったご関係なのかは今は深く聞きません。ですが、貴方は誰かのトレーナーかということを常々忘れないように!」

 

「へい、今の僕は、メジロマックイーンとサトノダイヤモンドのトレーナーですよ」

 

「よろしい! 3メジロポイント進呈致しますわ!」

 

「ありがとうございます」

 

 メジロポイントってなんだろう、100ポイント貯まったら何か特典とかあるのだろうか。

 よくわからないけど、その場の流れでとりあえず礼の言葉を述べておく。

 

 ふと時計を見ると、そろそろチェックインをしなければ間に合わない時間が近づいてきた。

 こうしてマックイーンと対面で軽口を交わし合うことが当分の間できないと考えるとなんだか寂しい気もするな。

 

「そうだ、マックイーン。お土産は何がいい? フランスの名産についてすごい詳しいわけじゃないからあれだけど、滅多にない機会だからさ」

 

「私はメジロ家の旅行でたまにフランスへ行きますし、特にこれといって欲しいものはありませんけど……」

 

 そうだった、こいつは澄ました顔で他人の飛行機代を出すとか言っちゃうお嬢様だったなちくしょう。

 

「そんな顔しないでくださいまし。お気持ちだけで充分ですので。でも、強いて言うなら……」

 

 マックイーンは久しぶりにいたずらな表情を浮かべ、

 

「トレーナーさんとダイヤさん、二人が笑顔で日本に戻ってきてくださるのが、私にとって最大のお土産ですわね」

 

 そんな気恥ずかしいことを言い、ダイヤ達の輪へと混ざって行く。

 

 夏休み真っ只中ということもあり、空港には多くの人で溢れかえっていた。

 そこにトレセン学園の制服を着た一際目立つ集団がいるということは、ウマ娘についてあまり知識がない人であっても海外遠征へ旅立つということが分かってしまうだろう。

 

 ダイヤは今しがた彼女の下へ向かったマックイーンだけでなく、応援に来てくれた彼女の友人、偶々居合わせた他の旅行客の方々から沢山のエールを貰っている。

 

 

 そう、この海外遠征、失敗するわけにはいかない。

 

 

 過去がどうとかジンクスがどうとか関係なしに、フランスの地でサトノダイヤモンドを勝たせてあげたい。勝たせてあげなければならない。

 

 それが彼女の目標であるのならば。

 

 

「ほーら! なに一人で黄昏れてんですかせんぱい! サトイモちゃん達と旅立っちゃう前に写真一枚撮っときますよ!」

 

「いっ、腕引っ張るな! 僕のことはいいから。なんならシャッター押す係でもやるって」

 

「だーめーでーすー! サトイモちゃんもマックちゃんもそんなの望んでませんよ」

 

 一色に腕を掴まれ半強制的に連行される。

 華のあるウマ娘達+αの中に僕みたいな男が入り込むことは抵抗しかないのだが、どうもそれは一色の言う通り担当の二人が許してくれそうになかった。

 

 正直めちゃくちゃ嫌だ。僕にとって写真を撮られるということは、レースで負けることの次くらいに嫌なことだ。

 

 

 なぜなら、死ぬほど写真写りが悪いのであって……

 

 

「じゃあ撮りますよー! はい、チーズバーガー!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 保安検査場を通過してマックイーン含む見送りの面々と暫しのお別れをした後のこと。

 

「……なあ、さっきの写真やっぱ消しとかない?」

 

「ダメです。あの写真は私にとって宝物でもあるので」

 

「えぇー。将来のためにも僕の写真はなるべく残しておきたくないんだけど」

 

「トレーナーさんは何かやましいことでもあるんですか……?」

 

 写真写り悪いから単純に自分の写真が嫌いなだけだよ。

 ただ、今の言い方だと僕が極悪犯罪者と勘違いされても仕方がないことは認める。

 ついでに言えば、やましいことがあるかないかで言ったら沢山あることも認める。

 

 ダイヤの写真フォルダからそれを消したところで、グループチャットに共有された写真は既に他の人達の手にも渡っている。要するにもう手遅れだということだ。

 

 そんな僕の顔が面白いことになっている写真をスマホで見ていると、ふとした違和感を覚える。

 その時は大して疑問に思わなかったが、この写真にはダイヤを語る上で外せない人物の顔が見当たらないのだ。

 

「なあダイヤ、キタサンブラックには今日出発することを伝えなかったのか?」

 

「いいえ、ちゃんと伝えましたよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……キタちゃんには自分のことに集中してほしいんです。例え親友であっても、私達はライバル同士。その意識が欠けていたから、春の天皇賞で私は負けました。だから今度は馴れ合いっこは無しです。私もキタちゃんも、お互い自分のことに全力を……」

 

 なんだ、気にかけるほどでもなかったな。

 

 いつのまにか彼女は精神的に大きく成長していた。それはそれで、一番近くで見ていたはずなのに、彼女の成長に気がつけなかった自分が不甲斐ないのだが。

 

「って、聞いていますか、トレーナーさん?」

 

「……立派になったな、ダイヤ」

 

「答えになってませんよ! 頭を撫でるならもうすこし人目のつかない場所で……」

 

 なんだろう、この気持ち。父性ってやつか? 

 娘を持つ父親の気持ちが分かったような気が……いや、僕の年齢ならギリギリ兄でまかり通るんじゃないかな。うん、妹の成長を見守る兄ということにしておこう。

 

「あっ……」

 

 いつまでもこうしているわけにもいかないので、とっとと税関審査と出国審査を済ませてしまおうと思い撫でるのをやめると、ダイヤは捨てられた子犬のような目でこちらを見てくる。

 

 やめろよ、何も悪いことしてないのにめちゃくちゃ罪悪感湧いてくるじゃん。

 

 謎の罪悪感に苛まれつつも、心を鬼にしてダイヤに先に行くことを促す。

 渋々だが彼女もそれに了承してくれた。

 

「トレーナーさん、一つお願いしたいことがあるのですがよろしいですか?」

 

 その道中、隣を歩くダイヤが僕の顔色を伺うような仕草を取る。それに若干の不自然さを感じつつも、指摘するようなことでもないと判断して彼女の問いに応じた。

 

「僕にできることならなんでも。手始めにマックイーンのスリーサイズからでも教えてあげようか」

 

「そんなことを言ってしまっては怒られてしまいますよ……。それはそれとして、マックイーンさんのスリーサイズは後ほど教えて頂きますね」

 

 いや知りたいんかい。やっぱりマックイーン大好きなのは変わってないな。

 

 ダイヤの素直な欲望に苦笑していると、彼女は先の話の続きをしだす。

 

「あちらで生活している間、お休みの日はありますか?」

 

「休みの日? そりゃあるだろうけど……」

 

 フォワ賞まで一ヶ月弱、そこからまた一ヶ月後には凱旋門賞があるため余裕が有り余っているわけではないが、トレーニングを詰めに詰めるというわけにもいかない。

 その場の環境や背負う期待故に通常よりトレーニングが多少ハードにはなるだろう。それでもダイヤに負担がかかりすぎないようには調整くるつもりだ。

 

 そういった旨の内容を伝えると、ダイヤは一際目を輝かす。

 

「ふふっ、でしたら私とパリの街を探索いたしませんか?」

 

「ん、どこか行きたいところでもあるのか? たしかに外国で中学生が単独行動ってのは、ウマ娘とはいえこのご時世危険だからなぁ」

 

「いいえ、特にこれと言って行きたいところはありません。私はあなたと一緒にいたいんです」

 

「? 大体一緒にいるだろ。ほら、トレーニングの時だってそうだし、なんかフランスにある理事長の別荘貸してもらえるらしいんだから……」

 

「むぅ……察しが悪いですね」

 

 小声でそんなことを言い、頬を膨らませるダイヤ。

 そのあざとい仕草どこで覚えたの、怒らないから言ってみなさい。どうせ一色だろうけど。

 

「トレーナーさん!」

 

「は、はいっ!」

 

 ビシッと突きつけられた人差し指に思わず怯んでしまい、人を指さしてはいけませんという軽口さえも喉の奥で詰まってしまう。

 

 そんな様子を見て行けると思ったのか、ダイヤは更に一歩距離を縮めて

 

 

「お休みの日、私とデートしてくださいませんか?」

 

 

 笑顔でその場に爆弾を投下する。

 

 

 その時のダイヤの顔を生涯忘れることはないだろう。

 

 それは彼女の精神的な成長を感じた直後だからなのか、はたまた別の理由からなのか。自分でもよく分からないという事実だけがこの場に残った。

 

 

 

 







おまけ
フランス到着直後の一色とのチャットの履歴


一色『せんぱいがフランスにお勤め中の間、マックちゃんのことは任せてください!( ̄^ ̄)ゞ』


『僕が服役してるみたいに言うんじゃないよ

マックイーンの件は本当に助かる。一応トレーニングメニューとかは追々送るから、くれぐれも無理させないよう見張っといてくれ』


一色『前々から思ってたんですけど、せんぱいからの連絡ちょっと怖いんですよね((((;゚Д゚)))))))』


『は?何が?』


一色『そういうところ! 

絵文字も顔文字もスタンプも使ってなかったら怒ってるんじゃないかって勘違いされちゃいますよ( ; ; )』


『そんなもんかね』


一色『そんなもんです( ̄^ ̄)

こんな愛想のない返信してたらマックちゃんにもサトイモちゃんにも嫌われちゃいますよ❓』


『別にこれで困ってないんだけど

でもあの二人に嫌われるのは困る』


一色『でしょ? 

これからわたしに連絡する時は練習だと思って絵文字や顔文字を使うこと!いいですね?(^_-)』


『おけ!(。`・o・。)』


一色『きも』


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