名家のウマ娘   作:くうきよめない

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番外編です。時系列は話の流れ通りです。



番外編:あなたで良かった

 

 

 

 目の前に広がるのは、大きく綺麗に打ち上がる花。そして隣には好きな人。それだけで私の心は十二分に満たされていく。

 普段はどこか斜に構えている彼も、迫力ある花火を前にしてはまるで幼い子供のように目を輝かせている。

 

 そんな横顔が愛おしくて、少しでも距離を縮めたいという思いが一層強くなる。

 これまでに何度もアプローチをしてきたが当の本人はことごとく受け流し、私自身も深く追求することはしなかった。

 それを後悔したことは何度あっただろうか。あの時も、あの時も、あの時も。

 

 でも、今ならできる気がする。言える気がする。

 

 

「……トレーナーさん、私あなたのことが──」

 

 

 そんな私の告白は、一際大きな花火の音に掻き消され──

 

 

 

 ***

 

 

 

「──って、なる予定だったんですけどねぇ……」

 

「……あの、少しばかり夢見すぎではないですの、ダイヤさん? 相手はあのトレーナーさんですわよ? というか、そのシチュエーションだと私いないんですけど」

 

「マックイーンさんは多分そこらへんでりんご飴でも舐めてますよ」

 

「雑っ!? 貴方の想像とはいえ私の扱いが雑っ!?」

 

 そうでしょうか。マックイーンさんならりんご飴や綿飴といった甘味に誘惑されいつのまにかいなくなり、連絡がつかない中迷子センターまでトレーナーさんに迎えにきてもらうという様子が容易に想像つく。

 どうしてこの人は甘いものとトレーナーさんが絡んだらポンコツになるのだろうか。いい加減にしてほしい。

 

 と、心の中で想像の中のマックイーンさんに文句を言いながら思い切りため息をつく。

 

「はぁ、所詮はこんなの私の妄想でしかないんですよね。だってトレーナーさんはもう事故で──」

 

「いやいや、亡くなってませんわよ? 縁起でもないこと言わないでください?」

 

「でも、トレーナーさんがいないのは事実です。せっかくの花火大会、楽しみにしてたのに……」

 

「それは……そうですわね」

 

 私達は今日、夏祭り兼花火大会に来ている。だが、今ここにいるのは私とマックイーンさんだけだ。

 本来ならばここにトレーナーさん(とついでに一色さん)もいるはずなのだが、急な仕事が入ってしまったらしくてあえなくキャンセル。

 トレーナーさんが行けなくなった時点で私達も行かないという選択肢もあったが、せっかくならということで残された二人で花火大会に行くこととなった。

 

 大好きなマックイーンさんと共にできるというのは嬉しい。でも、マックイーンさんと同等かそれ以上の想いを寄せるトレーナーさんも一緒でないとその嬉しさも半減だ。

 せっかく今日のために浴衣も用意したというのに、なんだか損した気分。

 

「……とりあえず、今は目先の花火を楽しみませんこと? トレーナーさんへのお仕置きはまた後で考えたらいいことですわ」

 

「それでその後私が優しく慰めるんですね。お膳立てありがとうございます♪」

 

「どこまで行っても強かですわねぇ!? 最近貴方がぐいぐい来すぎてトレーナーさんもたじろいでるんですのよ!? ダイヤさんがそんなだから私の付け入る隙が少なくなっているような気がしてならな──」

 

 ドンッ、パッ。

 

 そんな効果音と共に、夜空に満開の花火が打ち上がる。

 それはマックイーンさんのお説教をも中断させるほどであり、かくいう私も一瞬我を忘れてしまうほどにはその光景に見惚れてしまった。

 

「人気の少ないところを選んで正解でした」

 

「そうですね、ここなら人混みが苦手なトレーナーさんも落ち着いて花火が見られそうです」

 

「……本当にダイヤさんはトレーナーさんのことが好きですわね」

 

「もちろんです。それはマックイーンさんもそうでしょう?」

 

「そうやって面と向かって言われるとなんだか気恥ずかしくも感じますが……世界で一番愛してる。そのつもりですわね」

 

 もしも自分の気持ちに少しでも迷いがあろうものなら、今の話も目を逸らして茶化し有耶無耶にしようとするだろう。

 でも、目の前の彼女はそうじゃなかった。しっかりとこちらを見据え、はっきりと本音を吐き出している。マックイーンさんの目には一点の曇りも無い。

 

「……次にこうしてゆっくりと花火大会に来れるのは来年ですよね」

 

「そうですわね。もう半年後にはURAファイナルズは始まっていますし、ここからさらに忙しくなるでしょうから」

 

 来年、か。その時にはURAファイナルズも決着がついている。

 

 全てのウマ娘に参加資格があるこのレース、もちろんライバルはマックイーンさんだけじゃない。

 私達の出走する長距離部門には、キタちゃんやルドルフ会長をはじめとした強豪ばかりだ。そんな傑物ばかりの中で優勝を目指すというのはとても簡単な話ではない。

 こればかりはジンクスどうこうで解決できないことは私でも分かる。

 

 それでも優勝したい、一番になりたいというのは欲張りだろうか、傲慢だろうか。

 

「URAファイナルズ、楽しみですね」

 

「ええ、今まで幾度の大舞台を経験してきましたが、これほどの規模というのは初めてですもの。心躍らないはずがありませんわ」

 

「ふふっ、マックイーンさんならそう言うと思いました」

 

 マックイーンさんは私にとっての憧れ。レースの経験も、トレーナーさんとの関係性の長さも、ほとんどが私よりも上だ。

 

 でも、いつか誰かが言っていた。憧れは、越えるためにある、と。

 

「マックイーンさん。私、URAファイナルズで優勝します。そして、来年のこの場所でトレーナーさんに思いを打ち明けます」

 

「……それは正式な宣戦布告と捉えても宜しくて?」

 

「はい。ここまできて抜け駆けはしたくありませんから」

 

「……二兎追うものは一兎も得ず。貴方は今、URAファイナルズでの優勝とトレーナーさんの両方を得ようとしていますわ。ライバルである私が言うのもなんですが、そんな気概では両方とも叶いませんわよ」

 

 厳しい口調で告げるマックイーンさんの言う通り、この気持ちは不純なものなのかもしれない。両方追いかけて両方取り逃す。よく聞く話だ。

 だったとしても、私はどちらも欲しい。レースで勝ちたいという気持ちも、トレーナーさんへの思いも、どちらだって疎かにしたくない。

 

 だから、私の答えは始めから一択だ。

 

「望むところです! そんな"ジンクス"、私がこの脚で破ってみせます!」

 

「……! 本当に大きくなった、いえ、元から貴方はこうでしたわね」

 

「マックイーンさん? どうかされましたか?」

 

「なんでもありませんわ。でしたら私も本気以上を出さざるを得ませんわね。むしろ、私が優勝してトレーナーさんに思いを告げるまでありますわ」

 

「なっ!? そ、それはずるいですよ! 私が考案したのに!」

 

「あら、別に良いではないですか。ダイヤさんが優勝すればいいだけの話ですのに。ああ、もしかして自信が無くなったんですの?」

 

「っ! いいですよ! マックイーンさんもキタちゃんも皆まとめて私が差し切ってあげます!」

 

 そう言って火花を散らしたのも束の間、睨み合いの末になんだかおかしくなってしまい、つい二人同時に吹き出してしまう。

 

 夏の思い出作りのために花火大会に来たが、肝心のトレーナーさんはいない。頼れる大人もいないこの状況、中学生である私達はそろそろ帰らなければならない時間であり、少々物足りない気分だ。

 それでも、今日のことは一生忘れないだろう。この先どんな未来が待っていようと、私はきっとこの日を思い出す。

 どうせ思い出すなら明るい未来で思い出したい。そのためにも、URAファイナルズを全力で走り切らなければ。

 

「帰りましょうか」

 

「はい、そうですね」

 

 ひとしきり花火も打ち上がったところで寮に帰るために駅へと向かう。

 しかし、そう考えていたのは何も私達だけではない。その道のりには花火を見て帰る大勢の人で溢れており、なんとか前に進むだけでも精一杯だ。このままでは駅に到着したとしても電車に乗れるかどうか怪しい。

 いっそのこと家の車を出した方が良いのではないか。

 

「マックイーンさん、このままだと帰りが遅くなりそうですし、家の車を出すのでそちらで……あ、あれ、マックイーンさん……?」

 

 帰りの相談をしようと振り返ったが、さっきまでそこにいたはずのマックイーンさんはどこにも見当たらなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「………………やっぱり繋がらない……」

 

 あのまま人混みに当てられていても埒があかないので、一旦その場を離れてマックイーンさんに連絡を取る。

 しかし、混み合った電波はなかなかそうさせてくれず、事態は好転しないまま。

 

 もしかしたら先に駅に向かっているのではと思ったが、マックイーンさんがはぐれた私を置いて一人駅に向かっているとは考えづらい。

 駅に向かった時点で再び花火大会の場所へ戻るのは困難だろうし、彼女も彼女でそれは最終手段としているはずだ。

 

 あーあ、こんなことなら、もしはぐれてしまった場合のプランを話し合っておくべきだった。

 

 後悔をしつつ、出店の近くを徘徊してマックイーンさんを探す。彼女のことだ、りんご飴やかき氷を食べながらひょっこり現れてもおかしくない。

 しかし、本人が聞いたら憤慨しそうな期待を抱いて出店を回るも、一向に彼女の姿が見つかる気配は無かった。

 

 次第に意識は出店へとシフトして心惹かれてしまう。ヨーヨー釣りや金魚掬い、たこ焼き屋さんに綿飴屋さんなど、私にとって未知の領域ばかりで……うん、大丈夫、マックイーンさんのことだ。きっと一人でもなんとかするだろう。

 

 先程までの後悔はなんだったのか、出店の目新しさと一人で行動するという背徳感により、一瞬で心を入れ替え残りのお祭りの時間を楽しむことにした。気持ち、切り替え、大切。

 

 さて、早速何から始めようかと周りを見渡したところ、最初に射的屋さんが目に映る。いや、正確には射的による景品か。

 

 その景品というのは、私とマックイーンさんのぱかプチだった。ぱかプチ自体は有り余るほどクレーンゲームで取ってはいるが、マックイーンさんのは多いに越したことはないし、私のはトレーナーさんにプレゼントすればいいだけだ。

 

「あの、おじさま。射的やりたいのですがいいですか?」

 

「……んおっ? 嬢ちゃんもしかしてサトノダイヤモンドかい?」

 

「えっ? あ、はい、そうです」

 

 どうして名前をと思ったが、考えてみれば当たり前か。私のぱかプチを景品としてくれているんだ、知っていても何ら不自然ではない。

 

 挑戦するためのお代を支払い、銃と六発の弾を手にする。

 ドラマで見た知識を活用し、スナイパーがよくやるポーズを真似して準備万端だ。

 

 まず狙うは私のぱかプチ。今日来られなかったトレーナーさんのために必ず取ってみせます。

 

「えいっ!」

 

 そう息巻いて初弾を放つも、弾は明後日の方向へと飛んでいった。おかしい、構えは完璧だったはずなのに。

 

 続く二発目三発目四発目も外し、なかなかどうして難しいことをようやく理解する。

 

 舐めてかかってはかすりもしない、もっと集中力を高めなければ。例えるならそう、年末の大一番、有記念で一番人気になった時くらいの緊張感で……

 

「今です!」

 

 五発目にして、ようやく弾丸はぱかプチへと命中する。

 しかし、当てた場所が悪かったのか、耳を掠っただけのそれは少しだけ動いたように見えたものの、景品獲得と言うにはほど遠い結果に終わった。

 

「むぅ……なかなか落ちない……」

 

 残るは後一発。お金はまだまだあるのでリベンジはいくらでもできるが、可能ならばここで抑えておきたい──

 

 

「ははっ、まだまだだなぁ」

 

 

 そんな声と同時に、私の銃がひょいと盗られた。集中していたところにこれなので驚きながら振り返ると、そこにはトレーナーさんの姿が……トレーナーさん!? 

 

「ど、どど、どうしてここに!?」

 

「話は後だよ。マックイーンはどこ行ったとか聞きたい話はあるけど、とりあえず射的なら僕に任せときな」

 

「任せてって……でも一発しか残ってないんですよ!?」

 

「引き金は二度も引かねぇ、一発で充分だね」

 

 そう言ってトレーナーさんは銃をできる限り景品に近づけるようにして身を前に乗り出す。

 直前の格好つけた発言は何だったのかと思うくらい不恰好な姿だ。なりふり構わないような構えに、苦笑いすら浮かべることができない。

 

 

 それでも、そんな彼の姿は世界で一番素敵だ。そう思ってしまうほど、私はこの人が──

 

 

「……狙撃っ!」

 

 トレーナーさんが撃った弾は一直線に私のぱかプチへと命中して弾かれ、そのまま私の方へと……えっ? 

 

「あうっ!?」

 

「ダイヤ!?」

 

 咄嗟のことで避けることができず、私のおでこにクリティカルヒットした。

 幸いなことに威力はほとんど弱まっていたので痛みはなかったが、驚きで尻もちをついてしまった。

 

「大丈夫か? 立てるか?」

 

 いち早く私を心配して手を差し伸べてくれるトレーナーさん。そんな彼の後ろの景品棚に私のぱかプチはない。つまりは景品獲得だ。

 

 おでこにはまだ弾が当たった感触が残っている。そこを摩り、私は伸ばされたトレーナーさんの手を取った。

 

「……えへへ、おとされちゃいました♪」

 

「……? あ、ぱかプチのことね。ちょっと格好悪かったかもだけど、君のぱかプチだもの。恥を忍んででもゲットしなくちゃな」

 

 もうこの人の鈍感さにも慣れたものだ。多分、私の発言の真意を理解してもらえる日は二度と来ないのだろう。

 

 心の底からトレーナーさんが好き。いつものようなふざけた雰囲気ではなく、真剣にそう伝えたら彼はどのような反応をするのだろう。

 

 あと一歩、あなたに近づくことができたなら。

 

 そう考えるも、きっといつもと変わりはしない。そもそも、私は一度この人を押し倒したことがあるのだ。

 それでも関係性が変わらないということは、やはりまだこの気持ちを成就させるべきではないのだろう。

 

 今はまだこのままで。トレーナーとしてのあなたを見て、教え子としての私を見られて──

 

「トレーナーさん」

 

「ん、どうした?」

 

 

 ああ、本当に。好きになったのが──

 

 

「──あなたで良かった」

 

 





クリスマスに夏祭りの内容投稿するやついる? いねぇよなぁ!
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