名家のウマ娘   作:くうきよめない

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ダイヤモンドは砕けない

 

 

 

 一年ぶりのこの地、この歓声、この胸の高鳴り。緑色をした袖の長い自慢の勝負服を身に纏い、フランスの芝の重みを踏み締める。

 

 

 大舞台に立つというのは何度も経験した。なのに、メイクデビューの時、初めて重賞レースを走った時、初めてGⅠレースを走った時、それらの時より酷く緊張しているのを感じる。

 

 そんな緊張を和らげようとスタンドへと目を向けるも、そこにはトレーナーさんどころか知っている顔の一つすら見当たらない。

 それもそのはず、今回は私一人でフランスに来ている。トレーナーさんがいない理由としては、去年の私の戦績が奮わなかったことやそもそも学園の許可が降りなかったこともあるが、一番は私がそれを拒否したことにある。

 

 本音を言えばトレーナーさんにも来て欲しかった。でも、同じ轍を踏むわけにはいかない。トゥインクル・シリーズを走っている間はもうあんな過ちを犯すつもりはないが、万が一ということもある。蒔かぬ種は生えぬというやつだ。違うかな、違うか。

 それはそれとして、私が同伴を断った時のトレーナーさんの顔ときたら傑作だったなぁ。あからさまに顔には出してなかったが、前に契約解除を突きつけてきた人と同一人物だとは思えない慌てっぷりだった。

 

 

 そんな敬愛する人物のことを思い返していると、一際大きな歓声がレース場に響き渡る。それと同時に一人のウマ娘がターフに姿を現した。

 

 トレーナーさんとリサーチ済みというのもあって、私は彼女を知っている。確か名前は……

 

「服とは心の装い、気高い色は心を気高くする……。はじめまして、そこのあなた。素晴らしい勝負服ね」

 

「……はじめまして。ツイストボールドさん」

 

 ツイストボールド。アメリカ生まれイギリス育ちの欧州最強とも言われるベテランのウマ娘。

 彼女の強さは本物で、爆発的な末脚と圧倒的な威圧感で後ろから豪快に他のウマ娘を差し切る。その姿は国を問わずとても人気が高く、過去にこの凱旋門賞を制覇したこともありこのレースでも堂々の一番人気だ。

 

 去年の惨敗も含め、お世辞にも私の人気は高いとは言えない。目立って的にされることはないはずなのだが──

 

「自分に何の用か、と?」

 

「──ッ!」

 

「そんなに警戒しないでくれる? アタクシが貴方に声をかけた理由は、貴方が日本のウマ娘だからよ」

 

「日本の?」

 

「ええ、元より私は日本に興味があるの。レースを引退したらそこで生涯を過ごそうかと思っているくらいにはね。当然周りからは批判されるだろうけど」

 

「は、はぁ……」

 

 突然話しかけられたと思ったらよく分からない自分語りをされて困惑してしまう。要するに日本のお友達が欲しいということなのだろうか。

 

「いいレースにしましょう。アタクシの努力と貴方の努力、どちらが上か勝負よ」

 

「……」

 

 そうこうしていると、ツイストボールドさんからすっと手が差し伸べられる。こういう時になんて返せばいいのかわからない。

 

「ツイストボールドさん」

 

「なに?」

 

 でも、私のやるべきことは一つだ。

 

「勝つのは私、サトノダイヤモンドです」

 

「──フフッ」

 

 ツイストボールドさんは面食らったような顔をしたが、すぐに笑みを取り戻す。

 

「The more we do, the more we can do」

 

「え?」

 

「いえ、なんでも。貴方の走り、楽しみにしてるわ」

 

 そう片手を上げ、彼女は別のウマ娘へと話しかけにいく。こうして対戦相手の全てのウマ娘に話しかけているのだろうか。そうだったら多少特別感を感じてしまった自分が恥ずかしい。

 

 それにしても、ツイストボールドさんが英語で言ったあの言葉。

 

 "The more we do, the more we can do."

 

 直訳すると、『やればやるほど、出来ることが増えていく』というくらいの意味だろうか。

 しかし、どちらの努力の方が上かと彼女は言った。ならばこの言葉はこうも受け取れるだろう。

 

「……努力を続ければ、日々成長は止まらない」

 

 ツイストボールドというウマ娘は私よりも年上のベテランだ。そんな彼女が努力を怠らなかったらどうだろう。ほとんどのウマ娘は勝てるはずがない。

 でも、今の私なら大丈夫。そんな気持ちを抱いていることに苦笑してしまう。これは慢心ではない、自信だ。

 

 心を落ち着かせ、ゲートへと収まった。日本よりも少しばかり寒冷なフランスの地、そこで感じる秋風が肌に染み、自然と握り拳を作ってしまう。

 

 

 私にはみんながついている。よく話す仲のスカイさんや一色さん、大先輩のオグリさんやタマモさん、待ってくれているキタちゃん、心から尊敬するマックイーンさん、そしてここまで導いてくれたトレーナーさん。

 

 離れていても気持ちは一つだ。みんなが私の勝利を信じてる。だから──

 

 

「だからダイヤは、輝きます……!」

 

 

 ゲートが開き、運命のレースが始まる──

 

 

 

 

 

 凱旋門賞の舞台であるパリロンシャンレース場は、当たり前だが日本のレース場とは別物だ。

 

 スタート直後の400mは平坦な道のりが続き、そこから第3コーナー手前までは上り坂、そして第3コーナーを過ぎてからは下りに転じる。さらに、パリロンシャンレース場は10mという中山レース場の倍の高低差がある。そこも日本のレース場とは違う点と言えるだろう。

 

 しかし問題はここからだ。偽りの直線、フォルスストレート。このレース場の名物でもあるそれは、その名の通り250mという偽物の最終直線を走らなければならない。本当の最終直線は533mと長く、実に東京レース場とほぼ同じ距離だ。

 

 ──と、いうのがトレーナーさんからの受け入り。去年走ったのでイメージが付きやすい上にそもそもあの時も同じ説明をしてもらったのを覚えている。

 

 この特徴的なレース場で勝つためには、行き脚の付きやすい下り坂でもいかにゴールまで脚を温存できるかどうか。そのためにも前半の折り合いは大事であり、スタート直後の熾烈なポジション争いで体力を消費しすぎてはいけない。

 そんなジンクスを破りたいという気持ちで序盤から仕掛けたいところだが、もっと大きなジンクスを破るという意味ではそれはナンセンスだ。

 

 先行するウマ娘の位置をしっかりと捉え、いつものように中団より後ろの位置で様子見をする。

 その先行するウマ娘の中にツイストボールドさんの姿はない。そもそも、彼女の圧倒的な存在感、威圧感から前後を確認するまでもなく彼女の大体の位置は分かる。

 

 このまま落ち着いてポジションキープをして、フォルスストレートを抜けたところで一気に抜け出す。そのつもりなのだが──

 

「──ッ、速い……!」

 

 体感、というよりあからさまにレースの展開が早い。日本よりも重い海外のバ場に加え、ハイスピードなレースと来た。嫌でも体力が削られていく。

 

「なんとかしなくちゃ……!」

 

 そうは言いつつも、それで周りのスピードが落ちるわけではない。

 このまま同じペースで走り続けては来たる未来は破滅のみ。体力を温存するためにポジションを下げ、中団から差し切る予定を後方から追い込むように舵を切る。

 

 しかし、これは賭けだ。周りに乗せられず速度を保つということは、こうなった原因と近づくということになる。

 

「あの子達について行かなくていいの?」

 

「ッ、誰のせいだと思ってるんですか」

 

「ふむ、アタクシはとりわけ何かをしたつもりはないのだけれど……貴方は惑わされていないみたいね」

 

「何のことか分かってるじゃないです……か!」

 

 レース中だというのに悠長に話しかけてくるツイストボールドさん。それほどまでに余裕があるのか、それとも私を揺さぶっているのか。

 それが第3コーナーを抜けた辺りというのもあり、一瞬脚に力が入ってしまう。思考が乱されたことを理解し、すぐにそのペースを緩めた。

 

 しかし、その一瞬が命取りだ。リズム良く走って体力を温存しなければならないのに、短時間で速度の緩急を付けすぎたため呼吸のリズムが乱れる。

 

 第4コーナーを抜け、フォルスストレートに入る。依然としてツイストボールドさんは後ろにいるが、彼女の術中にハマったことには変わりない。でも焦ってはダメだ、ここで脚を使ってしまっては全てが台無しになる。

 

「あら、そろそろ仕掛け時じゃない?」

 

「話しかけないでください!」

 

「そんな釣れないこと言わないでよ。アタクシは貴方に興味があるのよ?」

 

「私は真面目に走ってるんです!」

 

「アタクシも真面目なんだけど」

 

「じゃあ放っておいててくださいよ!」

 

 埒が明かない。緊張感の欠片もない彼女の発言は私の思考をこの上なく引っ掻き回す。

 

「だってアタクシの"圧"に耐えてるの、今のところ貴方だけみたいだもの。真の敵は自分だって分かってるから出来ること。それは貴方が強靭な精神力を持ってるから出来る……違う?」

 

「──違いますよ、私はそんな大層なもの持ってません」

 

「ならどうして……いえ、これより先は無粋ね。口で語るな走りで語れ、貴方の努力の結果、見せてもらうわ」

 

「望むところです……!」

 

 頭の悪い会話から一転、私達は互いに闘志をぶつけ合う。最終直線に入るまでには後100m近くある。

 一足先に仕掛けたのは私だ。ここで加速し始めなければきっと後ろの彼女には敵わないことを本能で悟った。一人、また一人と抜かしていき先頭のウマ娘に迫っていく。

 

 

 行ける、このまま更に脚を使えば──

 

 

「甘い」

 

 

 ハッキリと、そう聞こえた。それは先程までのふざけた雰囲気ではなく、低く冷たいツイストボールドさんのものだということもまた、本能で悟ってしまった。

 それと同時にこれまで軽かったはずの脚が急激に重くなる。加えて視界が狭まり、歓声や自分の足音すらも遠のいていくのを感じる。

 

 何も感じない、何も聞こえない。まるで暗闇にでも放り出されたかのような感覚だ。

 

 これがツイストボールドさんのプレッシャーだとしたら、これまで彼女はまだ本気のほの字も出していなかったということになる。

 

 

 怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い──

 

 

 無数の恐怖心が私を襲い、走るのをやめさせようとしてくる。

 

 あれ、私はどうして走っていたんだっけ……? どうしてフランスまで来てこんな苦しい思いをしてるんだっけ……? 

 

 自然と自分が減速してしまうのを感じる。そのまま脚が完全に動かなく────

 

 

 

「ダイヤ!」

 

「──あ」

 

 

 幻聴かもしれない。でも、しっかりと私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

 ここにはいないはずの、トレーナーさんの声で。

 

 その時、ふと昔のことを思い出す。あれは私が初めて走る重賞レースであるきさらぎ賞だったか。トレーナーさんからこんなことを言われたっけ。

 

 

『楽しんで走ってこい!』

 

 

 緩みかけていた脚に再度力が入った。エンジンをかけ直した車のように、私の脚は回転率を増す。

 

「……バカな、アタクシの圧をどうやって……!」

 

 何も聞こえなかったはずの耳からそんな声が聞こえる。

 

 残念ですがツイストボールドさん、私はあなたのプレッシャーよりも遥かに勝る気持ちを思い出しました。だからこの勝負──

 

 

「──負けませんっ!」

 

 

 晦冥を照らせ、永遠の輝き。胸に宿る希望の光が、まるで私の行くべき道を照らしてくれる。

 

 暗闇を抜け出し、最終直線へと入る。早くも先頭へ躍り出たが、脚を緩めるつもりは微塵も無い。なぜなら、後ろから感じるプレッシャーがまだ諦めていないことを訴えかけてきているからだ。

 

「まだよ……まだ終わっていない! その場所はアタクシのもの! 返してもらうわ!」

 

 残り150mを切り、後ろからツイストボールドさんが迫ってくるのを感じる。しかし感じるのは先程までの恐怖心を煽るプレッシャーではなく、勝ちへのとてつもない執念だ。これが過去の私ならぺしゃんこに踏み潰されていてもおかしくない。

 

 だが、今は違う。そうハッキリと確信を持てる。

 

 私は追ってくるツイストボールドさん以上の末脚を使い、彼女を一段と突き放す。

 

「どこにッ、どこにそんな力が残っているというの…………サトノダイヤモンドッ!」

 

 叫び声のような声を無視し、ゴールへと一直線に走った。

 

 レースの序盤、私が彼女のプレッシャーに耐えることができたのは強靭な精神力を持っていたからではない。ただ走るのが好きだから、それだけの理由で冷静さを保っていた。そもそも強靭な精神力とやらを持っていたら後半にあんなことにはなっていない。

 

 もし、幻聴とはいえトレーナーさんの声が聞こえなかったら、今頃私は彼女の闇に呑まれていただろう。そうならなかったのは、他でもない彼が私に教えてくれたから。

 

 

「走るのって、楽しい……!」

 

 

 誰もいない景色の中ゴールを駆け抜けた時、私は今までのどんな時よりも充足感を覚えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 地下バ道で拳を握り、勝利の味を噛み締める。

 

 レースの後、ツイストボールドさんからぐいぐいと来られた。力の源はなんなのか、あの爆発的な末脚はどんな努力の賜物なのか、どうやってイップスから抜け出したのか等色々。

 いっぷす? というのはよく分からなかったが、最初の質問には答えることができた。

 

「私は走るのが好きで、楽しくって仕方がないんです」

 

 そう答えると、彼女はキョトンとしていた。今世でその顔は忘れることはないだろう。

 

 今日は私の勝ち。でも、次はどうなるか分からない。そのためにも、誰にも負けないような──

 

「きゃっ!? ご、ごめんなさ──」

 

「おっと、ごめん、大丈夫か?」

 

 下を向いて歩いていたため、前方から誰か来ていることに気が付かなかった。咄嗟に謝罪の言葉を口にするも、その人物の声は私がいつもよく耳にする声であり……って

 

「ト、トト、トレーナーさん!? どうしてここに!?」

 

「いやぁ、自分の愛バのレースは生で見なくちゃいけないなと思ってさ」

 

「あ、愛バって……」

 

 どうして彼がフランスにいるのかを問い詰めようとしていたのに、不意打ちでそんなことを言われ思考がショートしてしまう。

 

 これは告白されたと捉えていいのだろうか。いや、むしろこれは私から行くべきではないか? うん、今なら伝えられる気がする。流れに乗じて私がトレーナーさんを……す、好きだってことを言ってしまえば──

 

「あ、あの、トレーナーさん!」

 

「ん、なに?」

 

「じ、実は私──」

 

「ちょっとちょっと、私がいることお忘れになってませんか? 何か嫌な予感がしたのですが……」

 

「あ、マックイーンいつからいたの?」

 

「最初からいましたわよ! そもそも、ダイヤさんのレースを見にフランスに行くから絶対についてきてほしい、君がいなきゃいけないんだと言い出したの貴方ではないですか!」

 

「言ってないからね? たしかに誘いはしたけどそんなメンヘラ裏垢男子みたいなこと言ってないからね? ……どうした、ダイヤ。そんな地面にへたり込んで」

 

「い、いえ、なんでも……」

 

 あ、危なかった……まさかマックイーンさんも来てくださっていたとは。私とトレーナーさん以外誰もいないと思っていたから油断してしまった。

 

 自分の気持ちを伝えられなかったことは少々残念だが、今はやるべきことが他にある。

 

「マックイーンさん!」

 

「ちょ、ダイヤさぐえっ!?」

 

 大好きな先輩との思わぬ再会に、つい彼女へとダイブしてしまう。理性よりも本能が先に動いた故の行動とはいえ、ウマ娘同士なら問題にならないとデジタルさんも言っていたし大丈夫だろう。多分、きっと。

 

「マックイーンさん、私やりました! 凱旋門賞、勝ちました!」

 

「……ええ、素晴らしい走りでした。凱旋門賞制覇は日本のウマ娘が長年破ることができなかった開かずの扉。それを今日貴方がその手で……いえ、その足でこじ開けたのです。誇りなさい、サトノダイヤモンド。貴方は今、紛れもなく宝石以上の輝きを放っていますわ」

 

「ッ──マックイーンさんッ!」

 

「きゅ、ギブ……ギブですわ……! 助けてくださいましトレーナーさん……!」

 

 感極まって思い切りマックイーンさんを抱き締める。その際彼女が何か言っている気がしたがよく聞こえなかった。

 

「はいはい、ストップストップ。ダイヤ、見てみろ、君に押し潰されて原型を失ったマックイーンの姿を」

 

「いえ、原型は留めていますが……」

 

「はっ、す、すみません! マックイーンさんをプレスしてしまうなんて私ったらなんてことを……」

 

「わざと? わざとやってます?」

 

「次の身体測定で凹んでないといいな。どことは言わないけど」

 

 トレーナーさんの余計な一言で喧嘩が勃発する。種族的な問題もあり圧倒的にマックイーンさん有利なためトレーナーさんはすぐにボコボコにされた。

 

 ……楽しい。こうしてトレーナーさんと、マックイーンさんと何気ない会話ができることが凄く楽しい。

 

 

「──? どうしましたの、ダイヤさん?」

 

「……マックイーンさん、私、誰かのために走ることができたらそれでいいって思ってました」

 

「……」

 

「でも、違った。誰かのためばかりに走ってたら、いつの間にか走るのが楽しいって気持ちも忘れて勝てなくなってました」

 

 マックイーンさんは真剣に私の独白を聞いてくれる。解放されたトレーナーさんも軋むでろう体を動かしつつも私の話を聞いてくれている。

 

「だから、私はこれからも自分のために走ります! 走って、楽しんで、誰にも負けないウマ娘になって……マックイーンさん、いつか、あなたを超えてみせます!」

 

「──望むところですわ。どんなレースであろうと、私だって誰にも負けるつもりはありませんもの」

 

「……マックイーンさんならそう言ってくれると思ってました。だから私は……こっちのレースも負けません!」

 

「え、ちょ、ダイヤ!?」

 

「んなっ!?」

 

 マックイーンさんの返事を聞くや否や、先程彼女に抱きついた時以上の力を込めてトレーナーさんに飛んで抱きつく。さっき躊躇してしまった分これくらいは許されるだろう。

 

「な、ななな、何をしているのですかダイヤさん!? 離れてくださいまし! トレーナーさんも困っていますわよ!?」

 

「嫌です! さっきトレーナーさんは私のことを愛バって言ってくださいました! 実質愛の告白ですよ!」

 

「貴方は一体何を言ってるんですの!?」

 

 例え相手がマックイーンさんでもこのレースにだけは負けられない。ここで妥協は絶対に許されないと本能が訴えかけてきている。

 

「ダ、ダイヤさん! 本当にトレーナーさんの息が……ああっ、顔がみるみる青く!?」

 

「……え?」

 

 マックイーンさんの悲鳴のような声を聞き、トレーナーさんからパッと体を離す。彼の首に負担がかかるような抱きつき方をしてしまっていたため、意図せずして首を絞めていたことになり……

 

「す、すみませんトレーナーさん! 意識をしっかり!」

 

「言わんこっちゃないですわ! 私が人口呼吸をしておくのでダイヤさんは医療班の召集をお願いします!」

 

「人口呼吸って……いえ、迷惑をかけてしまったお詫びに私がそちらをやるので、マックイーンさんが医療の方々を呼んできてください」

 

「駄目ですわよ! 人口呼吸とはつまりキス……接吻するのですのよ!? それがどういうことなのか分かっているんですの!?」

 

「分かっているからこちらがいいんです!」

 

 ここが地下バ道だということを忘れて言い合いをしていると、かろうじて意識が残っていたらしいトレーナーさんがピクリと動く。

 

「お前ら……マジで覚えとけよ……ぐふっ」

 

「「トレーナーさん!」」

 

 そう言ってトレーナーさんは今度こそ完全に気絶してしまった。この後私はウイニングライブもあるというのに既に大惨事だ。

 

 

 ……ん? ちょっと待って、そういえばレースが終わってからトレーナーさんと言葉を交わしたのは最初の数回とマックイーンさんに抱きついた時だけであり…………あ

 

 

 私まだトレーナーさんに褒めてもらってない!! 

 

 

 






もうちょっとだけ続くんじゃ

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