名家のウマ娘   作:くうきよめない

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お久しぶりです、ひとまずこれが最終章です。
投稿頻度は落ちるかもしれませんが、完結目指して頑張ります。



第三章 あの日の想いは忘れない
始まりはいつも突然に


 

 

 

 深い、深い闇の中にいる。

 

 意識はハッキリとしているのに、目は開けられず、手足を動かすことすらもできない。まるで金縛りにあったかのような感覚だ。

 ここはどこで、自分は何をしているのか。それすらわからないというのも相まり恐怖心は雪だるま式に増幅していく。

 

 もしかしたら自分は死んでしまったのではないか。正確な時間は分からないが、そう考えてしまうほどには虚無の時間を過ごした気がする。

 

 父さん、母さん。志半ば倒れゆく不幸な息子を、どうかお許しください。

 

 

「────ですのよ、全くダイ──」

 

 

 両親への懺悔の言葉を考えていると、誰かの声が聞こえた気がした。それは何も感じない故の幻聴などではなく、ハッキリと耳で聞き取れたものだ。

 

 

「────イーンさんだって────じゃないで──」

 

 

 ノイズ混じりで途切れ途切れだが、確かに聞こえる。つまり、まだ自分は生があるということだ。

 この暗闇の中、これ以上一人でいると気が狂いそうになる。なんとしてでも抜け出したい。

 

 そう思うや否や、視界がぼんやりと開いた。なんだかこうして瞼の裏以外の景色を見るのは久しぶりな気がする。

 

「……?」

 

 現状を把握するため、ここはどこかと周りを見回していると、ふと自分の置かれている状況に疑問を持った。

 見慣れぬ場所のベッドに寝かされ、身体が不自由となっている。

 

 極め付けは、自分が起きたのを見て何かよくわからないことを騒ぐ目の前の少女二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女達は一体誰なんだろう。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 第三章『あの日の想いは忘れない』

 

 

 

 

 気持ち新たに新学期だというのに、外を見れば激しい雨が降り続いている。ここのところいつもそうだ、これでは走ることも叶わない。

 特別雨が嫌いなわけではないが、こうも土砂降りだと自然とテンションも下がってしまう。こんな天気で喜ぶのは蛙とシービーさんくらいだろう。

 

 

「はぁ……」

 

 

 そして今しがた届いた連絡に目を通し、ついため息をついてしまう。連絡の中身はさておき、この文章の書き方は降り注ぐ雨と一緒に流してしまいたいほどのものだ。

 

 

 突然だが、私には悩みがある。授業終わりにトレーナー室へと向かう途中、こうして無意識にため息をついてしまうほどには小さくない悩みだ。

 

 これまで、トレーナーさんとは良い関係を築き上げてきたつもりだ。

 それこそ最初はギクシャクしていたし、互いに未熟故の小さな諍いはあったものの、今となっては自分にとっていなくてはならない存在となっている。

 トレーナーさんがいない生活などあり得ないと言えるほどに、彼の存在は私の中で大きなものだ。

 

 きっとトレーナーさんの方もそう、なくてはならないとまでは言わなくとも、私のことを大切にしてくれているというのは、彼の普段の行動の節々から感じられる。

 

 

 でも、それはあくまで"自分が担当するウマ娘"としてだ。決して一人の女性として見てくれることはない。

 

 話を戻すと、私の抱える苦悩というのがこのことについてだ。

 

 分かっている、私は学生で彼はトレーナーなため、現時点ではどうすることもできない。たとえできたとしても、それは彼を社会的に抹殺することにしかならない。

 

 誰かさんならこういう時に、『それなら私のお家に永久就職してもらいます! これで私と一生を遂げられますね!』とかなんだか言いそうではあるが、私はそんなことちょっとしか考えていない。

 

 

 これで恋敵がいないのであればこんなにも焦る必要はなかった。でも現実はそうでなく、トレーナーさんのことを憎からず思っている方は最低でも二人はいる。

 私の他のもう一人の担当ウマ娘であるサトノダイヤモンドに、その想い人の後輩である一色星羅。自分が彼女達に劣っているとは微塵も思わないが、強敵であるのは間違いない。

 

 それ以外での女性のことも考えたものの、トレーナー業一筋の彼のことだ、外部で彼女を作ったりはしないだろう。もしそんなことをしたら私は泣くどころでは済まない。

 

 

 ともかく、遅くとも卒業までには彼を堕とさなければならない。ダイヤさんも同じ考えだろう。

 将来トレーナーとその担当だったウマ娘が籍を入れるなんてことは珍しくないのだ。卒業と同時くらいの勢いでないとこの恋には勝てない。

 

 

 でも、具体的にどうすればいいのだろうか。

 

 彼の攻略難易度が高すぎて、その糸口を誰も掴めていないのが現状となっている。普段はちょろい癖に変なところで頑固なのもあり、相当に厄介だ。

 ここはあの二人を見習って多少強引にいった方がいいのだろうか。いえ、あの積極的な二人でさえも苦戦しているのだ。下手な行動は止したほうがいい。

 最適解を見出せずつい唸り声をあげてしまう。

 

 

「マックイーンさ〜ん!」

 

 

 と、そんな悩みを抱えていると、前方から悩みの種の一人がやってくる。

 

「眉間に皺を寄せているお顔も美しいですね!」

 

「うるさいですわよ、ダイヤさん!」

 

 サトノダイヤモンド、私にとっての唯一のチームメイトであり、恋敵である二人のうちの一人。

 彼女も出会った頃と比べて随分と成長したものだ。トレーナーさんのダメなところが似てきているのは頂けないけれど。

 

「それで、どうかされたんですか?」

 

「……どうもこうも、少々悩みを抱えていまして」

 

「まぁ、マックイーンさんが悩みなんて。任せてください! このダイヤ、あなたの悩みを晴らしてみせます!」

 

 悩みの理由の大部分は貴方が占めているんですのよとは流石に言えない。

 ここで打ち明けてしまったら、純粋無垢な目をするダイヤさんの瞳はきっと濁ってしまう。有耶無耶にするためにも話題を変えなくてはならない。

 

「そ、それより、先程トレーナーさんから連絡がありましたの。なんでも、『今後のことについて話したいことがある。放課後トレーナー室に来てほしい』とのことらしくて」

 

「あ、それ私のところにも来てました」

 

「……やはりですか。全く、あの人ときたら……」

 

 真に伝えたい内容がなんであれ、こんな言い方では誤解されてもおかしくない。

 事実、自分もこの内容を見た瞬間ドキッとした。もしかしたらと、淡い期待を抱いたが、送り主の顔を思い出しそれはすぐに自分の思い描く内容ではないことを悟ってしまう。

 

 先に話した通り、彼は私達を一人の女性としては見てくれていない、恋慕の感情を抱いていない。

 想い人からそのような感情を向けられていないという事実は、無意識にため息をつかせるのに十分すぎる理由だ。

 

 それはそれとして、この連絡の文章はどうかと思う。

 

「はぁ、本当にあの方は乙女心というものを分かっていませんわ」

 

「ふふっ、そんな朴念仁なところも可愛いんですけどね」

 

「随分とポジティブですわね……」

 

「そうでしょうか? あの方の魅力の一つは、一度決めたことは曲げない確固たる意志を持っているところ。それでいてたまにやるポカやドジといったギャップがたまらないんですよ。もちろんマックイーンさんもお気づきですよね?」

 

「それは……まぁそうなのですが」

 

 事実ダイヤさんの言う通り、トレーナーさんはバッチリ決める時とそうでない時の差が激しい。

 時にカッコいい彼の姿を、時に母性を増幅させられるようなミスをする姿が見られる。一粒で二度と美味しいといったようなあれだ。

 

「それでいて、とてつもなく負けず嫌いなところとかもそうですわね。いつの日かは私とくだらないことで本気で争ったりもしましたし」

 

「そして面倒見もいいですよね。邪険に扱ってそうな一色さんのこともなんだかんだ気にかけていそうですし、私を凱旋門賞優勝まで導いてくれましたし」

 

 

 …………ほう。

 

 

「まぁ? 私はトレーナーさんと一番長い付き合いですし? あの方のいいところも悪いところも全て把握してますわよ?」

 

「私は唯一トレーナーさんと海外遠征しましたよ? まるで新婚旅行みたいでした」

 

「ふ、ふーん、そうなんですのね」

 

 

 段々意固地になっていき、互いに立つ瀬がなくなってきた。

 でも大丈夫、自分にはまだとっておきのカードがある……

 

「フランスで押し倒してしまった時のトレーナーさんの顔、可愛いかったなぁ……」

 

「ちょっと待ってください!? なんですかそれ!? 詳しく! 詳しく教え……あっ!」

 

 ダイヤさんの体を揺さぶるも、彼女は舌を出して一向にその内容を吐こうとしない。

 というか、一回目の凱旋門賞で大敗して帰ってきた時に二人の間に妙な溝があるとは思っていたけれどまさかそんなことがあったとは。羨ましいしずるい。

 

 そしてフフンと得意気な顔をするダイヤさんが腹立たしい。その顔はまるで「勝ったな」とでも言いたげだ。

 

 

 私はボソッと一言。

 

 

「私はトレーナーさんと混浴した仲ですし……」

 

「ど、どどど、どういうことですか!?!? こ、混浴!? 裸と裸の付き合いってことですか!?」

 

「ちょ、大きい! 大きいですわよ!」

 

「お、大きいって……! まさかマックイーンさん……!」

 

「貴方の声量に決まっているでしょう!?」

 

 廊下を歩いての会話なため、周りのウマ娘達は私達のことをなんだなんだと見始める。

 流石にその視線に気がついたのか、彼女は開いていた口をつぐんでボソボソと話す。

 

「そ、それで、詳細を教えてください」

 

「詳細も何も、高知での夏合宿の時、トレーナーさんが温泉に入ってるところに突撃しただけですわよ」

 

「犯罪じゃないですか……」

 

 犯罪も何も、私はスカイさんの悪戯でたまたま間違えてしまっただけだ。これに関しては嘘はない。

 それに気がついた後どういった行動を取ったかは黙秘しますわ。

 

 

 トレーナー室も見えてきたこともあり、今日のところは互いに引き分けということで手を打つ。

 ダイヤさんとは近いうちに決着をつけなければならない。例えそれがどんなことであったとしても。

 

 

「それにしても、トレーナーさんが話したいことってなんなんでしょうかね?」

 

「あの方が私達二人に同じ連絡をしているということはレース関連のことだと思いますわね。もしくはメディアの取材だったり」

 

「あっ、だとしたらあれじゃないですか? 今噂されているURAファイナル……ズ……」

 

 ダイヤさんはトレーナー室のドアを開けると、部屋の中にいた何かを見て固まってしまった。

 

 不思議に思い自分もトレーナー室を覗くと、姉妹だろうか、そこには十歳にも満たないであろう幼いウマ娘が二人、いつものソファの上に座っていた。

 

「……マックイーンさん、あの子達について何か聞いてます?」

 

「いえ、何も……。彼女達は一体……?」

 

 年齢的にもあの二人はここの生徒ではない。かと言ってあんなに堂々としているので不法侵入とは思えない。

 

「……あら、よく見たら胸に見学用のバッジをつけてませんこと?」

 

「あ、本当ですね。ということはあの子達は見学に来たウマ娘……ん? でもどうしてトレーナーさんの部屋に……?」

 

 ダイヤさんの疑問は尤もだ。あの子達がトレーナー室にいる理由が分からない。

 安直だが、学園が広いが故に迷ってしまったというのが真っ先に考えられる。それでここで誰かが来るのを待っていると。

 だとしたら私達が声をかけてあげなければならない。

 

「……行きますわよ、ダイヤさん」

 

「え、マックイーンさん?」

 

 本格的にトレーナー室に足を踏み入れると、姉と見られるウマ娘がその存在に気がつき、駆け足で私の方へと寄ってくる。

 その後ろから妹と思しきウマ娘がついてきて背後に隠れた。

 

「はじめまして、メジロマックイーン様とサトノダイヤモンド様で間違いありませんでしょうか?」

 

「ええ、そうですわよ。自己紹介の必要はなさそうですわね。それで、貴方達は一体……?」

 

「ああっ、わたくしとしたことが自己紹介が遅れました。わたくしのことはグランとお呼びください」

 

 グランと名乗る幼いウマ娘は綺麗はお辞儀する。とても礼儀正しい子、というのが第一印象だ。

 

「それで、グランちゃんはどうしてここにいるの? もしかしてトレーナーさんの関係者か何か?」

 

「はい、サトノダイヤモンド様のおっしゃるとおりりです。いつも主様……トレーナー様がお世話になっております。見学の一環としてお二人に挨拶をと思いまして。生憎と現在トレーナー様は不在でございますが、憧れであるお二人に会えたことを光栄に思います」

 

 歳不相応な礼儀の正しさだ。大人を相手にしてるならまだしも、彼女は推定10歳にも満たない。ここまで来ると怖くなってくる。

 

「マックイーンさん、どうしましょう。私この子妹にしたいです」

 

「気持ちは分かりますけどお止しなさい」

 

 いつもは誰かを追いかける立場のダイヤさんだが、ついに憧れられる立場になったことに感激したらしく、今にもグランさんを抱きしめそうになっている。

 

「ふふっ、そう言ってもらえて恐縮です。ほらガング、挨拶ですよ。あなたもメジロマックイーン様とサトノダイヤモンド様に会いたがってたじゃないですか」

 

 後ろに隠れていたガングと呼ばれたウマ娘は、グランさんの手によって無理矢理前に引き摺り出される。

 

「め、めじょまっきーん……さとのだいやもんど……」

 

「惜しいですわね。メジロマックイーン、ですわ」

 

 優しくそう訂正するも、ガングさんはさらに縮こまってしまった。何かいけなかったかと不安に思っていると、それを見かねたグランさんがガングさんに耳打ちをして手を引いた。

 

「さぁ、ガング。お二人に挨拶ですよ」

 

「……ん」

 

 姉らしく挨拶の言葉を教えてあげたのだろうか。姉妹仲が睦まじくてとても微笑ましい。

 勇気を持って挨拶してくれるんだ。私とダイヤさんは目線をガングさんの位置まで合わせる。

 

 

 そして、ガングさんの口からは、

 

 

「い、いつもぱぱがおせわになってます……」

 

 

 私達の予想を遥かに上回る、とんでもない爆弾発言が飛び出した。

 

 

 

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