名家のウマ娘   作:くうきよめない

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幕間:なんでいるの?

 

 

 

 後日談、というか今回のオチ。

 

 

 ダイヤが凱旋門賞を勝利して地下バ道で彼女に締め付けられた後、どうやら僕は緊急で病院に運ばれたらしく精密検査を受けたようだ。

 普通の人間はウマ娘に全力で締め上げられたら死んでいてもおかしくないのだが、何故だか僕の身体にはどこも異常が見つからなかったらしい。ダイヤやマックイーン含むいろんな人に「お前本当に人間か?」みたいな顔をされたが、少なくとも僕の母親は人間なため直接ウマ娘の血を継いでいることはない。親戚のことはよく知らんけど。

 

 幸いなことに僕の身体を砕かず俗信だけ砕いたダイヤはメディアで至極の金剛石と大々的に報道され、日本への凱旋の際そのあだ名を連呼され顔を赤くしていたのはいい思い出だ。ちなみに僕がそう呼んだら凄い顔で睨まれた。あんなダイヤは見たことがない。

 

 

 ああそうだ、凱旋門賞を勝利したからといってダイヤのトゥインクル・シリーズが終わったわけではないということも話しておこう。

 凱旋門賞で綺麗に締め括るということもできたはずなのだが、彼女本人の希望でジャパンカップ、そして有記念を走った。その結果は──

 

 

「────負けちゃいました……」

 

 

 なんとジャパンカップ有記念共に六着。相手が強かったと言い訳もできるが、ダイヤに、そして僕にとっても悔しい結果で終わってしまった。

 特にジャパンカップで勝利をもぎ取ったあのウマ娘は本当に強かった。何せ彼女はメイクデビューでの二着以来負け無しでトリプルティアラを達成しているとんでもない逸材だ。いずれ、かのシンボリルドルフの記録である七冠を超えてもおかしくはない。

 

 

 しかし、そこで立ち止まるようなダイヤではない。負けたこと自体は非常に悔しいが、今の彼女はその負けすらも次の勝利へと繋げる強い意志を有している。そこには以前のように悩み続ける姿は無く、ただ走るのが大好きなウマ娘の姿があった。

 マックイーンやキタサンブラック、その他レジェンドクラスのウマ娘にも焦点を当てて前を向き走り続けるサトノダイヤモンドの姿を見ていると、この仕事を続けていて良かったなと心の底から思う。ハッピーエンド、というよりもトゥルーエンドと言ったところか、めでたしめでたし。

 

 

 さて、話を変えようか。先述したこととは関係無く、今の僕は物凄く機嫌がいい。今日の日付は12月31日、つまりは大晦日、もっと言えばお仕事がお休みということになる。やったね。

 

 大晦日、そして正月の三ヶ日を休めるということだが未だ予定は未定。実家に帰ることも考えたが、このまま一人でダラダラ正月を過ごすのも悪くないかなと思っている。

 とりあえずウキウキで買い物を済ませトレーナー寮に戻ってきたところだ。溜めていたアニメでも見るか、それとも積みゲーの消化をするか。僕の元気はいっぱいおっぱい、昂る思いのまま部屋のドアを開け──

 

 

「おかえりなさい! ご飯にしますか? お風呂にしますか? それともわ・た──」

 

 

 そっとドアを閉める。

 

 なにいまの、幻覚? なんだか可愛らしいエプロンをつけたダイヤが出迎えてくれた気がしたんだけど。

 おかしいなぁ、今のところ自分には結婚願望は無いと自覚している。願望が幻覚として現れたのではないとすると疲れているのかな? ここ最近働き詰めだったし、先程までダイヤのことを考えていたからしょうがないか。

 

 そう思い、もう一度ドアを開ける。

 

「あっ、酷いですよトレーナーさん、最後まで言わせてくれないだなんて。せっかく無断で合鍵を作ってまでお部屋に入ったというのに!」

 

 えぇ……なんでこの子僕の部屋にいるんだろう。

 

 エプロン姿のダイヤはプンスカと怒りを見せ、マックイーンが見たら目から光が失われそうな大きさのそれを腕を組んで強調している。

 

「トレーナーさん、今私の胸見ました?」

 

「見てないよ」

 

「見ましたよね?」

 

「み、見てません……いやそれより! 君さっき合鍵無断で作ったって言ったよな!?」

 

「はい、言いましたけど。家の力を使いました」

 

 こいつ、なんの悪びれもなく言い切りやがった。

 

「それで、私のおっぱい見たんですか?」

 

「年頃の女の子がおっぱいとか言うんじゃあないよ。てかいい加減部屋入れてくんね? 寒い」

 

「認めたら入れてあげます」

 

「分かった分かった! 見ました! 見ましたよ! これでいい?」

 

 どうして僕の部屋なのにこうして許可を得なければならないのだろうか。そして満足そうに頷くダイヤ……このクソガキいつか泣かす。

 

 ともあれ、やはり真冬に外に出るもんじゃないな。レースやトレーニングでならまだしも、日常生活でそれをするのは拷問に近い何かを感じる。

 

「買ってきたものは私が冷蔵庫に入れておくのでトレーナーさんはこたつで休んできてください。お風呂はつい先程沸かし始めたばかりなのでもう少し待ってくださいね?」

 

「ああ、うん、何から何までありがと……」

 

 もう何も言うまい。合鍵を作ってまで僕の部屋に入ったんだ。これ以上追求しても無駄だろう。

 

 こたつに入りテレビをつけ、年末特有の特番だらけの番組表を見て、あちらこちらにチャンネルを変えながら当初の予定通りダラダラと時間を過ごす。

 通常ならばこのタイミングで一年を振り返ったりしたのだろうが、生憎と既にそれは済ませてしまっている。

 かと言って次の年のことを考えても気が滅入る。オープンキャンパスやファン感謝祭の準備担当、メジロマックイーンとサトノダイヤモンドのトレーナーとして僕の嫌いなメディア出演、そしてURAファイナルズ開催に伴う社畜確定演出……はぁ。

 

「癒しが欲しい……」

 

 もう一度言うが、職業が職業なだけに僕に結婚願望は特にない。だけどそれとこれとは話が別だ。日々の生活を癒すための何かを求めるというのは人間として当然だろう。この寮がペット禁止でなければとっくに犬や猫を飼っている。ううむ、そのために引っ越すのもアリだな、今からでも良さげな物件を探しておくか。

 

 その気もないのにスマホで適当な家を探していると、何やらキッチンの方からいい匂いがしてきた。くるりとそちらの方向を向くと、湯気の立つお盆を持ってダイヤがこちらにやってきた。

 

「ダイヤ、君料理できたのか……?」

 

「むむ、失礼ですね。これでも私、最近お料理の勉強もしてるんです。さあさあ、伸びないうちに食べちゃってください」

 

「おお、ありがたい。やっぱり大晦日と言ったら年越し蕎麦……」

 

 差し出された丼の中身に違和感しか感じない。そこには、蕎麦よりも二回りほど太い麺が白く輝いており──

 

「おい、これうどんだろ」

 

「はい、年越しにはお蕎麦を食べると縁起が良いとのジンクスを聞いたのでおうどんを作りました!」

 

 なんでだよ、おかしい。蕎麦の代わりになるもの……せや、うどん食おか! とはならんだろ。

 

 とはいえ、作ってもらった料理にケチをつけるつもりはない。出来立て熱々のうどんに口をつけようとした時。

 

「トレーナーさん、少しお話いいですか?」

 

「んあ? どうした、そんな改まって」

 

「ここまで私を導いてくれてありがとうございます。あなたがいたからダイヤはここまで輝くことが出来ました」

 

「……なんだい、今更そんな。ここまで来れたのは君の実力さ。僕に感謝する前に自分のことをもっと誇りな」

 

「いいえ、トレーナーさんが見ていてくれたから今の私があるんです。勝った時だけじゃなくて、皐月賞やダービー、キタちゃんとの春の天皇賞、そして一回目の凱旋門賞で負けた時だって……。あなたがいなければ私はずっと躓いたままでした。だから、あなたに心から感謝を。ありがとうございます」

 

 頭を深々と下げるダイヤに少々気恥ずかしくなり、誤魔化すようにあーやえーなど適当な言葉を発する。

 

「なんだ、その……長い人生、石に躓いて怪我することもある。躓いた石に怒りをぶつけても仕方がない。だったら僕ら二人で思いっきり蹴飛ばしてやって後来る人の邪魔にならないようにしないとな」

 

「……ふふっ、とても契約解除を迫った人とは思えない発言ですね」

 

「おっと、過去の行動にケチをつける気か? だったらこっちはフランスで君に押し倒されたことを蒸し返すが?」

 

「なら、今からその続きをしますか?」

 

 そんなの冗談だろ一蹴したかったが、今のダイヤならやりかねない。というか、そもそも目が本気だ。

 

「……降参、この歳で警察のお縄につきたくはないからね」

 

「それは私が成人したら何しても良いと言うことで?」

 

「やだ、この子何も反省してない……」

 

 将来という暇もなくダイヤは既に大物に成長した。もう心配はいらないだろう。若干周りを振り回す気質のある彼女に、もう怖いものはないはずだ。

 

「……? どうかしましたか?」

 

「いいや、今後君のパートナーになる人は幸せ者だなって思ってさ」

 

「ならトレーナーさんは幸せ者になれるってことですね。続きしますか?」

 

「はいはい、五年経ってから出直してきなさい」

 

「ぶぅ……」

 

 ははは、身体だけ成長したガキめ、大人というものを無礼るでないぞ。

 

 膨れっ面のダイヤの頭をポンポンと撫で、今度こそうどんに口を付け──

 

「どーん! です、YO! 独り寂しく虚しくつまんない大晦日を過ごしているであろうせんぱいに、できる女であるこのわたし、一色ちゃんが来てあげちゃいました! さあ褒めて讃えて歓迎するが良いのです!」

 

「うるせぇ! しばき回すぞこのクソビッチ! うどんが伸びるだろうが! てか来る時は連絡しろっつっただろ!」

 

「う、うどん? 一体何のこと……って、ビッチとはなんですビッチとは!? てかちゃんと連絡入れましたぁ! 確認を怠ったせんぱいが悪い……あれ、サトイモちゃんも来てたの? 久しぶり〜」

 

「むぎゅ」

 

 唐突に現れたと思いきや、玄関で騒ぐだけ騒いで中にいるダイヤに抱きつきに行く一色。ムカつくことに、たしかに一色からうちに来るとの趣旨の連絡が入っていた。

 

「全く、トレーナーさんも一色さんも少しは落ち着きというものを覚えてたらどうなのですか?」

 

「うん、すごくナチュラルに現れたけど君まで何やってんだよマックイーン」

 

「あら、私は一色さんに連れられて仕方なく来ただけですわ。そう、仕方なく」

 

「そうか、じゃあもう夜も遅いし帰りな。ついでにダイヤと一色も引き取ってくれると助かる」

 

「それでは遠慮なくお邪魔いたしますわね」

 

 僕の声を無視してずんずんと部屋に上がるマックイーン。なんだろう、僕の担当ウマ娘は最近聞き分けが悪い気がする。

 マックイーンについて行きリビングへと戻ると、未だにダイヤは一色のなされるがままとなっていた。

 

「せんぱい、お風呂貸してもらってもいいですか? 寝巻きと歯磨きセットとお風呂セットは持って来てるので」

 

「は? なに、泊まる気なの?」

 

「はい、確か個室にベッドが一つありましたよね。そこでわたしとマックちゃんとサトイモちゃんの三人で寝ます。せんぱいは床で寝てください」

 

 うーん、とりあえずグーパンでも出そうか。大晦日の安寧が無くなったことが確定し、フラフラしながらこたつへと舞い戻る。

 一色とマックイーンは何食わぬ顔でキッチンの方へと移動し、彼女達が買ってきたであろう食材をキャッキャ言いながら冷蔵庫に詰めてた。

 

「あはは、急に騒がしくなりましたね」

 

「ダイヤ、何他人事みたいな顔してるんだ。君もその一員だということを忘れるなよ? おい、顔を逸らすな。こっち向け」

 

「そ、そんなことより、トレーナーさんに一つお願いしたいことがあるのですが良いですか?」

 

「……はぁ、ここまで来たら僕のできる範囲で叶えてやろうじゃないの。さて、どんな無理難題を言うつもりだい?」

 

「それほど難しいことではないですよ。ただ、トレーナーさんがよければ──」

 

 先程よりもさらに改まったダイヤは僕の隣に移動して肩にもたれ掛かる。

 

 

「この先、どんな障害があったとしても、私の隣に……ううん、ずっと一緒にいてくださいますか?」

 

 

 そう言った彼女は、これまでのどんな時よりも魅力的な子……魅力的な女性に見えて──

 

「──こちらこそよろしく頼むよ、ダイヤモンドの宝石さん」

 

「ふふっ、ありがとうございます、トレーナー、さん……」

 

 ダイヤはそう言うや否や、静かな寝息を立てだす。ふと、こたつに添えられた彼女の指に先週までには見られなかった絆創膏がちらほらと貼られているのに気がついた。

 ……全く、こたつで寝たら風邪をひくと何度も言ってきたのに。いや、これもジンクスを破りたがる彼女の宿命なのかもしれない。これをジンクスと呼ぶのは怪しいところだが。

 

 そんなダイヤを見ていると、彼女のためとはいえ契約解除だなんてとんでもないことをしてしまったなと思ってしまう。その証拠に、あれから随分と時間が経ったのに未だに心が痛む。今回はハッタリだったが故に耐えれたが、今度こそ二度とあんな真似はしたくないと思った。

 そもそもあんなのが最適解だとは思ってもいない。もっとスマートな方法だってあったはずだ。だが、こんな時東条トレーナーなら、沖野トレーナーならと考えても無駄なことは分かっていた。所詮僕は僕、俺は俺だ。あの時はあれしか思い浮かばなかったし、今まともな解決策を思いつけるかと言われたら口を紡ぐしかない。

 

 マックイーンの時だってそう、何をやっても後悔しか残らない。もし人生二周目があるのなら、次はもっと上手くやることを誓おう。でも今は──

 

「すぅ……すぅ……むにゃ……」

 

 

 ダイヤのこの安心しきった寝顔を見れたので良しとしようか。

 

 

「あーっ! せんぱいがサトイモちゃんにセクハラしてるー!」

 

「本当ですわ! 一色さん、110番! トレーナーさんには警察のお世話になってもらいましょう!」

 

「……おい、少しは静かにしろよ。ダイヤ寝てるんだぞ、起きちゃうでしょうが」

 

「サトイモちゃんと……寝た……!?」

 

「今すぐダイヤさんから離れなさいこのケダモノ! 代わりにそこには私が収まりますわ!」

 

「そうだそうだ! 今すぐそこから離れ……待って、それだとマックちゃんだけが得することにならない? てかその場合わたしはどうすればいいの?」

 

「床で寝てたらいいのではないですか?」

 

 静かにしろと言ったのに性懲りも無くギャーギャーと喧嘩を始めるマックイーンと一色。そしてかなりの声量で喧嘩している傍らでも尚僕の肩にもたれ続け起きる気配の無いダイヤ。

 

 静かに大晦日を過ごすつもりだったのにどうしてこうなった? と、今更考えても仕方がない。たまにはこういったうるさい日があってもいいだろう……うるさい日しか無くない?

 まあとりあえず、喧嘩している阿保二人は放っておいてさっさと年越しうどんに食いつくとしようか。

 

 

 …………やっぱ伸びてんじゃねぇか。

 

 

 

 

「────えへへ……トレーナーさん、大好きです……」

 

 

 

 

 第二章『ダイヤモンドは砕けない』 終

 

 

 





二章終わりっ!
プロローグは一章みたいなもんなので、一章38話+二章37話は長すぎるだろとの声が聞こえてきそうですがなんとか終わりました……。

ここまでご高覧ありがとうございました! だけではつまらないと思うので、ここまでの裏話というか独り言を箇条書きですが載せておきます。


・一色さんは最初「っす」キャラだったけどあざとさを感じられなかったのでやめた。キャラの参考は苗字が同じあのキャラ。

・最後のヒール役はトレーナーではなくマックイーンの予定だった。

・凱旋門賞じゃなくて史実通り京都大賞典での復活予定だった。

・二章書いてる途中でサトノダイヤモンドがゲームに実装されて速攻でガチャ引いた。天井して3万円消えた。ついでにキタサンブラックも天井だった。

・コパノリッキー天井←NEW!!

・正直言ってこのssのタイトル変えたい。投稿時「まあこれでいいや!」で済ませた自分を殴りたい。馬鹿野郎、名家生まれのウマ娘なんて大量にいるじゃねえかいいぞもっと増えろ

・ブロワイエ、嘘だよな……?


とりあえず次の章で最後の予定です。少なくとも終わらせ方は決めているので(多分)疾走することはないと思います、はい。
pixivで連載を始めて早一年と少し、もうちょっとだけお付き合い頂けたら幸いでございます。

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