名家のウマ娘   作:くうきよめない

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難儀な性格

 

 

 

「これで明日の準備は一通り終わりっと……。悪いな二人とも、手伝ってもらっちゃって」

 

「ううん、ライスが好きでやってることだもん。気にしないで……!」

 

「そうそう、気にしなくていいのよ。それにあたし達の仲じゃない。こんなのお茶の子さいさいなんだから!」

 

「……お茶の子さいさいって言葉聞いたのいつぶりだろうな。それもう死語だぞ」

 

「やーねー、トレーナー君ったら! 冗談はよしこさん! ……冗談よね? どうして目を逸らすの? ねえ、トレーナー君?」

 

 マルゼンスキーは真顔で僕の肩を掴み揺さぶりをかけるが、残念ながらそれは冗談でもなんでもない。その証拠としてライスシャワーは不思議そうに「お茶の子さいさい……?」と呟いている。

 

「ガビーン! ナウでヤングな流行り言葉だと思ってたのに……! あたしの言葉はもう古いってコト!?」

 

「あたりきしゃりきのこんこんちきだよ。そんな言葉ばっかり使われたら困ったちゃんになっちゃうぜ。なあ、ライスシャワー?」

 

「二人が日本語喋ってないよぉ……」

 

「ライスちゃん、大丈夫よ。あなたもこれから覚えていけばいいの。私達が手取り足取り教えてあげるから」

 

「ふぇぇ……」

 

 僕を巻き込むな僕を。そしてライスシャワーに未知の言語を覚えさせようとするな。

 

 やたら仲のいいライスシャワーとマルゼンスキーを眺め、ようやく作業が一段楽ついたことに安堵を覚える。なんてったって、明日は来たるファン感謝祭。それはつまり、メインイベントであるマックイーンとダイヤのレースが執り行われるということだ。

 その責任者である僕は、こうして前日にまでもそのレースのセッティングをしなければならなくなっている。ゲートの確認やテントの組み立て、はたまた機材の確認エトセトラ……。

 

 そのほとんどは、できないわけではないが流石に全てを一人でこなすのにはそれなりの時間がかかってしまう。そのために助っ人を集めたかったのだが、どうも僕の人脈では上手くいかなかった。

 

 当の本人であるマックイーンとダイヤは明日に向けて各々調整中。レクリエーションとはいえ、真剣なレースの公平性を保つために僕は明日までトレーニングメニュー以外での二人への接触を禁止されてしまった。それも、これは当人達からの申し出だ。そのくらい二人は本気ということだろう。

 シンボリルドルフは生徒会もあるから迷惑はかけられない、セイウンスカイはどこ探しても見つからない。一色に至っては、以前合鍵を渡す羽目になったこともあり、奴に助力を求めようとすること自体が癪でしかない。つまりは頼れる人がいないのだ。

 

 あまり助っ人探しに時間をかけるわけにもいかないので一人悲しくレースのセッティングをしていたところ、たまたまマルゼンスキーとライスシャワーが通りかかり手伝ってくれた。

 よかった、この二人がいなかったらテントの組み立てを一人でやることになっていたかもしれない。学生の頃の体育祭でやらされたことはあるが、あれは一人でやるもんじゃないと声を大にして言おう。ただでさえ面倒な体育祭が、その前後のテントの組み立てによってさらに地獄の行事となる。それすらも楽しそうにやる陽の方々はなんなんすかね。ドMなの? 

 

「……どうかしたの? 何か産まれそう?」

 

「ちがわいっ! いや、学生時代の嫌な記憶思い出してお腹がな……」

 

「あら、アオハルを楽しめなかった側なのね。可哀想」

 

「おい、ガチもんの憐れみやめろや。僕だってアオハルくらい……アオハルッ……青春くらいッ……!」

 

「血涙流すほど何も無かったの!? だ、大丈夫だよ! 今はマックイーンさんやダイヤちゃんもいるし! マルゼンさんもマックイーンさんのトレーナーさんを困らせないで!」

 

「メンゴメンゴ、トレーナー君ってば昔と何も変わってないからつい揶揄いたくなっちゃうのよねぇ」

 

「か、かか変わってるしぃ! ほら、例えば…………ほら……ッ!」

 

「無限ループだねこれ……。また血涙流してるし……」

 

 マルゼンスキーとは僕がリギルのサブトレーナーだった頃からの付き合いだ。その分過去の色々なことを知っている上に、彼女のあの性格が災いして、過去を知っているという条件は同じでも相手にしづらさはシンボリルドルフ以上のもの。いや、あいつもあいつで非常に厄介なのは変わらないんだけど。

 

「にしても、ライスシャワーはだいぶ変わったよなぁ。さっきもマルゼンスキーにブチギレてたし」

 

「そ、そんなに怒ってないよ! ただ困らせるのはやめてって言っただけで……」

 

「うんうん、ライスちゃんったら鬼の形相だったもんね。あかんたれーって。やーん、インド人もびっくりね!」

 

「マルゼンスキー、お前もうしばらく黙れ」

 

 昔からそうだったが、やはりこいつは喋らせたらダメだ。なんか、もうシンプルに言葉が古い。僕がギリギリ付き合えるくらいのレベルだ。ライスシャワーを始めとした今時の子には通じないだろう。なんだよ、「インド人もびっくり」って。そんな言葉バブルを生き抜いた人かネットに精通したオタクしか分からねぇよ。

 

「ライスなんて全然だよ。さっきもミスばかりしちゃったし、昨日なんてお皿割っちゃったし、ダイヤちゃんが「内緒ですよ?」って言ってトレーナーさんの書類の中に婚姻届混ぜてたの見て見ぬふりしちゃったし……」

 

「ダイヤアアアアアアアアアア!!」

 

「あっ、ち、違うの! 今のは……そう、嘘! 嘘だよ! ドッキリ大成功ー! ……ダメ、ですか?」

 

 ダメに決まってるだろ。なんで誤魔化せると思ったんだ。とりあえずダイヤは明日のレースが終わったら呼び出して説教だな。

 

「だからライスなんてマックイーンさんやダイヤちゃん達と比べたら出来損ないのダメダメウマ娘だから……。お姉……トレーナーさんがいないと何もできなくて……」

 

 ……ふむ、とはいえライスシャワーのこの卑屈さは少し目に余る。彼女も大分変わったと思ったが、やはり根っこの所を変えるのは難しいのか。

 

 そう考えていると、隣でマルゼンスキーがライスシャワーに聞こえない程度の小声で話しかけてくる。

 

「なぁに、ライスちゃんのこと気になるの?」

 

「どうかな、自分の担当以外のウマ娘に気をかけるほど僕は優秀じゃない。そう言う君の方こそ随分気にしてるようじゃあないか」

 

「あらら、バレちゃった? なんていうか、運命レベルの何かを感じちゃうのよね〜」

 

「ほーん。運命云々は知らんけど、君はよく後輩を気にかけてるし、ライスシャワーのことを心配するのも自然だけどな」

 

「あら、あなたも面倒見がいい方じゃない。その証拠に、やっぱり今もライスちゃんを心配してる。言葉を濁して真意を捉えさせないようにするのは悪い癖ね」

 

 本当に、このウマ娘は相手にしづらい。でも、もうあの頃のシンボリルドルフやマルゼンスキーに振り回されるような僕じゃない。この程度のことなら大人の余裕で軽く受け流せる。

 

「今は僕のことなんてどうでもいいんだよ、それよりライスシャワーのことだ。謙虚なのは結構だけど、自分を卑下するような発言は感心しないね」

 

「それトレーナー君が言うの? この際だから言っちゃうけど、そういうところも昔から何も変わってないわよ?」

 

「ゴハッ!」

 

 マルゼンスキーのど正論パンチで僕の心が一撃K.O.されてしまった。誰だよ受け流せるとか言ったやつ。僕だわ、僕でしたぁ! こんちきしょうめ! 

 

「ど、どうしたんですか二人とも……?」

 

「ううん、なんでもないわよ。このアンポンタンは放っておいて、ライスちゃんは自分のクラスに戻りなさい。お友達も待ってるわ」

 

「は、はあ……」

 

 マルゼンスキーにぐいぐいと押し切られ、ライスシャワーはこの場を後にする。今度彼女に何かお礼をしておかなければならないなと思っていると、呆れたような声が頭上から飛んでくる。

 

「……それで、いつまで地ベタと一体化してるの? もうライスちゃん行っちゃったわよ?」

 

「……第三次冷却終了。フライホイール回転停止。接続を解除。補助電圧に問題なし。停止信号プラグ、排出終了。エントリープラグ挿入、脊髄システムを開放。接続準備」

 

「急にエヴァンゲリオンにならないでちょうだい。もう、どんだけ重症なのよ」

 

「かなりだぞ。どれだけ重症かって言ったら、あと一歩のところで幼児化しながら奇声を発して過呼吸になりながらアポカリプティックサウンドを垂れ流すところだった」

 

「もう少しで世界が終焉に導かれてたわね……」

 

 いつまでも地面とお見合いしているわけにもいかないので、よっこらせと体を起こして先程の話を続ける。

 

「まあ、ライスシャワーに関しては僕達がどうこうできることじゃないよ。あれはあの子とあの子のトレーナーが時間をかけて解決していくものだ。外的要因が作用できるならそれに越したことはないがな」

 

「思ったよりドライなのね。もうちょっと親身になって考えると思ったけど」

 

「これでも十分親身な方さ。何度も言うけど、自分の担当でもないウマ娘に肩入れしすぎるのもよくないし」

 

「実体験ってやつ?」

 

「……うるせぇよ」

 

 きっとマルゼンスキーはタマモクロスのことを言っているのだろう。でも、僕にとっては別のことにも捉えることができてしまい……

 

「そういえばトレーナー君は明日どうするの? マックイーンちゃんとサトノちゃんのレースまで何か予定あるの?」

 

「いや、特に何かをするつもりなんてないぞ。あの子たちのアップの様子でもボーッと眺めるか、トレーナー室でレースの研究するか、URAファイナルズの仕事するか……うっ」

 

「自分で言っといてダメージ受けてるじゃない。つまりは暇ってことね? だったらレースの時間まで感謝祭回ってきなさい」

 

「は? なんでもってそんな急に──」

 

「だって、自分じゃ気づいてないかもしれないでしょうけど、今のあなた相当疲れてるわよ? その様子じゃまともにリフレッシュもできてないでしょ。最近だと夜中まで残業残業で──」

 

「なんで見てきたかのように知ってるの? ストーカー? 急に怖い話しないで」

 

 茶化してはいるが、マルゼンスキーが言ったことは図星だった。事実、最初のURAファイナルズの会議以降はほとんど働き詰めなのには間違いない。とはいえ、僕にも僕で休めない理由がある。

 

「……マックイーンとダイヤがそれぞれ目標に向かって頑張ってるんだ。僕がその妨げをするわけにはいかない。明日だって、あの子達は楽しむ間を惜しんでレース前のアップを……ん」

 

「はいストップ、そこまで。たしかにトレーナー君の変化は些細なものよ。でも、ある程度付き合いが長かったらそんな些細な変化も容易に読み取れちゃうの。特にあなたなんかはね」

 

「マルゼンスキー……」

 

 突如としてマルゼンスキーの人差し指によって言葉が遮られたかと思いきや、茶目っ気溢れる彼女によって軽い説教をされる。一応僕の方が歳上のはずなんだが、これでは立場が危ういな。

 

「あたしが気づいてるんだもの、きっとマックイーンちゃん達も気づいてるわ。それに、あの子達があなたの娯楽を妬むような悪いウマ娘だと思う?」

 

「……いや、思わねぇ。そうだな、たまには僕も羽を伸ばすのも……あ、でも大の大人が一人で感謝祭回るってキツくない? 主に周りの目とか」

 

「あら、それは毎年懲りずに感謝祭ではしゃいで生徒会から注意を受けてる星羅さんの悪口かしら?」

 

「一色のやつそんなことしてたのかよ……」

 

 普段こういう行事ではトレーナー室に引きこもっていることがほとんどなためこの情報は初耳だ。一体どんなことをやらかしているのか聞きたかったが、闇が深そうなのでやめておこう。

 

「そうだトレーナー君! あなた、星羅さんと一緒に回ったらどう? 仲も良さそうだし、トレーナー君も一人で回る必要もなくなるし、何しろお目付役として適任よ!」

 

「やだよ、僕あいつのリード引っ張っていられるか分かんないし、仕事以外であいつと一緒にいると何故かマックイーンとダイヤの機嫌が悪くなるし」

 

「あなた達思った以上に面倒くさいわね……」

 

 僕が一人で感謝祭を回ることが決定した瞬間である。

 実際のところ、この感謝祭は学園の外部からも人が来るため、さほど白い目で見られることはないだろう。ただまあ、学園祭という存在自体にいい思い出はないため、それでも躊躇してしまうところがある。

 

「高校生の時の学祭は当時唯一仲の良かった友達とずっとポケモンカードしてたしなぁ……」

 

「妙にリアリティのあること言わないでちょうだい。普通そこはゲームボーイでしょ?」

 

「いつの時代のゲーム機だよ。それじゃあモンハンもできねぇよ」

 

 というか、マルゼンスキーがゲームボーイを知ってることに驚きだ。てっきり彼女ならゲーム&ウオッチとか言い出すと思ったのだが……

 

「あら、トレーナー君。あなた何か変なこと考えてない?」

 

「か、考えてないです……。と、とにかく、僕は学園祭の楽しみ方がよくわからない。昔マックイーンと感謝祭を回ったことがあるけど、あの時と違って今回は一人だ」

 

「難儀な性格ねぇ。いつもは一匹狼を気取ってる癖に、いざとなったら一人を怖がるなんて」

 

「余計なお世話だし一匹狼気取った覚えもねぇよ」

 

「はいはい、そういうことにしといてあげるわ。しょうがないわねぇ、お姉さんが一つアドバイスしてあげるわ」

 

 そう言ってマルゼンスキーはお姉さん風を吹かせる。もう一度言うが、こいつは僕より歳下のはずなんだがなぁ……。少しばかり情けない。

 

「別に無理して楽しむ必要はないわ。トレーナー君がこういうの苦手だって分かってるもの。大事なのは、一人気ままにやりたいことをやることよ。予定の無い週末に一人でジャスコを歩き回るかのようにね?」

 

「マルゼンスキー……」

 

 なんだ、そんなことか。少し難しく考えすぎていた気がする。昔はよく一人でボーッと考えることもしばしばあったが、ここ最近は誰かと一緒過ごすことが多くなったり、そもそもそんな何も考えない時間がないほど忙しかったたりしたため、そんな時間を過ごすことも少なくなっていた。

 マルゼンスキーは僕の疲れも見抜いていたし、このタイミングで先のアドバイスをしたことが偶然とは思えない。ここは一つ、彼女に乗せられるとするか。

 

「ひとまず君の言う通りにしてみるよ。楽しめるかどうかは別として、息抜きとして行くのは悪くない」

 

「ふふっ、それでいいのよっ。そうだわ、うちのチームも出し物やってるし、是非寄ってちょうだいね?」

 

「考えとくよ」

 

 満足気に頷くマルゼンスキーの顔は、正しく大人のお姉さんそのものだった。この学園に在籍する多くのウマ娘が彼女を憧れとするのもよく分かる。

 

「ところでトレーナー君、こうしてアドバイスしたりお手伝いしたんだし、一言くらい何かあってもいいんじゃないかとお姉さん思うなぁ?」

 

「ああ、そうだな。マルゼンスキー……」

 

 

 ついさっきまでお姉さん風を吹かせておきながら、少し子供っぽい表情をするところも昔から変わってないなと苦笑してしまう。

 

 そんな彼女に一言。

 

 

「ジャスコはもう存在してないぞ」

 

「急に怖い話しないで」

 

 

 





サティ、ジャスコ、ダイエー! ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!

マックイーン→夢オチ新婚生活
トレーナー→異世界転移
ダイヤ→???
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